「おい、そこのおまえ、ここは私有地だぞ」
庭を通り抜けようとした俺は、不意に誰かに呼び止められた。
振り返ると長い茶髪の女がこちらを睨んでいる。
俺と同じ位の歳、派手で下手な化粧をしている。全体的に痩せぎみで、頬骨がけっこう目立つ。趣味も容姿も正直良いとは言い難い。
「ここから先は立入禁止だ。出ていきなっ!」
俺の前に仁王立ちして、こちらを睨み付ける女。
「あれ、あんた、どっかで会ったことないっけ?」
彼女の特長ある顔になにかひかかるものを感じ、聞いてみる。
「な、なんだ! ナンパならよそでやれ!」
おいおい…勘弁してくれよ。この女、なにを勘違いしているのか顔が真っ赤だぞ。
「どうしたの? 麻紀子」
不意に彼女の後ろから声がして、俺と茶髪女は声の主を見た。
おお! この子は相当の美人だ…って、なんかこの女も見たことないか?
「あ、静香さん。この男が美鈴様の私有地でナンパを…」
だから、ナンパ、違うって…て、おい、美鈴様?
「あら?誰かと思えば宇佐美君じゃない。妙なところで会うわね」
あちゃぁ、私服姿だから気づかなかったけど、こいつら、同じクラスの佐竹静香と野沢麻紀子じゃないか。この二人は綾部美鈴の取り巻きで、特に静香は側近的存在だ。
って事は…
「佐竹?どうしたの? …ああ!? 宇佐美じゃないの!? あんたがどうしてここにいるのよ!」
佐竹の背後から、驚きの声があがる。
金髪碧眼、黙っていても目立つ容貌。そしてなにより俺の事を馬鹿呼ばわりする女。
うう… 爆裂お嬢様の登場かよ…。
「そう言うお前こそ、どうしてこんな所にいるんだよ?」
「この間話したでしょ? 夏休みは別荘で過ごすって。それでここがその別荘。お解り?」
小馬鹿にしたような態度で答える美鈴。どうやら、このロッジ、綾部家の持ち物らしい。
よりによってなあ。知ってりゃ避けて通ったのに。
「なにボケッとしてるのよ。ここ周辺は私の土地なんだからね。さっさと出て行きなさいよ」
「まあそう言わずに、通らせてくれ。ここを通ったほうが帰るのには近いんだ」
「だぁ〜め! どうして通してあげなきゃいけないの? あんたなんかを。さっさと引き返す事ね」
また始まった。どうしてこんなにつっかかってくるかなぁ、この女は。
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