文庫本の作品紹介


 単行本を文庫化したものや連載作品を文庫化したものについては、単行本方面連載方面に詳しい説明が載ってます。ご参照ください。

『リノベご飯のレシピ帖』(富士見L文庫)

 2018年3月刊行。「若い女性を主人公に料理小説を」っていう依頼を受けて書き下ろした。
 僕に料理小説を依頼するってことは、やはり
『カレーライフ』が念頭にあるのかなと思ったが、会いに来てくれた担当編集者と話してみたら、『カレーライフ』は読んでないとのこと。聞けば『図書室のキリギリス』を読んで、「こういうお仕事小説として料理の話を書かせてみたい!」と思ったんだそうな。
 なるほどねーと思いつつ、料理は適当ずぼら自炊の知識しかないし、若い女性についてもあまり詳しくないもんで、さてどーしよーかなと考えた。そこで出てきたのが「独身男子寮の厨房で働けばいいんじゃないか、ゼロから作るんじゃなくてアレンジとかリメイクとかを中心に書けばいいんじゃないか」ってアイデア。たまたま最初の打ち合わせで使ったカフェが、ヨーロッパアンティーク建材とかをリノベーションして内装に活かしたお洒落カフェだったもんで、「リノベ料理」っていう造語もその場で思いついた。
 その時点でなんとかなりそうだと思ったし、同時に「寮生に落語家がいて喋りまくれば話がまとまる」という妙な確信があった。そこで出てきたのが流々亭凡天って若手落語家で(さて誰の弟子でしょう?)、彼が料理にまつわる物語を喋りまくるという展開になった。彼の創作落語や雑学話は若い女性のお仕事小説の本筋にはあんまり関係ないんだけど、僕の創作って意味ではむしろ本筋なんじゃないかって気がしている。
 執筆時にはなんだかスケジュールが立て込んで、一カ月ほどで仕上げる間はろくなもん食ってなかった覚えがあるが、登場させた料理はどれも手軽でおいしいものばかり。実際にある料理が多いけど、「ツナメロウ」とか「こねつけバーガー」ってのは引用じゃなくて僕自身で考えた。それらを子育て主婦でもある担当に実作してもらい、レシピを巻末に載せたりクックパッドに写真つきで投稿したりってこともしてもらったんだけど、それを見て実際に作ってくれる人も多いみたいで嬉しい限り。

『ぱらっぱフーガ』(双葉文庫)

 2018年1月刊行。2015年に出した
単行本の文庫化なんだけど、文庫版のための著者校正をやってて驚いた。――執筆時には関連知識もそれなりに頭に入ってて、自分も吹奏楽部員になってるような感覚で書いてたってのに、今となっては吹奏楽にまつわる知識がきれいに頭から消え去っている!
 もともと吹奏楽に関しては丸っきりの素人で管楽器一つ吹いたこともなく、依頼を受けてから勉強したもんだから、いざ書き終わって時間がたった後では、頭に知識が定着しなかったらしい。物語の流れはしっかり覚えてるのに、曲名とか演奏感覚とかは未知の知識に触れる気分で、我ながらニワトリ頭だなーと驚いた。もともとインスト曲は好きでよく聞くのに曲名はちっとも覚えてないって傾向はあったのだが、小説のディティールについてもそうなんだな……。
 とはいえ例外もある。透田くんが弾くようになる簡単楽器として登場させた一五一会の奏生って楽器については、自分でも使うので演奏感覚もしっかり身についている。刊行直後に生まれて初めてステージで人前に立って弾き語りを披露する機会にも恵まれて、今頃になって吹奏楽部員の演奏前の緊張を実感できたりなんかして。
 まあ何はともあれ、手軽な文庫本になったってことで、音楽やってる中高生が楽器ケースのポケットにでもこの物語を入れて持ち歩いてくれたらいいなーなんて思っている。

『だがしょ屋ペーパーバック物語』(だいわ文庫)

 2017年7月刊行。駄菓子屋兼古本屋の「だがしょ屋」を舞台に、店主のヤマトさんと彼女をとりまく人たちの物語。
『7月のフエガムの音色』『8月のビー玉の輝き』『9月のラムネの刺激』の3本を収録。
 大和書房から「文庫書き下ろしで書店が舞台のミステリーを」って依頼がきて、さてどうしようかなと考えた。普通の本屋さんだと新刊や売れ線の本に縛られそうだし、書店流通事情に疎い僕が書かんでも書いてる人は結構いるよなーって気がして、「古本屋にしたらどうかな」→「僕は文庫本が好きだから、文庫専門古書店ってどうかな」→「文庫専門店なら、小さくて安い繋がりで駄菓子屋っぽいよな」+「そもそも大和書房って、『ダイワ書房』か『ヤマト書房』かどっちだっけ?」……なんてな思考の元に、「だがしょ屋のヤマトさん」っていうコンセプトが生まれた。
 そのままタイトルにしたかったんだけど、分かりにくいと言われ、「だがしょ屋ペーパーバック」とか「だがしょ屋物語」とか提案してたら、それがくっついたタイトルに決定。二時間ドラマとかで映像化する際には是非、「だがしょ屋探偵ヤマトさん」とかつけてほしいもんだと思う。まあ「これだけで分かりゃあ苦労はしないよ。安楽椅子探偵じゃあるまいし」と、あんまり探偵っぽいことはしない人なんだけれど。
 ヤマトさんの造形については、よく食べに行く某料理店のおばちゃんが発想の核になった。女手一つで店を切り盛りしてる姿がパワフルでカッコいい人で、喧嘩したら強いだろうなーって空想から生まれたのが冒頭シーン。構想を練ってる頃にちょうど『真田丸』がやってたので、飄々とした演技が素晴らしかった草笛光子さんのイメージを重ね、『男はつらいよ』シリーズの大ファンって設定にしたことから永遠のマドンナのリリーさんの浅丘ルリ子さんの気風の良さを加え……って感じで七十代の最強ヒロインが出来上がっていった。
 我ながら楽しく書けた作品だし、このヤマトさんにまつわるエピソードや、彼女がお店の常連と交わす雑談ならいくらでも書けるって手応えがある。ミステリーって縛りがあるので、毎回その要素を盛り込む手間があるものの、それを核になんぼでも膨らませられる。うまいこと売れてくれて、どんどん続きを書けるといいのだけれど。

『ディスリスペクトの迎撃』(創元推理文庫)

 2016年1月刊行。文壇バー・ミューズを舞台に推理作家辻堂珊瑚朗シリーズ第二弾。
 第一弾『シチュエーションパズルの攻防』は『ミステリーズ!』に連載した4本に短い書き下ろしを加えて本にしたわけだけど、第二弾は「書けたら送って誌面のあいてる時に載せよう」くらいのゆるい縛りで書いていったもの。結果、2008年から2015年までに発表された3本と、そのうち雑誌掲載ってつもりで書いた1本、それをまとめて文庫化しちゃえって話になってもう1本書き下ろしってことで書いた1本が収録されることとなった。
 設定的には前作と同じく、文壇バーのミューズを舞台に推理とストーリーを楽しむってな話なんだけど、今回は「サンゴ先生の『海無し県殺人事件』が2時間ドラマ枠でシリーズ化」っていうのが全体を通した流れになっている。書いているうちに、裏の筋として「ある種の悪意とどう向き合っていくか」ってなことがテーマになってきたので、タイトルに「ディスリスペクト」って言葉を使ってみた。
 収録作品は『チェスセットの暗号』『ファンサイトの挑戦状』『トラブルメーカーの出題』『ポー・トースターの誘拐』『ディスリスペクトの迎撃』。各作品の紹介はそのうち短編小説のコーナーで(まだ書いてない)。巻末解説として、編集サイドから「作中に有名ミステリー作品が登場することをあとがきでアピールしてくれ」と言われ、「そーゆーのは自分から言わんでも」と断った結果、「メールインタビューなあとがき」ってのがつくことになった。

『図書室のキリギリス』(双葉文庫)

 2015年9月刊行。文庫化にあたり、巻末スペースを使って「竹内真のブックトーク」ってのが収録された。
 これは
WEB連載中に小説と連動していたコラムの抜粋で、小説の文中に出てくる実在の本のタイトルをクリックすると、その本について作者があれこれ書いた文章がポップアップするという仕掛け。単行本版では紙幅の都合もあって割愛したのだけれど、その部分の人気が高かったこともあり、文庫版で満を持して復活。喜んでくれてる読者も多いようで嬉しいかぎり。
 なにしろ、そこで紹介したタイトルを列挙するだけでも結構なラインナップなのだ。――『モーフィー時計の午前零時』『ヒカルの碁』『八犬伝』『忍法八犬伝』『夜のくもざる』『パン屋再襲撃』『からすのパン屋さん』『オカメインコに雨坊主』『天国はまだ遠く』『ジャンプ』『小さな本の数奇な運命』『極北の動物誌』『旅をする木』『刑務所のリタ・ヘイワース』『2分間ミステリ』『少年探偵ブラウン』『こちらマガーク探偵団』『見えない犬の謎』『翻訳夜話』『アンのゆりかご』『トリック交響曲』『黒板五郎の流儀「北の国から」エコロジカルライフ』『マボロシの鳥』『爆笑問題の日本原論』『文明の子』『絵本マボロシの鳥』『ストーリーガール』『黄金の道』などなど。
 僕の小説は面白くないって人であっても、こうした本の話題まで全て面白くないとまでは言わないんじゃなかろうか。

『シチュエーションパズルの攻防』(創元推理文庫)

 2013年2月刊行。文壇バー・ミューズを舞台に推理作家辻堂珊瑚朗が謎を解く(というか話を作るというか)、アームチェアノベリスト小説。
 短編集で、文庫解説には表題作『シチュエーションパズルの攻防』にちなんだ「シチュエーションパズルのあとがき」ってのを書かせてもらった。実は、せっかくシチュエーションパズルについての小説なんだから、作中にパズル問題を仕掛けておいたのだ。イエスとノーで答えられる単純な問題で、ちゃんと伏線も仕込んでおいたのに、発表以来足掛け6年も正解者が出なかったので、解説の中で種明かしをしてみた。
 その種明かしもシチュエーションパズル形式で行ったので、興味ある方は遊んでみてください。

『文化祭オクロック』(創元推理文庫)

 2012年11月刊行。東天高校の文化祭の一日の物語。
 単行本では『シチュエーションパズルの攻防』の方が先に出たんだけど、文庫本では営業戦略的に『文化祭オクロック』を先にしようってことになった。
 文庫解説の代わりに作者のあとがきを書くようにってオファーが来たので、「あとがきDJ」ってのを書いてみた。ネットで読者の方におたよりメールを募集して、そこに僕がコメントをつけるって形だったんだけど、こういう形式ならいくらでも気楽に書ける。やっぱりある種の会話体っていいなーと思う。
 思えばラジオをモチーフに小説内に喋り言葉を持ち込んだのも、そういうフットワークの軽さを物語の推進力にしたかったからだった。小説文体と会話文体のバランスについては、常に考えていきたいと思っている。

『風に桜の舞う道で』(新潮文庫)

 2007年10月刊行。文庫版の表紙カバーの装画は塩田雅紀画伯の作品で、これから予備校の寮に入る三人の出会いのシーンを描いていただいた。
 この場面は僕の実体験を元に書いたこともあって、実に感慨深い表紙となった。18歳の僕はまさにこういう状況で同じ寮に入る二人と出会い、三人とも大きな荷物を持っていたことから互いに仲間だと分かったのだ。確か僕がバスを降りたのは二番目だったんだけどね。
 そんな感じで浪人生活の一年間を元に綴った物語なので、こうして文庫本になって残ってくれたのは嬉しい限り。30歳になる寸前に書いた作品なので、40歳になる前にはさらに十年後の登場人物たちを描いた続編を書きたいなーと思っている。

『自転車少年記―あの風の中へ―』(新潮文庫)

 2006年10月刊行。
単行本の『自転車少年記』の構想を元に、新たに書き下ろした文庫オリジナルストーリー。
 文庫化企画が持ち上がった際、『自転車少年記』は少々長すぎるって理由で「文庫一冊分の長さに縮めるなら新潮文庫で出す」ってことになった。しかし単行本化の時にも連載原稿をかなり縮めたし、それをさらに半分以下に短縮するなんて忍びない。そこで「文庫のサイズに合わせた、新たな『自転車少年記』を書きたい」と申し入れ、GOサインを受けて書き下ろしたのがこの『あの風の中へ』である。
 もちろん新たに一冊書き下ろすのは大変だったけど、『自転車少年記』には新潮文庫の栞の紐をつけてやりたかったのだ。子供の頃に星新一や北杜夫の作品群にはまって好きになり、他社の文庫にまで自分でヒモをつけてた僕なので。
 内容はというと、単行本版のラストで作家を志した昇平が、大人の視点からあらためて自分と自転車との関わりを回想していくというのが基本構造。だから単行本版のダイジェスト的な要素もあるが、後半は続編的に展開していって彼が三十代半ばになった頃までを描いている。
 同じストーリーでも視点が変われば新たな物語が生まれるわけで、できることなら今後も「伸男編」と「草太編」を書いてみたいと思っている。

『嘘つき。』(メディアファクトリー)

 2006年9月刊行。「やさしい嘘十話」というサブタイトルの通り、十人の作家が「やさしい嘘」というテーマで競作した短編アンソロジー。
 女性作家中心のラインナップとなったので、そろそろ男同士の友情みたいな作品を書いてほしいってことで僕んとこに依頼がきた。それなら男の子らしいでっかい嘘をつきたいなーなどと構想を練ったのだが、結果書き上がった『フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン』は女性視点の一人称になってしまった。
 まあ主役は男の子だし、この物語にはその形式がふさわしいと思ったからそうしたのだが、錚々たる女性作家の作品と共に収録されるってえと読者はどういう印象を抱くのだろうか?

『じーさん武勇伝』(講談社文庫)

 2006年8月刊行。単行本の『じーさん武勇伝』には『神楽坂ファミリー』『かえってきたじーさん』『じーさん無敵艦隊』の三部作が収録されていたけれど、文庫化に際して第四話にあたる
『解説』って短編を書き下ろして追加した。
 ストーリー的にももうちょっと書き加えたいってのがあったし、文庫版のボーナストラックみたいなもんがあってもいいかなと思ったのだ。ちょうど文庫解説はどうしようかって話が出てる頃だったのでそれを短編のタイトルにしたのだが、そういう真似をしたのは僕が初めて……ってことだったらいいなあ。

『オアシス』(ヴィレッジブックスエッジ)

 2006年2月刊行。1999年5月に書き上げた第一稿をリライトし、2002年4月から2003年3月にかけて週刊新聞で52回にわたって
連載。文庫化にあたっては連載時の切れ場と引きの感覚を活かす形で編集し、連載時に好評を博したはた万次郎画伯の挿絵も全て収録してもらった。そのうえ文庫解説は芦原すなおさんで、敬愛するお二人に物語を彩っていただけたのは心の底から幸せであった。
 物語の方は、ボーダーコリーMIXのオアシスが家族と共に巻き起こすホームコメディー。犬の出てくる話を書きたい、『神楽坂ファミリー』みたいなコメディーを書きたい、っていう衝動が形になった作品なので、自分でもとても気に入っている。先に書いたのはこっちの方だけど、たしか微妙に『自転車少年記』と響きあうところもあるんだよな。
 ずーっと本にしたくでできずにいたので、ヴィレッジブックスの新レーベルの創刊ラインナップに加えてもらえた時にはほっとした。その後諸般の事情で刊行延期なんてこともあり、山越え谷越えでよーやく刊行に辿りついた。内容でも経過でも、なんだかとても思い入れの深い本である。

『カレーライフ』(集英社文庫)

 2005年1月文庫化。単行本の時も分厚い本だったが、文庫化されるとボリューム感はさらに増し、ほとんど文庫本の概念からはみ出している。見本刷りが届いた時、作者が最初にしたのは、その重さを計ることであった。
 解説はイラストレーターの安西水丸画伯に書いていただいた。──僕がカレー小説を書ことうと思ったきっかけのひとつは、『村上朝日堂』の巻末企画(役割を入れ替えて安西さんの文章に村上春樹さんが絵をつけている)で「カレーライスの話」というのを読んだことだったのである。その安西さんが依頼を受けてくれたとの知らせを担当編集者から受け取ったときはとても嬉しかった。
 後になって気づいたが、集英社文庫の僕の本の解説って、どちらも文章よりは絵をメインでやってる方に書いてもらってるわけである。もし3冊目が出ることになっても、その路線は踏襲されるだろうか?

『粗忽拳銃』(集英社文庫)

 2003年10月文庫化。単行本と違い、作者の希望を酌んだ装丁にしてもらってほっとした。
 解説は雷門獅篭画伯に4コマ漫画を描いてもらった。彼には立川志加吾時代に
インタビュー取材をお願いし、執筆の際にもいろいろ協力してもらったので、巻末に「流々亭天馬のモデル」として登場してもらえたのは本当に嬉しかった。
 ちょっとしたメイキング噺にもなってるし、「シカゴ漫画につられて買った」なんて読者もいて、文庫化されてまでお世話になりっぱなしである。『粗忽拳銃』を読んで生の落語に触れてみたいって読者の方は、ぜひ名古屋の大須演芸場に行ってみてください。雷門獅篭の生の高座を見られる上、運がいいと似顔絵まで描いてもらえます。


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