■美鈴編■
3日目【7月23日】


 
 
「実は俺、美鈴の事が放っておけないんです。あいつは確かにわがままで周りに迷惑ばかりかけているけど、それは一概にあいつの責任だけだとはいえないし、あいつはあいつなりに悩んで苦しんでいるのを少しは知っているから」
「まこと君はお嬢様の事、好きなの?」

 そう聞かれて少し驚く。
 俺は本当は美鈴の事が好きなのだろうか?

 お互い憎まれ口をたたきながらも、心の底ではそれが嫌ではない。
 特にこの海に来てからは、あいつの異性としての魅力を感じる機会が多かった。
 少なくとも美人ではあるし、あいつのわがままも、それはそれとしてあいつらしい魅力だと言え無くもない。
 それにそのわがままの根底にある美鈴の寂しさ。それを少しでも楽にしてあげたい。最近俺はそう思うようになった。

 多分、俺は美鈴の事、強く意識し始めているのだと思う。

「…どうかな? あまり意識したことないけど、もしかしたらそうかもしれません」

「ふ〜ん。やっぱりそうなんだ。でも、君も変わり者ね。あんな偏屈なガキが好きだなんて」
「え? …そんな事、優紀さんが言っていいんですか?」
「営利目的のために彼女の身の回りの世話をしてるけど、それは給料がいいからよ。私は生活のためならある程度割り切れる性格だけど、時々、我慢できない事だってあるの」

「でも、美鈴はきっと優紀さんを信頼して…」
「いいえ、私の努力に彼女が信頼で答えてくれてるんなら私もまだ充実感があるわよ。でもあの娘はフランスにいる祖母以外、誰も信用しないのよ」

 優紀さんは苛立たしげに手にしたグラスを飲み干した。

「まこと君、彼女はあなたにも心を開かない。そんな恋に縛られる前に新しい出会いを探しなさい。そうしないと今の私みたいになっちゃうわよ」

 自虐的に言う彼女。

「優紀さん…」

 優紀さんはそう言ったけど、俺は美鈴が心開かないなんて思いたくない。それでみんな彼女の事をあきらめたら、あまりに可哀想じゃないか。それに少しづつだが、手応えはあるんだ。