衛星AO-40 のドップラーシフト再考


● (No.239) 衛星AO-40 のドップラーシフト再考 (2000年11月30日)
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JE9PEL/1 Wakita wrote:

>本日(11/28)、衛星AO-40の LOS 直前のミドルビーコン周波数を1分ごとに観測
>しました。 LOS時刻は、軌道要素から計算されるのと同じく実際に17時42分JST
>でした。 観測は その12分前の 17時30分JST から行いました。下記の周波数は
>デモデュレーターがロックした時の受信周波数で、'MA'はその時の P3T の表示
>を記録しました。
>
>衛星までの距離(Range)を考えると、17時39分JST頃が近地点(Perigee)のようで
>すが、'MA'は 256(= 0) ではなく、250 という表示でした。 この時「衛星が近
>地点に近づく」=「ケプラー法則により衛星の軌道上の速度が上がる」=「相対
>速度は上がっていく」=「ドップラ偏移量は増える」ということだと思います。
>そして 17時39分ちょうどに、受信周波数は衛星の発信周波数の 145.898MHz と
>同じになっています。下記の実験結果と見比べていて 何だか頭の中が混乱して
>きました。 後でもう一度落ち着いて考えてみます。
>
>    JST    MA    Observed      Range
>   17:30   247   145.8995 MHz  6800 km
>   17:31   247   145.8993      6600
>   17:32   248   145.8992      6300
>   17:33   248   145.8990      6200
>   17:34   248   145.8989      6100
>   17:35   249   145.8987      5900
>   17:36   249   145.8986      5850
>   17:37   249   145.8983      5800
>   17:38   250   145.8981      5750
>   17:39   250   145.8980      5750
>   17:40   250   145.8977      5760
>   17:41   251   145.8976      5800
>   17:42   251     LOS


後で考えてみてわかりました。 近地点 'Perigee' とは衛星が地球に最も近づく
点で、この点は MA = 256(= 0) のことであって、上記の時刻17:39の時点では、
衛星が観測地点(QTH横浜) に最も近づいたのが MA = 250 の点であった、という
ことなのですね。

受信周波数を表す式は、より正確には【f = fo * c / (c - V * cosθ)】です。
θは観測者と衛星のベクトル(進行方向)とのなす角、速度 V は 遠ざかる方向を
+(プラス)、近づく方向を−(マイナス)として、遠地点では θ=180゜と仮定す
ると cos180゜=−1 となり、【f = fo * c / (c + V)】 となります。

近地点付近では、ケプラー法則から確かに衛星の速度は最大になりますが、上記
のデータのように観測点と近地点が近い時は θ=90゜と仮定して、cos90゜=0
となり、f = fo = 145.898 MHz となります。【f = fo * c / (c - V * cosθ)】
を式変形すると、 【V = c(f - fo) / f*cosθ】 が得られます。 実際にはこれ
に仰角が加わって、もっと複雑な式になると思います。


JF6BCC Imaishi wrote:

 遠地点でθ=180度とすることは、仮定として悪くないとは思いますが、地球の
半径は 6,000km 近くあり、遠地点 40,000km 程度の距離からでは 無視できない
ですよね。
  また、近地点でθ=90度 に仮定することは、観測者の位置が近地点直下の場合
のみですから、こちらは無理があると思います。混同と言うより、簡単な式で表
そうと苦労して…失敗しているのではないかと思います (^^;)。

  観測地点での周波数変化は、

 ・衛星と地球重心との位置関係
 ・地球上にある観測点と地球重心との位置関係

 の複合結果から導かれるものですから、衛星が地球を公転しつつ、しかも観測
点は地球の自転に伴い移動し、その運動は地球重心を通らない面上の円運動とな
る訳で…、かなり複雑な式にならざるを得ないと思います。その上で、観測点が
衛星の公転軌道上にない場合も考えなくてはなりません。

 で、実際の軌道計算ソフトでは、そういう面倒なことはせず、ある特定の時刻
に、座標系上に衛星と観測点の位置を求め、その相対距離を計算し、一定時間前
に計算した結果と比較して、その差から相対速度を計算して、標準周波数からの
シフト量を導き出しているのだと思います。これなら簡単ですし、とてもわかり
易いと思います。
  幸い、地球の大きさと大気層の厚さは、周期が数分、のような高速衛星の存在
を許しませんので、1秒間隔で計算すれば、充分に精度の高い相対速度を算出で
きますよね。


JE9PEL/1 Wakita wrote:

衛星AO-40 の近地点付近の飛行速度を、ケプラー方程式を用いてニュートン法に
よって詳細に求めることができましたので、ここに報告します。観測した MA を
もとに、方程式【t-e*sin(t)=MA】を逐次近似することによって、近地点付近で
は、確かに AO-40 の飛行速度が増加していることが確かめられました。 まず、
方程式を 次のように段階を踏んで近似していきます。 これらの式の持つ詳しい
意味については、次の URL の解説を参照して下さい。 数式に興味のない方は、
読み飛ばして下さい。


  http://www.asahi-net.or.jp/~EI7M-WKT/eisei21.htm
  http://www.asahi-net.or.jp/~EI7M-WKT/eisei22.htm
  http://www.asahi-net.or.jp/~EI7M-WKT/eisei23.htm
  http://www.asahi-net.or.jp/~EI7M-WKT/eisei24.htm


  M=MA*2*3.14/256                        ラジアンに変換
  to=M+e*sin(M)+0.5*e^2*sin(2M)        初期値
  Mo=to-e*sin(to)
  dto=(M-Mo)/(1-e*cos(to))
  t1=to+dto                              第一近似値
  m1=t1-e*sin(t1)
  dt1=(M-m1)/(1-e*cos(t1))
  t2=t1+dt1                              第二近似値
  m2=t2-e*sin(t2)
  dt2=(M-m2)/(1-e*cos(t2))
  t3=t2+dt2                              第三近似値
  tan(t3/2)
  u=root((1+e)/(1-e))*tan(t3/2)
  s=2*arctan(u)                          真近点離角
  p=24*3600/n                            周期
  4*3.14^2*(a^3/p^2)=G*Q                 万有引力の法則
  a=(((G*Q*p^2)/(4*3.14^2))^(1/3))*10^9  軌道長半径
  r=a(1-e^2)/(1+e*cos(s))                地球の中心と衛星との距離
  V^2=GQ(2/r-1/a)
  V=sqrt(V^2)                            衛星の飛行速度


上記の下から五行目の式は '万有引力の法則' で、 G は 定数 6.6732*10^(-8),
Q は地球の質量 5.9732*10^27 [g] としています。なお 計算途中で、離心率 e 
と平均運動(Mean Motion) の n を使用する部分がありますが、それは次の最新
軌道要素を使用しました。 (e=0.7351666, n=2.03021569 [rev/day]).  これは
かなり正確な軌道要素で、これを用いて計算した 本日(11/29)の衛星 AO-40 の 
AOS と LOS の時刻が、実際の観測とほぼ同時刻となりました。

AO-40
1 26609U 00072B   00328.20006944  .00000001  00000-0  12451-4 0    45
2 26609   6.4214 245.2971 7351666 180.5141 180.0042  2.03021569   166


これを用いて計算の最後に、周期 p = 24[h]/n = 11.8214[h] = 4.2557*10^4[s]
軌道長半径 a = 2.63453 * 10^9[cm] が得られます。有効数字は適宜考慮して、
その他の上記の計算の途中経過を抜粋すると、次のとおりとなりました。 MA は
昨日(11/28) 得られた観測データで、同値のところは比例配分しました。 V以外
の単位は cgs系です。 速度 V の値を見ると、衛星が近地点に近づくにつれて、
確かに除々に増加していることがわかります。


  MA       to       dt2       t3       s         r             V[km/s]
  247.3    5.795    -0.001    5.605    -1.470    1127255163    7.46
  247.7    5.817    -0.001    5.629    -1.430    1097427348    7.58
  248.0    5.833    -0.001    5.646    -1.403    1078257131    7.67
  248.3    5.849     0        5.664    -1.372    1057159247    7.76
  248.7    5.871     0        5.690    -1.329    1029431354    7.89
  249.3    5.904    -0.001    5.727    -1.261     988987604    8.09
  249.4    5.910     0        5.736    -1.247     981148771    8.13
  249.7    5.926    -0.002    5.754    -1.213     962768180    8.23
  250.0    5.943    -0.001    5.774    -1.175     943283110    8.33
  250.3    5.959     0        5.796    -1.134     923449348    8.44
  250.7    5.981    -0.003    5.823    -1.079     898669773    8.58
  251.0    5.998    -0.002    5.845    -1.038     881480297    8.68


最初に述べた 20段階の数式のアルゴリズムを 定式化(プログラミング)すること
により、衛星を観測することによって衛星の飛行速度を含む上記のような種々の
データを、簡単に求めることができます。


《補足》

 'WiSP3215 (GSC2.03)' の衛星AO-40の MA表示 が遅れているので、注意が
 必要です。 先日、amsat-bb でも話題になっていました。 別の軌道計算
 ソフトの 'WinTrak3.50' や 'P3T' などと比較すると、WiSP の方が MA値
 として、約 126 ほど遅れて表示されています。

    AO-40                     MA
            JST       WinTrak    WiSP
    19 Nov, 10:22      23        153     (153+126-256= 23)
    21 Nov, 11:30      63        193     (193+126-256= 63)
    28 Nov, 17:39     250        124     (124+126=250)
    02 Dec, 10:12     120        250     (250+126-256=120)


 本日(12/3)も、'WiSP3215 (GSC2.03)' の衛星AO-40の 'MA表示'の遅れに
 ついて、WinTrak(V3.50) の他に、今話題の Calsat32(V1.0.5) を用いて
 昨日(12/2)の LOS と、本日(12/3)の AOS について確認してみました。 
 やはり WiSP が、MA値として約 126 ほど遅れて表示されます。

    AO-40 MA
              JST      WinTrak   Calsat   WiSP
    02 Dec,   16:13    250       250      124    (124+126=250)
    03 Dec,   04:34      5         5      135    (135+126-256=5)


 なお使用した軌道要素は、現在ほぼ正確に AO-40 を追尾している #16 の
 ものです。 さらに他の衛星の MA を調べてみると、各衛星ごとに 同様に
 一定の誤差があることがわかりました。

 AO-40
 1 26609U 00072B   00328.20006944  .00000001  00000-0  12451-4 0    45
 2 26609   6.4214 245.2971 7351666 180.5141 180.0042  2.03021569   166


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