■真澄編■
6日目【7月26日】


 
 

 夜の公園は人の気配がなかった。
 遊歩道に沿ってある洒落た街灯が地面を明るく照らしている。
 夜の割には歩き易かった。
 海の見える噴水広場に出ようとして、そこに人影を見つける。

 どうやらカップルのようだ。こちらに背を向けて海を見ながらなにか話している。俺は邪魔しちゃ悪いと思って、元来た道を引き返そうとした。

「どうして分かってくれないんだ? 真澄ちゃん」

 え?

 俺は足を止めて再び広場の方を向く。
 あれは、真澄ちゃんと…弘!やっぱり呼び出したのはあいつか。

「岸田先輩は卑怯です。凄くずるい」
「なんだよそれは…」

 俺は茂みに隠れて事の成り行きを見守る。

「昔の事だって…私が宇佐美先輩の事、好きなこと利用して…」

 ええ?
 俺は驚いて目を見開く。
 真澄ちゃん、昔から俺の事を?
 それに利用したって??

「なにを今さら。確かに君にあいつの事はいろいろと相談は受けたさ。でも俺の誘いに乗ったのは真澄ちゃんの方だぜ」
「あたしが断れない性格って分かってたくせに…」
「なにを馬鹿げた事を」
「最初のデートは練習だったはずです。あたしが宇佐美先輩とつき合いだしても大丈夫なようにって…」
「……」

「今回だってあたしが上手く宇佐美先輩に告白できないのを利用して…もうあたし騙されません」
「騙したとは心外な言い方だな。君は断らなかったじゃないか。キスした時だって…」
「あたしの相手は岸田先輩のはずじゃなかった。あたしは宇佐美先輩が…」
「俺を責められても困る。別に俺は強引だった訳じゃなかったろう? そういうの嫌いだしな」

「それに最後には私を振った」
「それについては謝る。俺が悪かったよ」
「あたし、一度振られた相手にもう一度なびくほど馬鹿じゃありません。もう会いに来ないでください」
「それはないぜ真澄ちゃん。昔は昔、今は今だろ? 友達からでいいからさ」
「嫌です。あたし宇佐美先輩に気持ちをはっきり打ち明けるつもりです。だからもう…」

「上手くいくのか?」
「え?」
「あいつ、小野寺美和の事が好きだぜ。ほら、昨日、まことと一緒にいた女だよ。結構仲いいもんな、あの二人」
「そんな…」
「上手くいく自信あるのかよ。あいつはけっこう鈍いから、真澄ちゃんの気持ちなんて全然わかってないぜきっと。突然告白しても上手くいくかどうか」
「……」

 真澄ちゃんは黙って俯いてしまう。

「鈍い奴で悪かったな弘」

 俺は弘の言動に我慢できなくなって、二人の前に出た。

「まこと!」
「宇佐美先輩!」

 驚いて俺の顔を見る弘と真澄ちゃん。

「どういう事か、説明してもらおうか」
「どう…って今、まことが聞いた通りだよ。お前の事で相談に来た真澄ちゃんと話をしているうちにお互い好きになっちまって、つき合いだしたっていう訳さ」
「違います! 違うんです宇佐美先輩!!」

 真澄ちゃんが急に大きな声で泣き崩れた。これには弘も驚いたみたいだ。
 俺は慌てて彼女の元へ走る。

「ちょっと、真澄ちゃん大丈夫?」
「あたし…あたし…」

 俺が彼女の肩に手を置いた瞬間、彼女はそれを振り切って駆け出した。