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8月


役に立つ、ということ

★46 『サイダーハウス・ルール』上・下 ジョン・アーヴィング 真野明裕・訳 (文集文庫) 1996

思ったよりものんびりできたので、持ってきたジョン・アーヴィングを読む。アーヴィングの魅力は、やはりこの細かいディテールだな、と思う。衝撃の『ホテル・ニューハンプシャー』(今のところわたしのアーヴィングのベストはこれ。)には負けるが、サイダーハウス・ルールもなかなか面白い。メロニィとローナの関係がちっと切ない。ふむ。

この小説では、「人の役に立つこと」ということが大事なモチーフになっている。アメリカでは、「役に立つ」ということが重要な意味をしめる・・・大学のプログラムもどうしたら学生の将来に、社会に役に立つか、という点から大部分組み立てられている。多かれ少なかれ、わたしは、そこにひかれて来たのだ、と思う。大学教育が大衆化してしまっている、と言う批判もあるのかもしれないけれど、わたしも大衆なんだもん。

ジョン・アーヴィングの作品の底に流れているのは、欠点だらけで、社会のモラルとかからどんなに外れている人も、かけがえがない存在で、哀しいまでに魅力的なのだ、ということだと思う(言葉にするとなんかうさんくさくなるけど)。そこがすき。


a wedding

ミネアポリスに着いて、初めての週末。

前回留学した時の大学の先生の一人には、大学院に出願する時にエッセイをチェックしてもらったり、色々お世話になっていて、来る前から連絡を取っていた。彼女がこの週末、友達の結婚式に出席するためにミネアポリスに来ることはメールで知らされていたので、電話してみる。紆余曲折の末(わたしが留守電に残した電話番号が聞き取れなかったそうで、「もう一回電話して」とメールが入った^^;)、連絡が取れて、なぜか結婚式に誘われる。カジュアルな結婚式だし、誰か連れてきてね、と言われてるから、と。いいのかな、と思ったけれど、面白そうだしお言葉に甘えることにする。

さて、何を着ていこうかな、と、まだスーツケースに入っている服を探る。カジュアルな服でいいよ、と言われたので、この水色のワンピースはちょっと華やか過ぎるか。これは3年前にアメリカに行く前にもらったもの。とてもきれいだけれど、まだ余り着る機会がない。2年前にアメリカから帰るときに大事な友達からもらった、中国のシルクのワンピース。濃い紫で麒麟の模様が入っている、ノースリーブで丈の短いワンピース。これにしよう。上に明るいパープルのAnn Taylorのシルクのシャツを羽織る。足元はインドネシアのバティックのサンダル。ちょっと色がはげてるけど、サンダルがいいでしょ。時間がたっぷりある時に、服を選んだりするのは楽しい。透明のペディキュアもぬる。ぺたぺた。

結婚式は本当にカジュアルだった。何しろ、新郎はアロハシャツを着ていた(^^;。60歳のカップルで、二人とも再婚。会場は新婦の職場である美術大学の小さな講堂。

とても心がこもった、あたたかい式だった。歌あり笑いあり涙あり。クェーカー教式のウェディングで、本来は結婚するカップルと参列者が輪になって座るそうだ。今回は講堂なので、ステージにカップルとその家族が座る。カップルは、神父や牧師なしで、自分たちの誓いの言葉を述べる。式の間に黙想の時間、というのがたくさん設けられていて、長い黙想の後に、参列者が自発的・散発的に立ち上がり、カップルへの想いを述べる。思い出を語ったり、祝福の言葉を述べたり。友人によるギター演奏と歌、参列者の合唱。

式の後は参列者が持ち寄った料理でパーティ。ユダヤの音楽、Krezmer に合わせてダンス。結婚式も、こんな風に暖かくて心のこもったものにできるのだな、とびっくりする。日本の結婚式のゴンドラとか上司のスピーチとかを考えるとねぇ・・・。

しかし、複雑なことに、一緒に行った、先生の友人の女性は本日の新郎の、前の妻、であった。「別れた後も二人はずっといい友達でね、でも今日は彼女にとって難しいと思うわ、よくがんばってる」とのこと。人生は複雑だ・・・。とても素敵なカップルで、幸せな結婚式なのだけれど、少しつらい思いをする人もいる。

新郎の3人のこども(もう成人している)は、みんな肌の色が違うので、きっとみんな養子だろう。アメリカは、日本とは比べようがないほど、養子が一般的だ。

結婚・離婚・再婚、こども。家族ってやっぱり複雑だなあ、とぼんやり考えていると、先生に「えーと、わたしの前のパートナーと彼の今の奥さんに紹介するわね」と言われる。はは(@@)。

やっぱり、社会と文化をアウトサイダーの目で見るのは、おもしろいな、と思う。ふむぅ。


学生証

学生証を作りに行く。ここの大学の学生証はやたらに多機能で、学生証兼、図書館利用カード兼、コピーと印刷のカード(両替機みたいなマシンにカードと現金を入れるとカードにお金を貯めておける)。希望すると提携銀行のキャッシュ・カードと提携電話会社の長距離電話カード機能も付けられる。カフェテリアでの食事用にお金を入れて、このカードで支払うことも出来る。やれやれ、なんだこの多機能さは。前回留学した大学の学生証は、学生証兼図書館カード兼カフェテリアのパスだけだった。日本の大学の学生証は図書館カードとの兼用のみ。4年目からプラスティックになったけど、入学した時は紙の学生証だった・・・。

便利だけど、やたら多機能なのも考え物ではあるなあ。落とさないようにしないと・・・。大学では学生番号が住基ネット番号に当たるとすると、日本の住基ネットで提案されてるカードもイメージ的にはこんなものか。ん〜、大学が学生の個人情報を把握して操作するのも可能だな。と、ぼんやり考えつつ、学生証オフィスで銀行の口座を開き、写真を撮ってもらう。その場ですぐに磁気テープつきの学生証が発行される。


No Turn On Red

1週目は手続きでキャンパスをうろうろする。緑が多くて気持ちがいい。リスがたくさんいて、もぐもぐと口を動かしている。リスも冬に備えて食べれるだけ食べてるんだな、と思うと、わたしも冬に備えて日光をできるだけ浴びて貯めておかなければ、と思う。日差しは思ったよりもきつくて暑い。

交差点に、時々、"No Turn On Red"(赤信号での右折禁止)という標識がある。アメリカは日本と違って、原則的に信号が赤でも、自動車が道なりに曲がる(車は右車線だから、右折ね)ことが許されている。で、だめな場合は標識があるわけだが、この標識を見るたびに、頭の中を"Turn, don't turn away (don't turn away)♪"と流れて、くるくると回りたくなるのはわたしだけか(←あたりまえだ)。

芝生や部屋のベッドで、ジョン・アーヴィングを読み続ける。おもしろい。


一日目

目覚めて一日目。まずは、International Students Services(留学生オフィス)で書類のチェック。パスポート、ビザ、I-94、I-20。"To do"リストを渡されて完了。やれやれ、やっぱり大きな大学だとこんなもんだよね。前の大学はこじんまりしたキャンパスだったので、留学生オフィスの人たちが、買い物に車で連れて行ってくれたり、キャンパスを案内してくれたのになぁ、と、思い出す。Health Servicesに電話して、ツベルクリン検査の予約を取る(検査を受けないと履修登録が出来ない)。やっぱり電話は苦手だ。ふぅ。

それから、Payroll Officeで、バイトの給料支払いの手続き。アパートの入居の確認、仮住まいの部屋の確保っと・・・。

広いキャンパスを地図片手に歩き、キャンパス循環無料バスに乗って、うろうろする。えーっと、降りる時のブザーは・・・そか、アメリカのバスは、物干しの紐みたいなのが窓際に張ってあって、それを引っ張るんだった。

歩き回って疲れてきたので、部屋に戻ってジョン・アーヴィングを読む。


到着

ミネアポリス着。午後6時半。家を出発してから一体何時間たったのかもよくわからないが、でもまだ同じ日の夕方だ。ふみ。

大学までは車で20分ほど。タクシーに乗り込み、行き先の建物の名前を言うと、ドライバーは何度か聞き返した後、「ああ、知ってる知ってる」と言って走り出す。でも、携帯電話で場所を聞いている。やれやれ、知ってないじゃん、ふぅ。

右車線を走る車。日本から来たのか、日本にはこんなハイウェイはないだろ?と聞かれる。日本からは何時間くらいかかったのかい?そうだね、ハイウェイはあるけれど道幅はもっと狭いね・・・飛行機に乗ってたのは15時間くらいかな、長い一日だよ・・・とぼそぼそ答えつつ、窓の外を眺める。降りる時には料金にチップを足して。またチップのある文化に、戻ってきたのだ。

仮住まいの寮に着く。部屋を割り当てられて、荷物を置いた後、食事が出来るかをフロント・デスクに聞いてみる。カフェテリアはもう閉まっちゃった、でもこの辺にいくつかお店があるよ、と地図を渡される。7時半は過ぎているのに、外はまだとても明るい。やたらに広いキャンパス。芝生に木。子ウサギもいる。キャンパスの側を少しうろうろした後、小さなgrocery storeを見つける。食料品と日用品を売っていて、deli(お惣菜)もある。サンドイッチと牛乳、果物を買う。看板にco-opと書いてあるので「コープ」らしい。「エコロジー洗剤」とか置いてあるし、窓にはピース・メッセージも書いてある。アメリカのスーパーとかgrocery storeで合成洗剤以外のものを見たことがなかったのでちょっとびっくり。野菜・果物が量り売りなのはこの国では普通だが、シリアルからシャンプーまで量り売りで売っている。アメリカらしくて、少しアメリカらしくない店。

9時くらいまで明るい太陽を眺め、同室の韓国人の女の子に挨拶して、水圧がきつめのシャワーを浴び、緑色の毛布にくるまって、長い一日が、終わる。


several time zones away

デンバー行きは空いていて、隣の2席は空いている。オレンジ・ジュースを飲み、スナックを食べながら、本を読む。

★46『スプートニクの恋人』 村上春樹 (講談社文庫) 2001

これは既読の本。前に読んだ時にあまりピンと来なかったのだけど、今なら分かるんじゃないかな、と読みたくなって。やっぱりもう少しピンと来なかったのだけれど、描写が切ないのだ。最初の1ページが好きだ。そして、前に読んだ時とは、色々わたしの状況が変わったな、と考える。初出は講談社、1999年。

読み終わった頃に、デンバーに着く。やたらにだだっ広い滑走路。デンバーは山岳部時間帯。太平洋時間帯のサンフランシスコより1時間進んでいる。広いコンコースを歩いてゲートを探し、ミネアポリス行きに乗り換える。ミネアポリスは中部時間帯。さらに1時間進む。

今度は手荷物のチェックもしなくてよいし、すこしは余裕を持って乗れた。今度は2時間弱のフライト、窓際の席だ。下の景色を眺めながら、うとうとする。


入国審査

サンフランシスコに到着。現地時間は朝の9時。ここで入国審査が行われる。すでに長い列が出来ている。3年前にテキサスのダラス/フォート・ワース空港で入国審査をした時は、並ぶこともなくすぐに審査が終わったのにな、と思い出す。次の乗換えまで2時間、間に合うよね。

30分以上待って、順番が来る。審査官は書類一式を眺めたあと何やらパタパタと端末に打ち込み、「今度は○○番のブースに行け」と言う。そこが学生ビザ専用のブースだから、と。そのブースの前にも長い列が出来ている・・・。

最初からこっちに並ばせてくれればいいのに、と思いつつ待っていると、係員の女性が「学生ビザ保持者は、あっちの列に並んでチェックを受けてからこっちに並んで!」と叫んでいる。「乗り換えに遅れそう」と苦情を言う人には「みんなそうなの!!」と言い返している。

やっと二段階の入国審査を終えると、すでに次の乗換えの搭乗が始まっている時間。小走りでスーツケースをピックアップしに行く。アメリカの国内線に乗り換えるので、もう一度チェック・インしなくてはならない。関空でスーツケースを預ける時に、カウンターの女性に「国内線で荷物をチェック・インする時に、鍵を開けておいてください。中身を調べられますので、鍵がかかっていると壊されます」と言われたので、やれやれ、と思いつつ鍵を開けておく。

次は手荷物の検査。ノート・パソコンはバックから出し、靴まで脱がなくてはならない。

やっとの思いで搭乗ゲートに付く。ぎりぎりだわ・・・。次はデンバーへ、2時間半のフライト。ふぅ。


機内

目が覚めてはもう一度眠ることを繰り返す。気が付いたら朝食が置いてあった。
アルミホイルに包んであるものは開けずに、パン、サラダ、果物と飲み物を口に入れる。

入国審査用の用紙が配られる。税関の申告。学生ビザ保持者の出入国記録カード、I-94。
右隣の席の日本人の女の子に、I-94の書き方を聞かれる。
えーと、I-94はね・・・あれ、よ、読めない・・・。

なぜか(おそらく)スペイン語で表記されているカードをもらってしまったようだ^^;。英語のに取り替えてもらう。

右隣の席の女の子は、日本の短大を卒業して、これからアメリカの四年制大学卒業を目指すそうだ。まずはサンフランシスコの近く、サクラメントのコミュニティ・カレッジに入ると言う。海外旅行も初めてだとか。最初は大変だけどね、と話しつつ、わたしは空気枕の空気の抜き方を教えてもらう(空気口をつまんだら空気が抜けるなんて知らなかった・・・)。交差する人生。

残りのフライトを、村上春樹を読みながら過ごす。直行便は高くて買えないのだけれど、わたしは乗換えがある方が、一つ一つのフライト時間が短くて好きだ。15時間も飛行機に乗っていると閉所恐怖症になりそう。


離陸

関空からサンフランシスコまでは・・・えーっと、10時間くらいか。

今回は、音楽を聴く気にあまりならないので、ジップロックに入れていた本を取り出す。

機内食を適当につつく。「ビーフ」はパサパサしているけれど、サラダとパンと温野菜は割と食べられる。機内食を無理して食べると飛行機酔いしそうになるので、食べたいだけ。

左隣の席は、若いお母さんと小さい姉弟。どうやら国際結婚の家族らしく、お母さんとこどもたちは日本語でしゃべるけれど、姉と弟は英語で会話している。こどもたちは英語の方が得意そうだ。機内食も「お子様ランチ」的なものがあるらしく、こどもたちは違うものを食べている。

★45『華胥の幽夢』 小野不由美 (講談社文庫) 2001

十二国記の短編集。さくさくと読める。「書簡」と「帰山」が好きだな。これで今まで出ているものは読了。今度日本に帰るまでに、続きが出ているといいな。

一冊読んだところで、空気枕をふくらませて、眠る。


パッキング

出発まで本当にばたばたした。

直前まで色々予定を入れていたのに加えて、ミクロ経済学の試験が手違いで送られてくるのが本当にぎりぎりになった。やれやれ、おかげさまで5回も深夜にカリフォルニアに電話したわ。アメリカの事務手続きは当てにならない、とは良く聞くけれど、実感したのは初めてだ。まあ、何とか間に合ったからよかったのだけれど。何につけ、自分で一つ一つ確認を取らなくてはいけないのだ、と苦い思いで再認識する。

パッキングも何とか終わらせる。
わたしは長時間のフライトが苦手なので(まあ、好きな人もそんなにはいないと思うけど)、機内持込の手荷物は念入りに準備。

まず、文庫本を何冊か。
わたしは面白い本を読んでいれば時間を忘れられるので。この際、英語圏の国に行くのだから慣らさなきゃ、などと思って英語の本なんて入れてはいけない。夢中で読める日本語の、好きな作家の未読本が○。機内の映画を見てもいいのだけれど、見たい映画がかかっているとは限らないし、映画より読書の方がわたしには楽なので。
前回の渡米時には、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』とスティーヴン・キングの『ペット・サマタリー』を入れた。今回入れたのは、小野不由美『華胥の幽夢』、村上春樹『スプートニクの恋人』、ジョン・アーヴィング『サイダーハウス・ルール』(上・下)の4冊。これだけあれば足りるでしょ。

次に上着。上空の外気温が低いからなのか、機内の空調はわたしには寒すぎる。茶色とエンジ色のジャージ生地のパーカーを入れる。これは今年の誕生日祝いにもらったもの。

それからペットボトルのお茶。乾燥するので、好きなときに飲めるように。それに、ペットボトルのお茶なんて、しばらく飲めないしね。これは空港で買う。

音楽。MDプレイヤーとヘッドフォンを入れる。好きな音楽を、好きなときに聞けるように。機内の音楽サービスはイアフォンが合わなかったりするので。MDはアート・ガーファンクル、『アリー・マクビール』のサントラ、頂き物のボサノバお手製コンピレーション、スティング&ポリスのベスト盤。

今回は、これに加えて空気枕とウェット・ティッシュ、ビタミンのサプリメントなど、いわゆるトラベル・グッズも細々と入れる。ちょっと贅沢(?)してみた。

2回目のアメリカ。1度目に行った時は、「行けば何かが変わるはず」という盲目的な期待があった。1年たって帰ってきた時、わたしは確かに変わっていた。でも、それは、行く前に期待していたような、軽やかな変化ではなく、色々悩んだり、考えたり、泣いた上での変化だった。今回は、前みたいな変な期待はなくて、少し肩の力が抜けている(のだといいのだけれど)。行ったら大変なことも、変化は楽じゃないこともわかっているし。

でも、苦しいことも多いけど、ひとつひとつ、片付けていければいいな、と思いながら、荷物を詰めた。


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