平成15年(2003)9月17日出発〜10月19日帰着 | |
☆何度かネパールに通っていると(「ネパール奮闘記」参照)、
ヒマラヤの向こう側が見たくなりますねえ。どんな所なんだろうかと・・・・。 ネパールやインドには多数のチベット難民が生活しています。 中国共産軍の侵略によってダライ・ラマはインドに亡命、チベット人87,000人が殺され、80,000人が難民 となって逃れたといわれています。 「いつの日かふるさとに帰りたい。」と語る彼らのふるさとを、一度は訪ねてみたいと思っていました。 | |
☆チベットの聖山カイラス(6,656m)・・・・これが今回私たちが目指す所です。 聖山ですから頂上には登れません。インドやチベットのヒンズー教徒や仏教徒はこの山 の周りを一回りします(コルラといいます)。 一周52キロを私たちは3日間で回りますが,彼らの中には1日で回ってしまう者もいるそうです。さらに熱心な信者は、五体投地(身体を地面に投げ出してお祈りする)で回ります。2〜3週間かかるそうです。 一周52キロの一番高い所は標高5,630mですから、けっこう大変な所です。 |
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☆’03年9月20日、私たち一行7名は期待と不安を胸に,ネパールの首都カトマンズからチベットの首都ラサに飛びました。 私たちが抱いていた一番の不安は”高山病”でした。何しろ飛行機を降りた所が既に3,600mを越えているのです。人によってはここで早くも頭痛と吐き気に襲われ,病院に直行することもあるとか…。 高山病対策のために富士山で合宿したり,低酸素室に通ったりした甲斐あってか、私たちは何とか第一関門を突破したようです。それでもカイラスまで、もうここより低い所はありません。 | |
☆ラサの街の中央に歴代ダライ・ラマの宮殿ポタラ宮が聳えています。 東西360m,南北300m、高さ115mの宮殿には圧倒的な迫力と神々しさを感じます。世界遺産にも登録されているそうです。 100年前にチベットに潜入した河口慧海が学んだというセラ寺やチベット仏教の総本山ジョカン寺などのお寺も見どころです。 右:威容を誇るポタラ宮 |
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☆ラサからカイラスまではランドクルーザーで7日かかります。 3日目からはキャンプです。テントや食糧を積んだトラックとコックが同行します。距離は1,200キロ,ちょうどヒマラヤ山脈に沿ってその北側を走ることになります。舗装なんてありません。乾ききったでこぼこ道のドライブです。初日にいきなり5,000mの峠を越えました。さすがに頭が重く調子はよくありません。高山病の不安が頭をよぎります。 |
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☆キャンプの初日は、調子の良くない私たちのためにコックはおかゆを作ってくれま
した。夜は冷えるので毎日寝袋の中に湯たんぽを入れてくれます。これで大分調子を
取り戻しました。ありがたいスタッフです。 右: 川のほとりでキャンプ |
☆でこぼこ道にほこりを蹴立ててのドライブ3日目。何気なく目をやった窓の外に、
何とツルがいるではありませんか。 ヒマラヤ越えで有名なアネハヅルかなと思いましたが、オグロヅルでした。このツルもヒマラヤを越えますが、インドではなくブータンの方に渡るようです。絶滅危惧種に挙げられています。 よく見るとこんな荒地にも生き物はいるもので、キャンプ地のすぐ横でナキウサギ のようなやつが穴から顔を出していたし、野生のロバ(チベットノロバ)やチベット ガゼルも見ました。 右:オグロヅル |
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☆ランドクルーザの車窓からチベットガゼルが見えました。牛の仲間ですがスマートな体で、走り出したら時速100キロを超えるとか… 毛は柔らかくて暖かく、最高級のショールができるということです。そのために現在 密猟が絶えません。 ひとつのショールを作るのに2〜3頭のガゼルが犠牲になるようです。 時速100キロの俊足も鉄砲には敵いません。 右:チベットガゼル |
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☆「キャンがいる!」とランクルの運転手が叫びました。地元ではチベットノロバ(野生のロバ)をこう呼びます。 ロバといってもさすがに野生で警戒心が強く、なかなか近づけません。遮るもののない大平原が彼らの生命を守ってきたのでしょうか… 右:チベットノロバ |
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中でも驚いたのは4,600mの湖に浮いていたカモメです。 オオズグロカモメの幼鳥のようです。 ここでカモメを見るとは思いませんでした。 右:オオズグロカモメ幼鳥? |
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☆ケツの痛さに耐えること7日、予定どおりカイラス巡礼の基地タルチェンに到着しました。 翌日からコルラの開始です。一日目はカイラスの北側に回りこんで,ディラプクという所で1泊。標高4,980m。 さすがに寒くて空気が薄い。カメラのシャッターを押すためにちょっと息を止めただけで、動悸と息切れがします。 何人かが頭痛を訴え、女性隊員の一人は翌日の峠越えをあきらめて戻ることになりました。 それに引き換え私は高度にもすっかり慣れ、絶好調。何か申し訳ない気もしないではありません。 右: 荷物はヤクが運びます |
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☆雨季明けの澄み切った空にワシが舞っています。 「高原の掃除屋」ヒゲワシです。 そういえば近くに鳥葬場がありましたっけ……。 鳥葬の主役はヒマラヤシロエリハゲワシだそうですが、ヒゲワシはこのハゲワシの残した骨などを頂戴し骨髄を貪るということです。 やはりハゲワシの仲間です。 右: ヒゲワシ |
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☆翌10月1日、早朝の気温−12℃、いよいよ最高地点ドルマ・ラ峠を目指します。 はあはあ、ふうふう、どっきんどっきんを繰り返しながら正午をまわった頃、やっとドルマ・ラ峠(5,630m)に到着しました。 右: 巡礼のチベット人 |
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巡礼者が供える五色の旗タルチョがはためいています。 うっすらと新雪が積もり、紺碧の空はどこまでも澄み渡っています。 とうとうこんな高い所まで来てしまいました。 右: タルチョはためくドルマ・ラ峠 |
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☆帰りには、ヨガの発祥の地といわれているティルタプリで温泉に入ったりしました
が、ランクルを飛ばしに飛ばして予定より2日も早くカトマンズに帰りました。 ここで特筆大書したいことは、カトマンズを出発してからチベットを離れる前日ま での15日間、この私がお酒を一滴も飲まなかったことです。 高山病にでもなって他のメンバーに迷惑をかけてはいけないと思ったことと、カイラス巡礼成功への決意を示したものです。 どうです、たいしたもんでしょう。ランクルを急がせたのは早くお酒が飲みたかったからでは決してありません。 右: ティルタプリの温泉 |
☆カトマンズには32年ぶりに感激の再会を果たした女性の友人がおり、昨年彼女の
「日本語能力検定試験」受験のため家庭教師を務めたことは前に書きました。(奮闘記・ネパール編) 残念ながら昨年は試験の3日前に高熱を発して倒れ、試験は失敗に終わりました。 今年も挑戦するという彼女を、激励のため訪問しました。約束どおり午後5時に伺 いましたがその直前、ご主人が激しい腹痛に見舞われ入院しなければならない騒ぎが あったそうです。 5時には私が来るというので、ご主人を病院に残してたった今帰ってきたそうです。 1時間や2時間は時間の内に入らないようなネパールにもこんな人がいたのです。 しばらくして病院のご主人から電話があり、「石川さんはロキシー(ネパールのお酒)が好きだから必ず飲んでもらうように」と言うのです。 後で分かったことですが、ご主人の病気は腸閉塞でした。点滴を打ちながらの電話だったようです。 日本人がとっくに忘れてしまった物を、ネパールで見つけたような気持ちでした。 |
チベットで見られるハクセキレイは、亜種ネパールハクセキレイ。 Motacilla alba alboides この写真は喉が白く、非繁殖羽。 10月3日朝、カイラス山の西ティルタプリ(標高約4000m)にて。 ハクセキレイの亜種について詳しくは 「メンガタハクセキレイ」の頁参照。 |