戦ってみよう

第二回「 T-シャツで戦う 」

第一段階


北多摩防衛軍では上半身に着衣することは極めて稀です。これは特にその必要がないからであって、規則により縛られたものではありません。ですから厳冬期や悪天候時、あるいは礼装としてT-シャツを着用することもあります。しかしながら、それはあくまでも特別な場合であり、したがって北多摩防衛軍には制服にあたるような「公式T-シャツ」というものは存在しません。とはいえ、悪い宇宙人と戦う時に「スナフキンT-シャツ」で出撃したり、合コンの席に「田中幸雄#6 T-シャツ」で臨んだりするのもいい大人のすることではないし、やはり事ある時には「北多摩防衛軍T-シャツ」を身に纒いたいと思うのが人として当然の心情でしょう。そこで、ないのなら作ってしまおうということになるわけです。

どういうものを作るかというのは個人の趣味やセンスや美意識の問題となりますが、とりあえずこの場では既製のT-シャツ、今回は白無地ということで話を進めますが、それにオリジナルの図柄を描くということをやってみたいと思います。やってみたくないですか? えー、そういう人は外へ出て、こないだ逃げ出した文鳥のピーちゃんの捜索でもしててください。ではいいですか、最初にするのはT-シャツに入れたいと思う図柄をデザインすることです。本当はT-シャツにプリントしたり、貼りつけたり、描き込んだり、それぞれの方式によってその図柄の大きさや色が限定されてしまうのですが、まずは自分が着たいと思う図柄を実際に紙に描いてみましょう。

図(A) たとえばこんなの

図a

第二段階


この(A)も、パソコンで作ったものならばすぐそのまま版下にすることができます。ちょっと前までパソコンでT-シャツにプリントできる用紙は熱転写式プリンタ用のものだけだったのですが、最近はインクジェット式プリンタ用のT-シャツ転写シートも簡単に入手できるようになりました。やり方は実に簡単、版下としてプリントアウトした用紙をT-シャツにのせてアイロンで転写するだけです。この方式ならば、図柄さえ決まっていればT-シャツにプリントし終わるまで20分もかかりません。ではその利点と欠点をあげてみましょう。

・パソコンのプリンタ用シートで転写すると
○ 作った図柄のイメージ通りにプリントできる。
○ 色数も細かい線もある程度自由に使える。
○ 作業時間が短い。
○ 作業に特殊技術を必要としない。
○ 同じ図柄のものを何枚も作れる。
× 用紙に印刷するときに図柄を左右反転させるのを忘れやすい。
× 白無地以外の色シャツ柄シャツだと下の色が透ける。
× 仕上がりが美しくない。
× プリント部分の着心地がよくない。
× きちんと圧着しておかないとぺろりとはがれる。
× きちんと圧着しておいてもうかつに洗うとボロボロにはがれる。
× 綿以外の素材に使えない。

この方式の最大の欠点は、でき上がりの安っぽさにあると言ってよいでしょう。デザインがよければそれなりに見られるのですが、冷静に眺めてみるとクリスマスイブにひとり寒い部屋でカップラーメンをすするような隠しきれない悲しさがあります。

どうせならやはり見ためのよい、仕上がりのきれいなものを作りたいというのならば、熱転写ラバーシートを使うとよいでしょう。転写シートを直接切りはがして、残った部分を圧着させる方式です。切り出す際の技術的な難易度は高いのですが、仕上がりは美しく、接着強度も十分です。ただしシートは単色ですし、複数のシートを使うには熟練が必要です。色バリエーションも基本的なものしかありません。

・熱転写式ラバー圧着シートを使うと
○ プリントする時の位置合わせが簡単。
○ 仕上がりがきれい。
○ 洗っても平気。色落ちもしない。
○ 伸縮性がある。
× 図柄を切り出すのが大変。
× 細かい線を使えない。(B)参照。
× 複数色を使うのが難しい。色を重ねるのは非常に難しい。
× ラバーに光沢があるので質感への好き嫌いがある。

難しい難しいと何度も脅かすようなことを言いましたが、それでもシートの切り出しさえできてしまえば、後は圧着させるだけです。参考までに(A)の図柄で作るとどうなるかを示しておきます。

図(B) こんなかんじ

図b

さて、これまで二種類の転写圧着方式をご説明しましたが他にも、縫い付ける、染め付ける、直接描き付ける等の方式があります。直接描くのは最も簡単ですが、布の上に絵や文字を描くのは思ったより難しく、どうしても自分以外の誰か、それもあまりセンスのない人物に落書きされたようにしか見えません。また、縫い付けるのは、特に刺繍等は仕上がりに関しては一番美しいかもしれませんが、やはりそれなりの技術がないとただの「つぎあて」になってしまいます。

では「染める」はどうでしょうか。これにももちろん技術が要求されるだけでなく、それなりの設備も必要になってきます。しかし、つい何年か前までは「手作りT-シャツ」に関してはこの方式のものしかありませんでした。それが現在でも市販されているシルクスクリーン・タイプのプリント用具です。T-シャツ用の大きなプリントゴッコだと考えてもらえばイメージしやすいでしょうか。

・シルクスクリーン方式で染め付けると
○ ある程度込み入った図柄でもある程度OK。
○ 仕上がりにプロっぽい味わいがあるとも言える。
○ 同じ図柄のものが理屈の上では何枚も作れる。
○ 複数色を使えないこともない。色乗せが可能ではある。
○ 着心地はそれなりに良好。
○ 洗ってもそんなには色落ちしない。
× 用具本体がけっこうかさばる。
× 製作するのにけっこう時間がかかる。
× プリントする時の位置合わせがけっこう難しい。
× 均等にインクをのせるのがけっこう難しい。
× しばしばインクがけっこうはみ出る。
× 用具の後始末がけっこう大変。

○も×も歯切れの悪い評価になってしまいました。このへんの曖昧さは毎年の年賀状をプリントゴッコで作っていた方には分かっていただけるのではないでしょうか。とにかくこのやり方だと、うまくいった時には本当に素晴しいでき映えなのですが、738回のうち512回ぐらいは見事に失敗します。予想もしない部分がインクで染まっていたり、あるべき線がぜんぜん出ていなかったり、図柄の位置があきらかにずれていたり、やっとできたと思ったら指についていたインクがシャツに付いてしまったり、今度こそ本当にできたと思ったら自分の着ていた服にインクが飛びはねていたり、そのへんのことは涙なしには語れないくらいです。

図(C) だいたいこんなふうになる。

t2c

ただしこれを失敗と見るか、それなりの成功と見るかは本人の気持ち次第であると言えましょう。それに、どんなやり方にも当てはまる最終的な解決策がない訳ではありません。それは「失敗した」「納得いかない」という部分を「切り抜いてしまう」というものです。かえって風通しがよくなって暑い時期にはちょうどいいかもしれません。

次の第三段階は「実際にやってみる」ですが、参考写真を多数提示してあるのでちょっと重いです。
それでもすすみますか?


先にすすんでみたい。
もうけっこう。
ふりだしにもどる。
はんそで王宮 / 偏食広場 / 横好総合運動場 / 吊革図書室 / ほねおり診療所 / 麦麦酒家 / たびのとびら