◆7月22日<夕>◆
『直美VS美鈴』
陽もだいぶん傾き、海水浴客も帰り支度を始めている。
結局、あれからずっと天乃白浜にいたので、けっこう真っ黒に日焼けしてしまった。肌が強い俺も、ここまで焼けるとさすがにヒリヒリするなぁ。
これ以上焼けないために明日からは日焼け止めを塗っておこう。
せっかくだから俺は直美さんのバイトが終わるのを待って一緒に帰ることにした。
「お待たせ! さあ帰りましょ」
「歩いて帰るんだろう? 近道しようぜ」
「え? 近道?」
「さっき、見つけたんだ。あの松林を突っ切ると裏道に出るからその道を通った方が近い」
「でも、松林の向こうは、別荘分譲地よ。私有地に足を踏み入れて見つかったら怒られるかもしれないわよ」
「大丈夫だって。人いなそうだし、通るだけなら文句は言われないだろう」
「そう?」
姉貴や直美さん達の住む家はここから国道を通って徒歩で20分位の所にある。
その国道へは天乃白浜海岸から、北へしばらく市道を歩かないと出られない。少し回り道になってしまうという事だ。俺が昨日見つけたルートでは北西方向へ向かう道でかなりショートカット出来る。
途中、松林の中を通るのだが、三本松町の別荘分譲地の別荘の庭を通り抜ける事になるが、どうせ別荘だ。人がいるとは限らないし、柵とかがある訳じゃないし、通るだけだから何も言われないだろう。
俺達はいろいろ話をしながら松林の獣道を歩いてゆく。
「ちょっと! あんたたち、なに勝手に入って来てるのよ!」
突然、聞き覚えのある声がした。
この声はもしかして…。
「げ、美鈴!」
直美さんが嫌そうに彼女の名前を呼ぶ。
「え…美鈴?」
なんでこんな所にこいつらが…。
数人の女性が俺達の行く手を塞いだ。
綾部美鈴と、取り巻きの女共だ。
「ああ! あんたはいじめっ子の飯野! それに、バカ宇佐美!! なんであんたがここにいるのよ!」
「まこと君、このわがまま女を知ってるの?」
美鈴の言うことは無視して直美さんが俺に聞いた。
「ああ。一応、学校のクラスメイト。小学校以来の腐れ縁。直美さんこそ、このひねくれ女の知り合い?」
「うん。子供の時から、夏休み頃になると、よくこの辺をうろついていたから、顔見知りになったの。最初は友達と一緒に遊んでやってたんだけど、わがままが過ぎるんでみんなにイジメられてたわ」
これは驚きだ。
美鈴と直美さんが知り合いとはね。
でも何処に行ってもやってる事は変わらないんだな、この爆裂お嬢様は。
「あんたが中心となってイジメてたんじゃない」
直美さんに食ってかかる美鈴。
「お金で友達を釣っておいて、女王様気取ってたの誰だっけ?そういうのって私は大嫌いなのよ」
「自分に力がないからってひがまないでよ」
「あのねぇ、あんたにはお金があったからみんなついていったの。私はそんなものなくたって友達はたくさんいたわ」
「う、うるさいわね貧乏人」
さすが直美さん。
美鈴を言いくるめてるぞ。
…そういえば美鈴、夏休みは別荘に行くって言ってたっけ。まさか三本松町だったとはなぁ。
ホント、コイツとはとことん、腐れ縁だぜ。
まぁ、とにかく…。
「美鈴、悪いけどここを通してもらうぜ」
「駄目よっ! ここはわたしの別荘の庭だから通してあげない。引き返しなさい」
俺を睨みながら言う美鈴。
あちゃ〜、また、よりによって美鈴の所の土地とは…。
「頼むよ。長いつき合いじゃないか。通るだけだって」
コイツの事だからすんなり通してはくれないだろうが、
俺はあえて頼み込む。一応、不法侵入してる身だからなぁ。
美鈴は腰に手をあてて俺を睨んだまま、しばらく考えている様子だった。
「はぁ。仕方ないわね。腐れ縁のよしみで通してあげるわよ」
おや、まぁ、意外。
しょうがないわねと言いたげな素振りで美鈴は許可を出す。
「悪いな美鈴」
俺達は美鈴をはじめとした取り巻き連中の間を抜けていこうとした。
「おっと、あんたは通っていいなんて言ってないわよ」
美鈴が足で俺の後からついてきていた直美さんの行く手を阻む。
「ちょっとその行儀の悪い足を除けてくれる?」
「戻りなさいよ。あんたは通さないわ」
なに子供みたいなことやってるんだか…。
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