すっかり目が覚めてしまったので、僕は手紙の整理をしてみることにした。ストー


ブのおかげで部屋も暖まりかけている。


  捜査に行き詰まった時は、文脈を最初から捉えなおすのが一番なんだとブンガは言


った。どうせならその言葉に従ってみるのも悪くない。


 去年の終わり頃、僕と彼女とブンガの間で何通かの手紙がやり取りされた。手紙の


内容はだいたい覚えているのだが、物事の順番やちょっとした言い回しが頭の中でご


っちゃになってしまっている。ブンガの言う通り、文脈を捉えなおした方が事情がは


っきりしてくるかもしれない。


  僕は引出しから二通の手紙を出して机の上に並べ、彼女に送ってしまった短い手紙


は記憶を頼りに書き直してみることにした。僕からブンガに送った手紙は二通あった


が、片方はコピーが取ってあった。取り損じのコピーを捨てようと思って忘れていた


のだ。


  僕の記憶に間違いがなければ、手紙の数は全部で五通か六通ということになる。





 第1の手紙(彼女から僕への手紙)


 第2の手紙(僕からブンガへの手紙。第1の手紙についての相談)


 第3の手紙(ブンガから僕への手紙。第2の手紙への返事)


 第4の手紙(僕からブンガへの手紙。第3の手紙への返事)


 第5の手紙(僕から彼女への手紙。第4の手紙のコピーを同封)





 手紙が書かれた日付や順序からすれば、手紙に付ける順番はこういうことになる。


第2の手紙は手元になかったし、第5の手紙は記憶を頼りに書き直したものだったが、


こうやって並べてみることでだいたいのアウトラインを把握し直すことができた。1


から5までの単純な流れだ。指を折るようにして物事の筋道を理解することができる。


 手紙を読みなおした後、僕はまた映画のチケットのことを考えた。──これを第6


の手紙と考えていいんだろうか?


 その時、ふと妙なことを思いついた。


 電話を切る直前、ブンガの店に入ってきた客。サスペンスの連続ドラマを、最終回


の方から逆の順番で借りていくという客だ。面白いのかな、とブンガは言っていた。


 あの時は何となく聞き流したけれど、それはそれで面白い見方なのかもしれない。


結末を知ってから経過を辿っていくわけだから、それなりの楽しみもあるだろうし新


しい発見もあるのだろう。


 僕は机の上に広げた手紙を眺めた。1から5までの順番を崩してみることで、そこ


に何か新しい発見が生まれはしないだろうか?






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