想 い |
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空には白い月が昇っていた。 夕方にはまだ早く、だが昼というにはもう遅い、そんな日の光が変わってきた頃。皆は調練や演習を終え、曹操の元に報告に集まっていた。 一通りの報告を済ませると、皆は一様に寛ろいだ顔をして、下らない世間話に興じ始めた。 その中で、夏侯惇の顔色だけが、暗い。 「惇兄? 元気ねぇなぁ。どうした?」 「……そうか? 最近、あまり眠れなくてな」 「大丈夫かよ。体は休めなきゃダメだぜ。毎日忙しくしてんだからよ」 「あぁ」 夏侯淵が夏侯惇の額に手を当てて「熱はねぇなぁ」と呟いている。日常的な風景。夏侯惇の不調を除けば、いつも通りの光景だった。 その時、扉を叩く軽い音が響いた。曹操の部将は皆この場に揃っている。一体誰がと、皆の注目がその扉に集まった。 「失礼致します。関雲長、お召しにより参りました」 扉が開いて関羽が姿を現すと、曹操だけが相好を崩した。 「おぉ、来たか」 「まだお話しの最中では?」 「いや、もう終わった所だ」 関羽が部屋の中に足を踏み入れた瞬間。 「夏侯惇殿!」 張遼が弾かれたように動き、肩を抱きかかえるようにして夏侯惇を露台に連れ出した。 「惇兄? どうした、張遼殿?」 夏侯惇の隣に立っていた夏侯淵が、驚いたように声をかけるのには応えず、張遼は露台の隅に夏侯惇を屈めさせ、背中に手を当てた。 「吐き出してしまわれた方が良い、夏侯惇殿。大丈夫ですか?」 「ぐっ…うぁっ、…はっ、はぁ、……すまない、張りょ……」 夏侯惇が涙目で口元をぬぐうと、張遼は懐から小さな布を取りだし、そっと夏侯惇に差し出した。 「お気に召さるな。それよりも、少し休まれた方が良い。歩けますか?」 「……大丈夫だ」 「大丈夫という顔ではありませんぞ」 皆は一様に、何が起こったか分からずに呆気にとられてその様子を見ていた。それから慌てたように、口をすすぐ水を汲みに行く者、長椅子を窓辺に寄せる者と、銘々に介抱の手助けを始めた。 その中で、関羽だけが眉を寄せて、その様子をただ眺めていた。 「……どうした、関羽よ」 曹操が低い声で尋ねた。目が、からかうように笑っている。 「張遼が動かねば、そなたが抱え上げそうな勢いだったが……出遅れて悔しいか?」 「……何をおっしゃっているのか分かりませんな。拙者が入るなりのことでした故」 「何かあったか?」 「何がです?」 曹操の眼差しを無表情に流して、関羽は目の端で張遼に介抱される夏侯惇を見つめていた。 その場を仕切っているのは張遼だった。夏侯淵が手を出しあぐねているのを後目に、張遼は曹操を振り返った。 「殿、夏侯惇殿を送って参ります」 「うむ。皆ももう散会して良いぞ。御苦労だった。張遼、夏侯惇を頼んだぞ」 「は。さぁ、参りましょう」 「もう大丈夫だ、張遼」 自分の肩に添えられた腕を断りながら、夏侯惇は曹操を見た。その途端、曹操の脇に立つ関羽と視線がぶつかる。忌々しげに、夏侯惇は視線を足許に落とした。 「送ってもらえ、元譲。足許がまだふらついているぞ。それでは一人で馬にも乗れまい」 曹操が個人的な時にしか呼ばぬ字で呼びかけてきたせいか、夏侯惇は少しだけ視線を泳がせ、観念したように目を閉じた。 「分かった。では張遼、面倒をかける」 「具合の悪い時はお互い様ですぞ。では殿、失礼致します」 「うむ、頼んだぞ」 二人の姿が見えなくなるまで、関羽はじっとその後ろ姿を見送っていた。微動だにせぬ横顔を盗み見て、曹操は小さく溜息をついた。 夏侯惇を自分の馬の背に乗せると、張遼は馬の轡を取って歩き出した。夏侯惇の馬は、後で誰かに取りに行かせれば良い。馬に乗る頃には、夏侯惇の足取りはもうしっかりしたものになっていたが、それでも顔色はまだ白いままだった。 「眠れないとおっしゃっていた故、その為でしょう。ゆっくり眠ればすぐ良くなりましょう」 「こんな事をさせてすまないな、張遼」 「ははは、夏侯将軍の轡が取れるとは、光栄の極みですな」 「天下無双の将軍にそのように言われるとは、畏れ多いことだ」 二人は小さく笑うと、それから急に押し黙った。しばらくそうして歩いていると、その沈黙に耐えかねたように、張遼が重そうに口を開いた。 「……関羽殿と、何かありましたか?」 「……何故、関羽の奴と?」 「先日の宴の時から、将軍は様子が違っていました。何か言い争っておられたし……」 「それは、お前の気の回しすぎだ。俺があいつを嫌っているのは、今に始まったことではない」 「夏侯惇殿」 思ったよりきつい声が出た。責めるような、哀願するような、そんな目で張遼は馬上の夏侯惇を見上げた。 「私の目はごまかせぬ。私は……私は、いつもあなたを見ていたのだ」 一瞬、二人はお互いに自分が何を言い、何を言われたのか分からず、ぽかんとして見つめ合った。それから慌てたように、張遼は急に手のひらを夏侯惇の目の前に突き出した。 「や、ちが……違う! そういう意味ではない!! わ、私は何を…いや夏侯惇殿すまぬ! 今のはその……言葉の綾というものだ! わ……忘れてくれ!!」 あまり盛大に張遼が言いつくろうので、夏侯惇は怒ったものか笑ったものか分からなくなって、しょうがないので呆れた声を出してみた。 「お前らしくもないことを……どうした、張遼?」 「いや! いや、も…申し訳ない。本当に忘れてくれ!」 顔が火照っている。何という醜態。赤くなってしまった張遼に、夏侯惇は小さく笑った。 「お前のそういう面を拝めるとは……。普段からそうしておればよいものを」 「私は道化をやるつもりはない。……夏侯惇殿にだから、見せているのだ」 今度は、その言葉の意味に気づいていた。だが、それでも敢えて張遼はそう言った。多分、夏侯惇も気づいただろう。一瞬息を飲むのが、ここからでもはっきりと聞こえた。 だが、夏侯惇は何も言わなかった。 何となく沈黙が続いたまま、馬は夏侯惇の屋敷の門をくぐった。 張遼がこの屋敷に来たのは初めてだった。贅を嫌う夏侯惇は滅多に私邸で宴など開かないし、二人はお互いの屋敷を行き来するような間柄でもない。張遼は夏侯惇を馬から降ろしながら、何と好ましい家かと小さく感嘆した。 造りは重厚であるのに、それを感じさせない。余分な飾りの何一つない、だが手入れの行き届いた屋敷は、そのまま夏侯惇の人柄を表しているようだった。 「どうした、張遼。上がって茶でも飲んでいってくれ」 「いや…私はこのまま帰ります。夏侯惇殿の馬も連れて来ねばならないし、殿にご報告も申し上げねば」 「馬は家人をやるから構わぬし、孟徳は今頃あの髭面と酒でも呑んでいるのだろう。今行っても不興を買うだけだぞ」 軒先で入れ入らぬと言い合っていると、主の帰宅を知って、奥から家宰と数人の家人が出てきた。張遼が慌てて夏侯惇の不調を伝えてそのまま帰ろうとすると、案の定家宰が引き留めにかかる。 「主が大変お世話になりました。ささ、何のおもてなしもできませぬが」 「いや、夏侯惇殿のお体に触るといけない。私はこれで……」 「それではわたくし共が主に叱られます。さ、こちらへ」 「……いや……そ、それでは……お言葉に甘えて……」 結局、張遼はそのまま邸内に上がることとなった。 客間に通されると、やはりそこには必要な物しか置いていなかった。すっきりとしている、とも言えるが、殺風景と言うのが本当か。張遼が辺りを物珍しげに見ていると、夏侯惇が小さく苦笑した。 「何もない家で驚いたろう。俺があまり人を呼べぬ訳が分かったか」「いや…そうではなくて……」 よく見れば、数少ない調度品は、どれも高価な物のようだった。精巧な飾りがほどこされた卓。玉でできた盃。そういう物を、そこら辺にある何でもない物のように、夏侯惇は気軽に扱っていた。その姿には、まるで嫌味がない。ひょっとしたら夏侯惇自身、それらの物の価値を知らぬのではなかろうかと、張遼は少しだけ不安になった。 「夏侯惇殿は、殿に与えられた報償を、全て配下に分け与えていると聞いたことがあります。なかなかできることではないと、いつも感服しているのです」 「ははは、孟徳が必要のない物ばかり押しつけてくるのでな。張遼、悪いが部屋着に着替えてきても良いか?」 「あぁもちろん。私はすぐに失礼つかまつる故」 「そう急がなくても良いだろう。少し待っていてくれ」 夏侯惇が席を立つと、張遼は一人溜息をついた。 先程は、ついとんでもないことを口走ってしまった……。 だが口に出してみて、初めて張遼は自分の気持ちに気づいたのだ。そうだ。自分はいつも夏侯惇殿を見ていた。それは武人としての夏侯惇殿を尊敬しているからだと、ずっと思っていたのに……。 初めて夏侯惇と出会ったのは馬上で、しかも敵同士だった。反董卓連合の事実上の盟主である曹操の片腕と、呂布配下の自分と。戦場で見た夏侯惇の、荒々しいまでの武が張遼を惹きつけた。その武は呂布のように完成されたものではなかったが、守りたいものがあるのだと、大切なもののために闘っているのだと、剣筋を見てそう思った。 自分にはないもの。 だからこそ惹かれたのかもしれない。 魏に身を寄せてからも、張遼は気がつくと夏侯惇の姿を目で追っていた。何故こうも気になるのか、自分でもよく分からなかった。それでも気になって気になって、いつも気がつくと夏侯惇を見つめていたのだ。 だから、すぐに気がついた。あの宴の後…関羽と夏侯惇が小さな諍いを起こしたあの日から、二人の距離が変わっていったことに。 夏侯惇の翳りをおびた顔に、時折ぞくりと背筋が粟立った。それでも自分は、その気持ちがなんなのか分からなかった。 だが今日。 関羽を見る夏侯惇の目と、そして夏侯惇を捕らえた関羽の目を見た時、胸が掻きむしられたような気がしたのだ。 ほんの一瞬まなざしを交わしただけなのに、そのまなざしが全てを語っていた。そして、夏侯惇はみるみる顔色を失った。 哀しい程、その顔は綺麗だった。 その顔を見た途端、自分の体は無意識に動いていた。これ以上、二人を見ていたくなかったのかもしれない。いいや、夏侯惇殿の目を関羽殿だけが奪っているということに、耐えられなかったのだ。強引に二人の間に割って入って……それで何が変わる訳でもないのに……。 張遼は運ばれてきた酒に手を伸ばした。認めたくはないが、自分は夏侯惇殿に惚れているのか……。だが、男である夏侯惇殿に対してこんな気持ちになるというのはどういう了見だ。 もちろん、女の少ない戦場で、血に酔ったように体を繋ぐ者がいることを、知らない訳ではない。男同士の間に色恋など成立しないと、そんな野暮なことを言うつもりもない。 だが、自分はそういうものとは無縁だった筈だ。第一夏侯惇殿は尊敬すべき武人で、そんな対象になるような人物ではないではないか。そうだ。これは一時の気の迷いだ。まさか関羽殿が……そう思ったら頭に血が上って、自分までそんな気になってしまっただけだ。 盃に映った自分の顔を睨みつけるように考え込んでいたので、扉が開いたのに気がつかなかった。気がつくと肩を叩かれ、張遼は危うく盃を落としそうになった。 「待たせてすまなかったな、張遼。あぁ、もう始めていたのか」 「すみません、少し喉が渇いたのでいただいていました」 そう言って夏侯惇を見ると、張遼は頬が強ばるのを感じた。 夏侯惇は、単衣に袍だけを重ねた、寛ろいだ姿をしていた。それは初めて見る姿だった。今まで鎧を身につけた姿しか見たことがなかったのだ。 だから、釘付けになった。 「どうした、張遼?」 話すと、普段は立てた襟に隠れているのど仏が動いているのが見えた。首筋と、鎖骨のくぼみまで。懐からは素肌が覗き、おかしな奴だと手を挙げれば、袂からは白い肘が見えた。 その白さにかっと顔が熱くなり、張遼はいたまれなくなって席を立った。 「張遼?」 「う、馬を取りに行って参ります!」 「そんなの後から……」 「城門が閉まるといけませんので! か、夏侯惇殿はもう休んでいて下され!!」 夏侯惇が止めるのを振り切るように、張遼は駆けだしていた。 私は最低だ! 関羽殿を何故責められよう……! 私は、私も夏侯惇殿を……!! 鎧に隠された肘は、目に眩しい程白かった。それならば、同じように日に当たらない胸は、脚は、背は、同じように白いのだろうか。白く、そして柔らかなのだろうか。その肌を、関羽殿は貪っているのだ。あの首筋に歯を立て、懐に手をさしのべ、柔肌の白さを味わっているのだ。 気が狂いそうだ。 そうしたいのは、本当は自分だったのだ……! 息ができなかった。 苦しくて、足を止めることができなかった。 気がつくと、いつの間にか城内に戻ってきていたらしい。どこか遠い所でぼんやりと、馬を取りに行かねば、と、足が勝手に厩へ向かっていた。 夏侯惇の馬はすぐに分かった。厩の中には名馬といえそうな馬は数頭いたが、夏侯惇の馬はその中でも際だっていた。その馬の鼻面を、張遼はぽんと叩いた。馬が不思議そうに自分を見下ろしている。張遼は馬の首に額をつけて、小さな溜息をついた。 「……何をやっているのだ、私は……」 「張遼?」 声に振り向くと、そこには曹操と関羽が立っていた。 今一番会いたくない人物に会ってしまい、張遼は内心で狼狽えた。 「どうした張遼、ひどい顔をしているぞ。夏侯惇はそんなにまずいのか?」 曹操が眉を寄せて近づいてきた。さすがに夏侯惇の様子が気になるのだろう。当たり前だ。殿にとって、夏侯惇殿はかけがえのない片腕なのだから。 「いえ…夏侯惇殿はもう大分落ち着かれたようですが、まだ顔色が優れませんでした。そう…、殿にご報告をと思っておりました」 「そうか。では誰か人をやって、明日は登城するにはおよばぬと伝えさせよう」 「それならば私が。夏侯惇殿の馬を届けると約束しておりますので」 「そうか? しかし張遼、そなたの馬は?」 曹操は厩の中を見回した。張遼の馬の姿は、当然ながらここにはない。 「え…、あ、いや、私はその……馬を取りに来たので、歩いて参りました……」 「ここまでか? そなたの身分ですることではないぞ」 「は……」 張遼は恥じ入ったようにうつむいた。まさか本当のことは言えまい。 関羽の目が、じっと自分に注がれているのを感じた。 ……見透かされていると、そう思った……。 「大体張遼、我が軍でも一番馬に馴れたそなたが、騎乗しながらもう一頭くらいの馬を連れて行かれぬということもあるまい」 「も、申し訳……」 「もう良いではござらぬか、曹操殿。張遼殿、拙者ももう帰るところだ。途中まで一緒に参りませぬか」 「お、おう」 結局張遼は、関羽に助けられる格好で城を後にした。小さく礼を言って門前で別れるつもりだったが、関羽はそのまま後ろをついてくる。 「…関羽殿? 屋敷はこちらではなかった筈では?」 「貴殿が拙者に話があるという顔をしておられる故」 「…話など……」 言いかけて、張遼は口をつぐんだ。 話なら、ある。 だが。 「どうやら、貴殿には気づかれているようだしな。話があるのなら聞くぞ」 張遼の口が開きやすくなるように、関羽が水を向けた。 気づいている……。自分が二人の関係に気づいているということを気づいているだけではない。多分、関羽殿は全て知っているのだ。何故、自分が気づいてしまったのかも……。 「ただし」 関羽は一段声を落とした。 「聞くのは話だけで、意見なら聞かぬ」 張遼はその言いぐさにかっと眉間が熱くなった。 いつもならば、その頑なさ、その太々しさこそ関羽殿よと好感を持っただろう。だが、今は違う。張遼は関羽に乗せられて平静を失っていく自分を感じたが、構うものかと関羽を睨みつけた。 「ならば訊くが、貴殿、どんな了見で夏侯惇殿を辱めたのだ!」 「どんな了見? 辱めるだと?」 「白々しくとぼけないでいただきたい! 弄んでおられるのなら、私は貴殿を許さぬ! 貴殿が殿の元から離れた瞬間、その首私が貰い受けるぞ!」 関羽から助けられた命だなどという考えは、夏侯惇のあの打ちひしがれた姿一つで吹き飛んだ。命の恩義よりも、夏侯惇の心の方が大切だった。 関羽は、しばらく何も応えなかった。 それから目線を張遼から外し、前を見ながら静かに口を開いた。 「拙者が初めて夏侯惇殿と出会ったのは、まだ拙者が兄者や張飛と三人きりで義勇軍として各地を放浪していた時の事だ」 「……何の話だ」 「聞かれよ。義勇軍とは名ばかりで、明日をも知らぬ根無し草のような物だった。そんな時だ。小さな賊を討伐した後、曹操殿に声をかけられてな。その後ろに控えていたのが夏侯惇殿だった」 関羽は少し言葉を切った。昔を思い出しているように、どこか遠い目をしていた。 「夏侯惇殿は決して曹操殿の邪魔にならぬように、ひっそりと後ろに控えておられた。漲る武を表さぬようにしてな。ただ、拙者を睨みつけた両の目には、隠し切れぬ武が猛っておった。拙者は、あの目に惹かれたのだ」 張遼は目を見開いた。関羽は目も口調も穏やかで、慈しむ目をしていた。 それならば、それならば関羽殿は夏侯惇殿を……。 「ならば何故…!」 「張遼殿。夏侯惇殿が左の目を失われたのは、下ヒの戦いであったな。貴殿、その時どこにおられた」 張遼はぐっと詰まった。 夏侯惇が目を失った時。 それは…… 「……呂布殿の、軍にいた……」 「では夏侯惇殿の目を射抜いた男を知っておられるか?」 関羽がこちらを振り返った。穏やかさを繕っているが、その顔は何かを押し殺しているようだった。 「……知っている。私の部下ではなかったが、呂布殿はその男に報償を与えておられた。その男は、あの戦で死んでいる」 絞り出すようにそう言うと、張遼は目を伏せた。 「……拙者がその時呂布殿の軍門におれば、その者の首、拙者が斬り捨ててくれたものを……!」 はっとして目を上げた。関羽の目。何という激しさか。 しばらくそうして、関羽は張遼を睨みつけていた。まるで張遼の後ろに、その男が立ってるとでも言うように。 そうしていきなり、関羽は馬首を廻らせると、馬の尻に思い切り鞭を入れた。捨て去るように去っていく後ろ姿を、張遼は追う事ができなかった。 どれだけそうしていただろう。張遼は、自らの体を叩きつけるように、馬の首筋に突っ伏した。 「……ならば何故! 何故貴殿は夏侯惇殿を苦しめるのだ……! そうまで思っていながら何故!!」 分かっている。関羽殿は、この国に留まるつもりがないのだ。夏侯惇殿は始めからそれを知っていた。 「だからといって……だからといって関羽殿! こんな事はあんまりだ……!!」 涙が溢れていた。堪えようと思っても、止めどもなく流れてくる。だがこの涙は、自分が流して良いものではないのだ。 「関羽殿……!!」 やり場のない絶叫は、ただ暗く染まった空に吸い込まれていった―――――。 すいません、言い訳を……。 関羽達が義勇軍してて曹操に最初に会った頃って、本当は夏侯惇って曹操のとこにまだ合流してない時期ですが、そこは無双ということで……。そんなだったら良いな〜とか勝手に萌えたもんですから……。
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