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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  



2014年2月1日以降、2015年1月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2014年12月16日


DVD
銃殺



英国
1964年
83分
 原題は『King & Country(王と国家)』でジョン・ウィルソンとジェイムズ・ホドソンの原作をエヴァン・ジョーンズが脚色。ジョセフ・ロージーが監督。デニス・クーパー撮影の白黒映画。1964年ヴェネチア国際映画祭男優賞。
 脱走兵として戦場で裁判を待つハンプ(トム・コートネイ)、靴職人だったが妻と義母から臆病だと指摘され、それを反証するために志願兵となって三年。大砲の音のする戦場から離脱、脱走兵として捕縛された。軍法会議の弁護人ハーグリーブズ大尉(ダーク・ボガード)は心神喪失を証拠だてようと弁護に努める。仲間の兵卒たちは死体に群がるドブネズミをいたぶるうさ晴らし。裁判ではハンプの上司はハンプを「よい兵士だった」と主張するものの、軍医や検察官や法務官は「単なる臆病者」と非難する。裁判官に相当する大佐は有罪は免れないが勲功に免じてやろうと判断するが、司令部の判断は大隊全員を前線に出動させると同時に士気を鼓舞するために銃殺刑に処す。弁護人の大尉は気落ちする。「人殺しは我々全員だ」と。
2014年12月7日





DVD
プルーフ・オブ・マイ・ライフ



USA
ミラマックス
2005年
100分
 監督は『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン、主演グウィネス・パルトロウのアメリカ映画。
 テレビのCMを放心してながめているキャサリン(パルトロウ)。突然現れた父親ロバート(アンソニー・ホプキンス)と話しをする。しかし、実は父親は死んでいた。三日後に葬儀だ。井上ひさしの戯曲『父と暮らせば』と同様の展開か、と思ったが、死んだ父親との会話は冒頭のみ。後はフラッシュ・バックだった。ディヴィット・オーバーンの戯曲が原作で脚本も本人。共同脚本にレベッカ・ミラー。グウィネスは舞台公演でも主役。マッデン監督はワンカット・手持ち撮影を駆使して映画としての完成度を高めている。
 葬儀のために姉クレア(ホープ・ディヴィス)がニューヨークから恋人とともにやって来る。天才数学者だった父親も絶頂期は26-27歳ごろ。その後、精神を病み、娘との数学的会話を交わす程度であった。しかし、彼は103冊ものメモを遺していた。そのメモを読み解こうとするポス・ドクのハロルド(ジェイク・ギレンホール)。ハルは未だ証明されていない数式を解くきっかけを探して、盗もうとしているのかもしれないと疑うキャサリン。しかし、ハルにはそんな気持ちは無かった。父親の看病で精神を病んだのではないかと世話を焼く姉をうるさがるキャサリン。葬儀の教会で集まった人々の前で、父をただのボケ老人のように貶めるような言葉を言ってしまい、自己嫌悪に陥るキャサリン。
 葬儀の後に景気づけのパーティを開いた姉。キャサリンはハルと結ばれる。ハルに父親の引き出しの鍵を渡す。そこにあった一冊のノートを見てハルは仰天する。未解決の数式の証明が書いてあったからだ。ボケていたと思っていた博士の能力は復活していたのか。筆跡も博士のものだ。しかし、キャサリンは「わたしが書いた」と告白する。にわかには信じられないハル。取り乱す妹のために、姉はシカゴの家を既に売り、ニューヨークに来るようにと手配を終えていた。
 ノートの内容を検証し、発表すべきだというハルに投げやりな答えしかできないキャサリン。父親との最後の会話を思い出していた。数日前に「とうとう解答を見つけた」と父親が宣言したとき、キャサリンも証明を見つけたところだった。自分の証明を父親にいさんで話そうとした矢先に、父親は自分の解答を読めと強要する。二人が同時に同じ証明にたどりついたのだろうか。いや、そうではなかった。父親の解答は戯言でしかなかったのだ。キャサリンはそのとき、自分のノートを父親の引き出しにしまい、鍵をかけたのだった。
 過去を精算し、ニューヨークに旅立とうとする日、キャサリンは自分を再生するためにシカゴに残り、証明を完成させる道を選ぶ。
 舞台の背景にはシェイクスピアの『リア王』がありますね。若い時は優れた能力を発揮したのに老齢のため判断を誤る父親、父親を厄介者扱いしかできない姉、父親に忠誠をつくす妹。
2014年12月6日



レンタル
DVD
アナと雪の女王



ディズニー
2013年
100分
 ディズニー・プロダクション作品。立体的な造形のアニメーションである。
 アナとエルザは仲の良い姉妹。ある雪の日、雪だるまを作って遊んでいた二人だったが、エルザはアナの危険を回避しようとして頭に電光を送ってしまう。瀕死のアナを王夫妻は救おうと森のトロルのもとに連れていく。トロルはアナからエルザの魔法の記憶を消すことで、アナを救う。一方、エルザは成長とともに強くなる魔法の力を封印した。それ以降、エルザは人前から姿を消し、アナは遊び相手を無くしたのだった。ここまでたった11分で、物語の基本設定が提示されてしまう。見事というほかない。
 航海の途中で船が難破し、王夫妻は亡くなる。エルザが成人すると、国を挙げての戴冠式が行われる運びとなった。封印されていたお城に大勢のゲストが招待される。初めての宴会に夢中になるアナ。散歩で巡りあったハンス王子に一目惚れしたアナはあっという間に結婚の約束をしてしまう。エルザはアナの結婚に反対する。言い争いになったアナがエルザの手袋を取ると、一瞬の怒りが魔力を表し、エルザの指が触れたものは凍ってしまうのだった。人々はエルザの魔法に驚く。解放されたエルザの魔法は威力を制御できず、村全体が凍りついた冬と化してしまう。
 エルザはひとりで森の奥へと姿を消す。アナは自分の行為が招いた責任観から、エルザに依頼して村を夏に戻してもらおうとエルザの後を追う。アナはハンス王子に留守中の統治を任せる。
 ひとりになったエルザはじっと耐えてきた生活から解放された喜びを「ありのままで」と歌う。アナは雑貨屋で知り合ったクリストフがトナカイで引く橇に乗せてもらい、雪の城を目指す。途中で仲間になった雪だるまと共に。
 雪の城にこもるエルザは自分の魔力をコントロールできない。ただの人間にすぎないアナには自分で村を夏に戻すことなどできはしない。村は無事に氷の世界から脱することができるのだろうか。
2014年11月21日



GYA
ボビ-
Bobby


BOLD Films
2006年
117分

 ロバート・ケネディ上院議員が撃たれたのは、1968年6月4日、カリフォルニアの予備選挙中の遊説先アンバサダー・ホテルだった。
 ホテルに居合わせた人々の一日を時代背景をからめて描いた作品、脚本・監督・出演エミリオ・エステヴェス。
 ヴェトナムに徴兵されるのを避けるために結婚するスーザン(マリー・エリザベス・ウィンステッド)とウィリアム(エリジャ・ウッド)のカップル、人種差別や野球の話題でぶつかりあう厨房のホセ(フレディ・ロドリゲス)とミゲル(ジャコブ・ヴァルガス)や料理長エドワード(ローレンス・フィッシュバーン)などスタッフ、妻サマンサ(ヘレン・ハント)との関係に自信をなくしているうつ病の初老の夫ジャック(マーティン・シーン)、引退したドアマン(アンソニー・ホプキンス)とチェスをする友人ネルソン(ハリー・ベラフォンテ)、交換手アンジェラ(ヘザー・グラハム)と浮気している支配人ポール(ウィリアム・H・マーシィ)と美容師の妻ミリアム(シャロン・ストーン)、人種差別主義者の厨房マネージャー・ティモンズ(クリスチャン・スレイター)、選挙参謀ウェイド(ジョシュア・ジャクソン)とドウェイン(ニック・キャノン)、LSDを初体験してしまうキャンペーンスタッフの青年たちクーパー(シア・ラベオーフ)等、年齢を意識している歌手ヴァージニア(デミ・ムーア)とひも同然の夫ティム(E・エステヴェス)、チェコの女性記者(スヴェトラーナ・メトキナ)。これらの人々の物語はフィクション。
 全篇を通じて、非暴力・人種融和・環境保護を訴えるロバート・ケネディの演説が流れる。                     
2014年10月15日



DVD
英国王のスピーチ



英国
オーストラリア
2010年
118分
 監督トム・フーパー、脚本デヴィッド・サイドラー。吃音というハンディキャップを抱えていたヨーク公アルバート(コリン・ファース)は、演説となると途中でつっかえてしまい、言葉が続かなくなってしまう。そんな夫の吃音を治したいと妻エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は医師を探していた。ビー玉を口に入れて話す治療も試してはみたが失敗。そんななか、ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)の噂を聞き、その治療を試してみることにする。遠慮のないローグの処置に怒るバディ(アルバートの愛称)だったが、音楽を聞きながら読んだ「ハムレット」の独白が、まったく淀みなく話せていたことに気づき、ローグを信頼するようになる。 王族という立場から抑制していた様々な思いを、言葉にして発することでコンプレックスを発散していった。ただ当時の中産階級以上の男同士の友人は家族以外には名前では呼び合わなかったので、平民の治療家が「ライオネルと呼んで下さい」と言うものの、結局、王は「大事な友達だ」とは言ったが、最後まで「ローグ」と呼ぶ。それに答えてライオネルも、最後に心を込めて「Your majesty(陛下)」と。ただし妻は最後に「ライオネル」と呼びかけている。
 父親が亡くなり、後を継いだ兄デヴィッドが結婚問題で王位を退いたため、ヨーク公に王位が回ってくる。時代は第二次世界大戦直前、英国はヒットラーのナチスとスターリンのソ連共産党の脅威を感じ始めていた。ナチスとの開戦に際して、国民へのメッセージをラジオで朗読しなければならなくなった王ジョージ6世は、ローグを付き添いにして演説に臨む。
 コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム=カーターの三人が出ずっぱりの作品。ジェフリー・ラッシュの妻役でジェニファー・イーリー(BBCの『高慢と偏見』でエリザベス役だった。ちなみにコリン・ファースがダーシー役)、デビッド役がガイ・ピアース、父王ジョージ5世役がマイケル・ガンボン、司教役がデレク・ジャコビ。
 ウェッブ上の「水川靑話」での作者の指摘では、“吃音では言葉が出てこなくなるほか、「r」音と「s」音が正確に出せない、英語圏の人に典型的な発音障害。どこかでコリンが言っていたけど、ジョージ6世は自分の吃音を隠そうとしていたのだから、障害をあからさまではなく再現するのが大変だったとのこと。それと似た話で、ジェフリー・ラッシュが劇中で「リチャード3世」(『リチャード3世』冒頭の独白)やカリバン(『テンペスト』)を「下手」に演じるのが、上手だったな。ヨーク公爵夫人と会った直後にリチャード3世の「made glorious summer by this sun of York」の台詞を言わせたのも、ニクイ”。

 吃音に苦しむアルバートがその障害を克服する物語だが、気になるのは英国王室に対する敬意の表現があまりにもあふれていることである。ニューヨーク・タイムズでクリストファー・ヒッチェンズは脚本を次のように批判している。
 “私が指摘したのは以下の点だ。
  1) 当時のイギリスでは、ヒトラー宥和策に対する反対運動が大きなうねりをみせていた。労働党や自由党、さらには保守党の幹部議員まで巻き込んで、再軍備と反ヒトラー勢力の団結を掲げる超党派グループが生まれていた。しかし、チャーチルは、親ナチスのデービッド王子に対する命懸けとも言える忠誠を貫くためにこれを離脱。グループの指導者たちはひどく落胆した。[映画ではチャーチルがデービッド王子を支持していたという史実をサイドラーが意図的に省略し、あたかもアルバート王子に忠誠を誓っていたかのように強くほのめかしている]
  2)  1938年、戦争回避を望むチェンバレンがナチス・ドイツと結んだミュンヘン協定により、チェコスロバキアの一部がナチスに割譲された。ここでヒトラーに売り渡されたのはチェコの国民だけではない。スコダ社の軍需工場を中心とするヨーロッパ屈指の武器製造基地も、ヒトラーの手に渡ることになった。[映画では、ナチスとの宥和政策を推し進めたボールドウィン首相と後任のチェンバレン首相を、イギリス王室が一貫して支持していた事実についても、ぼかした描き方しかされていない。この政策のおかげでイギリスの立場は守られた一方、ヒトラーは欧州で好き勝手に振舞えるようになった。]
 サイドラーはミュンヘン協定について、「チェンバレンには軍備を整える時間が必要」だったと語っている。だが、この常軌を逸した取り決めのおかげで軍備増強が見込めたのはドイツだけ。当時、多くの人がそのことに気付いていた。「時間稼ぎ」が出来たのはヒトラーの方だったのだ。
  3) 英国王と女王は世論に同調したり、従ったりはしなかった。それどころか、世論がチェンバレンの味方につくよう決定的な役割を果たした。ミュンヘンから帰国したチェンバレンは王室の使者に出迎えられ、バッキンガム宮殿に直行。チェンバレンは宮殿のバルコニーに国王夫妻と並んで立ち、民衆の歓声を受けた。協定書がまだ議会に提出されていないにも関わらずだ。このパフォーマンスは、メディアや国民に多大な影響を与えた。憲法の定めによって、支持せざるをえなかったのだ。
 憲法問題に関するサイドラーの無知ぶりは、ほとんど完璧と言っていい(本当に知らないのであれば、の話だが)。王室は現在進行形の問題については中立を保たなければならない。特に議会の承認前となれば、これは甚だしい越権行為だ。君主制支持者で保守派の歴史家アンドルー・ロバーツは著書『チャーチル偉人伝』の中で、バルコニーの問題について徹底的な議論を展開し「イギリス元首による史上最悪の違憲行為」という指摘に賛成している。これは実に正しい。
  4) 92年に亡くなったエリザベス皇太后でさえ、彼女の伝記を書いたウィリアム・ショークロスに対し、自分と「バーティー」(夫のジョージ6世のこと)がしたことは間違っていたと語っている。ただし彼女は、誰も戦争など望んでいなかったと自己弁護もしている(ミュンヘン協定がナチスに有利に働き、第二次大戦への道を現実的なものにしたことは間違いないのだが)。
 では、彼女とジョージ6世が、開戦後もなおチェンバレンを首相の座に留めておこうと個人的に働きかけたのはなぜか。ドイツ軍がすぐそばまで迫る中、なぜチャーチルではなくナチス宥和派のハリファックス外相をチェンバレンの後任に推したのか。この辺りはわかっていない。
 ハフィントン・ポストの取材に応じたサイドラーは事実誤認どころか、ミュンヘン協定を擁護する役に成り下がっている。先の記事で私が書いたように、『英国王のスピーチ』は最高の役者陣が揃った(ひどい演技を見せたチャーチル役のティモシー・スポールを除いて)、素晴らしい映画だ。あれほど観客を楽しませてくれた役者たちならオスカーを手にして当然だろう。
 だが、史実を突き付けられて、「中傷された」と被害妄想に陥るサイドラーのような男が脚本賞を手にしたら? アカデミー賞は、極めて欠陥だらけの物事や人物に賛辞を贈ることになる。
 他にも 父王のジョージ5世を安楽死させるという王室医師団の決断もカットした、とサイドラーは告白している。国王死亡の発表のタイミングが超保守的な英タイムズ紙に有利に働くよう計算しながら、モルヒネとコカインの注射による安楽死が行われた。 ”
2014年10月10日



BD
黒い罠






ユニバーサル
USA
1958年
111分
 オーソン・ウェルズ脚本・監督作品Touch of Evil (悪魔の接触)。原作はホイット・マスターソン。試写会後にウェルズが会社に送った修正要求の手紙(58ページ)に従って、リック・シュミドリンが編集技師ウォルター・マーチの協力を得て行った完全修復版。1998年のテルライド映画祭で初公開された。劇場公開版は96分の短縮版で話がつながらないところがあり、興行的にも失敗、ウェルズのアメリカでの映画製作の最後の作品となった。シュミドリンはウェルズの手紙のほかにもアーネスト・ニムズの許に残されていたウェルズのメモも参考にしてウェルズの意図を再現した修復を行った。修復のほとんどは冒頭30分に多い。

 劇場公開版ではクレジットの背後になっていた驚異の長回しシーンが、修復版ではクレジットが削除されていて見事な開始映像となっている。時限爆弾を車のトランクにしこむ男が登場、キャバレーからストリッパーと一緒に出てきたリネカー建設の社長がその車に乗り込む。爆弾の設定時間は約4分間。車がアメリカとメキシコの国境近くの町の通りを抜けるまではまだ爆弾が炸裂しない。ちょうど新妻スーザン(ジャネット・リー)を伴って、骨休めに来ていたメキシコの麻薬捜査官マイク・ヴァルガス(チャールトン・ヘストン)がそこに居合わせる。爆弾が炸裂し、救急車や警察が急遽集まってくる。事件が起こったのはアメリカ側。職業柄、現地の警察官への協力を申し出たものの、ヴァルガスはよそ者、迷惑がられる。アメリカ側の警察の捜査を担うのはハンク・クインラン警部(オーソン・ウェルズ)。巨体をもち余しているような大男だったが、腕利きの警官である。直感で捜査をするという警部は身元確認に来たリネカーの娘マルシア(ジョアンナ・ムーア)を尾行するように部下に支持する。
 ヴァルガスの妻スーザンはホテルで待つように言われるが、メキシコ人の酒場経営者グランディ(エイキム・タミロフ)に巧妙に誘われ、麻薬で留置されている彼の弟の釈放を依頼される。グランディはパンチョ(ヴァレンティン・デ・ヴァルガス)など大勢の手下を使っている。手下のひとりはマイクに硫酸をかけようとする。しかし、グランディは事を起こしてマイクを傷つければかえって弟を有罪にしてしまうと慎重である。
 一方、マルシアの家では容疑者が発見される。リネカー建設のもと従業員サンチェスである。彼はマルシアの「ひも」だ。警官たちが邸を捜査すると、爆破に使われたものと同じ型のダイナマイトが2本見つかった。しかし、捜査を目撃していたマイクは発見されたダイナマイトが入っていた箱に10分前は何も入っていなかったことに気がつく。証拠品はねつ造されたものだ。クインラン警部は容疑者が真犯人であることにまったく疑問を持っていないが、マイクはこれが警部のいつものやり方ではないかと疑いを持つ。警部は同僚ピート・メンツィス巡査部長(ジョゼフ・カレイア)を守って脚を撃たれ、いまでもびっこを引いているし、妻を絞殺した犯人を取り逃がして後は酒も断っている、入り浸っていたターニャ(マレーネ・ディートリッヒ)の店(自動ピアノが鳴っている)にもほとんど足を向けなくなったという捜査道一途な人間のようなのだが。
 マイクは地方検事アル(モート・ミルズ)に頼んで、資料室に入り、警部の過去の事件資料を調べる。すると、証拠品を捏造し、容疑者を無理に自白させた事件が他にもたくさん出てきた。マイクは警部の告発を考慮する。
 一方、マイクの妻スーザンは町はずれのモーテル(ロケ地はパームデール)に案内される。モーテルの管理人(デニス・ウィーバー)は女性恐怖症のオタク。夜勤の彼は日勤の係りを待っていたが、乗り込んで来たのはグランディの手下たちだった。彼らはスーザンを麻薬常習者に仕立てようと画策する。逮捕されている弟を救出しようとする作戦の一環なのだ。手下の女性のひとりがマーセデス・マッケンブリッジ(『エクソシスト』で悪魔に憑かれたリンダ・ブレアの吹き替えを演じたことで有名)。
 グランディとクインラン。いまや二人は共通の敵マイク・ヴァルガスを持つことになった。グランディは警部を麻薬を使ってヴァルガスを麻薬常習者にみせかける作戦に誘う。
 安宿のモーテルから麻酔を射たれて、ランチョ・グランデ(ロケ地は北カリフォルニアのベニス)のホテル・リッツの一室に運ばれたスーザン。グランディと警部が部屋に入ってくる。いったい彼らはスーザンをどうするつもりなのだろうか。
 ヴァルガスはいったいどう危機を脱出できるのだろうか。

 ウェルズの白黒撮影(撮影者はラッセル・メティ)とサウンドに対するこだわりは非常に強く、修復でも音響にはひと一倍注意を払ったとリック・シュミドリンは語る。撮影初日はサンチェス逮捕の場面だが、ここでも驚異の長回しが見られる。何度もリハーサルを繰り返した挙句、台本13ページ分を一気に撮り終えたという。また、ディートリッヒ撮影場面は一日で撮ったものだという。ジャネット・リーは腕を骨折していてギブスをして撮影に臨んだが、下着姿のときにはギブスを切って準備した。原作では麻薬捜査官がアメリカ人で妻がメキシコ人というありうる設定だったが、映画では夫婦の設定を逆にしていて、これは禁断のテーマに挑戦した結果だという。
2014年6月26日



DVD
ブレックファースト・オブ・チャンピオンズ




USA
1999年
109分
 カート・ヴォネガットの原作『チャンピオンたちの朝食』を映画化した異色作。なんと2004年7月に日本版DVDが発売されていた。USAからの輸入盤は持っていたが、なにせ日本語字幕が無い。原作を全編自分で翻訳して読んだので、話は理解できるが、セリフのニュアンスまでは分からなかった。日本版では吹替えまで収録されている。有難い。
 原作についてヴォネガット自身の評価は低いのだが、それは当然、自分の頭の中にあったアメリカ文化という屑を吐き出した小説だからである。屑を高く評価する作家はいない。とはいえ、読者にとってはその屑そのものが「アメリカ」だから、作品自体が痛烈なアメリカ文明の批評になっている。こんな原作をどんな観点で映画化できるものだろうか。監督・脚本はアラン・ルドルフ。製作・主演は大学時代に原作を読んだという、『ダイ・ハード』のブルース・ウィリス。主要な登場人物は役者によって形を与えられているが、普通の人間ではなく、多かれ少なかれ分裂症気味の人物である。また、ローズウォーターさんの描写はヴォネガットの『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』を読んだ人には理解できるものの(挿絵そっくりの風貌なのだし)、本作だけを見た人には、なぜ彼がキルゴア・トラウトを高く評価しているのかが不可解なものだろう。

 自動車販売業のドウェイン・フーバー(ブルース・ウィリス)はミッドランド・シティの有名人だったが、自分を見失い、拳銃を口にくわえて気を静めていた。妻セリア(バーバラ・ハーシー)は自殺願望者でTVを見ながら薬を飲んでいる。息子のジョージ(ルーカス・ハース)は同性愛者で「バニー」の愛称で、ホリディ・インで歌手をしていた。ドウェインは秘書のフランシーン・ペフコ(グレン・ヘッドリー)と、ときどきセックスしている。販売部長のハリー(ニック・ノルティ)は自分の女装趣味が社長のドウェインにバレたのではないかと心配している。女装趣味は妻のグレース(ヴィッキー・ルイス)との間の秘密なのだ。
 一方、作家キルゴア・トラウト(アルバート・フィーニー)はエリオット・ローズウォーター(ケン・ハドソン・キャンベル)から招待状と旅費を受け取っていた。ミッドランド市で行われる芸術館開館記念のアート・フェスティバルにゲストで招待するという。失敗続きの人生の落伍者として講演するのも作家の使命だと納得したトラウトは、ミッドランドに向う。途中で旅費を強盗に奪われ、ヒッチハイクを続けてミッドランドに向った。
 矯正施設を出たウェイン・フーブラー(オマール・エップス)は名前の一致からドウェインの店で働くことが自分の天命だと思い込み、ドウェイン店へ押しかける。ハリーは車を買いに来た客かと思って応対する。ギクシャクした対応の結果、社員らしきものになりすましてしまう。
 トラウトがミッドランドに着く。ホテルの喫茶食堂でドウェインに会ったトラウト。彼の小説をドウェインは読む。トラウトはドウェインに語る。神の実験で君の周囲に機械を配置した、好意を寄せる好意機械やその逆の嫌悪機械など色々な機械があなたを取り巻き、反応を見ようとしているのだ、と。ドウェインは突然「死ぬまでが人生だ」と理解する。急に周囲が機械だと納得したドウェインは暴力をふるい始める。シュガークリークに歩いて出たドウェインは、家を出ていたセリアと再会して和解する。息子のバニーも和解に加わる。しかし、警官がドウェインを逮捕に来た。笑って連行されていくドウェイン。
 一方、トラウトは鏡の中に入っていった。トラウトの「若くしてくれ」の声が聞こえた。鏡の中では少女に導かれたトラウトが少年に変わっていた。鏡は異次元へのリークだった。

 妻セリアの性格と行動が理解を超えているため、夫婦の和解がなんだか納得のいく結果に思えない。女装趣味のハリーの扱いも肯定しているのか否定しているのか不明瞭で中途半端である。分裂症気味のドウェインの行動に共感できるわけでもない。しかし、フランスでの評価は高く、1990年代の偉大な作品のひとつと評価されている。

 IMDbのレイテイングは4.6と低い(6.5以上で高評価)。ヴォネガットの映画化としては、Slaughterhouse-Five は7.0、Mother Nightは7.2、Happy Birthday, Wanda Juneは6.1、Harrison Bergeron (TV movies)は7.2。
2014年6月23日


DVD
セデック・バレ





台湾
2011年
144分+132分

 「セデック・バレ」とは「真の人セデック」の意味。セデックは台湾中部の山岳地帯に住む狩猟民族セデック族のこと。日本では高砂族と呼ばれていた。
 日本統治時代に起こった霧社事件(1930年)を基に映画化した。ウェイ・ダーション(魏徳聖)監督・脚本。
 第1部「太陽旗」。狩り場をめぐって争う山間の部族。敵の首を狩ることは真の勇者になるために必要な習慣であった。台湾が日本の統治となり、狩り場はよそ者=日本人に支配・蹂躙されることとなった。セデック族も「文明化」され、先祖の樹を切らされ、安い賃金で材木運びに狩りだされる日々となった。セデック族は日本当局が蕃と呼ぶ三集団(タクダヤ蕃、タウツァ蕃、トロック蕃)に分かれ、さらにそれぞれの蕃には複数の社(集落)があった。
 タクダヤ蕃マヘボ社を率いるモーナ・ルダオ頭目(壮年期リン・チンタイ、青年期ダーチン)の子供の婚礼の日、タダオ(ディエン・ジュン)が勧めた酒を蕃人を軽蔑している吉村大尉(松本実)は断わり、タダオを殴る。怒ったタダオと若者たちは大尉を殴り返した。
 大尉は経緯を暴力事件として上司に報告、モーナ頭目が謝罪をしたが、大尉は侮蔑の言葉を吐き、蕃族マヘボ社を全滅させてやると言葉を返すのだった。若者たちの不満と怒りは頂点に達し、彼らはそろって頭目に決起を促す。代表として内地見学に行ったことがあり、日本人に反抗すれば部族の全滅は必至と理解している頭目だったが、全滅覚悟で先祖の霊に並ぶべく「血の儀式」を行うことを決断する。先祖から伝わる「狩り場」によそものを入れてはならないのだ。霧社の日本人が一堂に会する運動会の日、決起した蕃人たちは日本人皆殺し作戦を決行した。
 第2部「虹の橋」。命を厭わず民族と先祖の名誉のために勇敢に戦うことが「真の人」になり、虹の橋を渡って魂の永遠の国へ行くための条件。タクダヤ蕃中心の300人の戦士に対して数千の日本軍が組織される。「野蛮人の突発的な暴動」とみなす隊長・鎌田弥彦(河原三郎)はびらん性の毒ガスの使用を進言し、707戦闘機は空から毒ガスを撒く。セデック族出身の警官・花岡一郎(シュー・イーファン)は妻(ルオ・メイリン)と赤児を殺害し自決する。花岡二郎(スー・ダー)は首を吊った。妻・初子(ビビアン・スー)は生き残ったが。ちなみに、一郎と二郎は本当の兄弟ではない。
 タウツァ蕃は日本軍に協力する。霧社事件では悪役として描かれてきたタイモ・ワリス(マー・ジー・シワン)はモーナのライバルとして描かれた。彼らは日本軍からは味方蕃と呼ばれた。死を決意して闘う戦士たちのゲリラ戦に日本軍は手を焼く。しかし、一人また一人と戦士の犠牲者は増え、モーナは日本軍に捕まるわけにはいかないと姿を消し、最後まで戦った彼の息子たちも自決した。家族を殺されて復讐の鬼となった警官・小島源治(安藤政信)はその後の字幕によるとタウツァ蕃を扇動し、保護者収容所を襲撃し、生存者を殺戮したという。
 <写真は左からリン・チンタイ、ダーチェン、安藤政信、ビビアン・スー、シュー・イーファン、スー・ダー、ルオ・メイリン、河原さぶ>

 製作は資金を調達しながら進められたため、途中で何度も資金不足に見舞われた。野外場面はロケで撮影、ほとんどが曇り空という設定だったので天気待ちも多かった。山岳地域は天候も不安定だ。撮影期間313日、十数ケ月の撮影。メイキングは120分。

 裸足で山を駈け廻る雄々しい狩猟民族セデックの文化に敬意を払った作品である。ただ、セデックの文化を総合的に描いているかというと、文化のなかで特に狩猟に重きが置かれすぎているのではないかという気がする。部族ごとに決まった狩り場で狩って得られる獣の肉はハレの食事ではないかと思うからである。ケのときの食事はいったい何を食べていたのだろうか。急速に日本化したことを考慮すれば、やはり穀物かイモを栽培して食べていたのではないだろうか。狩猟採集のみで生活する場合には定住生活は困難である。セデックは定住生活をしているようだから、農耕を行なっていたのではないのか。最近まで首狩りをしていたのはセデックだけではない。ニューギニアの山岳民族もそうであった。彼らはタロイモを栽培して食べていたはずである。サツマイモが外国から導入されて以降は、焼畑で育てるサツマイモとイモのつるで育てたブタの肉が主食となった。

 隣接する部族同士の戦いや異文化民族との相克は決して過去のものではない。現代のイラク内乱(シーア派、スンニ派)、ボスニア、ウクライナ、シリア、スーダン、アフリカ各地でも起こっている。死が祖先の霊に会う唯一の道だという考えの戦士にかなう兵士はいないだろう。自分をこの霧社の状況に置いたとき、ゲリラに真っ先に殺されてしまう日本軍の一兵卒としか思えない。暗澹とするばかりである。
2014年6月28日


DVD
12人のパパ2


USA
2005年
94分

 ヒット作の続編。前回の監督レヴィは製作に回り、監督はアダム・シャンクマン、脚本はサム・ハーパー。
 長女ノーラ(パイパー・ペラーボ)はバド(ジョナサン・ベネット)と結婚、次女ロレイン(ヒラリー・ダフ)は卒業・就職(ニューヨークにて)と親離れが進む子供たちに対して、子離れができない父は昔の思い出の湖のキャンプを企画、気の進まない12人をキャンプ場に集合させた。しかし、夜のメンバー・オンリーのバーベキュー大会で子沢山のベーカー家は、湖一帯を所有した8人の子沢山のマートー家と出会う。トム(スティーブ・マーティン)は子供時代からのライバル、ジミー・マートー(ユージン・レヴィ)と意地を張りあう。ジミーはきびしい規則を子供たちに課していて、子供たちはそれに従い文武両道、優秀な成績をおさめていた。自由放任のベーカー家とは違っていた。子供たちを「できそこない」呼ばわりされて、なおのことトムはむきになる。しかし、父親同士の争いには子供達どうしもしらけ気味。長兄チャーリー・ベーカー(トム・ウェリング)はアン・マートー(ジェイミー・キング)と、サラ・ベーカー(アリソン・ストーナー)はエリオット・マートー(テイラー・ロートナー)と仲良くなる。トムの妻(ボニー・ハント)とジミーの三人目の妻サリーナ・マートー(カルメン・エレクトラ)も理解しあっていた。
 labour day cupに七家族が出場、いろいろな競技で二家族がトップとなり、カヌー競技で決着をつけることとなる。しかし、レース中ノーラが産気づき、ベーカー家は湖畔の道路に船を着け、病院に搬送、マートー家も競技に勝とうとする父親に子供たちが反発し、リタイア。病院でノーラは出産。トムとジミーは仲直りする。
2014年6月22日


DVD
12人のパパ


USA
2003年
99分
 スティーブ・マーティン主演のコメディ。監督ジョーン・レヴィ、脚本サム・ハーバー、ジョエル・コーエン、アレック・ソコロウ。 
 フットボールの三部リーグのコーチ・トム(スティーブ・マーティン)と元スポーツ記者ケイト(ボニー・ハント)の間には12人の子供がいた。トムの母校イリノイ大学のコーチが解任され、トムに一部リーグ・スタリオンのコーチの話が舞い込む。子供たちは住み慣れたミッドランドから引っ越すことに大反対。しかし、母校のコーチになるのはトムの年来の夢であった。
 給料も待遇もよくなるし、大邸宅にも住める。なんとか子供たちをなだめて二人はイリノイに引っ越したのだった。すると妻にも書いた原稿が本になり出版の話が入る。しかし、出版のためにはキャンペーンに回る必要があった。最初は三日間という話だったのだが、二週間に延長される。二週間もの間、子供たちの世話をパパひとりでやりきれるものだろうか。
 もともと十分に注意が行き届いていなかったトム。子供たちの世話にてんやわんやの大騒動。手が回らなくなった挙句、フットボール・チームを自宅で合宿させてトレーニングさせる羽目に。子供たちは長女ローラの恋人で駈けだし俳優のハンクが大嫌い。ハンクも子供が嫌いだ。二人が手伝いに来ると言うので早速サラはハンク撃退作戦を考案、なかでもパンツをひき肉漬けにするアイデアは犬がハンクのパンツにむしゃぶりつく結果となって大成功(?)。子供が悪い事をして、説教をした後、大人は「Go to bed」というのが決まり文句なんですね(朝ドラの『花子とアン』でも校長の口癖だった)。
 トムはチームを取るか、ファミリーを取るかと揶揄されるようになってしまう。
 ボニー・ハントはゴルディー・ホーン似のキャラクター。
2014年6月21日


DVD
ザ・リング


USA
2002年
116分
 日本版『リング』(原作・鈴木光司)がUSAでリメイクされた作品。脚本はアーレン・クルーガー、監督はゴア・ヴァービンスキー。特殊メイクは『狼男アメリカン』のリック・ベイカー。
 そのビデオを見た者は七日めに死ぬ。ハイスクールの少女ケィティ(アンバー・タンブリン)は交際していたジョシュと一緒にビデオを見たという。そのときビデオを見た四人は七日目の同じ時刻に亡くなっていた。ケィティの母から死の真相をつきとめてくれと頼まれた友人のレイチェル(ナオミ・ワッツ)は新聞記者の技量を生かして調査を始める。半信半疑の元夫ノア(マーティン・ヘンダーソン)も協力して少しずつ真相に迫っていく。レイチェルの息子エィダン(デヴィッド・ドーフマン)もちょっとした隙にビデオを見てしまう。息子を救うためにも真相を突き止めなくてはならない。
 精神病棟に入れられたアンナ・モーガンとその娘サマラ・モーガン(ダヴェイ・チェイス)の運命とビデオの呪いは関係がありそうだということが分かってくる。
 テレビ画面からサマラが出てくるのが最後の最後になってから。ショッカー映画としては物足りなかった。
 最後にレイチェルはテープを暖炉に放り込み燃やして、「なぜ私は助かったの?」と自問自答する。彼女は別のCOPYビデオのCOPYという張り紙を見る。その直後なにかに気付いたようにそのCOPYテープをダビングする。
 このラストは、誰か別の第三者に見せれば自分は救われるということ? 不幸の手紙みたいな連鎖が予感されるということか。
 
2014年9月1日




VHS
リンバロストの乙女




ブリッジストーン
マルチメディア
1990年
105分
 ジーン・ストラットン・ポーター原作の『リンバロストの乙女』(1990年)はTVムービー。USAからVHSを購入。日本語字幕は無い。IMDbの評価は6.1。
 スタッフは、製作統括サッチャ・シュナイダー, 監督 バート・ブリンクホッフ, 脚色 パメラ・ダグラス, 撮影 ゴードン・C・ロンズデール, 編集 ディヴィッド・サクソン。
 1908年インデァナ州のリンバロストに暮らすケイト・コムストック(Annette O'Toole)には一人の娘エルノラ(Heather Fairfield)がいた。森で彼女の話し相手はミミズク。
 そんなエルノラだったが高校に行くことになる。卒業は「愚かな夢」と母親は考えていた。身なりも華やかでないし,牛乳缶のお弁当も野暮ったい。好奇の目とイタズラをされるエルノラだったが、彼女に同情しなにかと気をつかってくれるサリー・ブラウンリー(Devon Odessa)のような友人もできた。浮浪児ビリー(Chauncey Leopardi)はエルノラを訪ねてきた際にケートに気に入られて,実の子供のように世話をされることになった。
 学校の出来事をきっかけに母親と言い争いになって家を飛び出したエルノラは森で写真家のジーン・S・ポーター(Joanna Cassidy)に会う。ポーターから蛾や蝶の採集・標本作りの手ほどきを受けたエルノラはリンバロストで珍しい蛾の採集・収集を試みるのだった。帝王蛾は珍しいとポーターは話す。標本はオスだけでメスを入れるスペースが空いた箱まで用意してあった。
 サリーはバイオリンを習っていたが、ちっとも上達していない。バイオリンの教師ヘンレー(Philip Sterling )はエルノラの姓をコムストックと聞いて、父親との思い出を話す。彼は「お父さんが弾いているみたいだ」と感動し,毎週火曜日にレッスンに来るように命じる。
 ケートの農場に廷吏のアップルゲート(Daryl Anderson)が来て、税金を支払わないと土地を追い出されることになったと告げる。税金は150ドル。ケートには大金である。エルノラも学校へ行っている場合ではなくなる。農場の仕事(牧草、トウモロコシ収穫など)を手伝って金を貯めなくてはならない。ビリーの父親( Peter Kienaas)が訪ねてくるが、無職の父にビリーは渡せないとケートは引渡しを断る。父が置いていったコートに気づいたビリーは父に会いたいというが、ケートは「彼は去った」と言い続ける。ごねるビリー。仲を引き裂くことになって辛い思いをしている母親の気持ちをエルノラは察する。
 暴風雨が来て、収穫したトウモロコシを守る三人。ミミズクの小屋を心配したエルノラは雨の中、小屋に行き、ミミズクを保護しようとする。やがて雨が上がって気がつくと小屋に帝王蛾が入っていた。エルノラは帝王蛾をポーターのもとへ届け、謝金をもらう。これで税金は払えそうだ。
 翌日、役場に税金を納めたケートはエルノラの高校へ立ち寄る。バイオリンの音に惹かれたケートはエルノラが教師の指導で美しい音楽を奏でているのを見る。しかし、ここでケートの怒りが爆発する。夫の死にヘンレーは関係があったらしい(台詞の英語がよく理解できない)。ケートの怒りに呆然となるエルノラ。
 しかし、家に帰って夫との懐かしい写真を見たケートはビリーに案内させてミミズク小屋に出向く。母親は亡き父が大事にしていたバイオリンをエルノラに渡し、母親と娘は和解する。

 蛾の描き方が昔より丁寧になっている。原作に登場するシントン夫妻は省略されている。原作ではビリーの父親は死亡して母親がビリーを置き去りにしたことになっているが、映画では逆に設定していて、ビリーの父親が無職のホーボーであるため、ケートがビリーを手放さないことに重点が置かれている。原作でもエルノラはバイオリンの音色に魅かれていく。しかし、ケートはバイオリンを憎んでいる。夫がバイオリンを好み、農場仕事を粗末にしたからだ。けれども、夫は別の女性エルビラと浮気をしていたことが判明する。帝王蛾を踏み潰してしまった行為に怒ったマーガレット・シントンが、真相をぶちまけたのだった。沼地で溺れたその夜も夫は実はエルビラに会いに行く途中だったのだ。だが、つらい告白をしたエルビラはがんで死にかけていた。ケートは思いっきり悪態をついた後に症状を緩和する植物の処方を教える。
 映画にはエルビラは登場しないが、夫のバイオリンに対するケートの愛憎なかばする態度は描かれている。
2014年6月10日



DVD
リンバロストの乙女






Monograph Pictures
1934年
75分
 ジーン・ストラットン・ポーター原作の『リンバロストの乙女』(1934年)は二回目の映画化(白黒作品)をUSAからDVD(リジョン1 米英版)で購入。日本語字幕は無い。トーキー白黒映画(英語)。

 スタッフは、WM. T. Lackey Production, 監督 Christy Cabbanne, 脚色 Adele Comandini, 美術 E.R.Hickson, 撮影 Ira Morgan, 録音 J.A. Stransky, Jr. 編集 Carl Pierson,技術 Jannete Porte Meehan,

 キャストは、夫ロバートを沼地で亡くし陣痛のため助けられなかったことを悔やんでいるエルノラの母ケイト Katharine Comstock・・・Louise Dresser(写真中参照), 父が死んだときに生まれた少女エルノラ Elnora・・・Marian Marsh, 隣家の農夫 Wac Sinton・・・Ralph Morgan, その妻 Margaret Sinton・・・Helen Jerome Eddy(写真上参照), エルノラと知り合うが婚約者を連れて来る Philiip ・・・Edward Nugent(写真下参照), 彼の叔父で村の医師 Dr. Ammon・・・Henry B. Walthall, 蛾のおばさん Mrs.Parker・・・ Betty Blyth, フィリップの婚約者 Elvira Carney(原作ではエディス)・・・Barbara Bedford, 浮浪児ビリー・・・Tommy Bupp, Gigi Parrish・・・ Edith Carr, Frank Comstock・・・Robert Ellis, Pete Carson・・・ Sid Saylor, アン・・・Fern Emmett,級友・・・Ann Bupp, June Bupp.

 母親はエルノラに冷たく当たる。エルノラのハイスクール入学の日にも、普段着で行かせるし、ランチボックスにも貧しい食事しか入れていない。しかし、隣家のシントン夫妻が気をつかってドレスを用意してくれ、ランチボックスも中身をしっかり入れてくれる。エルノラはハイスクール初日に悪戯されたり、笑われたりと侮蔑の目に会ってしまうが、彼女を奮いたたせてくれるのは森の蛾だった。蛾のおばさんパーカーに蛾を売ることでなんとか学費を稼ぐことが出来るエルノラ。
 母親の誤解が解けてエルノラと和解する物語がひとつの軸。もうひとつの軸はエルノラがフィリップに抱く恋心。フィリップはエルノラと一緒に蛾を採集したりするものの、婚約者エルヴィラを連れて、皆に紹介する。しかし、エルノラとの仲を怪しんだ婚約者は怒って婚約が解消される。フィリップはエルノラへの愛に気付き、エルノラへの想いを打ち明けるが、エルノラはフィリップを許そうとしない。もうひとつの軸は孤児の少年ビリーの物語。エルノラがシントン夫妻に預けた浮浪児は気を張って生きているが、本当は親を恋しく思う子供だった。悪戯に手を焼いて少年を嫌っていたマーガレットも少年の淋しさに気付いて心を開く。
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 原作はジーン・ポーターらしいが、1905年のリンバロストに舞台を設定した映画『Romance of the Limberlost リンバロストのロマンス』(1938)がYou-tubeにアップされていた(2012年)。 白黒、トーキー作品。76分(タイトルやクレジットが削除されている)。Gene Stratton PorterのNovelは,The Song of the Cardinal (1903), Freckles (1904『そばかす』), At the Foot of the Rainbow (1907), A Girl of the Limberlost (1909『リンバロストの乙女』) という状況で該当する作品がはっきりしない。リンバロストの名称と一部のキャラクターだけを借りたオリジナル脚本らしい。
 孤児の少女ローリー(Jean Parker)はノーラ(Marjorie Main)に育てられて、いまや美しい娘になっていた。彼女に目をつけていたのが農夫のジェド・コルソン(Edward Pawley)。乱暴者で冒頭、青年クリス(Hollis Jewell)を鞭で殴りつけ、傷ついたクリスをローリーが手当する場面が出てくる。
 ローリーはノーラと言い争い、リンバロストの森に駆け込んだところで、鳥を撃ちに来た青年ウェイン(Eric Linden)と出会う。動物に親しむウェインにローリーは惹かれ、自分が宝物にしていて隠している蛾の標本箱を見せる。森のなかでローリーは蛾のおばさん、パーカー(Betty Blythe。1934年作品と同じ役である)とも出会い、おばさんはローリーの標本と彼女に興味を持つ。
 酒場兼雑貨店を営むナタン(George Cleveland)とサラ(Sarah Padden)の老夫妻はローリーの味方で、いわば保護者のようなもの(『リンバロストの乙女』のシントン夫妻に当る役柄)。威張っているジェドは村のみんなに嫌われている。
 村の祭りに着飾って出かけるローリー。ナタンが馬車に乗せて連れて行った。ウェインが女友達を連れて来ていたが、ローリーを見かけると彼女を誘ってダンス。つまづいて彼女が転んだときに笑った仲間を彼は殴った。ウェインの父親・弁護士(William Gould)が息子を止める。森のなかでときどき会い、二人はキスを交わす仲になったが、ジェドがノーラに多額の持参金を渡して、ローリーに求婚する。もちろん拒絶するローリーだったが、これまでに育ててもらった恩がある。断り切れずに彼女は結婚を受ける覚悟を決める。ローリーの本当の気持ちを聞いたナタンたちはノーラやジェドを説得するが不調に終わる。
 やがて結婚式の日が来る。ジェドの邸でのパーティ。招待客はだれひとり喜んでいないようだ。ジェドだけが悦に入っている。婚礼衣装を着たローリーは涙にくれている。なかなか階下に降りて来ないローリーを衣装部屋にジェドがのぞきに来る。ナタンの息子クリスはジェドを許せないと、ライフル銃を持ち出し、ジェドを外へ呼び出す。銃をジェドへ向けたものの、簡単にジェドに奪われてしまう。しかし、抱えた銃が暴発してジェドは死んでしまった。クリスはジェドの銃を拾い上げたところを逮捕されてしまった。
 新聞に<婚礼の日の殺人>と報道され、裁判になる。ローリーは蛾のおばさん、パーカーに標本を20ドルで売る。そのお金でウェインにクリスの弁護を頼む。新聞で事態を知ったパーカーはウェインの父親に助けを求める。始めは渋っていた父だったが、息子の恋が本物なのを知って裁判記録を探査して弁護を助ける。裁判で証言に立ったローリーは検事のきびしい追及を受ける。なぜコルソンの求婚を受けたのか。言いよどむローリー。傍聴席にいたノーラが立ち上がって、悲劇のすべては自分のせいだと告白。被告クリスが証言台に立つ。きびしい検事の追及。反対尋問に立ったウェインは、銃に弾を込めて撃つようにクリスを促す。しかし、安全装置を外すことを知らなかったクリスが引き金を引いても弾は出なかった。つまりクリスは銃を撃ったことがなく、撃ち方を知らなかったのだ。陪審真の評決は無罪。ウェインに感謝するローリーは、裁判所から出て行ったノーラの後を追い、感謝の言葉を告げるのだった。幕。
 他のキャストは判事(Guy Usher)、ルース(Jean O'Neill)、フェア(Budd Buster)、ジョーンズ(Harry Harvey)、アブナー(Jack Kennedy) 。脚色 Marion Orth、監督 Wiliam Nigh。IMDbの評価は7.8と高い。
2014年6月8日



ビデオ
スリラー



ヴェストロン
1983年
14分
 マイケル・ジャクソンのプロモーション・ビデオ『スリラー』(14分)とそのメイキング(45分)。『スリラー』はガス欠で車が停まってしまったある晩、恋人と散歩するマイケルは愛の言葉の後に「自分は人と違うんだ」と告白する。いぶかしむ恋人の前でマイケルは狼男に変身。恐怖の叫びをあげる恋人。・・・これは映画のワンシーンだった。マイケルと恋人は観客。恋人は映画を中断して映画館を出る。マイケルも後に続く。墓場からはゾンビが蘇り、マイケルも一緒に歌い、踊る。恋人は空家に逃げ込む。その空家へもゾンビたちが襲ってくる。マイケルもゾンビと一緒に侵入、悲鳴をあげる恋人。・・・救出の手を伸ばしたのはマイケルだった。無事帰ろうとする二人だったが、振り返ったマイケルの眼がキラッと光る。エンドレスな短編映画。
 脚本はマイケルと監督のジョン・ランディス。企画は『狼男アメリカン』を見て気に入ったマイケルがランディスに電話をしたところから始まった。特殊効果は『狼男アメリカン』でアカデミー賞を取ったリック・ベイカー。振付はマイク・ピータース。
2014年6月6日




金曜ロードショウ
ダーク・シャドウ



ワーナー
2012
114分
 ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演のダーク・ファンタジー。セス・グレアム=スミス脚本。本来2時間近い作品だが90分強の放映時間なので、20分近くカットされている。上映中に、大雨情報が三度ほど入った。
 コリンズ家の若き当主バーナバス・コリンズ(デップ)はメイドのアンジェリーク(エヴァ・グリーン)の肉欲に溺れた。しかし、ジョゼット(ベラ・ヒースコート)に恋をしたことで、アンジェリークの嫉妬を買う。アンジェリークは魔女だった。魔女はジョゼットを断崖に誘い、身を投げさせ、後を追ったバーナバスを不死のバンパイアに変えた。アンジェリークの扇動で鉄棺に埋葬されたバーナバスだったが、200年後の1972年、工事中に掘り出された鉄棺から出て、工年員の血を吸い、蘇ったバーナバスは落ちぶれたコリンズ家復興のために尽力する。しかし、街を支配していたのは生まれ変わりを繰り返していたアンジェリークだった。再びバーナバスを誘惑するアンジェリーク、かつての恋人ジョゼットも孤児の家庭教師ヴィクトリア(ベラ二役)となって関係する。
 コリンズ家の女主人エリザベスに『バットマン・リターンズ』でキャット・ウーマンを演じたミッシェル・ファイファー、娘キャロリンにリメイク版『キャリー』を演ずるクロエ・モレッツ、息子デヴィッドにガリヴァー・マグラス、精神科医ホフマン博士にヘレナ・ボナム=カーター、デヴィッドの父親にジョニー・リー・ミラー、広い邸宅のたった一人の使用人ウィリーにジャッキー・アール・ヘイリー、老婆ジョンソンにレイ・シャーリー。水夫長クラーニーにクリストファー・リー。コリンズ家の水産事業が軌道に乗る様子のBGMにはカーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド」が使われているが、この曲を使いたいために時代を1972年に設定したのだろう。200年後の世界に蘇ったバーナバス(ジョニー・デップ)が、「馬を用意しろ」「いまは馬は使っていない。車だ」という具合に、現代世界に戸惑う様子がコメディ要素になっている。
2014年5月26日



DVD
タロットカード殺人事件



BBCフィルムズ
2006年
95分
 脚本・監督・出演はウッディ・アレンで、原題は「Scoop」。『マッチポイント』でウッディが共演したスカーレット・ヨハンソンと、今度はコメディ映画を作ろうと約束したのが実現した作品。チャイコフスキーの『白鳥の湖』から「白鳥の踊り」がテーマ曲。
 大学のジャーナリスト学科で学生新聞の記者サンドラ(スカーレット・ヨハンソン)は、偶然入った手品の箱の中で、敏腕記者ジョー・ストロンドベルグ(イアン・マクシェーン)の幽霊に会い、ライモン卿の息子ピーターが、黒いショート・カットの娼婦が殺される連続殺人、タロットカード殺人事件の真犯人だというネタを告げられる。ジョー自身は死神の船に乗り合わせたピーターの秘書(証拠に接近したため、毒殺された)から聞いたネタだった。大スクープだが、確認が必要だと、サンドラは手品師のシドニー(ウッディ・アレン)を父親に仕立て、ピーター卿(ヒュー・ジャックマン)に接近する。
 会員制のプールでシドニーの薦めに従い、溺れたふりをして、ピーターに助けてもらったサンドラはジェイド・スペンスと名乗り、ピーターに接近、ピーターも彼女に一目惚れして二人の仲は急接近する。ピーターの邸宅の地下にある楽器室で、タロットカードを発見したりするものの決定的な証拠はつかめない。
 やがて、出張中のはずのピーターを街で目撃したサンドラは、その直後に起こった殺人事件を知り、スクープを新聞社に持ち込むものの、証拠が無いことや、タロットカード殺人事件の犯人が捕まったことを理由に記事に出来ないと断わられる。疑いが晴れた形のピーターにサンドラは自分の正体を告白する。一方、シドニーはピーターの鞄から盗んで封筒にベティGとの署名があったことから、違った推理をしていた。
 ウッディ・アレンの手品師がしゃべり放しで、ジョーク満載のコメディ。楽しい映画です。
2014年3月30日



DVD
ウォールフラワー



USA
2013年
102分
 アメリカの高校生の青春の等身大の悶々が描かれます。『ライ麦畑でつかまえて』と比べる向きもありますが、主人公がずっと温和ですし、自分に自信を持っていませんから印象はかなり異なります。
 ウォールフラワー(壁の花)とは「舞踏会で相手がいないので壁にはりついている、引っ込み思案の女の子」。けれども、この映画では、中学で親友マイケルが自殺したり、小さい時に大好きだったヘレン叔母さん(メラニー・リンスキー)が事故死したりと、辛い経験をして精神を病み、入院していた男の子チャーリー(ローガン・リーマン)を指します。
 チャーリーは作家志望なので、もうひとりの自分に対して手紙を書いて現状報告をする習慣があります。
 最初は中学の生活に溶け込めないのではないかという不安を抱えているチャーリーでしたが(入学した途端に高校卒業まであと何日と数えるような生徒です)、ひょうきんな上級生パトリック(エズラ・ミラー)とその義妹サム(サマンサの略称。エマ・ワトソン)に出逢って、おずおずと高校に適応していきます。
 彼らも実はゲイだったり、酔いどれてすさんだ1年生だったりした秘密を抱えていました。チャーリーには性に対するおびえがあるようですが、その原因は最後に明らかになります。チャーリーの周囲に漂う謎めいた不安が全編につきまといます。そのためすべてが精神病理学的に解決される結末に向っていくような「ニセモノっぽい」「いやな」感じがあります。セラピー好きのアメリカ人にはこういった展開が好評なのかもしれませんが、そんな解釈はニセモノと思っている者からすると、物語の活力を弱めるだけです。
 高校生活を彩るガジェットが生徒たちが自主上演する舞台劇が『ロッキー・ホラー・ショー』だったり、国語の教師(ポール・ラッド)が生徒に課題として出す本がケルアック『路上』やウォールデン『森の生活』だったりと、ちょっと興味を引きます。
  IMdbの評価が8.1と高いのに驚きました。それほどユニークな映画とは思えませんが。夜で画面がほとんど真暗な場面が結構あります。
2014年3月24日



DVD
ヘンゼルとグレーテル


USA
2012年
90分
 「おそろし森の魔女」との日本副題をもつホラー映画。脚本はホセ・プレンデス、監督はアンソニー・C・フェランテ。
 アメリカの田舎町の雑貨屋で働いているグレーテル(ステファニー・グレコ)は、父親(スティーヴ・ハンクス)の再婚話に怒った弟のヘンゼル(ブレント・リディック)を探して森に入る。二人が好きだった産みの母親が眠る大木の近くでウサギわなに足をはさまれたヘンゼルを発見。森の中に入ると豪華な見たこともないお屋敷があった。ヘンゼルの足首の治療にと訪ねてみると、雑貨屋の女主人リリス(ディー・ウォレス)の家だった。治療を受け、自慢のミートパイやお菓子をもらった二人は、薦められたお茶を飲んで眠ってしまう。
 翌朝、ヘンゼルはいなくなっていた。リリスは帰ったというのだが、その実、ヘンゼルは地下牢に閉じ込められていた。地下牢には他にも鎖でつながれて若い男女(サラ・フレッチャーら)が幽閉されていた。牢番は二人の髪の毛伸び放題の若者(ジャスパー・コール)。彼らはリリスの息子たちだった。三人は誘拐してきた若者を太らせてカマドで焼いて食べているのだった(一部はお店でミートパイとして売っていた)。不審に思ったグレーテルは地下室への階段を発見、自分も閉じ込められることになる。リリスはグレーテルを自分の後継者にしようと目論んでいるようだ。申し出を拒絶するグレーテルに怒りをぶつけるリリス。変な様子に気がつき始めた保安官助手ケヴィン(クラーク・ペリー)や保安官(M・スティーヴン・フェルティ)、姉弟の両親もちょっとの油断を衝かれて血祭りに挙げられてしまう。
 IMDbの評価は2.6。
2014年3月23日



DVD
アラクニッド



スペイン
2001年
91分
 監督はジャック・ショルダー、脚本はマルク・セヴィ。太平洋上で海軍のテスト飛行が行なわれている。海中から竜巻のような煙のようなものが湧きあがっている。そのなかへ突っ込んだ飛行機は乱気流にまきこまれ墜落。脱出したパイロットは着陸した島で異星人に会い、襲われてしまう。
 数年後、原因不明の危害による死亡者で困っている島に緊急の調査チームが派遣されることになった。医師レオン(ホセ・サンチョ)・看護士スサーナ(ネウス・アセンシ)・クモ研究者ヘンリー(ラヴィル・イスヤノフ)・軍人ヴァレンティン(クリス・ポッター)・現地のガイドなど、急ごしらえのスタッフと女性パイロットのチーム。
 女性パイロット、マーサ(アレックス・リード)は口数は少ないがこのチームに参加したのには何か理由があるらしい。島に近づくと飛行機は突然操縦不能になった。なんとか不時着したものの、飛行機は破損。救助要請も届かない。とりあえず島を探る事になる。チームの人々の周囲に姿を見せずに接近する正体の知れないモンスター。
 人喰いダニにより、犠牲者が出始める。モンスターの正体は体長5mもの巨大なクモだった。このクモはCGではなく、実物大の模型で、ラジコンで顎を動かし、スタッフの手で足を動かすものである。特殊撮影・特殊メイクは『スピーシーズ』のスティーヴ・ジョンソン。
 女性の兄が行方不明になったテストパイロットで、女性は兄を探していたのだった。物語も半ばで吸汁されてミイラ化した兄の死体を発見する。
 IMDbの評価は3.8。
 
2014年2月28日




DVD
スパイダー・パニック




USA
(ワーナー)
2002年
99分
 日本で『スパイダー・パニック』と名付けられた作品の第一作は,2002年製作の『Eight Legged Freaks』(八本脚の怪物)というアメリカ映画。製作総指揮は『インデペンデンス・ディ』のローランド・エメリッヒ,原案・脚本・監督がエロリー・エルカイムで,ワーナー・ブラザーズ製作の大作である。
 ラジオのDJハーラン(ダグ・E・ダグ)が景気よく話している。エイリアンの侵略を予告する語りである。ラジオに耳を傾けていたトラックの運転手は道路上のウサギを避けて,ハンドルを切った瞬間に積荷のドラム缶を1個,道路脇の湖に落としてしまった。どうもドラム缶には有毒廃棄物が含まれていたらしい。湖でカゲロウを採った老人ジョシュア(トム・ノーナン)は飼育中のクモの餌にちょうどいいと,ほくそ笑む。
 事故から一週間後,変人として知られているジョシュアのもとに,中学生のマイク(スコット・テラ)が訪ねて来る。蜘蛛を二百匹も飼っているジョシュアにマイクは憧れているのである。ジョシュアはタランチュラやハエトリグモ(Habronattusだという説明がある)を見せ,小さな「コガネグモ」のオスは大きなメスに獲物をプレゼントすると説明する。このコガネグモは岩場に住み,網を張らない様子で餌を捕食している奇妙な習性である。マイクが用事で帰宅した後,ジョシュアはタランチュラが飼育箱から逃走したことに気づく。蜘蛛を探すジョシュアは気づかないのだが実は蜘蛛は彼の背中にいた。後ろの首筋を咬れたジョシャアは苦悶し絶命する。倒された飼育箱のなかから蜘蛛は脱走する。蜘蛛は化学物質のために巨大な体へ成長してしまったようだ。
 マイクのママ,サム・パーカー(カーリー・ワーラー)は保安官。サムは変人ジュシュアのところに行ってはダメとマイクを禁足する。バイクで暴走する青年たちのなかにサムの高校生の娘アシュリー(スカーレット・ヨハンソン)もいた。危険運転で青年たちに違反罰金のチケットを切ったサムは娘を連れ帰る。  二週間は一見何事もなく過ぎた。マイクはジョシュアの姿を見ていない。一方,町長(レオン・リッピー)は町民に土地を売り払うよう薦めている。昔あった鉱脈もいまでは掘り尽くして空っぽ。なんの産業もなく町はさびれる一方である。舞台はアリゾナに設定されている。黄金が眠る鉱脈もあるという伝説がある。亡き父親の炭鉱会社の復活を目的に故郷に戻ってきたクリス(ディビッド・アークエット)は,叔母グラディスのもとに身を寄せながら古い炭鉱を掘っていた。近所では,警察官のピートの妻エマの猫がクモに食われてしまったり,水を噴射させながら掘削していた鉱夫が詰まったホースを吸うと口のなかにたくさんのクモが入って来て食われてしまったり,オートバイ仲間が巨大蜘蛛に襲われる事件が起こる。
 大きなクモは体長が2mもあり,三段跳びのようなジャンプをして,ヒトに襲いかかる。バイクを走らせて,やっとの思いで逃げた青年ブレット(マット・チュクリー)は坑道へ入るが,坑道も安全な場所ではなかった。マイクから蜘蛛の脚の脱皮殻を見せられ,巨大な蜘蛛の話を聞いたクリスは最初は信じなかったが,叔母のグラディス(アイリーン・ライアン)が行方不明になり,地下室が蜘蛛の網だらけになっているのを目撃,サムも娘が巨大蜘蛛に襲撃されるのを見て,事態の異常さに気づく。DJハーランのトレーラー放送局から町民に異常を知らせたサムは,分厚い鉄板ゲートのあるプロスペリティ・モールへの避難を呼びかける。飼育していたダチョウが襲われても危険に気づかなかった町長も,やがて緊急事態を知ることになる。小さなクモ博士のマイクは巨大蜘蛛に見とれて「ジャンプするハエトリグモだ!」などと感動しつつも,多くの種類が夜行性であり,音に敏感であることを指摘して,町民に冷静な行動を呼びかける。
 蜘蛛を退治する方法は銃である。撃たれた蜘蛛は緑色の体液を出して絶命する。クリスは屋上のアンテナから携帯電話で近くの警察に救助を要請する。しかし,相手に信じてもらえないようだ。援護射撃を引き受けたDJのハーランが決死の覚悟でおとりになって蜘蛛をひきつける。巨大化した女王のクモは鉄板を打ち破って,穴を開けるとまずたくさんの子グモを送り込んで来た。絶対絶命,坑道へ逃げ込む町民。町長は自分だけ先にこっそり坑道に逃げ込んでいた。彼は坑道に潜んでいたクモの糸に巻かれてしまう。クリスはサムに秘めていた愛情を告白しようとする。サムは既にクリスの父親からクリスの真意を聞いていた。発電機を利用して,坑道に集まっているクモを爆破することを考えついたクリスは,その前に糸で巻かれた叔母グラディスをなんとか救出しようとする。首尾よく人々は救出されるのだろうか。ギリギリまで決死の戦いが続く。
 10歳から映画に出演、やがてウッディ・アレンの映画『マッチポイント』(2005)や『タロットカード殺人事件』(2006)のヒロインとなるスカーレット・ヨハンソンの第10作。彼女はこの映画の当時18歳。
2014年2月23日


DVD
スパイダー・パニック2012


USA
2011年
84分
 廉価版480円のガレッジ・セールのDVDで,製作総指揮がB級映画の雄ロジャー・コーマン,監督がジム・ウィノースキー,脚本がウィーノースキーとJ・ブラッド・ウィルケの2011年USA映画「スパイダー・パニック2012」(発売元ジャスティ)を見かけた。ケースの写真を見ると,原題は「Camel Spiders」。ん? クモではなく,ヒヨケムシが主役のパニック・ムービーである。物珍しさから購入してしまった。
  冒頭はアフガニスタンでタリバンとの激しい戦闘中の米軍。突然,体長30cmのヒヨケムシの大群に襲われてタリバンの攻撃が止んでしまった。不審がる米兵たちに現地に詳しい兵士は「ビシュビシュ(砂の悪魔)」というクモのせいだと説明する。仲間の伍長が撃たれて死亡し,自らも傷を負ったスタージェス大尉(ブライアン・クラウズ)は前線を撤退して,伍長の遺体とともに故郷に帰ることになる。
 伍長の遺体を乗せた武器輸送車を運転するのは女性軍曹(メリッサ・ブラッセリー)。輸送の途中のアリゾナの砂漠で,保安官(C.トーマス・ハウエル)に追われた逃走車が輸送車の横に衝突した拍子に,棺桶が外に飛び出し,侵入していたヒヨケムシが蓋の隙間から逃げ出した。しかし,大尉と軍曹はその異変に気付かなかった。30cm以上もある凶暴なヒヨケムシは次々に出逢った人々を見境なしに襲っていく。ヒヨケムシが数分後には大群となってしまうのは生物学的に奇妙だが,その辺は目をつぶろう。 アッという間に拡散してしまうヒヨケムシに大学の生物学の教授もなすすべもなく襲われて即死,研修中の学生たちも空き家に追い詰められる。生き残って翌朝、車まで逃げ切った学生三人のうち,車のフロントに隠れていたヒヨケムシに殺されてしまった男性はさておき,残った二人の女子学生がどうなったのかは物語られない。この学生はラストに無人の映画館で上映されていたパニック・ムービーの登場人物だったというオチかもしれないが,はっきりしない。
 携帯アプリの百科事典で男子学生が怪物を同定し,字幕では生物名が「ラクダグモ」と出ます。ヒヨケムシはコンピュータ・グラフィック。
 主たる対ヒヨケムシ戦闘が開始されるのは,リーバ(ジジ・ブルネッタ)とジョー(カート・ヤンガー)が経営する砂漠のなかの簡易食堂である。保安官の案内で偶然この食堂に立ち寄った大尉と軍曹は,突然ヒヨケムシに襲われた客たちを輸送車に載せて脱出を図ることになる。一時的に地あげで空っぽの廃工場に避難したものの,そこにも次第にヒヨケムシが接近,侵入してくる。離婚したばかりの夫婦と娘,食堂や土地を買い取ろうとする不動産業者,銃を嫌う平和主義者,店の店長夫婦と女性従業員など,素人をたばねて大尉と軍曹はリーダーシップを発揮し,ヒヨケムシの大群と戦う。しかし,善人も悪人もどんどん犠牲になってしまう。ヒヨケムシに情けはないのだ。
  ヒヨケムシが前肢を振り上げて威嚇誇示行動をする様子が見られる。その後,映画では必ずヒトの顔を襲撃してくるのですが,実際のヒヨケムシはヒトに対する毒はないし,大きさも数ミリから10cm程度,最大でも15cmだという。資料には8インチ(24cm)以上でフリスビーと同じくらいのサイズという記述もある。1000種以上も記載されているらしい。また,3フィート(10cm)ほどもジャンプするという。動きは非常に早くて時速16kmにもなり,強力な顎によって獲物の外皮や肉を食い千切り、出血多量で弱らせてから捕食するという。残虐なイメージから,こんなパニック・ムービーも作られることになったのだ。
 映画としての評価はCGが陳腐とか,物語がありきたりとか,登場人物のキャラクターに深みが足りないとか,低いコメントが並ぶ。大尉と軍曹がどんな状況にあっても冷静さを失なわずに協力して戦うコマンドを演じていて,この二人が完璧なヒーロー。軍人精神を教育する映画を感じさせる仕上がりになっている。「いやな感じ」である。
  とはいえ,凶暴なヒヨケムシが大活躍する珍しい映画なので,アラクノロジストとしては話のタネに見ておいてもよい作品かもしれない。


2014年2月1日以降、2015年1月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

2015年1月17日




レンタル
そこのみにて光輝く



2014年
120分

 佐藤泰志の原作(1989年)を高田亮が脚色、呉美保が監督。撮影が近藤龍人。
 無為に日を過ごす達夫(綾野剛)。ある日パチンコ屋でライターをきっかけに、ちょっとトッポい青年・拓児(菅田将暉)と知り合いになり、彼の家に立ち寄ることになる。気楽に立ち寄った海辺のバラックだったが、そこは想像もつかないような貧乏所帯だった。拓児は障害事件で仮釈放、保護観察の身で、造園業者の中島(高橋和也)のもとで、ときどき働いている。姉の千夏(池脇千鶴)は中島の経営する水産工場で働きながら、夜は函館のバーで客を取っている。中島は立場の弱い千夏を愛人扱いし、強姦している。父親(田村泰二郎)は脳梗塞で倒れた後は寝たきりだが、性欲だけは残っていて意識を取り戻すと妻(伊佐山ひろ子)の体を求めてうめく。そのたびに相手をするのは妻だけではなくなっていた。
 達夫は鉱山で発破を仕切る現場監督だったが、誤って確認不十分の爆破事故で仲間を死なせてしまい、責任感から仕事を辞め、逃避的な毎日を暮らしている。達夫を心配する上司・松本(火野正平)は仕事に戻ってくるようにときどき誘いに来ているが、達夫の決心はなかなかつかない。
 次第に千夏に惹かれていく達夫。中島との縁を切らせようと中島と直接交渉したりするものの、殴られる一方。山の仕事に戻ることで家族を作り、支える決心をする。拓児も山の仕事に誘う。しかし、千夏が中島の暴力を受けたのを知った拓児の怒りが爆発する。
 ヨコハマ映画祭、キネマ旬報2014年度ベストテン第1位作品。ドキュメンタリー映画のような質感の画面が素晴らしい。
 『イメージ・フォーラム』編集長だった高崎俊夫の「映画アット・ランダム」では、本作は1970年代のアメリカン・ニューシネマやATG映画、日活ロマンポルノなどを連想させると書いている。
 “この荒みきった悲惨な家族の光景は、東京の川向うの浦安を舞台に、行き場のない女たちの淀んだ日常を描いた曾根中生の『色情姉妹』(72)を彷彿とさせる。
  さらに、自転車をくねくねと乗り回す拓児や、互いに惹かれあう達夫と千夏が、人の気配がない寒々とした砂浜を歩くシーンは、神代辰巳の『恋人たちは濡れた』(73)の大江徹や中川梨絵の抱えていた白々とした虚脱感や閉塞感とだぶって見えて仕方がなかった。”
 高崎俊夫の映画エッセィには70年代へのシンパシーがある。

 【参考文献】佐藤泰志『そこのみにて光輝く』(河出文庫、2011)
2015年1月17日




レンタル
清須会議




東宝
2014年
120分
 織田信長が本能寺で討たれた後、織田家の後継を決めるために、清須城で評定が行われた。この評定は単なる会議というよりも、柴田勝家(役所公司)と木下藤吉郎(大泉洋)のいくさであった。駆け引きを三谷幸喜の脚本・監督で描く。物語の展開よりも、オールスターキャストなので、誰がどこにどんな役で出演するのかが楽しみのひとつ。
 秀吉が三法師を推挙して主導権を取るという事実は知られているので、結果がどうなるかというハラハラドキドキ感は無い。お市の方(鈴木京香)に執心する柴田勝家が可笑しい。彼はお市の方は香の物が好きだと思い込んでラッキョウの甘酢漬けを土産に持参したり、サザエこそ美食の極みと勝手に決め付けてしまったり、池田恒興に味方についたら越後のコメを毎年送るぞと約束したりと、賄賂も終始食べ物にこだわっているところが稚気あふれていて可笑しい。
 
2015年1月16日





レンタル
もらとりあむタマ子




東映
2013年
78分
 山下敦弘監督、向井康介脚本、前田敦子が大学は卒業したものの、就職もせず、父親(康すおん)のもとに同居して毎日を送る娘タマ子を演ずる。セリフがそぎ落とされていて、ほとんど無い。タマ子は写真屋の中学生(伊東清矢)に芸能オーディション用の写真を撮影してもらったり、父親の見合い相手のアクセサリー教室の講師(富田靖子)を偵察に行ってもらったりする。タマ子は再婚話が気になって、自分も教室に顔を出し、自分を追い出せない父親を批判したりする。
 秋から始まって季節は冬・春と過ぎ、夏になる。父親はタマ子に職が見つかっても見つからなくても、家を出るように命じる。タマ子は父親に「合格」と宣言する。
 中学生に彼女との仲を尋ねると、彼は「自然消滅」と答える。その答えをおかしがるタマ子。自堕落な生活を送るタマ子を前田敦子が、まるで素のままであるかのように演じる。それにしても展開が遅い。
2015年1月16日




レンタル
永遠の0




東宝
2014年
144分
 百田尚樹の原作を『三丁目の夕日』の山崎貴が脚色・監督・SFXを担当。零式戦闘機の飛行を特撮で再現した。
 映画は祖母・松乃の葬儀から始まる。松乃の死を嘆き悲しむ祖父(夏八木勲)の姿を見、自分たちの本当の祖父が特攻で亡くなった人物であることを知った孫たち(吹石一恵、三浦春馬)は、昭和二十年に26歳で亡くなった祖父・宮部久蔵(岡田准一)の真の姿を知りたいと調べ始める。
 最初は海軍始まって以来の臆病者などの悪い評価ばかり。それにめげた孫は聞き取りを辞めようとさえする。しかし、余命三ヶ月の老人・井崎(橋爪功、青年期は濱田岳)から話を聞いたあたりから、祖父が妻・松乃(井上真央)と娘・清子のために自分の生命を、そして同胞の生命を大事にしていたことを理解する。
 筑波海軍航空隊の教官として接した武田(山本學、青年期は三浦貴文)からは宮部がなかなか隊員の操縦に合格を出さなかったこと(合格させれば戦闘に参加して散華する運命)・事故死した飛行兵の名誉を守ったことを聞き、景浦(田中泯、青年期は新井浩文)からはずば抜けた飛行術の持ち主だったことを聞く。景浦からもらった名簿で、祖父と交換した機体がエンジンの不具合を起こしたために生残した青年が大石(青年期は染谷将太)で、祖母松乃が再婚した相手だったことを知る。機体の不具合を見抜いた宮部は機体を交換することによって、大石に生還の望みを賭けたのではなかったか。
 
2015年1月11日・12日



フジテレビ
21:00~
オリエント急行殺人事件



フジテレビ
2014年
6時間
 三谷幸喜が脚本でクリスティーの『オリエント急行殺人事件』をドラマ化。第一夜は原作を日本へ換骨奪胎。第二夜は三谷オリジナル劇。役者は豪華な顔ぶれをそろえてのアトラクション。ポワロ役は野村万斎。シドニー・ルメット監督の映画化があり、最近ではデビッド・スーシェ主演のドラマ化もあった。それらの傑作群にも臆することなく挑戦した意欲作。どちらかというと1974年の英国映画を模した雰囲気になっている。
 著名な原作を三谷がどう料理して見せてくれるかが最大の見所といえよう。ミステリーとして犯人を知らずに見る人がいるとは思えない。監督は河野圭太。ケレンのない演出だったので、物足らない。『トリック』(テレビ朝日)の堤幸彦とか、稲垣吾郎金田一シリーズの星護(フジテレビ)だったらどう演出したかな。
 第一夜は急行発車から殺人事件が起き、探偵が事件を解決するまで。
 波止場の突堤で家庭教師(松嶋)と大佐(沢村)が「すべてが終わってから」と会話する場面を見て、英国映画のイスタンブールのアジア側の客船でメアリー(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)と大佐(ショーン・コネリー)が会話する場面の完全コピーであることに仰天してしまった。しかもチープな完コピーである。そして、臆面もなく、このまま撮りきってしまうのであった。
 英国映画のアルバート・フィニーの役どころを野村萬斎、ローレン・バコールを富司純子(役名ハバード夫人を羽鳥夫人とダジャレ!笑。他の役名もこの調子)、バネッサ・レッドグレーヴを松嶋菜々子、イングリッド・バーグマンを八木亜希子(グレタが呉田。衣装まで類似させている)、アンソニー・パーキンスを二宮和也(マックイーンが幕内)、ジョン・ギールグッドを小林隆、リチャード・ウィドマークを佐藤浩市、ショーン・コネリーを沢村一樹(アーバスノット大佐が能登大佐)、マイケル・ヨークを玉木宏(アンドレニエ伯爵が安藤伯爵)、ジャクリーン・ビセットを杏、マーティン・バルサムを高橋克実(「わかった、あいつが犯人だ」という決めつけまで同じ)、ウェンディ・ヒラーを草笛光子(ドラゴミラ公爵が轟公爵)、レイチェル・ロバーツを青木さやか(ヒルデガルドが昼出川。青木さやかは好きな役者ではないのだが、英国映画のレイチェル・ロバーツの役を彼女に演じさせるという意地悪なキャスティングが絶妙だ。似ているんです)、医師を笹野高史、コリン・ブレイクリーを池松荘亮、イタリア人デニス・クイリーを藤本隆宏(なまりのある地方人という雰囲気が似ている)といった顔ぶれは微笑ましい。微妙なズレが笑えた。車掌の西田敏行はジャン・ピエール・カッセルとはどうあっても重ならないが。
 第二夜は犯人たちの色々な事情が描かれる。共犯者を集めていく手順は『七人の侍』を下敷きにしている。演出には工夫やケレンがなく、淡々としたもの。原作で推理の手がかりとなる証拠がいくつか提示されるが、それらは犯人の想定外のうっかりした落ち度によって残されることになったものという解釈が、第二夜になされる。
2015年1月8日



BSプレミアム
ツレがうつになりまして。



製作委員会
東映
2011年
121分
 パソコン・ソフト会社で苦情処理などを担当していた夫(堺雅人)が急にうつ病と診断される。マンガ家の妻ハル(宮崎あおい)は戸惑いながらも夫の病気を受け入れる。うつ病患者への対処を描いた細川 貂々原作(2009)の映画化。佐々部清監督。
 何事もきちんとしなくては気がすまないたちの夫が、うつ病になり、病気になったことを「申し訳ない」と謝罪してしまう展開は可笑しいのだが、ことがことだけに笑えない。『ペコロスの母に会いに行く』ヨコハマ映画祭表彰式で森崎さんは「病人が撮った病人の映画ですから」と謙遜していたが、うつ病の症状を笑って受け入れることができるほど、観客は成熟していないということだろう。
 宮崎あおいと堺雅人の演技には目を見張らせられる。描きたいものが身近にあったということに気づいて、マンガに自己実現を託すことの出来た主人公は幸運だが、一般の病人はなかなかそうもいかないだろうから、ラストの展開はおとぎ話である。
 北杜夫が躁うつ病を公言したお陰で、世間の偏見は薄らぎ理解も進んだそうだが(なだいなだの評価)、躁うつ病の症状までも笑いの境地に達するのはなかなか大変である。
 個人的な経験から言えることは、うつ病、あるいは神経症になりそうな事態に陥ったとき、それを回避することができたのは身近に相談できる人がいたことであり、原因を取り除くのに協力してくれる人がいたことであった。つまり自分ひとりで解決しようとすると、うまくいかないということである。他人の理解が不可欠なのだ。

【参考文献】細川 貂々『ツレがうつになりまして。』『その後のツレがうつになりまして。』『七年目のツレがうつになりまして。』(幻冬舎)
2015年1月3日



テレビ朝日
21:00~23:30
大使閣下の料理人




テレビ朝日
2015年
120分
 大量の材料を使ってたくさんの人に出す料理に疑問を持った大沢公(櫻井翔)は公邸料理人となる。公邸料理人とは大使館づきの料理人のことである。大沢はベトナムでの日本大使館で働くことになる。2013年にベトナムに行った当初、ベトナムのグエン大臣を招いた設宴では、包み料理(インド料理+和食+ベトナム料理)を中心に提供した。しかし、ベトナムは非常任理事国ではインドに投票。料理に隠された主張を見通した大臣は選択を変えたのかもしれない。料理助手はハーフのレィティ蘭(剛力彩芽)。
 大沢は、2015年にフランス料理のシェフ()とマレンゴで料理対決をすることになった。大臣は大使館に2年ぶりに来てくれることになった。なにか工夫をと悩む大沢にヒントをくれたのはベトナムの少女だった。試合当日ギリギリに買い出しから帰った大沢は大臣の故郷の塩を買ってきていた。
 フォアグラを使ったフランス料理に生クリームが添加されていた。本来のマレンゴ材料に一品追加というルールを破っている。しかし、怒る蘭に、大沢は抗議しなくてよいと言う。日本側の提供した料理は、鶏の塩の包み焼き。塩は大臣の出身県のヴィン産のものだった。大臣は母の涙の味だと感動する。料理対決には勝ったものの、ベトナム大使・倉木(西田敏行)は二日間の音信不通や遅刻を咎める。
 努力という言葉がないベトナム語の代わりに「もっと頑張れ」という言葉を使ってロック前首相宛の手紙を翻訳してしまった古田の失態で、日本の交渉は暗礁に乗りあげる。町で大沢は出会った少女やその友人の孤児たちを日本から送られた魚を中心にした料理パーティに招く。日本嫌いの祖父も招くと、その祖父はロック前首相だった。日本嫌いの前首相の誤解が解ける。
 首脳会談を画策している日本側に対し、マー書記長はODAを減額するなら会談はないと断る。デザートのパーキンの味に疑問を持った倉木は、ほんものの英国カールトン・ホテルのパーキンを自宅で出すと提案する。パーキンだけでなく料理に思惑を込めて、さて、いったいどんな料理を用意すべきだろうか。書記長が尊敬するホー・チミンの履歴から考える。
 佐藤祐市演出。
2014年12月30日




GYA
妖怪ウォッチ



TV東京
2014年
23分
 大人気のアニメ作品。ゲームとのコラボで展開。ガシャガシャの封印を解いて妖怪ウィスパーを助けた「普通の」小学生ケイタ君は、世間にいる妖怪を照射できる妖怪ウォッチをもらう。妖怪ウォッチに妖怪メダルをはめこむと友達になった妖怪を呼び出すことができる。周りに起こる困り事はなんらかの妖怪が原因で起こっている。それらの妖怪の正体を見極め、友達になっていくことで、妖怪たちは世間を明るくすることに役立っていく。
 自爆猫のジバニャン、秘密を暴露させてしまうバクロ婆、空腹感を引き起こすひも爺、若者を不良にするグレルリン、雰囲気を悪くするドンヨリーヌ、リストラされたサラリーマンのジンメン犬などなど、多彩なオリジナル妖怪がケイタ君の周囲で、ささいな、そして小学生にとっては生活上大事な事件を引き起こす。
 毎週、友達になった妖怪メダルがたまっていく展開から目が離せない。妖怪大事典にも追加されていく。エンドクレジットの妖怪体操は振り付けがラッキー池田。紅白歌合戦にも妖怪ウォッチのコーナーができるほどの大人気。確かに面白い。日常のまちなかに妖怪が潜んでいるという感覚も悪くない。妖怪は身の回りを豊かにしてくれる。
2014年12月29日



TUY
21:00~
このミステリーがすごい



TBS
2014年
各25分
 各25分の4話オムニバス。
 「ダイヤモンドダスト」成功していた店長・森脇(AKIRA)に比べてお人良しの明神(山本)は都心に大雪が降った夜、ある計画を練っていた。
 「残されたセンリツ」原作・中山七里=監督・金子修介。三年ぶりのコンサートの直後にコーヒーに仕込んだ青酸カリで殺害されたピアニスト・多岐川玲(とよた真帆)。加害者は誰か。マネージャーか、リサイクル会社の主催者か。ネグレクトされていたという娘(川口春奈)か。
 「カシオペアのエンドロール」原作・海堂尊=監督・大谷健太郎。特別列車のコンパートメントで殺害された映画監督。鍵を持っていた四人に容疑者は限定される。『貴婦人刑事』の主演女優(藤原紀香)、新人女優、プロデューサー、アシスタント・プロデューサーの四人である。
 「黒いパンテル」原作・乾緑郎=監督・星護。ヒーローものブラックパンテル最終回の収録中に爆発事故が起こった。ヒロインを救出したものの悪役ドラクルを救出できなかった役者(勝村政信)は後悔している。いまは現場監督だったが、小惑星接近の折、娘が何者かに拉致される。ヒーローのコスチュームを着て悪との対決に挑む。
2014年12月9日


BS
プレミアム

わが母の記




松竹
2009年
120分

 井上靖の原作を脚本・監督の原田眞人が映画化。撮影は芦澤明子。ロケ場面で伊豆や軽井沢の自然が美しく撮影されている。
 作家・伊上洪作(役所公司)は5歳のころ、湯ケ島の土蔵のおばあちゃんのところに預けられた。それから中学までの8年間、彼は祖父の妾だった女性ぬいと一緒に暮らした。洪作は母は自分を棄てて、他の妹たちを連れて台湾へ行ったと思っていた。父親が亡くなり、母・八重(樹木希林)もボケ始めた。母は長女・志賀子(キムラ緑子)夫妻が伊豆で面倒を見ていたが、ときどき東京の耕作のもとへ来る。洪作の娘たち(ミムラ、菊池亜希子、宮崎あおい)は八重がする同じ話を面倒がらずに聞いて相手をしてくれているのだった。八重の次女・桑子(南果歩)は独身の古物商。八重は夫の話はほとんどしなかった。アメリカへ渡った叔父や、雷に打たれて亡くなった親戚や、秀才だった親戚の話を繰り返す。香典帳にこだわったり、夜に徘徊したり、帰りたいと暴れたり、いろいろと面倒を起こすものの、家族はそれぞれに母の相手をしてなんとかやりすごしているのだった。洪作は妻から母は台湾に渡る船旅で事故にあったら家が途絶えることを心配して、いちばん耐えられろうな長男の自分を日本に残したことを聞く。息子のことも理解していない母だったが、洪作は母を理解できたように思えるのだった。
 井上靖の小説には家族や知人がモデルになっていて、たくさん登場するそうである。映画では役者によって演じわけられていて、わかりやすかった。演劇的でない、自然な会話のような演出である。
2014年11月21日



NHK
Family History
武田鉄矢



NHK
2014年
45分

 
 武田鉄矢の母イク(享年79歳)が遺していた講演テープから家族の歴史を掘り起こす。ディレクターは宗像竜大。
 鉄矢の曽祖父・武田喜十郎は大地主だったが、祖父の計早藏は放蕩三昧、金融恐慌で借金まみれになり、妻ヒロは離婚、 長女八歳のイクは博多の親戚へ里子に出された。長男は四歳で食中毒で死亡、次女アサ子の前で計早藏は菓子を渡し、昭和四年春に失踪した。
 イクは熊本一の宮の縫製店・池田屋支店へ奉公に出る。やがて、幼馴染の悪童・村上嘉元と結婚、鉄工所で働く夫を支えて内職を始めた。
 イクは五人の子供たちをどんなに貧乏しても勉強させてやろうと決意していた。自分を棄てて出ていったヒロが訪ねてきて 「貧乏しているのに長男を大学にやるなんて」と批判されたとき、怒ったのだ。福岡教育大学へ進学した鉄矢がフォークソングに夢中になり、上京して勝負したいと言ったとき、「一年間だけ」という条件で許した。海援隊は一年後「母に捧げるパラード」で大ヒット。しかし人気も長続きしなかった。尾羽うち枯らして博多へ帰ってきた鉄矢に、母は一杯のコップ酒を進めていう。「楽しそうに演じて貧乏神を追い払おう」と。その後、『幸福の黄色いハンカチ』『金八先生』で鉄矢は役者として認められていった。母はその日まで、いつでも戻れるように大学の学費を払い続けてくれていたという。
2014年10月5日



NHK総合
21:00
武器輸出


NHK
2014年
50分
 NHK特集ドキュメント「武器輸出 防衛装備移転の現場から」。日本は今年4月、「防衛装備移転三原則」により紛争当事国以外なら武器を輸出できることを閣議決定した。NSC(国家安全保障会議)が日本の平和貢献や防衛協力の強化に資する場合には輸出が許可される。防衛省装備政策課(堀地徹課長)の役割が大きくなった。
 パリの武器見本市で日本の三菱重工業とフランスの軍事企業が連携を図った。無人潜水艇やレーダーなど11項目に渡った。定期的に対話することになった。
 この三月まで武器輸出を禁止してきた。しかし、大気観測ロケットが軍事ミサイル(ユーゴスラビアなど)に転用されていた。開発者・秋葉領二郎氏は戦争の記憶が武器輸出三原則を成立させたと証言。イランがUSAから戦闘機部品を輸入できなくなったときは、日本から武器用電子部品の輸入要請があった(イラン大使電報)。政府は歯止めがなくなると懸念し、輸出を認めなかった。USAからも要請があったが、鈴木善幸(首相)は戦争を期待するような産業者を作りたくないと、認めなかった。
 新たな三原則でNSCが許可したのは、パトリオット・ミサイル(USA開発)の技術(シーカージャイロ)。USAでミサイルに装備され、第三国に輸出される可能性があるが、日本は転送の事前同意を求めていない。USAで組み込んだ段階で消費されたとみなしてその後は追跡しないことにしたというのが防衛省装備政策課の見解。部品を提供している下請け企業では戦争当事国で使われる恐れを抱いている。
 7月に経済界との意見会議では経済的な発展の期待とともに武器使用は懸念されている。例えばレンズ・メーカーは民生品として輸出しているが軍事目的(超望遠鏡、無人機に搭載)に使用されている。末端の使用までは把握できていない。
 防衛装備庁(1800人規模)が来年夏に発足する予定である。ディレクターは西脇順一郎・五十嵐哲郎。

[コメント]重大な事項が閣議決定で決められていく。国会審議もされずに。このような体質が安倍政権の民主主義軽視の特質だ。
2014年10月5日



DVD
赤毛のアン


日本アニメーション
フジテレビ
1979年
各25分

 演出・脚本は高畑勲、場面設定・画面構成は宮崎駿、作画監督・キャラクターデザインは近藤喜文、仕上検査は保田道世という黄金コンビが作った世界名作劇場アニメ版『赤毛のアン』抜粋(宝島社)。児童福祉文化賞受賞。全50話のうち4話。
 第1章「マシュー・カスバート驚く」(千葉茂樹・高畑脚本=高畑演出)。駅でマシューを待つアンは時間つぶしに線路を歩く、駅の脇の桜の樹の上で眠ることを想像する。馬車でグリーン・ゲイブルスへ向かう途中のりんご並木を「喜びの白い道」という名前に変える。
 第14章「教室騒動」(神山魁三=高畑)。ギルバートがアンの赤毛をにんじんと揶揄し、アンが怒るエピソード。
 第18章「アン、ミニー・メイを救う」(神山征二郎・高畑=高畑)。総理大臣来訪で大人が不在のとき、ダイアナの妹が喉頭炎にかかる。アンは子守の経験からメイを看病する。メイは危機を脱出し、ダイアナの母はアンの失敗を許す。許しを得たアンがダイイアナに会いに飛び出し駆ける場面が秀逸。
 第40章「ホテルのコンサート」(荒木芳久・高畑=高畑・横田和善)。慈善コンサートで朗読を依頼されるアン。朗読で有名なエヴァンス夫人の後に演じることになるアン。緊張で上がってしまう。マシューの想いを大切にやり遂げる。
 アンの前向きな性格が常に描かれている。
2014年9月14日



NHK総合TV

臨死体験
死ぬとき心はどうなるのか


2014年
NHK

 立花隆の思索ドキュメント。ディレクター岡田朋敏、制作統括右田年子。
 立花は2007年膀胱がんの宣告を受け,2014年3月再発の可能性があると診断された。「70歳を過ぎると死が現実のものとして意識される」と言う。1991年『臨死体験』を発表し、NHKでは番組も作った。近年も国際臨死体験学会に参加。臨死体験者は体外離脱・神秘体験が共通経験だった。脳科学者で魂があると主張するエベン・アレキサンダー博士は、細菌の炎症による脳停止状態で臨死体験をしたのだから,魂があると考えざるを得ないと主張している。児童(4歳のバワーズが生後1ケ月こん睡状態~4ケ月回復)の離脱体験(2歳になった頃話し始める)も興味深い。 
 脳科学によって、いったいどこまで臨死体験を説明できるのか。ジモ・ボルジギン准教授(ミシガン大学)はネズミの脳に電極を挿入,心停止後の脳の深部脳波を調査。微細な脳波が数十秒続くことを発見した。体外離脱現象を脳科学で説明する論文もあった。てんかん治療の際に角回を刺激すると離脱の感覚が生じた。ヘンリック・エーソン教授(カロリンスカ研究所)の実験によれば,人形の足に触れる幻像を自分の足のように見せると自分の足のように誤解してしまう。
 利根川進教授(マサチューセッツ工科大学)はネズミの記憶に,フォールス・メモリーを植え付けることが出来た。脳のある部分を刺激すると安全な部屋を思い出すように訓練したネズミを別の部屋に入れて、同時に電気刺激を与えると,安全な部屋に戻したときに恐怖を感じてしまう。ヒトでも小さい時の写真を気球体験に合成して偽の写真を作る。その体験について質問を繰り返すうちに,実際には経験していないフォールスメモリーをヒトは創ってしまう。イマジネーションが発達した人間だからこそ起こる体験である。臨死体験も同じメカニズムなのではないか。
 意識の研究(2014年 意識学会)は究極の謎であった。どの神経細胞がそれを産み出すか分からなかった。ジュリオ・トノーニ教授(ウィスコンシン大学)が提示した仮説、意識はクモの巣の形によく似ている (研究室にFrontinella pyramitella,Bowl and Doily Spiderの網)。睡眠の研究により神経細胞は起きている時だけ複雑なつながりをしていた(統合情報理論)。特定の細胞にあるのではなく膨大な情報のつながりに意識がある。意識の量は神経細胞の数とつながりの複雑さで表される。この理論によれば,脳が死ねば意識はなくなる。人間以外の脳でも意識はある。機械でも意識は持てることになる。
 ケビン・ネルソン教授(ケンタッキー大学)は神秘体験は辺縁系によるものだという。夢と神秘体験は似通った現象である。目覚めの刺激と睡眠の刺激を同時におこし白昼夢に近い状態になる。伝達物質が豊富に辺縁系から分泌され、幸福な感覚を起こす。辺縁系は人間の脳の古い領域である。人間は昔から臨死体験をする仕組みを備えていたのだ。
 ニューロサイエンスが進歩しても分からないことが残る。しかし、探索を続けて来て、立花隆は「死についての考察が魂の平安を乱すのではなく、幸福な気持ちで死を迎える準備ができるようになった」と証言する。
2014年8月5日(火)~8日(金)




0:10~0:35
目玉焼きの黄身 いつつぶす?




2014年
NHK
各25分

 月刊ビームコミックスに連載のおおひなたごう原作のコミックのアニメ化。4日(月)深夜から連続放送。各回2話ずつ。
 食べ方のささいな違いにこだわってしまう主人公(男性)が笑いを呼ぶ。食べ方に限らずトリヴィアな点へのこだわりがどれほど可笑しいかを気づかせてくれる、ある意味では教育的なアニメ。真夜中の放送が勿体ない。Eテレで放送したら?
 第1夜「目玉焼きの黄身 いつつぶす?」;主人公・田宮丸二郎(声:福原耕平)は恋人のみふゆ(声:白石涼子)と初めての朝を迎える。朝食の目玉焼きをみふゆは周囲の白身から食べて最後に黄身を食べるという。二郎は黄身におかずを付けて食べる習慣だったが・・・。「とんかつのキャベツ いつ食べる?」;とんかつ屋で向かいの席に座った女性がキャベツに手をつけないのを目撃。二郎は、お店を飛び出し、その女性を追いかけるが…。 二郎の仕事は着ぐるみのゆるキャラの毒フラワー。女性はゆるキャラ舞台監督の近藤(松原大典)の妻だった。
 第2夜「カレーのルー どうかける?」;半がけカレーか全がけカレーか。「ライス どうやって食べる?」ライスをフォークの背にのせて食べるよう母から教わった二郎だったが・・・。
 第3夜「みかんの皮 どうやって剥く?」;みかんの皮がきれいにむけない二郎は近藤に相談する。「納豆、ご飯にいつかける?」;海苔で納豆と御飯を包むという近藤流の斬新な食べ方を知った二郎は・・・。
 第4夜「ちらし寿司にワサビ醤油かける?」;ワサビを醤油に溶き直接、ちらし寿司にかけて食べていた二郎。しかし、自分以外の人がワサビをネタにのせて食べていることを知った…。「ショートケーキの苺いつ食べる?」;二郎とみふゆは苺を最後に食べる派だった。「苺」は原作の第2巻より、他は第1巻。
 脚本・アニメーション監督はラレコ、ディレクターは金井昭夫。アニメーション制作はファンワークス。
 各回の後半には実写コーナーがあり、第1夜と第4夜の案内人はケンドーコバヤシ、第2夜と第3夜は深夜放送だからだろう、檀蜜。いろいろな人々の食べ方を紹介する。
2014年11月9日







NHK
BSプレミアム
16:00~
“伝説”の映像作家
佐々木昭一郎
創る現場





2014年
NHK
88分
 佐々木さんの劇場映画初作品『ミンヨン 倍音の法則』が企画から完成するまでの4年間の軌跡。プロデューサーは、右田千代。映画『ミンヨン 倍音の法則』執念のメイキングである。ナレーターは、佐々木さんの初ラジオドラマ『都会の二つの顔』に主演した宮本信子。
 佐々木さんがソン・ミンヨンに出会ったのは2004年。早稲田大学で『夢の島少女』の上映会があったときだった。声と表情に佐々木さんの感性をとらえるものがあった。それにミンヨンは韓国ではキリスト教徒として、なんでも神様に聞いて生きてきたのだが、日本で暮らして自分で決めることになったと自分の言葉で話したという。
 久しぶりの作品は2010年8月、カメラマンに吉田秀夫さんを迎えて撮影が始まった。佐々木「予定調和的な演技では、それ以上のものは出ないと思う」。ナレーション「佐々木作品は歌や音楽での表現が大きい。『都会の二つの顔』では<錆びたナイフ>、都会の片隅で傷ついた少女と孤独な少年が出会う物語『夢の島少女』の<パッヘルベルのカノン>」。佐々木作品のもうひとつのテーマは<記憶>だ。『四季・ユートピアノ』では音と映像を通して戦争の記憶と家族の記憶が描かれる。
 映画のプロデューサー・原田武秀さんは「佐々木さんは私が最後に出会った芸術家。これ以上の人は出ない」と話す。
 佐々木さんはミンヨンの存在そのものを捉えようとする。ミンヨンはいまを生きる主人公だ。そしてミンヨンをとおして人間のわからないところを描きたいと言う。自分自身の心の奥底を探ってみると、一枚の写真の記憶に行き着く。戦争中に家族で撮影した写真だ。母親の壽榮子は洋装である。父親の修一郎は撮影の直後に急逝した。佐々木さんはミンヨンに母親を演じさせようというのである。「マザコンですね。そこからいつも発想する」。
 2010年10月。ミンヨンが就職するまでの三ケ月が撮影可能な日程だ。ミンヨンは妹のユンヨンと来日してきた。ところが思わぬ問題が持ち上がった。ミンヨンは髪を切ってしまったのである。母親を演じさせようという佐々木さんの思惑は崩れてしまう。佐々木「台本の書き換えは新しく書くよりもたいへん。かつらを付けたらニセモノになってしまう」。制作は中止か、スタッフに緊張が走る。展開に戸惑うミンヨン。自分を責めている。ボーイッシュなミンヨンや、かつらをつけたミンヨンをテストする。しかし、佐々木さんの承諾は出ない。いよいよ行き詰まる。
 悩んだ末の佐々木さんの結論「すごい人を見つけたゾという自分の思いがいちばん大事。髪なんか長かろうと短かかろうと、ありのままのミンヨンを撮影しようと決めた」。
 佐々木作品は実生活者、実人生を大切にしてきた。吉田秀夫「虚と実がないまぜになっている」、中尾幸世「生身の人間を映せる凄さ」。
 2010年10月31日撮影初日。ミンヨン渋谷の電話ボックスのシーン。少年(高原勇大)「英語しゃべってる!」。
 父親が桃をかじって亡くなる場面のリハーサル。父は佐々木少年の前で血を吐いて倒れた。亡くなった父のもとに母親が駆けつける(映画ではミンヨンが来る)。母は力強く立ち上がる。子供たちを育てるのにいつまでも泣いてはいられないのだ。
 2010年11月、渋谷で新聞に北朝鮮が韓国を砲撃のニュースが出た。新聞を読むミンヨン。佐々木さんは盛んに「ドラマのための演技はしないで」と注意する。
 神父のベトル・ホリーは十字架をかついで登場。祖父が長崎で被爆死したという設定だ。祖父が亡くなる直前の言葉「What a beautiful sky !」をミンヨンは佐々木さんとともに考えていく。セリフを考えながら作品をふくらませていくのだ。ニケ月間、撮影が終わるとシナリオを検討、佐々木さんからミンヨンへのメール、その応答。妹のユンヨンは姉が責任感から疲れていると感じていた。ある日、ミンヨンは「打ち合わせはなしにして欲しい」というメールが来る。ミンヨンとどう付き合えばいいのか、戸惑う佐々木さん。再び製作中止の危機。文化庁の補助金一千万円を当て込んでいた製作者・山上さんたちは困ってしまう。なんとか申請の3月までに完成させられないか。佐々木さんはそれは無理だと断る。製作日時あっての作品ではないはずだ。山上さんは「出演者の意識は佐々木さんの支配の領域を超えている。プロの俳優と違って、辞めると言われればどうしようもない」と嘆く。結局、文化庁の補助金申請はあきらめた。
 ミンヨンは韓国で就職して多忙になったという。原田さんは映画に時間が取れないという手紙の文章の裏には映画に関わる意志がないという意識があると読み解く。佐々木さんはソウルに飛んだ。しかし、多忙を理由にミンヨンとは会えない。
 原田「佐々木さんは強く攻撃してくる代りに優しい」と証言する。
 2011年3月4日は佐々木さんの母親の命日である。墓参りをしながら、佐々木さんはつぶやく。「人生、ろくなことはない。人生はそのほうが面白い」と。「母親は無償のひとだった。損得を考えないひとだった」。
 2011年3月11日、東日本大震災。映画は中断したままだった。
 2011年10月、福島県須賀川駅にいる佐々木さん。ここ須賀川は父親が亡くなった駅である。佐々木さんはホームのへりに花をたむけた。昔、前の駅で父は桃を2個買った。「その桃をかじると血を吐いて倒れ、僕の目の前で父は死んだ。父の死は怖かった。罪の意識があった。ずっと父の死は自分のすぐそばにあった。納得できないまま。父の死で記憶を意識するようになった。孤独が絶対の親友だ。ひとは記憶を忘れて生きてゆくものだが、だとすれば私は欠陥人間だ。忘れられない記憶からしか作品を作れない」。
 ソウルで一年ぶりにミンヨンに再会。佐々木「ディスコミが重なって成り立つ作品」。98%はできたが、あとの2%が何か、わからない。音響効果の岩崎進さんはその何かを音だと推測したようだ。2012年4月、千葉県船橋市の船橋市立高校吹奏楽部を撮影。前年、佐々木さんが演奏を聞いて惚れ込んだ音楽だ。指揮者の武藤英明さんも加わった。佐々木「自分の記憶から引き出した音楽しか使えない」。
 ミンヨンが来日した。ミンヨンに歌を歌わせることになる。ヴォイス・トレーナーが付いて、ミンヨンが佐々木さんの記憶から出てきたいろいろな歌を歌う。するといききいきとした「ミンヨンの人柄が現れて来た」(原田)。現代の不安をミンヨンが明るく包んでいく、そんな作品になっていった。ハーモニーも響いてきた。ミンヨンは三日三晩寝ていないという。責任感やきびしさから万感胸に迫るミンヨンの目には涙が溢れている。
 2014年春、編集の松本哲夫さんが加わって、音楽を撮り終えた佐々木さんは編集作業に入った。松本「昔と同じですね、佐々木少年、バンザイ!」と話す。
 佐々木さんはこの作品で父と向き合った。父の死を見て初めて心に刻んだ言葉は「忘れてたまるか!」だった。
 生きる、創る。佐々木「創りたい一心で創った作品。次? 次は『フィガロの結婚』」。
 
2014年8月1日




映画美学校
試写室
ミンヨン 倍音の法則



シグロ
SASAKI FILMS

2014年
140分
 佐々木昭一郎脚本・演出作品。20年ぶりの新作で、佐々木さんの劇場映画初作品。岩波ホールで10月公開ですが、岩波ホールの原田さんからマスコミ向けの試写会の案内をいただいて渋谷に見に行きました。試写の第一日目に行きました。池辺晋一郎さんをお見かけしました。
 エンド・クレジットに「TO MOTHER, TO ERIKO」と出ます。
 日本語・英語・韓国語を話すミンヨンは、『東京オン・ザ・シティー』(1986年)で日本語・英語・チェコ語を話すオルガ・ストルコヴァさんを連想させます。オルガさんが年下の友人エリ子に父親由来のチェロを譲ろうと、チェコから東京へやって来るように、音楽会での司会を担当していたミンヨンも、ソウルから祖母の親友だったという佐々木家の古い写真に導かれて東京へやって来ます。ミンヨンは指揮者の武藤英明氏に「ドのシャープの声」と評価される声で話し、歌います。倍音はひとつの音(基音)を鳴らしたときに同時に響く周波数が倍の音のこと。それらが響きあうと、和音を作ります。音楽だけに倍音があるのではありません。話し言葉の音にも倍音は含まれていますし、街中の音にも倍音はあります。ミンヨンが話す三カ国語にも倍音は響き合っているのです。

 ミンヨンも妹のユンヨンもモーツァルトが大好き。大学のゼミの発表でミンヨンはモーツァルトの音楽がプラハの聴衆に歓迎されたことを話します。プラハの人々が熱狂したのが歌劇『ドン・ジョヴァンニ』で、代表曲に選ばれたのがドン・ジョヴァンニがツェルリーナを誘惑する二重唱「あそこで手に手をとりあい La ci darem la mano」。佐々木さんの『パラダイス・オブ・パラダイス 母の声』(1993)では、佐々木さんを思わせる息子・俊郎に父親が戦中にこのような「ラブソングを大声で歌える時代が来る」ことを願っていた、その曲です。デンマークのカレン・ブリクセン(イサク・ディーネセン)原作、ガブリエル・アクセル脚本・監督作品『バベットの晩餐会』でもフランスの歌手が美人姉妹の妹に個人レッスンする歌でした。

 『パラダイス・オブ・パラダイス』『東京オン・ザ・シティー』『七色村』(1989年)には『ミンヨン 倍音の法則』と共通するものがたくさんありました。『パラダイス・オブ・パラダイス』には「音と絵が一緒になるような作品」を願う両親の言葉や、父親が戦争で「人類社会から音が消えた」ことを告発する記事を書いていたこと、山林王の使用人である弥助が俊郎に狼の赤ん坊の声がラの音だと説明し、山に向かって吠えてみせる場面があります。『東京オン・ザ・シティー』とは共通項が多く、東京でオルガの案内役を務める花屋で働く少年・草平(藤井草平)は『ミンヨン 倍音の法則』の少年ユー(高原勇大)の前身です。草平に父親が残した柱時計や風鈴を作るガラス工場は『ミンヨン 倍音の法則』にも出て来ました。チェロ奏者カザルスがよく演奏していた「鳥の歌」が演奏されたとき、オルガの父は「鳥はピース、ピースと歌っている」とよく話していたと語られます。東京は音の街であり、地球はこわれやすいガラス玉であるというのが『東京オン・ザ・シティー』の認識です。

 『七色村』は疎開した息子・一郎の物語ですが、敵機爆音機のレコードや小学校で兵隊への激励作文(チャーチル、ルーズベルト憎し)を書かせたこと、一郎が父親と一緒に「汽車に乗れてうれしい」と話したこと、桃を食べた父親が血を吐いて倒れたこと(『七色村』では父は結核で亡くなったと説明されますが、『ミンヨン 倍音の法則』では桃に仕込まれた毒による官憲の毒殺だったと描かれます)、一郎は戦争中でありながらも、母の友人マリエの絵や西洋かぶれの非国民と非難されながらも母が大切にした音楽など、美しいものをみようと努め、成長して指揮者になっています。『ミンヨン 倍音の法則』ではユンヨンの言葉を借りて、生きるのに大切な三つの言葉、「Responsibility 責任」「Arts 芸術」「Harmonics 倍音」が示されていました。ハーモニクスというのは、カート・ヴォネガットのSF小説『タイタンの妖女』に登場する、水星で生きる調和を重んずる平和的な生き物の名前でもあります。

 佐々木さんの作品は少年や少女の心の変化や成長が主題になっていることが共通項だと思いますが、ミンヨンはほぼ完成された人物に見えてしまうのが特徴だと思います。それが作品の力強さになっていますが、『夢の島少女』フリークとしてはやや物足らないところでもあります。

■試写会場でいただいた20ページのパンフレット(コピー製版)には、佐藤忠男「倍音の法則」、秦早穂子「20世紀の記憶は21世紀へ」、佐々木昭一郎「10秒の壁」、はらだたけひで「スタッフの一人として」とメッセージが寄せられています。 貴重な資料をPDFで紹介します。
 2014年10月11日の岩波ホールでの公開に合わせて、『創るということ』(青土社、2014年版)が刊行された。この本の追加された第V部が『ミンヨン 倍音の法則』の直接の手引きとなる。「創りたい!空白の20年」「私の音-『四季』の音が決まるまで」「音楽と映像」「我が作品の原点」「テレビと映画-『ミンヨン 倍音の法則』を撮り終えて」「我がスタッフ」である。

■2016年6月、TOブックスよりDVD発売。日本語字幕版と英語字幕版の2枚組。4800円。
2014年7月27日




NHK
21:00

調査報告
STAP細胞
不正の深層





NHK
2014年
49分

 NHKスペシャルの一篇。Natureに載ったSTAP細胞の論文は取り下げられた。しかし、一方で理研では検証実験を小保方参加により行うことにした。
 NHKではSTAP細胞の作成そのものに疑問があることを遺伝子の検証から解説した。ハーバード大学附属病院から理研に移った小保方は若山照彦氏と共同実験を行ったが、若山氏に渡した緑色に光る細胞からは一年間マウスの胎児にキメラマウスは出来なかった。一年後、胎児に緑色に光るものが出現した(2011年11月)。しかし、小保方の実験ノートにはキメラマウスの成功の記述もその元になった細胞作成の手順の記述も無かった。万能細胞の権威デイリー教授はバカンティ教授とも共同研究したが、STAP細胞の論文手順では追試に成功していない。若山氏は小保方から渡されたSTAP細胞の遺伝子を調べた。すると遺伝子は若山が提供したマウスとは異なるものだった。理研の遠藤高帆はSTAP細胞の遺伝子情報を解析、精子にあるアクロシンGFPという遺伝子が組み込まれたマウスの細胞だった。若山研ではES細胞として保管されていた細胞だった。NHKの取材では小保方研究室の冷凍庫からこのES細胞が保管されていた容器が見つかった。若山研が山梨大学に移ったとき、理研から持っていったはずの細胞だった。なぜ小保方研にあるのか管理していた研究者は不可解だと証言。小保方は疑問に答えていない。
 最初に投稿した論文はNatureに拒否されたが、2013年3月に投稿したときには評価が一変した。その背景には笹井芳樹の力があった。笹井のプレゼンテーション能力は一流だったのである。実験画像やデータは笹井に言われる通りに小保方は作成した。資料は40枚も増えた。NHKは分子生物学の専門家たちと協力、140余の七割以上の画像やグラフに疑義があると指摘。なかには初歩的な不自然なミスも見られた。理研は二つしか不正を指摘していないのだが。
 専門家たちは笹井はデータを信用していたと見ている。しかし、最初の細胞に見られたTCR再構成がキメラマウスに見られたという結果の記述がなかった。「調べた」という記述はあるのだが。記者会見上で笹井はTCR再構成を指紋に例えていたが、これではキメラマウスがSTAP細胞から作られたことが証明されていない。ここで笹井は立ち止まるべきだったと専門家は言う。なぜ笹井は結果を焦ったのだろうか。
 笹井がSTAP細胞論文に関わったのは出願されたSTAP細胞の特許が期限切れになる前だった。自己点検委員会は特許切れを防ぐためだったと指摘している。笹井は神戸アイランドの理研施設のプロジェクトの中心だった。

[コメント]小保方論文の嘘を指摘してきた難波耕二名誉教授はNHKスペシャルとしては予想外に出来が良い、91点と評価。番組の減点理由:(1)「緑色に光るマウス胎児」の作成成功日のことが、小保方実験ノートに記載されていない点の掘り下げが不十分、(2) 小保方研究室にES細胞株が冷凍保存されていた点は実態は「窃盗」で、掘り下げ不十分、(3)ES細胞株窃盗には中国人留学生がからんでいるが取材不十分で大幅減点、(4) 「TCR遺伝子再構成」の問題:笹井はできたキメラマウスにTCR遺伝子再構成がないことを知り、論文では「キメラマウスのTCR遺伝子再構成は調べた」とのみ書き、再構成があったともなかったとも書かなかった、その理由が明白なのに追及がいまひとつ。
 加点理由:理研に提出された笹井と小保方のメール交信記録:二人の間が単なる研究者以上のものだという噂が本当だったことを納得。
 難波氏曰く、“理研はこれ以上<もみ消し工作>は無理だろう。川井なんてCDB存続を謀る変な「学術担当理事」は即刻辞任、「再現実験」なる引き伸ばし策も即刻中止すべきだ。これで一般の人にもSTAP事件の本質がわかったと私は思うが、皆さんはいかがお考えでしょうか。後は第二の小保方、笹井の出現を阻止するために、やはりORIが必要だという議論になってほしい”。

■8月5日(火)、笹井氏がCDB施設内で自殺。真相をひとりで飲み込んで自殺してしまった。
2014年7月19日



日本テレビ
21:00
金田一少年の事件簿NEO
銀幕の殺人鬼



日本テレビ
2014年
2時間スペシャル

 金田一少年の事件簿NEO第1話「銀幕の事件簿」。木村ひさし演出。土曜日の新番組。
 不動高校の2年、七瀬美雪(川口春奈)が映画研究部・部長の蔵沢(神木隆之介)に新作映画のヒロインにスカウトされる。ヒロインに黒河(岡本あずさ)を当て込んでいた脚本の泉谷(岡山天音)は反対する。昨年、準グランプリを取った映画『殺人鬼スコーピオン』の秘密を警察に暴くぞと蔵沢に耳打ちした泉谷は、夜の校舎に何者かに呼び出され、撲殺される。
 ミステリー研究会の三人、はじめ・真壁(浅利洋介)・佐木(有岡大貴)は、映研の撮影を手伝いながら事件に関わっていく。次に『殺人鬼スコーピオン』の主演・真田(中川大志)が秘密を暴こうとして殺されたが、撮影を続けようとする蔵沢。映画のなかの利き足の違いから『殺人鬼スコーピオン』の撮影に五人目のスタントマン・本多(中島広稀)がいたことを突きとめる金田一はじめ(山田涼介)。
 映画の再開を期して映研部室に集められた映研部員たち、1年の雑用係の遊佐(上白石萌歌)、辻(萩原利久)、星野(小島あやめ)。それに警察の剣持警部(山口智充)と刑事の畠山(宮下純一)も来た。やがて全員が飲み物に仕込まれた睡眠薬で眠らされ、その間に映画の撮影担当だった門脇(大和田健介)が刺殺された。映写室で蔵沢がフィルムに遺書を遺して毒を飲んでいた。事件は撮影時にスタントマンを事故で死亡させたことを隠ぺいした蔵沢の犯行で決着するかと思われたが、仕組まれた自殺の痕跡から真犯人は別にいるとはじめは推理し始める。映研部室も密室、映写室も密室だった。二重密室はどのように作られたのか、はじめは些細な手がかりを総合して推理を組み立てる。真犯人はおのずから明らかになった。
 
2014年7月11日





NHK Eテレ
23:00~
日本人は何をめざしてきたのか 第2回 ひとびとの哲学を見つめて
鶴見俊輔と「思想の科学」



NHK Eテレ
2014年
90分
 シリーズ「日本人は何をめざしてきたのか」の第2回<ひとびとの哲学を見つめて>のテーマは<鶴見俊輔と「思想の科学」>である。「思想の科学」は昭和21年5月に創刊された。鶴見俊輔の姉・鶴見和子が戦争に反対の思いを持っていた知己を集めて作った。創刊に名を連ねた人々は武田清子、丸山真男、都留重人、武谷三男、渡辺慧だった。「敗戦の意味をよく考える」という姿勢を標榜した。鶴見俊輔は「言葉のお守り的使用法について」を寄稿している。戦争中に使われたお守り的言葉(=鬼畜米英、八紘一宇、国体)が国民にその本質を見失わせたと論じた。
 連載となった「ひとびとの哲学」に武田清子は「人間観の所在」を書き、口を閉ざして閉じこもる貝殻の人間性を指摘する。彼らは<知識人の「転向」>という課題に向き合って行った。共同研究「転向」では共産主義者だけにとどまらず、長谷川如是閑など知識人の転向も取り上げた。鶴見俊輔の動機には父・祐輔の転向の問題があっただろう。俊輔自身もアメリカに留学しプラグマティズムを勉強した後、インドネシアで軍属として働いていた。
 有馬頼寧の転向を研究した石井は昭和31年の聞き取りで「戦犯の容疑で逮捕された有馬自身がなぜ自分が戦犯となるのか理解できなかった」ことに驚いたという。彼の人生訓は「もろもろの心 柳に任すべし」。自分の転向をまったく自覚していなかったのだ。これら知識人の転向体験こそ生きた遺産であると鶴見は考えた。
 1950年代の思想の科学は新しい書き手を作ることを推進していった。例えば佐藤忠男(「任侠について」)である。佐藤は「投稿歓迎、枚数無制限」に惹かれたという。投稿したところ鶴見からぶ厚い手紙をもらって感激したという。
 生活綴方運動を取り上げたとき、日本中から寄せられたサークル誌は6千冊もあり、21年間の連載「日本の地下水」の礎石となったという。「北国」の野添憲治も鶴見の激励の手紙に励まされた一人である。「村の格言」を「これはいい」と手放しで褒める鶴見の方法は教えたり指導したりしないで書き手の意欲を引き出してくれる方法だったと振り返っている。
 昭和32年、岸内閣が発足、昭和35年新安保条約の強行採決が5月19日。5月28日に岸は記者会見で「声なき声は安保条約を支持している」と発言、これに刺激されて「声なき声の会」がいわば自然発生的に出来た。熊谷順子はその旗の下に目立つことが好きでない人々が参集していったと語った。
 6月15日に国会への突入、6月19日には33万人のデモ。自然承認後、6月23日に岸首相は退陣を表明した。
 「思想の科学」の転機は1962年「天皇制特集号」回収・廃棄処分で訪れた。当時、思想の科学は中央公論社から出版されていた。浅沼稲次郎暗殺事件、「風流夢譚」事件についで右翼を刺激することを恐れた中央公論社は内容も見ずに回収を決定した。鶴見はそれまで赤字出版を継続してきた嶋中朋二(鶴見の小学校以来の友人)と喧嘩せずに別れたいという意識があった。藤田省三「自由からの逃走」(日本読書新聞)などの対応への批判があった。1962年4月に新しくなった「思想の科学」は廃棄処分された「天皇制特集号」そのままの内容だった(違うのは表紙だけ。誤字まで同じ内容だった)。
 1965年4月に北爆開始。ふつうの市民がベトナム戦争に反対するベ平連が出来た。昭和42年(1967年)に鶴見はアメリカ軍に脱走を呼びかける声明を出した。これに呼応した四人のアメリカ兵が脱走した。鶴見は「脱走兵の肖像」を書き、「法律より優先するものがある」と主張。1975年にサイゴンが陥落、ベトナム戦争は終結した。その後、「思想の科学」が取り上げたテーマは、公害、差別、サブカルチャー、原発、女性の自立など。1996年に雑誌は休刊したが、研究会はまだ続いている。熊谷は冗談で言ったという「おもいおもいの重い思い」という言葉を振り返る。鶴見俊輔は「間違いの記憶を持つ。負けたことは忘れない。失敗したことは忘れない」ことの重要性を主張し続けている。
2014年7月9日



DVD
魚影の群れ


松竹
1983年
135分
 相米慎二監督『ションベン・ライダー』に続く第4作、田中陽造脚本、吉村昭原作、長沼六男撮影、横尾嘉良美術。
 本州の最北端・大間町の漁師はマグロの一本釣りに挑む。400kgもの巨大なマグロと戦う漁師はテグスに巻き込まれる危険と隣り合わせの生命賭けの仕事だ。コーヒー店の与田俊一(佐藤浩一)は、房次郎(緒形拳)の一人娘・トキ子(夏目雅子)と恋に落ち、「漁師になる」と宣言したものの、この町で漁師になることはそう簡単なことではなかった。なかなか船への乗船を許してもらえなかった俊一だったが、根負けした形で房次郎の第三登喜丸に乗って、マグロ釣りを体験する。数日して大きなマグロがかかった。テグスにからまった俊一は頭部に深い傷を負った。マグロを釣り上げてから重傷の俊一を救出した房次郎をトキ子は「ヒトの生命よりマグロが大事なのか」と非難する。
 1年後、トキ子たちは家を出て行って、房次郎は一人暮らしである。縄張り仇の北海道の伊布港へ入港した第三登喜丸は、別れた妻アヤ(十朱幸代)に再会する。二十年前に家を出たアヤは流れ流れて伊布で酒場のママをしていた。一晩よりを戻した二人だったが、ヒモがアヤの過去を暴露する。明日の晩までこの港にいると宣告した房次郎だったが、沖合でマグロにテグスを切られた彼は失意のため港へ戻っては来なかった。港には荷物をまとめてアヤが待っていたのだが。
 終わりの夏。トキ子と俊一は和歌山で結婚し、大間へ戻って来ていた。第一登喜丸と名付けた船を操って漁師になった俊一だったが、マグロを釣り上げないことには大間の漁師として認められていないという意識で悩んでいた。ある日、漁に出たまま俊一は帰って来なかった。心配するトキ子は房次郎に事情を打ち明け、探してくれと頼む。房次郎はマグロに引っ張られて漂流していると推測、沖で第一登喜丸を発見した。テグスで血だらけの俊一は大きなマグロと格闘していた。テグスを切って助けようとする房次郎。「切らんでくれ」と懇願する俊一。手伝って釣り上げたマグロを船で曳航する。俊一は「俺のマグロはいくらになりますか。百万円ですか。漁師は博打ですね。子供が生まれたら漁師にさせたい」と言って、こと切れる。無線で遺言を聞いたトキ子は海に向って「わかんねえじゃ」と叫ぶ。

 冒頭の俊一とトキ子の砂浜での逢引場面の長回しや、伊布町でのアヤと房次郎の再会の長回し等、驚異的なカットが続く。海上や船上での撮影、緒形拳のマグロ1本釣りなど、リアルな映像に驚かされる。夏目雅子や十朱幸代の女優陣も体当り演技が素晴らしい。
2014年5月18日



WOWOW
録画
真夏の方程式



東宝
フジテレビ
2013年
129分
 東野圭吾原作、物理学者・湯川学「ガリレオ」シリーズ長篇の映画化。湯川役は福山雅治で、テレビシリーズの観客を前提に作られている。したがって、湯川自身のキャラクターはもとより、警視庁の北村一輝や吉高由里子のキャラクターの説明は無い。
 冬の日、鉄道の高架線上の歩道橋で赤い傘の女(西田尚美)が何者かに刺殺される。線路上に落ちた傘、走り抜ける電車が傘を飛ばす。白い雪に赤い血がじんわり広がっている。風吹ジュンが「自分のせいだ。このことは秘密にしよう」と娘に話している。娘の姿がゆらめきぼやけて、海の中を泳ぐ女性・成実(杏)の姿になる。美しい玻璃ケ浦の海をレアアース採掘の開発から守ろうとしている娘だ。電車の中でクロスワードを解く湯川は後ろの席の子供の携帯電話に注意をそらされる。隣席の夫婦の夫のほうは携帯電話の電源を切れと子供に苦言、電源を切ると親にそのことが通知されて親を心配させると子供が答えたため、争いになる。 湯川は子供の食べていたおにぎりを包んでいたアルミホイルで携帯電話を包み、電源を切らずに着信しないことを教える。 子供・恭平(山﨑光)は湯川に関心を持つ。駅に降りると湯川は玻璃村地元民へのヒアリングの会場へ、子供は叔父の川畑夫婦(前田吟、風吹ジュン)とその娘(杏)が迎えに来ていた。
 ヒアリング会場へ遅れて到着した湯川は地元民に対する専門家の応答に「わからないことは分からないというべき」だと釘を指す。また、結局、知識を得た上で選択する者の責任だと話す。湯川が宿を取った緑岩旅館には元刑事の塚原(塩見三省)も泊まっていた。食事をする湯川と話す恭平は「海を見るといっても、船酔いするから船に乗れない。理科は役に立たないし、ちっとも面白くない」と言う。湯川は杏からペットボトルを譲り受けて、翌日、恭平と実験をしに出かける。岸壁から水ロケットを飛ばし、予定の200mまで届くまでの条件を明らかにする。リールが203mを示す条件になったとき、湯川は自分の携帯電話をセットして飛ばし、テレビ電話機能をオンにして、恭平自身の携帯電話に海中を映し出す。意気揚々と旅館に帰宅した二人は、警察官が旅館を囲んでいるのを目撃する。塚原が岸壁から転落し、死亡していたのだ。しかし、司法解剖の結果、塚原は転落前に一酸化炭素中毒で死亡していたことが判明する。
 十数年前の女性の刺殺事件と関係があるのだろうか。既に事件は仙波(白竜)の犯行で決着していた。岸谷刑事(吉高)の周辺捜査を手がかりに、湯川は真相に迫っていく。
 意外な真犯人と、犯人を取り巻く思惑が事件の背後にあった。『容疑者Xの献身』同様、加害者とその関係者の献身が描かれる。
2014年5月1日




NHK
ラストディズ
勝新太郎×オダギリジョー



NHK
2014年
48分
 勝新のプライベート・フィルムを公開。1978年に京都の茶屋で撮影された勝主催の宴会の様子で、突然、自ら三味線を弾きだしたり、次回作の映画の構想を語ったりする。勝のテレビ版『座頭市』(フジテレビ)の録音技師が、その音声テープをNHKに持ち寄ったことに始まる。当時、座頭市の制作スタッフたちは急きょ勝さんから呼び出され、ドラマそのままの機材で宴会を撮影するように言われたという。16ミリカメラ2台で撮影された映像は100分。参加者を笑わせるために日本酒にパセリを入れた「自作のパセリ酒」をあおる様子など、芸達者で豪快な勝の人柄を伝えている。
 俳優のオダギリジョーが勝新の足跡を訪ね歩く。三味線で身を立てようとしていた小学生時代の同級生は「目立たない子だった」と語る。テレビ版の『座頭市』の脚本をかなりの本数担当した中村努は「悲劇の人だった」と評価する。納得のいく演技を求めて自分を追い詰めていった、その妥協を許さない姿勢がいわば袋小路へ入ってしまったのだ。その極点で悩み苦しみ、<勝新>を演じることと戦う奥村利夫の最期の日々。
 近年、ようやく勝の演出作品が再評価されて来たことが何より嬉しい。
2014年4月19日(土)~5月17日(土)







NHK総合
ロング・グッドバイ


NHK総合
2014年
土曜ドラマ
58分×5回
 チャンドラー原作を翻案した作品だが、日本に移し替えたというよりも徹頭徹尾バタ臭くドラマ化した異色作。例えば探偵は路上の新聞売り子から新聞を買う。日本ではそんな風景は一般的でない。脚色は渡辺あや、演出は堀切園健太郎、音楽は大友良英。

 第1回「色男死す」。女優・原田志津香(太田莉奈)の夫、原田保(綾野剛)は土砂降りの雨のなか酔いつぶれて横たわっていた。妻は夫に手切れ金入りの財布を投げつけ去っていった。居合わせた探偵・増沢磐二(浅野忠信)は保を事務所で介抱する。なんの得も求めない磐二に捨て台詞を吐いて去っていった保だったが、その日をきっかけに事務所を訪ね、バー、ビクターでギムレットを飲む間柄になった。「あなたのような人間になりたい」と言う保だったが、勤めていた工場で喧嘩、そのうち志津香と再婚した。数か月後の夜、保が事務所を訪ねてくる。拳銃を持ち血まみれだった保は横浜港へ送って欲しいと依頼、磐二はその頼みを聞いた。保は台湾へ立った。保の妻は撲殺されていた。磐二は殺人犯の逃亡を幇助した容疑で拘留された。岸田刑事(遠藤征慈)は磐二を責めた。遠藤弁護士(吉田剛太郎)は銃で脅されたからだとの供述を薦めたが、磐二は保には残虐な殺人は出来ないと断る。やがて、保が台湾で自殺したという連絡が入って、磐二は釈放された。何か大きな力が働いている。権力者・原田平蔵(柄本明)の力なのか。磐二に雑誌記者・森田(滝藤賢一)が接近して来る。

 第2回「女が階段を上がる時」。釈放された磐二のもとに遠藤弁護士や裏社会の元締めマサトラ(やべきょうすけ)が事件にこれ以上首をつっこむなと忠告する。マサトラは保から戦争中に助けられたことがあるという。保の足が不自由なのはそのときの爆撃で受けた傷が原因だというのだ(しかし、調査してみると独立隊361の名簿に保の名もマサトラの名も無かった)。一方、漫画家・上井戸譲治(古田新太)の妻・亜以子(小雪)から夫を探して欲しいとの依頼を受ける。アル中の夫から暴力を受けているという人妻はたいそう危険な香りのする女性だった。金を無心する手紙に書かれた医師Zを探して闇医者(でんでん)から情報を聞き、磐二はZのつく医師に探りを入れる。閉院した財前医師(岩松了)の屋敷で拘束衣を着せられた上井戸が居た。譲治を救出して家に送り届けたものの、妻はなぜか財前医師を知らないと言い張るのだった。バーで磐二は高村世志乃(冨永愛)に会う。彼女は原田志津香の姉だった。

 第3回「妹の愛人」。世志乃は殺人者は保だという。しかし、磐二は自分の感性を信じた。磐二は上井戸の文学賞受賞パーティの日に上井戸本人から呼ばれた。依頼は三ケ月で私小説を書くので、その間自分の見張りをして欲しいというもの。その小説にある事件のことを書くという。宴席で亜以子の主治医・高村は上井戸と喧嘩。妻・世志乃との関係を疑ってのことだった。止めに入った磐二は世志乃から上井戸と関係があったのは志津香だと聞く。亜以子のことを譲治は「あの女は空っぽだよ」と言う。亜以子は過去に真の恋人がいたと言う。ランの花をすべて処分する亜以子。ある夕方、失踪した歌姫を探して欲しいという依頼の直後に、磐二に譲治から緊急の電話が入る。駆けつけた磐二が見たのは屋上で花や原稿を燃やす亜以子だった。階段口で後頭部を殴られた譲治が倒れていた。譲治を介抱すると、書き損じの原稿を妻に見せたくないから取って来てくれと言う。磐二が探すと原稿は一枚しか残っていなかった。譲治の部屋で銃声がした。夫妻が争っていた。譲治は妻が自分を殺そうとしたと言う。磐二は亜以子を書生に任せ、磐二に医者にかかれと話す。亜以子の部屋に入ると待ちかねたようん身を任せようとする亜以子がいた。磐二はその身体に溺れそうになるが書生の気配で立ち去る。それから上井戸邸には行っていない。世志乃から呼び出されてバーに行くと原田平蔵が会いたがっていると告げられる。平蔵邸では奥の部屋で平蔵が彼を待っていた。TVでは笠置シヅ子が「ジャングル・ブギ」を歌い踊っていた。

 第4回「墓穴にて」。平蔵は保が電話で殺人を告白してきたと告げ、そのことを疑ってはいなかった。そして「テレビで国民の頭を空っぽにするのが俺の使命だ」と言う。世志乃に割って入られて急場を救われた格好の磐二。森田記者が保の本名が松井誠一で、マサトラは木村丸男だったと調べ上げた。しかも松井は出征前に結婚していたようだ、と。磐二の事務所に花火の日に上井戸譲治から電話がある。真実を話すというのだ。磐二が駆けつけると譲治は酔いつぶれていて話どころではなかった。酒を亜以子に勧められたという。居間で譲治の醒めるのを待つ磐二。亜以子が鍵を忘れたと戻ってくる。亜以子を押し倒す磐二。しかし、これは亜以子の男に対する反応を試しただけだった。磐二は譲治が拳銃で自殺しているのを発見する。警察が来ると、亜以子は「あの男が殺した」と磐二を指すのだった。しかし、岸田警部補(遠藤憲一)は殺人犯がのうのうと残っているはずがない、と亜以子の言葉を取り合わない。その後、事務所を訪れた岸田は「あの女は虚言癖がある。しかもそのことを意識していない」と話す。磐二は亜以子の主治医・高村(堀部圭亮)の薬の過剰投与を責める。亜以子の代理人を務める出版社社長・羽丘(田口トモロヲ)に磐二は譲治を殺して自殺に偽装したのは亜以子だと推理する。志津香殺しも夫・譲治との関係を見た亜以子の犯行だ。なぜ保が亜以子の罪をかぶったのか。真相は次回に。

 第5回「早過ぎる」。磐二と羽丘は亜以子に会って磐二の推理を話す。3歳から台湾に住んでいたという亜以子は確かに松井と結婚し一ヶ月暮らした、兵役後は松井は行方不明、二年前に再会、真犯人は夫の譲治だったと告白、二人は「稀代の悪女だ」と感心する。数日後、書生が磐二に電話。亜以子が自殺したという連絡だった。「遺書」には真相が書いてあった。記者は真相を新聞で暴露。かくて原田保の無実は証明された。しかし、後日談があった。真相の裏に隠された事情は・・・。
2014年4月10日




DVD
日本のいちばん長い日



1967年
東宝
158分
 脚本・橋本忍、監督・岡本喜八、撮影・村井博、音楽・佐藤勝。ポツダム宣言受諾の経緯と玉音放送前日・当日を描いた大作。原作は大宅壮一(編)『日本のいちばん長い日』(文藝春秋、1965年8月)。戦争を続けることは日本民族の滅亡を招くと判断した天皇の決意は変わらないが、無条件降伏は国体の護持が明確でないとする阿南陸相(三船敏郎)と、本土決戦で勝負を決するべきだと主張する近衛兵青年将校たち(黒沢年男、中丸忠雄、中谷一郎ら)は皇居を占拠、民間の横浜工業学校生など軍民決起隊(天本英世ら)は首相邸などを襲撃、玉音放送を中止しようとした。玉音放送の録音盤を隠し、守った侍従長(小林桂樹)はNHK東京放送局に盤を届けたが、放送局も青年将校により占拠されていた。しかし、決起に応じない近衛師団長(島田正吾)を斬殺、師団命令を偽造した近衛兵たちの決起に東部軍は応えず、阿南陸相も自刃していた。8月14日にも特攻隊で出陣していった若者たちもたくさんいた。

 死して囚虜の辱めを受けずといった英霊を神聖化する教育が負けを潔しとしない精神をつくりあげていたことを、強く感じさせる作品だった。
 東宝・新東宝 戦争映画DVDコレクションの第4巻。
2014年3月24日



フジテレビ
(さくらんぼテレビ)
福家警部補の挨拶



2014年
フジテレビ
50分
 大倉崇裕原作の倒叙ミステリー『福家警部補の挨拶』をテレビドラマ化。佐藤祐市演出、麻倉脚本。
 犯人は後藤喜子(八千草薫)と夫(山本学)。爆破で銀行強盗を働く三人組の凶悪犯をカバンを取り換えて吹き飛ばした。犯人にあげたミカンが現場に残っていたことから、福家(檀れい)は車椅子で現場を目撃していた喜子に疑いを向ける。鑑識(柄本時生)は現場の爆弾が二種類あったことを告げる。犯人たちが作っていた爆弾とは別の爆弾が外部から持ち込まれたのだ。
 喜子の娘あかりは15年前、ストーカーによって殺害されていた。助けを求めた警察は何もしてはくれなかったという。あかりが好きだった機械いじりを真似て喜子は爆弾を作って、法が裁かない凶悪犯人たちを処理していたのだった。
 防犯カメラを分析していた福家は犯人たちが乗っていた車の後部座席に四人目がいることに気付く。喜子たちはこの男を狙うはずだと直感した福家は上司・石松(稲垣吾郎)とともにその男の身柄を確保に行く。はたして現場に喜子たちも潜んでいた。
 捜査途中の状況を容疑者に話してしまう捜査官というのはあり得ないし、喜子の心理的傷をむやみに裂き開くような質問や言葉を投げつける福家はかなり鈍感な女に見えてしまう。原作ではそういった様子は描かれていなかったので、ドラマ化に当ってキャラクター作りを押し出した結果だろう。第11話の最終回しか見ていないので他の回での様子は分からないが、冬服のジャンバーコートを着てマフラーをしている檀れいは強すぎるキャラクターである。多部未華子あたりが適役だったのではないだろうか。

【参考文献】『福家警部補の挨拶』『福家警部補の再訪』(創元推理文庫)
2014年2月2日





ヨコハマ映画祭
凶悪



製作委員会
2013年
 白石和彌監督・脚本の『凶悪』第35回ヨコハマ映画祭ベストテン第1位作品。
 高く評価された作品なので、かえって構えて見てしまった。原作や批評を既に読んでいて、かなり予備知識のある状態で見てしまったのだ。

 映画はフィクションとして作られていて、原作にはない要素が盛り込まれている。須藤死刑囚(ピエール瀧)が先生(リリー・フランキー)の悪事を告白する動機が、自分が信頼していた五十嵐が裏切って逃亡を謀っていたかのように騙したこと(その結果、須藤は五十嵐を射殺してしまう。原作では世話をみてくれる約束の若者を見棄てて死なせていたことに気づいたことになっている。映画版の事件だと、須藤が逮捕前の設定なので、これだと須藤自身の公判中になぜ須藤が先生を告発しなかったのかという疑問が出てしまう。原作では告発の動機に時期的な矛盾はない)、事件記者・藤井(山田孝之)の家庭事情(認知症の母親を妻・池脇千鶴が自宅で介護している。妻の神経はボロボロ。ラストで母親は施設に入居することになる)、須藤死刑囚がキリスト教に入信したこと(記者の「あんたに生きている資格はないんだ」という非難に対して、須藤は「神は生きて罪を償えと言われました」と答える。この場面が本作の最も重いシーンだった。事前に読んだ映画評ではこの点の改変に触れていないが、この変更はとても重要だと思う)。

 過去の犯罪の再現場面は序盤を過ぎてから突然始まる。犯行の残忍さや手口は須藤の告白に基づいたものであるが、そのことが明瞭に打ち出されていない点で、「突然」という印象なのだ。それ以前の展開は告白の内容よりも、裏を取る記者の捜査に描写が限定されているからだ。事件の全貌を物語る視点が、登場人物のひとり(須藤)の視点に急に変化し、その後は、それが続くわけではなく、ときどき第三者の視点に立ち返る。この視点の変化がスムーズでないため、つなぎにゴツゴツした感じが残ってしまう。故意にそのような不自然な作劇法を取ったのだろうか。

 原作を読んだときの私の驚きは、これほどの非道が露見せずに行われていたということであり、ジャーナリストが真相に迫れたのに警察が真相に迫れなかったことであった。犯人たちの凶悪さはいうまでもないが、これらを見過ごす警察の悪も私たちを慄然とさせる。その点の描写が映画には無かった。また、宇田川幸洋氏は、犯人たちは殺されていく老人たちの最終処分を引き受けただけで、老人たちを処分しているのは現代社会だという怖さが表現されていれば、と指摘していた。セリフとしては、共犯者に記者が証言を迫る場面で共犯者の語るセリフにその点につながる表現があることはあるのだが、十分ではない。

【参考文献】「新潮45」編集部『凶悪』(新潮文庫、2007年単行本、2009年文庫本)



シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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