「楽しんでる? まこと君」
「あれ、優紀さん」
優紀さん。今日は淡い赤のスーツを着ていて少し感じが違う。いつもより少し柔らかい雰囲気がするな。
「またお嬢様にいじめられてたでしょう」
「いじめられてたって…」
「冗談よ」
今日の優紀さんは何か変だ。
いつも美鈴の側で沈着冷静にしている彼女が少しくだけた感じになっている。
「まこと君。私の愚痴を聞いてくれる」
わぁ、そうやって耳元でささやかれたら俺…って、なんだ酒臭い?
「酔ってますね」
「ええ、酔ってるわよ。私にだって酔いたい気分の時だってあるわ」
「とにかく、ベランダで気分を落ち着かせて」
「あら、気が利くのね。じゃあ行きましょう」
俺は優紀さんに腕を組まれてベランダへ連れて行かれた。なんだか嬉しいやら困ったやら、複雑な気分になる。
「う〜ん、いい気分」
思い切り背伸びをして夜空を見上げる優紀さん。
「あのね、今日のパーティーに昔の彼氏が来ていたの」
「え?」
不意にそう言葉を切り出す優紀さんに少し戸惑ったものの、俺は彼女の話を聞くことにした。
「私その人の事、たまらなく好きで好きで、彼の為ならなんでもしてあげられると思ったほど」
「どうしてその人と別れたんですか?」
「友達にね…取られたの」
「あらら」
「もう忘れようと思っていたのに、今日見かけたら、また想いがこみあげて来ちゃって」
「でもまだ結婚していないのでしょう?なんとか奪い返すとか」
「いや、もう遅いわ。すでに結婚してしまったのよ」
をや? その彼ってもしかして…。
う〜ん、もし当たってたら怖いんで聞くのはやめておこう。
「あ、ごめんね。いきなりこんな話しして。なんかちょっとね、誰かに聞いてもらいたくって。言えば少しは気が晴れるかと思ったから」
「話しくらいならいくらでも聞きますよ。優紀さんがそれですっきりするんでしたら」
「優しいんだね、まこと君は。ところで前々から聞こうと思っていたんだけど、君はお嬢様の事、どう思ってるのかしら?もしかして…」
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