■真澄編■
6日目【7月26日】


 
 

◆7月26日<夜>◆
『月の雫に溶け込んで』


 


「あれ?宇佐美君。真澄ならいないわよ」

 俺は再び真澄ちゃんの叔父の家、つまり由希子さんの家の前にやってきた。チャイムを押す覚悟をしていた所に二階のベランダから由希子さんに声をかけられたのだ。

「今、そっちに降りていくから、ちょっと待ってね」

 そう言うと彼女は家の中へ引っ込んだ。

 今夜はこの街での最後の夜。俺は今度こそ真澄ちゃんに気持ちを伝えたいと思い、彼女に会いに来たのだ。
 でもこんな時間にいないなんて、何処に行ったんだろう?

 お!由希子さんが出てきたみたいだぞ。
 彼女は木のサンダルの音をカラカラさせて俺の所へ来た。

「さっきの電話、君からじゃなかったの?」
「電話って?」
「男の人に呼び出されて出てっちゃったわよ。親しい感じだから君からだと思ったんだけど」

 まさか、弘の奴…。

「もしかして、その相手に心当たり、あるの?」
「え? まぁ、ちょっと…」
「なに? 教えてよ。それに宇佐美君、どうするの? 真澄にちゃんと気持ちを伝えた?」
「いや、それはこれから…」
「はは〜ん、そう。じゃぁ、野暮なことは聞かない方がいいわね。真澄は天乃白浜臨海公園に行くって言ってたわよ」
「公園ですね。わかりました」
「それじゃぁ、頑張ってね」
「はい。あ…そうだ。大切な事忘れていた。由希子さんいろいろとお世話になりました。俺、明日帰りますんで」
「そうなんだ」
「楽しかったですよ。俊治さんにもよろしく言っておいて下さい。ありがとうございました」
「いやいや。こちらこそ。真澄のことよろしくね。それじゃあ、元気で」

 由希子さんは少し寂しげにそう言った。
 俺は頭を下げると臨海公園に向けて駆け出した。