シカゴ  ★★★☆
【2002年 : アメリカ】
 監督:ロブ・マーシャル/音楽:ダニー・エルフマン
 出演:レニー・ゼルウィガー(ロキシー・ハート)、
    キャサリン・ゼタ・ジョーンズ(ヴェルマ・ケリー)、
    リチャード・ギア(ビリー・フリン)、
    クイーン・ラティファ(ママ・モートン) 他

スターを夢見ながら、その夢を砕かれたことで殺人を犯してしまった人妻ロキシーと、スターでありながらやはり殺人罪で逮捕されていたヴェルマ。名声や栄光を追いかけつつそれに翻弄される二人の女と、金にうるさい敏腕弁護士や貫禄の女看守長、お人好しなロキシーの夫などを巻き込んだスキャンダラスな騒動を描いたミュージカル。
シカゴという街の移り気な風潮と栄光の儚さを皮肉りながら、それに決して挫けない女の強かさがこの作品の醍醐味です。 役作りのためにすっかりスリムになったレニー、セクシーなドレスを着ても「それは胸じゃなくて胸板」などと巷で突っ込まれたりしてますが、やはり初挑戦であれだけの歌と踊りをこなしたことは賞賛に値するはず。
個人的には、最後にヴェルマとロキシーが繰り広げるステージが一番見応えありました。
某アイドルが自分たちの番組でパロっていたのはあれだったのね。特にリーダーはほんとに上手かった…。
往年のミュージカルと違うところは、音楽によってストーリーが中断されるのではなく、音楽そのものがストーリーを説明していくところなのだそうです。そう言われてみればそうだったかな。採点がさほど良くもないのは単に好みの問題。作品としてはすごくレベル高いです。



 司祭  ★★★☆
【1990年 : イギリス】
 監督:アントニア・バード/音楽:アンディ・ロバーツ
 出演:ライナス・ローチ(グレッグ)、
    トム・ウィルキンソン(マシュー)、
    キャシー・タイソン(マリア)、
    ロバート・カーライル(グレアム) 他

カトリックの司祭でありながら同性愛者でもある青年の、苦悩と葛藤を描いたシリアスヒューマンドラマ。
欧米ほど明確な信仰対象のない国に育っている日本人としては「そういうもんかー・・・」と唸るばかりなのですが、教会と同性愛だとか、教会の権威主義や倫理観、近親相姦といった社会問題など、ともかく深刻なテーマがたくさん盛り込まれています。欧米では結構な論争が巻き起こったらしい。そりゃそうだろうな。
街に着任してきたばかりのグレッグ司祭(ライナス・ローチ)は、若さと熱意と深い信仰心を持っており、労働者階級のために力を尽くそうと努力しますが、一方では自らが同性愛者であるという宗教上の矛盾も抱えています。ゲイバーで出会ったグレアム(ロバート・カーライル)のことも、次第に大切な存在だとは思い始めるものの、罪の意識がついて回るためになかなか心を開くことができません。
またある高校生の娘が告悔で、実の父親に犯されていると告白してきたことに深く胸を痛めつつも、告悔の秘密厳守の鉄則の前にはどうすることもできず、そんな現実に激しい苛立ちを感じます。
彼がキリスト像に向かって切々と、これが本当に人々を救うための道なのかと怒りをぶちまけるシーンはなんだかとても新鮮でした。そっちの方がよほど人間として自然な姿に見えてくるのは、私がキリスト教徒ではないからなのかな。
自分の無力さや絶対的信仰への懐疑心に苦しむグレッグの姿が痛々しく、それだけに最後のシーンで唯一、あの少女が彼を許す姿が感動的です。ロバート・カーライルの角刈りやらあのハマリすぎてる受け受けしさは、ある意味私にとっても軽くショッキングでしたが(笑)、とても深いテーマに真剣に取り組んでいる意欲作だと思います。



 シザーハンズ  ★★★★

【1990年 : アメリカ】
 監督:ティム・バートン/音楽:ダニー・エルフマン
 出演:ジョニー・デップ(エドワード・シザーハンズ)、
    ウィノナ・ライダー(キム)、
    ダイアン・ウィースト(ペグ)、
    アンソニー・マイケル・ホール、キャシー・ベイカー、
    アラン・アーキン、ロバート・オリヴェリ  他

両手がハサミの人造人間・エドワードと、彼が小さな町に巻き起こす騒動を描いたちょっと切ない物語。
小さなおとぎ話のような幻想的な世界は、ティム・バートンの独壇場といったところでしょうか。
非常にシュールな役どころにばっちりはまったジョニー・デップが素晴らしいです。繊細ながらも心優しい少女を演じたウィノナ・ライダーもよかった
物珍しさからエドワードを喜んで迎え入れ、やがて都合が悪くなると掌を返す町の人々の反応というのは、決して劇中ばかりの話ではないですね。現実社会でさえごく普通に起こり得ることです。
町にやってきたことで翻弄されたのは本当は住民たちよりもエドワードの方なのですが、彼はそれを説明する術すら持ちません。人のあたたかさを知ってしまったから、本当は受け入れて欲しいけれども、思いとは裏腹に手のハサミが周りを傷つけてしまう。そんな彼の物言わぬ葛藤が、物語を余計に美しく、少し悲しくしているのかもしれません。
今でも彼女を想い続けるエドワード、そしてそれをただひとり知っているキム。
いつでも目の前に静かな冬の夜を連れてきてくれる不思議な作品です。



 下妻物語  ★★★★

【2004年 : 日本】
 監督:中島哲也/音楽:菅野よう子
 出演:深田恭子(竜ヶ崎桃子)、土屋アンナ(白百合イチゴ)、
    宮迫博之(桃子の父)、篠原涼子(桃子の母)、
    阿部サダヲ(一角獣の龍二)、岡田義徳(社長)、
    小池栄子(亜樹美)、矢沢心(ミコ)、
    荒川良々(八百屋の若旦那)、生瀬勝久(パチンコ屋店長)、
    樹木希林(桃子の祖母)  他

茨城県下妻。田んぼ以外に何もない、未だにヤンキー文化花盛りの田舎町。そんな果てしないあぜ道を、周囲から浮きまくりの全身フリフリ、超メルヘンチックなファッションで歩いていくのは女子高生・竜ヶ崎桃子。破滅的ダメ親父のせいで関西から下妻へ移り住んできた彼女は、東京の代官山にある某ロリータファッションブランドに熱を上げており、片道約2時間半の道のりにもめげず毎週のように通い詰めていた。
だが資金もそろそろ底を尽くため、父親がかつて商売として扱っていた某有名ブランドの偽物(売れ残りが家に山積み)を個人販売して服代を稼ごうとする。するとある日、特攻服で原チャリをかっ飛ばすヤンキー娘・イチゴがそれを買いに現われて・・・。

監督がCM畑の出身ということで、見る前からとにかくノリのいい作品だと聞かされていたのですが、実際見てみますと確かにそうでした。スピーディな映像とパワフルなキャラクター、適度なダサさを突き抜けた笑いに変えるセンス。今どきの若者へのちょっと優しげな目線と応援メッセージも感じられます。
ともかく、イチゴ役の土屋アンナが良い。なんかちょっと悔しくなるくらい良いです。(笑)
深田恭子も思ったよりはイケてた。惜しむらくは、山場の牛久大仏あたりのシーンでしょうか。やっぱりあのちょっと高めの声と、言い回しに慣れてない感じが残念。
でもホント、脇を固める俳優陣の素晴らしさったらないですよ。テンションの高さを決して壊さず、あのスピード感に絶対乗り遅れない感じの芝居をみんな器用にこなしてました。あれだけ個性的なキャストをちゃんとひとつの世界にまとめあげたのは、やっぱ監督の手腕てことなんですかねえ。
フリフリの衣裳に身を固め、頭の中は常におフランスロココ調の夢を彷徨っているけれど、本当は自分の置かれた現実世界を醒めた目で傍観している桃子。ハチャメチャなヤンキーだけど義理に篤く、今まで見たことのない奇妙な人種・桃子のことが気になって仕方ない純情なイチゴ。この二人の関係はとてもかわいく格好良く、たいへん爽快です。
女同士の友情ってのもちょっといいかもねー、という気分に浸りたい方にはオススメの一本。



 シモーヌ  ★★★☆

【2002年 : アメリカ】
 監督:アンドリュー・ニコル/音楽:ヤン・ロールフス
 出演:アル・パチーノ(ヴィクター・タランスキー)、
    レイチェル・ロバーツ(シモーヌ)、
    ウィノナ・ライダー(ニコラ)、
    キャサリン・キーナー(エレイン)、
    エヴァン・レイチェル・ウッド(レイニー)  他

究極の美貌と演技力で世界中を虜にする完全無欠の女優を、CGで創り出してしてしまった映画監督の奮闘ぶりを描いたコメディ。
過去には2度もオスカーにノミネートされたことのある映画監督ヴィクター・タランスキー(アル・パチーノ)は、今では手掛けた作品が立て続けに失敗し、かつての栄光は見る影もない。再起を賭けた新作でもワガママ女優ニコラ(ウィノナ・ライダー)に降板され、元妻で映画会社の経営者でもあるエレイン(キャサリン・キーナー)にはとうとう解雇を言い渡された。しかしそんなタランスキーの前にある日、彼のファンと名乗る怪しげなコンピューター・エンジニア、ハンク(イライアス・コティーズ)が現われ、究極のCG女優を作る画期的なソフトを開発したと告げる。
そしてPCソフト“シミュレーション1”を託されたタランスキーは試行錯誤の末、ついにCG女優“シモーヌ”を創り出すことに成功。完璧な美貌を誇る彼女を使って念願の映画を撮り上げるのだったが・・・。

アル・パチーノの出演作としてはちょっと珍しい感じかもしれない軽いSFというかファンタジーというか。監督のアンドリュー・ニコルは「ガタカ」を撮った人らしいです。なるほど。一見突飛な話のようだけどそれなりにまとまっていたのはそのせいなのね。
ともかくシモーヌの美しいこと。それを表現するCG技術もすごくきれい。人工的に造り上げたキャラクター・シモーヌをいかに実物であるかのように見せるかで監督パチーノがあたふたしてるところが面白かったです。バービー人形の影絵とかさ。なんてチャチな小細工か。(笑)
実際あのボンヤリした劇中劇がヒットするとは思えないけど、主演があれだけ美人だったら見たくもなるかな。シモーヌを演じたレイチェル・ロバーツはさすがスーパーモデルというだけあって抜群にビューティホー。よくぞ見つけてきたよあんな美人を。・・・と思っていたらなんと撮影後にニコル監督と結婚しちゃったそうな。それもできちゃった婚とはアラアラ。なんとおいしい展開なんでしょう監督ってばコノヤロウ狙ってたのかああ!(落ち着け)
そういえばちょっと出のウィノナ・ライダーはなんとなく素のキャラクターと被ってたような気もしなくもない。あれは笑うとこなのかなやっぱ。ああいうチラッと出演が多いですね最近。
話の軸としては、家族の絆を取り戻すのに少々風変わりな手段が役に立ちました、てなところかと思いますが、結論はまあ大団円ということになるのかな。あれはあれで、今後とも大変そうだけど・・・。



 シャイン  ★★★★

【1995年 : オーストラリア】
 監督:スコット・ヒックス
 音楽:デイヴィッド・ヒルシュフェルダー
 出演:ジェフリー・ラッシュ(デイヴィッド)
    ノア・テイラー(デイヴィッド・青年期)、
    アーミン・ミューラー=スタール(ピーター)
    リン・レッドグレイヴ(ギリアン) 他

ピアノの天才少年と呼ばれ、一度は精神を病みながらもハンディキャップを乗り越えて復帰した実在のピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴッドの半生を描く音楽ドラマ。
幼少の頃から音楽狂の父ピーター(アーミン・ミューラー=スタール)にピアノを仕込まれ、天才として評判になった少年デイヴィッド。それが何よりの自慢であるピーターは、しかし息子にアメリカ留学や英国の王立音楽院に進む話が出ると途端に激しい怒りを見せ、彼が家族から離れることを暴力的に拒否するのだった。
しかし青年になったデイヴィッド(ノア・テイラー)はついに家を出る決心をし、単身ロンドンへと旅立つ。彼はセシル・パーカー(ジョン・ギールグッド)に師事し、コンクールでの演奏曲に幼年時代から父にいつか弾きこなすよう言われていたラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を選んだ。猛特訓でこの難曲を完璧に演奏したデイヴィッド。だがコンクールでの演奏を終えた直後、彼はあまりのストレスに倒れてしまう。
そして次に目覚めた時、彼は精神病院の患者になっていたのだった・・・。

精神を病んでからのデイヴィッドを素晴らしい機微で演じているジェフリー・ラッシュは、舞台版でのデイヴィッド役を23年間務めていたのだそうです。「パイレーツ・オブ・カリビアン」で敵の親玉・バルボッサをやってた人といえば顔が思い浮かぶ方もいるかもしれませんね。
デイヴィッドの父、ピーターが息子へ与え続けたものは、本人にとってはきっと愛情だったのでしょう。しかし第三者の目から見れば、それは愛というよりも執着のようにも思えます。彼にとってデイヴィッドは、自分の叶えられなかった夢を実現するための分身のように見えていたのでしょうか。
10数年を精神病院で過ごした後のデイヴィッドが、たまたま辿り着いたバーのピアノでただ純粋にピアノを楽しんだ時、それを聴いた客はその演奏の素晴らしさに素直に驚き、大いに喜びます。もっと聴かせてほしいと頼む人々と彼との間には、この時初めて音楽が本来持つべき明るさや楽しさが通ったのでしょうね。皮肉なことに、デイヴィッドは受賞の名誉や一般的な社会性を失ってようやく、自由な音楽を手に入れたわけです。
ちなみにこのバーで披露される「クマバチの飛行」、とんでもないですよ。あんな曲、ピアノで弾けるもんなんですねえ。ちなみにピアノ演奏はモデルとなったヘルフゴット自身によるものです。
愛する人に出会い、心のかけらを少しずつ取り戻していくデイヴィッドの明るい笑顔、屈託のない言葉。そして、再び多くの人々の拍手に迎えられた時に流す涙は飾り気がない分、見ている側にもストレートに響いてきます。波乱に満ちた日々の中、失うものも多かったけれど、もっとずっと大切なものを見つけたのだろう彼を思うと、人生の不思議を少しだけ覗かせてもらったような気持ちになりました。



 Shall we ダンス?  ★★★★

【1996年 : 日本】
 監督:周防正行/音楽:周防義和
 出演:役所広司(杉山正平)、草刈民代(岸川舞)、
    竹中直人(青木富夫)、 渡辺えり子(高橋豊子)他

とある平凡なサラリーマンが、ひょんなことから始めた社交ダンスを通して人生を見つめ直す姿を描いたハートフル・コメディ。
邦画の中で何度も見返したくなる数少ない(ていうか見てる数がそもそも少ないんだけど)作品の一つです。
茫洋としたサラリーマンの役所広司、強烈なインパクトの竹中直人と渡辺えり子、シビアだけど気品のあるマドンナ草刈民代。まさにキャスティングの妙ですな。
そこはかとない可笑しみと、ちょっと心あたたまるエンディング。公開当時は世界的にも絶賛されたため、ハリウッドではこの作品のリメイク権を買ったとかなんとか。
行方知れずだったこの情報もとうとう現実のものとなりまして、リチャード・ギアとジェニファー・ロペスによるアメリカ版は2004年秋に公開ですってよ。
・・・ジェニロペってどうなの?



 シャロウ・グレイブ  ★★★☆

【1995年 : イギリス】
 監督:ダニー・ボイル/音楽:サイモン・ボスウェル
 出演:ユアン・マクレガー(アレックス)
    クリストファー・エクルストン(デイヴィット)、
    ケリー・フォックス(ジュリエット)
    キース・アレン(ヒューゴー) 他

降って沸いたような大金と死体をめぐって均衡を崩していく三人の男女の関係を、スタイリッシュな映像で描いたサスペンス・スリラー。
グラスゴーの瀟洒なフラットで共同生活を送る記者のアレックス(ユアン・マクレガー)、会計士のデヴィッド(クリストファー・エクルストン)、医者のジュリエット(ケリー・フォックス)は、もう一人のルームメイトを探しているが、スノッブを気取る三人の趣味に合った人物はなかなか見つからない。やがて自称作家のヒューゴー(キース・アレン)をジュリエットが気に入り、同居人になった。だが間もなく、彼が自室で死んでいるのが見つかる。死体と共に残されたのは麻薬と、金の詰まったスーツケース。
彼らはヒューゴの死体を森に埋めて大金を手に入れるが、死体の始末を担当したデヴィッドは日増しに病的になり、スーツケースと一緒に屋根裏に立て籠もるようになる・・・。

「トレインスポッティング」で大ヒットを飛ばしたダニー・ボイルの長編映画デビュー作。とことんブラックな展開ながら、どこかユーモラスで皮肉っぽいデカダンスがこの頃から光っています。
だんだん奇行が目立っていくデヴィッドは、やってることはすごく怖いんだけど見てるとなんか笑っちゃう。天井にブスブス穴をあけて階下を覗くところとか、いかにも神経質で彼らしい。何かに取り憑かれた人間の滑稽さを描くのがうまい監督だと思います。そんな視線こそが本当はとても意地悪なんだろうと思うけど。
最後のオチが面白かった。こういうところが洒落てるんだよね。まさに本格デビューしたてのつやつやユアンも堪能できます。



 シャンドライの恋  ★★★★

【1998年 : イタリア】
 監督:ベルナルド・ベルトルッチ/音楽:アレッジオ・ヴラド
 出演:サンディ・ニュートン(アレックス)
    デイヴィッド・シューリス(デイヴィット)、
    ケリー・フォックス(ジュリエット)
    キース・アレン(ヒューゴー) 他

住みこみの黒人女性に恋した英国人ピアニストの、プラトニックな愛を綴ったロマンス。
政治活動で夫が逮捕され、アフリカから逃亡したシャンドライ(サンディ・ニュートン)はイタリアに渡り、音楽家キンスキー(デイヴィッド・シューリス)の屋敷で掃除係として住みこみで働きながら医大に通っていた。
ある日、シャンドライは私室でクローゼット代わりに使っているリフトの中から一枚の五線譜を見つける。そしてキンスキーの部屋とつながっているそのリフトからは、それ以来ランの花や指輪が贈られ続けた。
戸惑ったシャンドライが指輪を返しにキンスキーの部屋に行くと、彼は突然シャンドライに結婚を申し込む。寡黙な彼は口にはしないものの、シャンドライの働きぶりを日々愛情を持って見つめ続けていたのだ。しかし押しつけのようなその言葉に反発したシャンドライは、本当に自分を愛しているなら獄中にいる夫を出してと口走ってしまう・・・。

「ラスト・エンペラー」などの大作で知られる巨匠ベルトルッチ監督がどうしても作りたかったという小品。
とても繊細で透明感のある作品です。雰囲気とか撮り方とか、静かなんだけどひっそりした熱も隠れてる感じ。こういうのって、抑圧すればするほど却って漂う色香があるような気がします。
デビッド・シューリスは相変わらず微妙に不気味な感じから始まってますが(笑)、やがて彼の一途な愛情にはシャンドライならずともほだされるというもの。シャンドライのためだけに全てを少しずつ削っていく彼、物がなくなっていく閑散とした部屋で、ゆったりと横たわり微笑む彼。情熱は言葉の代わりにピアノで語り、静謐な画面の中そこだけに激しさが溢れているのです。このギャップがすごく絵画的。
彼が恋するシャンドライは、若くて美しい黒人の娘です。しかし過去の苦しい思い出を背景にした自立心、夫への愛、お金はなくともプライドは捨てるまいという意固地な部分と、淋しさを必死で押さえ込もうとする華奢な面とを併せ持つ女性でもあります。
ですから最初はデビッド・シューリスのことをただの変なオッサンだと気味悪く思い、懸命に避けて通るわけですが(まあわからんでもない)、彼が自分に捧げてくれる愛情が自己的なものでなく、あくまでシャンドライのためだけに尽くしていることを知ると、驚きと感激でどうしようもない気持ちになってしまうのです。
さて、最後のあのシーン。シャンドライは果たして夫と彼とどちらを選ぶのか。
答えはわかっているような気もしますけど、まあそこは映画の余韻ということで憶測のまま置いておくことにしましょう。何もかもを口に出すのではなく、雰囲気と仕草で心を伝え会う大人の恋愛ドラマを求めている方にはぜひオススメしたい一品です。