SF読書録
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2003年 下半期

“放浪惑星” フリッツ・ライバー
“シャドウ・オブ・ヘゲモン” オースン・スコット・カード
“世界の中心で愛を叫んだけもの” ハーラン・エリスン
“星海の楽園” デイヴィッド・ブリン
“あなたの人生の物語” テッド・チャン
“どろぼう熊の惑星” R・A・ラファティ
“琥珀のひとみ” ジョーン・D・ヴィンジ
“だれも猫には気づかない” アン・マキャフリー
“しあわせの理由” グレッグ・イーガン
“90年代SF傑作選” 山岸 真 編
“プラネタリウムを作りました。” 大平 貴之
“タイムマシンをつくろう!” ポール・デイヴィス


“放浪惑星” フリッツ・ライバー (創元SF)

皆既月食のさなか、突如として月のそばに未知の惑星が出現した。 その潮汐力により月は破壊され、地球は地震ととてつもない高潮に襲われる。 この <放浪者> の正体はいったい何なのか? 何をしようとしているのか? まさに天変地異の中、人々は生き延びられるのか?

カバーや見返しの紹介だと、もっととっとと話が進むものだと思って読んだら、 <放浪者> の出現までにかなり間があります。 そして、正体が明らかになるのが終盤になってから。 というわけで、カバーや見返しの紹介はちょっとミスリーディングで、 けっこうネタばれのような気が…^^;。 話の中心は、それぞれのシチュエーションで <放浪者> による災害にさらされ、 逃げ延びようとする (そうでない人たちもいますが) 人々の様子にあります。 その上での終盤の展開がなかなか魅力的です。

…「猫」なのはやはりライバーだから、なのかな? ^^; (12/31)


“シャドウ・オブ・ヘゲモン” オースン・スコット・カード (ハヤカワSF)

エンダーズ・シャドウ” の続編です。 エンダーは既に去ってしまっているので、 今回はビーンの行動を縛る結界はありません (笑)。 ピーターがやがて『覇者 (ヘゲモン)』になるというのを除いては。 しかし、ビーンにしては考えられないようなミスを犯しますが…。

「バガー戦役」でエンダーの部下として戦った子供たちが何者かに誘拐されます。 皆、誘拐されるなか、ビーンだけは命を狙われます。 そんなことをするのは、そう、アシルしかいない。 ビーンはシスター・カーロッタとともに身を潜め、 何とか外部へメッセージを送った捕らわれのペトラたち、 エンダーの元部下を助け出そうとします。 そのためには、エンダーの兄にして 「ロック」「デモステネス」の名で世論を動かす、 ピーターに協力を求めなければならない…。

タイトルの割には、 「(未来の) ヘゲモン」ピーターはあんまり活躍しません^^;。 話の都合とはいえ、アシルの能力値が高過ぎな気もします。 ビーンとピーターの命運は、かなり危なかったような気が。

終盤まできて「こりゃ話は完全に落ち着きそうにはないな」 と思ったらあと二作ほど続編の予定があるようです。 次編“Shadow Pappets”の原書は既に出ているようです。 (12/15)


“世界の中心で愛を叫んだけもの” ハーラン・エリスン (ハヤカワSF)

有名なので昔からもちろん知っていたものの未読でしたが、 最近、ベストセラーになっているらしく (違うって ^^;)、 本屋で平積みになっていたので (これは本当)、 読みました。 短篇集です。

うーむ。ほとんどの作品が、 暴力的なものへの憧れの表明って感じでしょうか。 話の仕掛けなどに面白みがあるものもあるのですが。

表題作は言うまでもなくタイトルの秀逸さが光っています。 このタイトルがなければ作品の評価はまた違ったものになっていたことでしょう。 そんなタイトルとそっくりなタイトルを… (以下略)。 (12/8)


“星海の楽園 (上・下)” デイヴィッド・ブリン (ハヤカワSF)

戦乱の大地” の続き、“知性化の嵐”シリーズ完結編です。 ジージョから離れ銀河をさ迷い、 水素呼吸種族などの他の生命系統も登場します。 そして、数兆とかそれ以上の数の生命があっというまに犠牲になっていく大災害が…。

いわゆる「ストリーカー危機」はこの巻でようやく一応の終結を見ますが、 多くの謎が積み残しのままなのが不満なところ。 伏線というか話の種の残し方は、 “ファウンデーションの勝利” を思い出させました。 これだったら、 “スタータイド・ライジング” で止まっているほうがかえってよいかも、と思わないでもないです^^;。

シリーズものとしてのファンサービス(?)、フォローはよくできています^^;。 現実否定能力を使った航法なんて忘れられているのかと思ったら少し言及されていますし、 そして何と言っても “サンダイバー” のネタがあんなところで出てくるとは、みんなびっくりするでしょう。 (11/16)

ワンポイント

関西弁おそるべし。


“あなたの人生の物語” テッド・チャン (ハヤカワSF)

最近のSF界でグレッグ・イーガンとともに注目を集めている テッド・チャンの短篇集です。 イーガンがアイデンティティの問題を多く取り扱っているのに対して、 こちらは、世界の新たな側面の発見により変容せざるを得ない認識を描く、 という感じでしょうか。 そのせいか、登場人物が何らかの意味で打ちのめされたり、 壊れたりしている話が多い気が^^;。

表題作は、主人公が異なる時間軸の出来事を交互に語っていく不思議な構成ですが、 実はそこに意味があるという見事な作品です。 とある物理の原理に対する理解が少し要りますけど…。 こんな作品 (ややネタばれ注意) を思い起こさせます。 ある意味では この作品 の逆ともいえるかも。 理解が要るという点では、 “ゼロで割る”の主人公の一人が感じている絶望感を解るためには、 彼女が証明してしまったことがどれほどの意味を持つのかが感じられる必要があります。

“バビロンの塔”はラスト前でだいたいからくりの予想がついてしまうところが残念ですが、 個人的には日没のシーンだけでも満足です(^_^)。 ちなみに、ものすごーく小さい規模で同じような光景を見たことはあります。 あれだけでもかなり感動的でしたから…。 (10/24)


“どろぼう熊の惑星” R・A・ラファティ (ハヤカワSF)

いうまでもなくSF的要素も多いほら話の短篇集です。 けっこう恐い話も多いかも。 恐い、とはいえほら話なので少なくとも表面的には笑い飛ばせますが…。 表題作が血も凍る話として完成度は一番高そうです。 それ以外にも、楽しい話として 「猿がタイプライターを適当に叩いても、 充分に長い時間を掛ければいつかはシェイクスピア全集ができる」 を本当にやろうとする“寿限無、寿限無” (作中に出てくるのはどちらかというと「五劫のすりきれ」ですが (笑)) なども傑作です。 “豊かで不思議なもの”、他人ごとだったら大笑いですが、 そうでなかった日にゃあ…^^;。気をつけましょう(?)。 (10/5)


“琥珀のひとみ” ジョーン・D・ヴィンジ (創元SF)

短篇集です。 6篇収録で、各篇の後には作者による後記がついていて、 それを読むと作品について本編だけよりもよく解るようになっています。 って、 後記を読まないと解らない部分があるってのはちょっと難じゃないかという気も…^^;。 内容的には、重いテーマを扱っていても、なんかこう、 軽いというかふわふわした感じがするものが多いです。 面白かったのは“高所からの眺め”(出だしは解りづらいけど…) と “錫の兵隊”(最後のところのわざとらしい展開は除く^^;) でしょうか。 “メディア・マン”もまずまず。 今、これを書いていて気がつきましたが、6篇全て、 コミュニケーションが大きな興味の対象になっているように思います。 (9/13)


“だれも猫には気づかない” アン・マキャフリー (創元推理)

ファンタジーですが、 “歌う船”etc. のマキャフリーということで。 中世ヨーロッパ風の世界のとある公国を守ってきた老摂政が亡くなった。 彼は事前に、若い領主のためにいろいろと周到なてはずを整えてあったが、 その中でもとっておきは、飼い猫のニフィだった。 野望に燃える隣国との駆け引きも、ニフィに導かれれば問題無し!

というわけで、頭の中に将来の著書の計画が入っていたり (それはガミッチ)、ジンジャエールが好きそうだったり (それはピート) しそうな、「誰も気づかない」どころか目立ちまくりの^^; 猫の活躍する話です。 フリッツ・ライバーに猫側の視点からみた話を書いてほしいなあ^^;;;。 それほど長くない話で、エピソードも数少なく、比較的単純です。 もう少し緊迫感があるとよいのに。 (8/23)


“しあわせの理由” グレッグ・イーガン (ハヤカワSF)

二冊目になるグレッグ・イーガンの日本オリジナルの短篇集です。 表題作は “20世紀SF (6)” にも収録されていたものですね。 凡人ならば二章(?)までで終わってしまいそうなところを、 さらにふたひねりくらいした展開が続くところがイーガンらしい、 よい作品だと思います。 “血をわけた姉妹”も「もうひとひねり」が効いています。 これらの、SFらしい、なるほど、と思わせるひねりかたは好みですねー。 他の収録作も面白いものが多いですが、 “道徳的ウイルス学者” のウイルスの動きと最後の学者の壊れ方^^; と “ボーダー・ガード” のストーリーとは関係ないけれどもつながりはある (ん?) 量子サッカーが特に面白いところでしょうか。 (8/16)


“90年代SF傑作選 (上・下)” 山岸 真 編 (ハヤカワSF)

80年代SF傑作選” と同じく、タイトルの通りの短篇集です。 80年代や90年代の特徴はそれぞれ “20世紀SF (5)” “20世紀SF (6)” の項に譲っておいて、ここではまた収録作の中から気に入ったものを挙げます。 ダン・シモンズの“フラッシュバック” (“高い城の男”を思い出しました)、 ショーン・ウィリアムズ“バーナス鉱山全景図” (不思議な話ですけど、雰囲気がよいです)、 イアン・R・マクラウド“わが家のサッカーボール” (これも、SFというか何というか不思議な話ですけど、とても良い感じです)、 以上、上巻。 下巻では、 テリー・ビッスン“マックたち”(最後の一言が… ^^)、 エスター・M・フリーズナー“誕生日”(何という重いしっぺ返し…)、 ジャック・マクデヴィッド“標準ローソク”(まったく違う分野でも、 研究に携わる人にはよりいっそう感慨深いでしょう)。 下巻は、ずいぶんと「重い」話が多い感じです。 それも、この年代の特徴なのかな? (7/31)


“プラネタリウムを作りました。 7畳間で生まれた 410万の星” 大平 貴之 (エクスナレッジ)

たて続けに非SF&非小説ですが、 これも sense of wonder の世界ということで。 個人で、100万個以上の星を投影できる可搬のプラネタリウムマシン、 メガスター を作った大平さんが、そのプラネタリウム作りの来歴を綴った本です。 この方、小学生のときからすごかったんですねえ^^;。 興味と努力と行動力が良い環境を呼び込んで、 メガスター、メガスターIIへとつながり、 そしてまたこの先へつながっていくのでしょう。 実際にはここに書かれていない苦労ももっとあったでしょうけれども、 前向きな姿勢が心地よいです。 (7/13)


“タイムマシンをつくろう!” ポール・デイヴィス (草思社)

SFでも小説でもありません。 本職の物理学者が書いた、 現代の物理学を駆使してタイムマシンの可能性を考える、 という本です (と言ってもタイトルから想像できる通り、 堅苦しい内容ではありません)。 タイムマシン、といっても、 かの有名な H.G.ウェルズの短篇に出てくるようなのは無理そうですが、 バクスターの “時間的無限大” に出てくるようなものであれば可能性はあるわけです (この小説には言及されていませんが、同じタイプのものの「作り方」 がメインで紹介されています)。 クラークの “過ぎ去りし日々の光” で出てくる「時空の泡」「カシミール効果」 なんていう用語も説明されています。 現代の物理学で考えても何らかの形で時間を越えられる可能性がある、 と思うと楽しいですよねえ。 ちょっと難しめの話も出てきますが、 興味があれば充分に楽しめると思います。 (7/6)

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