ステレオ月面写真
(→2001年の記録はこちら)
(→2002〜3年の記録はこちら)
(→2004年の記録はこちら)
ここで紹介する写真は,擬似的に視差を作った「擬似ステレオ写真」ではなく,本当に視差のある画像を取得し,ステレオ写真として構成しています。
撮影方法は難しくありません。1〜3時間程度の時間差をおいて月を撮影するだけです。そうすると,地球の自転により,観測者と月の位置関係が微妙に変化します。それを視差として利用したものです。
厳密に言えば,撮影間隔を空けると,月齢も進みますし,月も公転して動いていますから,それほど綿密に作られたものではありませんが,臨場感ある画像がお楽しみいただけると思います。
平行法……左画像を左眼で,右画像を右眼で見る……で,ごらんください。
左右の画像の間隔は,50〜55mmぐらいになるのが適正です。モニターで調整できない場合,フォトペーパーに適切なサイズでプリントしてくだされば,かなりリアルな立体像が楽しめます。
なお,このページの画像は,すべて正立像にしています。
また,目の健康のため,あまり長時間注視しないようにしてください。
「ステレオ月面写真」の作り方については,→こちらをご覧ください。
2005.07.23〜24
満月を過ぎた月。月の東側がちょっと欠けています。
ちょっと立体視が難しいですね。画質の調整を少し失敗しているみたいです。
全体図の撮影は,アイピースの周辺像まで使わなくてはいけないので,フラットなアイピースが要求されます。この画像の撮影に使ったアイピースはビクセンのLV15mm。平坦性が良く,比較的無難な像を提供してくれるアイピースなのですが,眼視で使うと,あと一歩,キリッと見えないなぁ,と思うことも。眼視用には平坦性よりも,中心像の鋭さとか,コントラストの良さとかが気になるので,シンプルな構成で,きちっと中心像が収束するような,個性の強いアイピースが好みだったりします。
では,次に,欠けぎわのクレーターを拡大撮影してゆきます。
下の画像は上の画像を縮小表示したものです。
上の画像が大きすぎて立体視が難しい場合は,下の画像で立体視を試みてください。
月面南東部のクレーター群です。一番大きいのがペタウィウスPetavius。直径177kmの,大きなクレーターで,双眼鏡でもその存在を確かめることが出来ます。
同じ画像を,地名入りで……
文字が少し手前に浮き出るようにしてあります。
良く見ると,左の画像のほうが,月齢が少し進んでいるのが分かります。左の画像では,ペタウィウスの中にある山の影が,外輪山にかかっていますね。
さらに南のほうを見てみましょう。
画面中央よりやや左にある,浅くて大きなクレーターがジャンセンJanssen。
右のほうの,浅い溝のような地形も,興味を引きます。
これにも地名を入れてみました。
さて,次は,東のほうを見てみます。
危難の海のあたり。大きな溶岩湖のような構造です。危難の海の中に見える,皺のような地形にも注目。
この場所は,月の東の端のほうなので,本来なら欠けぎわのほうが遠くに見えるべきなのですが,ステレオ写真の特性上,複雑な地形があると,そこが手前に浮き出て見えてしまうので,ちょっと妙な感じもします。
地名入りの画像も,お楽しみください。
2006.01.08
見どころいっぱい,月齢8.3の月。「上弦」の翌日です。
上の写真で立体視が難しい人は,下の縮小画像で試してみてください。
まずは,月面南部の,クレーター密集地帯へ。
クラウィウス Clavius,ティコ Tychoなどの有名なクレーターが,ちょうど夜明けを迎えたところです。クラウィウスは大きく深く,たくさんの小さなクレーターを従え,見ごたえがあります。ティコは満月前後にはとても目立つのに,欠けぎわに来ると,意外と目立ちません。
例によって,地名入りの画像も用意しました。地名が少し浮き上がって見えるようにしています。
上弦の翌日のハイライトのひとつは,これでしょう。
画面中央よりやや左下に見える,縦の筋。
これが直線壁。延長100kmを超える,断層のような地形です。立体視してみると,段差の様子が分かりやすくなります。
同じ画像を,地名入りで……。
では,欠けぎわを,さらに北のほうに進みます。
一番大きなクレーターはアルキメデス Archimedes。斜めに走る山脈はアペニン山脈。
「ステレオ月面写真」は,山脈のような,デコボコの地形を捕らえるのが得意です。クレーターは,通常の二次元の画像でも,その形から,どこが出っ張っていて,どこが凹んでいるのかを想像しやすいのですが,不整形にボコボコした地形は,立体視することで,格段に臨場感が向上します。
この写真の元画像で得られている視差から計算すると,おおよそ5〜6m離れたところから巨大な月のオブジェを眺めたように見えているはずです。
地名入り画像↓
文字を入れてjpgで保存すると,少し画質が落ちますが,御了承ください。
海の部分にも小さなクレーターがちらほら見えていますが,アルキメデスの直径が83km,アウトリュコス Autolycusの直径が39kmであることから推測して,直径数kmのクレーターまで認識できているようです。口径76mmの望遠鏡の分解能が1.5"ぐらい。これを月面上の距離に直すと,2.7kmぐらいですから,小さな望遠鏡でも,けっこう細かい地形が見えているのですね。
さらに北のほうに行きます。
一つ前の画像の,すぐ北側の部分。霧の浅瀬を含むエリアです。
欠けぎわで目立っているのがプラトン Plato,中央に見える引っかき傷のような地形はアルプス谷。
月の「北極」に近い場所なので,画面の上のほうほど遠くに見えるように,画像を調整しています。画像処理の段階で,欠けぎわの地形を強調しようとして画質をいじると,どうしても欠けぎわが飛び出したように見えてしまう傾向があります。遠くのほうが視差が小さく,近くのものほど視差が大きいと言う,単純な原理を利用し,左右の画像を,ほんの少しだけ,逆ハの字に配置すると,違和感が小さくなるようです。
文字を入れると,さらに遠近感がはっきりします。実は,画面上のほうの文字ほど,手前に飛び出すようにしています。相対的に,月面の,画面の上のほうが引っ込んで見えると言う錯覚を利用しています。
2006.01.10
……コペルニクスに吠える夜……
月齢10.4。南のほうのティコTychoから伸びる光条も,だんだん目立ってきました。
月面中央部よりやや左上,海の中にひときわ目立つクレーターがコペルニクスCopernicus。海の中の「独立峰」と言った趣で,魅力的な撮影対象です。
コペルニクスは,何度写しても,魅力的であり,難しくもあり……。
外輪山の複雑な地形や,クレーター内にあるいくつかの突起,光条のコントラスト,クレーター周囲の小さなドームの群れ,クレーターの北西に広がる低い山地など,細かいところを見ると,いろいろな要素が含まれている場所なのです。それを上手く写し取るのは,機材,撮影技術,気流の状況,月齢のめぐり合わせなど,さまざまな条件が揃わないと,なかなか上手く撮影できません。特にステレオ写真では,時間をずらして2枚撮影するので,2枚とも好条件で撮影できるチャンスは,なかなかありません。
周辺の地名も確認しましょう。
コペルニクスを,さらにもう少し拡大した画像で,立体視をどうぞ。
2006.03.08
月齢は2006.10.08とほぼ同じ。
しかし,同じように見えても,欠けぎわのクレーターの様子は,けっこう違っています。
拡大してみましょう。
上の2枚は同じ画像を,大きさを変えて表示しています。大きい画像での立体視が難しい場合は,小さいほうで立体視を試してみてください。
やや南の地域にある,クレーター密集地帯。1月8日撮影のクラウィウス Claviusよりも,もう少し北側のエリアです。
それほど目立って大きいクレーターは存在しませんが,直径100kmを超えるクラスのクレーターがたくさん見えています。
クレーターがたくさんあるので,地名を入れるのも大変……大き目のクレーター,目立つクレーターには,なるべく名前を入れてみました。
さらに北上します。
1月8日の画像で,直線壁が写っているエリアがありますが,そのすぐ北側です。プトレマイオスPtolemaeusへの光の当たり方を比べると,1月8日の月よりも,月齢が進んでいないことが分かります。実際,この日は直線壁にはほとんど光が当たっていなかったので,撮影できていません。
地名入りの画像で,クレーターの位置と名前を確認! 月面図と比べてみるのも,面白いですよ。