ゲームについて考えることは喜びである

連載『ザ・ゲームパワー』
第一章=社会の中のゲーム<第3回>


 私が初めて佐々木秋恵さんの歌声を聞いたのは、新宿駅西口の地下道。京
王線のりばの前あたりである。
 「ホームレスを相手に」(本人談)歌う女性がいた。
 その時点では、私はその女性が佐々木さんであることはわからなかった。
 ただ、その歌声が印象に残った。
 私は彼女の歌声を追いかけ始めた。高円寺のライブハウス。観客はわずか
9人だった。新宿のライブハウス。厚生年金会館の真向かいだった。
 一度聴くと、また聴きたくなる。もう一度聴くと、ますます聴きたくなる。
 彼女の声には声量がある。聞き手に歌詞がはっきり伝わる。だが彼女の魅
力はそれだけではない。
 見た目も力強いのだ。
 はっきりいって小柄な女性である。身長は150cmないかもしれない。でも
そんな彼女の全身から、ただならぬエネルギーが放出されている。
 また彼女は、歌っている間に、細かなしぐさや表情の変化を織りまぜる。
失恋の歌や片思いの歌では、まるで曲の中に“入って”しまったかのような
苦悩の表情をみせる。
 かと思えば突然客席に乱入。空いている椅子に座って、観客と目を合わせ、
語りかけるように歌う。大きな会場(武道館など)では、ステージの端から
端まで、絶え間なく活発に駆け回る。
 佐々木秋恵は、どこにいても観客を魅了する。

 人を魅了するというのは、たいへんなことなのである。
 多少たとえが強引かもしれないが、今、世の中に出回っているゲームソフ
トの中で、プレイヤーを魅了することのできるゲームが果たして何本あるか。
 佐々木さんのライブからは、「お客さんを盛り上げよう、楽しませよう」
という意欲がみえてくる。それにひきかえ、「プレイヤーを楽しませよう」
という意欲のまったくうかがえないゲームソフトがいかに多いことか。
 どんなエンターテインメントも、基本は「お客さんを楽しませる」ことで
ある。そうでないものはエンターテインメントとは呼べない。
 「消費者の好みを考えることこそが文化創造」とは、ターザン山本氏の言
葉だが(「プロレス式最強の経営」山本隆司著、日本経済新聞社)、私もま
さにその通りだと思う。
 消費者のことを考えずに、ただ惰性でゲームを作って惰性で売る。そんな
メーカーは早晩プレイヤーから見放される。そんなメーカーがゲーム界に居
座っているかぎりは、ゲームはいつまでたっても“文化”にはなり得ない。

 佐々木さんの魅力を感じていただくためには、ここで文章で説明するより
も、CDを聴いていただいたり、ビデオを見ていただくほうが手っ取り早い。
CDシングル
コットン100% (データム・ポリスター:DPDX-5003)
OPEN THE GATE (F2 Sound Unit) (ポリグラム:PODX-1002)
CDアルバム
Hi-TechNOlody (F2 Sound Unit) (ポリグラム:POCX-1003)
(6月にニューアルバムが発売される)
ビデオ
ゲームの殿堂'95 (F2 Sound Unit) (ユーメックス/東芝EMI:TYVY-5008)
 『コットン100%』だけはちょっと毛色が違うが、それ以外は佐々木さ
んの実力が十分感じられる。とくにビデオは、佐々木さんの豊かな表情と躍
動感ある動きを見ることができるので、おすすめである。
 どれも現在入手困難なのが残念だが。

 新宿駅西口地下道。高円寺の小さなライブハウス。新宿厚生年金会館の向
かいにあるライブハウス。原宿ルイード。そして日本武道館。
 佐々木秋恵は、どこにいても観客を魅了する。
 佐々木秋恵は、どこにいても佐々木秋恵である。(続く)


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