ゲームについて考えることは喜びである
連載『ザ・ゲームパワー』
第一章=社会の中のゲーム<第14回>
先月、精神科医・香山リカ先生の本が、相次いで2冊出版された。
『ゲーム気分で診てみれば』(アスペクト)
『テレビゲームと癒し』(岩波書店)
『ゲーム気分で診てみれば』のほうは、ファミ通に連載されていた「尻に
目薬目に座薬」をまとめたもの。99本のミニエッセーが、4章に分けて収め
られている。ファミ通への掲載順ではなく、内容別に4章に分かれているよ
うだ。
第1章「診察バトルで経験値をあげる」は、精神科医療とゲームの関連に
ついて。第2章「ゲーマーはソフトに踊る」は、ドラクエをはじめとする様
様なゲームと、それらに関連して起こった現象について。第3章「パスワー
ドは世界に通じる」は、海外でのゲームの評価と、ゲーム“文化”について。
第4章「ゲームは今夜もコンティニュー」は、その他ゲームに関する雑感。
各章ごとに、書き下ろしの“まとめ”がついている。
全体を通して、「ゲームを“悪”と決めつける風潮に対しての反論」が、
そこかしこに出てくる。どうやらこれがこの本の、隠れた主題になっている
ようだ。章と章の区切りには、「THE SOCIAL EVENTS & GAME DATA」と題し
て、83年から96年までに出されたソフト、ハードと、その年に起こったゲー
ム関係の事件、そしてそれに対するマスコミの報道ぶりが書かれている。
『テレビゲームと癒し』のほうでは、さらにその主題が前面に表れている。
これまで行われてきた「ゲーム批判」を「ゲーム批判の系譜」の章で取り上
げて、それらに対する反論を、香山先生自身の臨床体験を軸に述べている。
一般世間の、ゲーム、とくにテレビゲームに対する偏見は、未だ根強い。
だがゲーム界の内部にいると、それがあんまり見えてこない。
これは私の個人的主観だが、どうもゲームファンには、「ゲームが世間か
ら偏見を持たれている」という意識が、今一つ希薄なような気がする。ゲー
ムファンは、総じてファン同士のつながりが強い。他のゲームファンを何人
も知っているから、ゲームが市民権を得ているように感じるのかもしれない。
ゲーム業界内部の人間となると、さらにそういった意識が希薄になる。
香山先生は、ゲーム雑誌に連載を持っていたり、ゲームの制作に携わった
りしたこともあるが、基本的にはゲーム業界の外の人間である。ゲームファ
ンでない人々との接触が多いから、「ゲームへの偏見」に対する、危機意識
が強いのだろう。
ゲーム界の人で、「ゲームへの偏見」に対して、明確に反論した人は、そ
んなにいない。平林久和氏、渡辺浩弐氏、鈴木みそ氏、ローリング内沢氏、
MIDIはらふじ氏、・・・私の知るかぎりでは、こんなところである。
ゲームの作り手が偏見に対して意見を述べたという例は、ちょっと記憶に
ない(メディアに露出する機会があまりないからでもあるが)。こういう意
見を述べるのは、どうしてもゲーム誌関係の人ばかりになる。
だが、いかにゲーム誌関係の人でも、ゲーム誌でそうそう「意見」が述べ
られる機会があるわけではない。ファミ通、マイコンBASICマガジン、
電撃プレイステーション、Theプレイステーション、ゲーム批評。これら以
外の雑誌では、「意見」を述べるスペースなど、どんなに緊急事態であって
も、設けられることはないだろう。
それともう一つ。ゲーム界の人がゲーム界以外のマスコミにつながりを持
っているというケースは、めったにない。“イギリスの東スポ”こと『ザ・
サン』誌の記事が発端となって「てんかん騒動」が起こったときも、何人か
のゲーム関係者が反論したが、それらが発表された場が、すべてゲーム雑誌
の誌面上。つまりこうした意見が、ゲームファン以外の人に伝わっていない。
ゲーム界からの反論が、“コップの中の嵐”にとどまってしまっているので
ある。(続く)
『ゲーム気分で診てみれば』(アスペクト)
『テレビゲームと癒し』(岩波書店)
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