SF読書録
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2000年 下半期

“塔のなかの姫君” アン・マキャフリイ
SFの殿堂 遙かなる地平” ロバート・シルヴァーバーグ編
“緑の少女” エイミー・トムスン
“タウ・ゼロ” ポール・アンダースン
“太陽系辺境空域” ラリイ・ニーヴン
“無限アセンブラ” ケヴィン・J・アンダースン & ダグ・ビースン
“ラッカー奇想博覧会” ルーディ・ラッカー
“スローターハウス5” カート・ヴォネガット・ジュニア
“知性化戦争” デイヴィッド・ブリン
“ゴールデン・フリース” ロバート・J・ソウヤー
“順列都市” グレッグ・イーガン
“内海の漁師” アーシュラ・K・ル・グィン
“ブレイクの飛翔” レイ・ファラデイ・ネルソン
“死者の代弁者” オースン・スコット・カード
“サンダイバー” デイヴィッド・ブリン
“ダブル・スター” ロバート・A・ハインライン


“塔のなかの姫君” アン・マキャフリイ (ハヤカワSF)

遙かなる地平”の解説で、この “塔のなかの姫君”に“歌う船” のヘルヴァが主人公の短編が収録されている、ということを知ったので、 早速読んでみました。 超能力者を扱った話の多い短編集ですね。 表題作など、他の長編と関係のある話もいくつかあります。 きちっと結末を迎えるというよりは長い話の中のスナップショットとでもいうような話もあります。 ファンタジー的要素も強く、 いかにもマキャフリイらしいというところでしょうか。 (12/19)


SFの殿堂 遙かなる地平 (1, 2)” ロバート・シルヴァーバーグ 編 (ハヤカワSF)

これは、このコーナーで紹介する本としては異例で、 まだ全部は読んでいません。 何故ならば、これは裏表紙の解説を引用させてもらうと、 「SFの人気シリーズ外伝をすべて書き下ろしで著者の序文とともに収録したアンソロジー」だからです。 まだ読んでいなくて、 読もうかなと思うシリーズのものに関しては読んでいないのです。 全部読むまで待っていたら時間が掛かりそうだというのもあって、 もう、ここに載せてしまいます。

というわけで、SFファンなら堪えられない、 あのシリーズ (人によって好みがあるとは思いますが、 この本に収められている中に一つや二つはお気に入りにのものがあるでしょう) の新作短中編が読めるという、ぜいたくなアンソロジーです。 ル・グィンの“ハイニッシュ・ユニヴァース・シリーズ” (“内海の漁師”参照)、 ホールドマンの“終りなき戦い”、 カードの“エンダー”、 ブリンの“知性化宇宙” (“スタータイド・ライジング”参照)、 マキャフリーの“歌う船”、 シモンズの“ハイペリオン”、 フレデリック・ポールの“ゲイトウェイ”、 などなど、蒼々たるラインナップです。

いくつか僕のお気に入りのところで説明しておきますと、 “エンダー”の話は“エンダーのゲーム” と“死者の代弁者”の間の話で、 “死者の代弁者”で登場するジェインとエンダーの出逢いの物語です。 “死者の代弁者”まで読んでいたほうが楽しめるかもしれませんが、 “エンダーのゲーム”だけ読んでいれば大丈夫です。 ブリンの“知性化宇宙”の話は “スタータイド・ライジング”のストリーカー号のクルー (の一部) のその後の話ですが、 これから翻訳される予定の長編より後の設定です。 ですから、そっちのネタばれには多少なっているかもしれません (追記2001/12・重要なネタばれがあるので、できれば後にしたほうがよいです)。 予備知識的には “スタータイド・ライジング”さえ読んでいれば大丈夫ですが、 “知性化戦争”でティンブリーミーのいう 「たちの悪いユーモア」を知っておいたほうがよいかも。

“歌う船”はヘルヴァの話です。 いやもう何もいうことはありません。 “歌う船”を気に入った人は是非読みましょう。 (12/10)


“緑の少女 (上・下)” エイミー・トムスン (ハヤカワSF)

ヴァーチャル・ガール” でデビューしたエイミー・トムスンの二作目です。

生物に溢れた異星を、調査隊として訪れていた主人公ジュナは、 遭難し瀕死の状態だった。 それを救ったのは未だ人類は発見していない、その星の知的生物であった。 彼らテンドゥは、仲間や他の生物と「リンク」 して生化学的なモニターや操作をする能力を持ち、 その能力でジュナをその星の環境に適応できるように変身させた。 そんなこととはつゆ知らず、調査隊はジュナの生存を絶望視し、 帰途についてしまった。 ジュナはこれから何年か、一人、 テンドゥたちの中で暮さねばならなくなった…。

密林に暮らし、皮膚の上に色彩や形を形成して話をするテンドゥたちの中に、 数々の苦労の上に溶け込んでいく女性の物語です。 独自の生態系や文化がいろいろと書き込まれています。 ジュナは調査隊の一員の生物学者なので、ちゃんといろいろと観察したり、 記録を取ったりしているのも好感が持てます^^。 けっこう浅はかなこともやってますけどね^^;。 「これで、結局ジュナが異星に居着いてしまうという結末だったら怒るぞ」 と思いましたが、そんなことはなくてまずまずの順当な終わり方でした。

邦題は“緑の少女”ですが、少なくとも、“少女”じゃないよな^^;。 原題は“The Color of Distance”(表紙で、“Color” の部分だけ色を変えているのが洒落てます)。 なかなか風情があると思うので、 邦題にも活かしたかったところだと思いますが、けっこう難しいですね。

ストーリーとは関係ありませんが、調査探検艇の名前が「小谷丸」 なんていう名前なんで、「?」と思っていたら、「タカユキ・タツミ」 なる乗員が現れてびっくり (巽孝之氏ですね)。 そうか、小谷真理という人もいるなぁ、と思っていたら、 解説はこの人が書いていました。 (11/17)

ワンポイント

それにしても、皮膚言語で表される名前をどうやって音訳したんだ?


“タウ・ゼロ” ポール・アンダースン (創元SF)

科学者や技術者を中心とした50名の男女を乗せ、 32光年彼方のおとめ座ベータ星系へ向けてバサード・ ラム・ジェット推進の恒星船が旅立った。 人類初の星間移民を目指して。 星ぼしの狭間に漂う希薄な原子を掻き集めて燃料とし光速に近い速さまで加速したこの恒星船の内部では、 相対論的効果により時間はゆっくりと進み、 船内時間では 5年ほどで目的地に到達できる。 しかし、途中で事故が起こった。 船の減速システムが壊れてしまったのだ。 もはや、残された道は永劫の時間を無限の彼方までさまようことのみか?

実現可能であろう技術を主に据えたハードSFです。 結末付近は現在の宇宙論からすると、おや、という感じですけど、 まあそれはしょうがないでしょう。 ストーリー的には、 極限状態に置かれた人々の様子というのもありますが、 それよりもやはり、 船がどこまで行くかな、と期待しながら読んでいると、 行くところまで行ってくれるのがおもしろいところでしょう^^;。 (11/7)


“太陽系辺境空域” ラリイ・ニーヴン (ハヤカワSF)

中性子星” と同じ、“ノウンスペース・シリーズ”の短編集です。 人類がようやく太陽系内に進出した頃から、 “リングワールド” のより後の年代の話まであります。 お馴染のベイオウルフ・シェイファーや、 ルイス・ウーなどのキャラクターも登場します。 クジン族とのファーストコンタクトの話もあります。

“中性子星”に比べると派手さは少ないと思いますが、 年代を追って歴史のひとこまひとこまが見られる感じです。 ニーヴンの解説もいろいろと付いているので、 このノウンスペースの世界がよく解ります。 (10/31)


“無限アセンブラ” ケヴィン・J・アンダースン & ダグ・ビースン (ハヤカワSF)

月面の裏側に突如現れた謎の建造物。 そんなものがあるとは知らずに最初に近づいた調査隊は、 宇宙服が沸き立つようにぼろぼろになり死んでいった。 そこでは、鉱物を原子レベルで分解し、 謎の建造物を組み立てている、自己増殖可能な異星のナノマシンが、 うじゃうじゃと活動していたのだ。 そんなものが地球に侵入したらどうなる?!

地球からナノマシンの専門家 (とはいえ、 異星のナノマシンの前には子供同然) が送りこまれ必死の調査が行われるが、 結局、月基地は隔離されることになり…。

ナノマシンのさまざまな可能性を書き込んだ、 サスペンスタッチの SFです。 全体はいくつかの筋から成り立っているのですが、 そのうちのいくつかはゴール直前に接触してポシャってしまうというか何というか、 何かこうまとめきれてない気がしてしまいます。 ラストも、ありがちなパターンなのはちょっと残念。 そういう難点はありますが、ナノマシンの挙動などに関する部分はおもしろいし、 まずまずの出来であると思います。 (10/18)


“ラッカー奇想博覧会” ルーディ・ラッカー (ハヤカワSF)

本職の数学者にして数々のマッドSFを紡ぎ出す作家である、 ルーディ・ラッカーの短編集 (日本に来たときのエッセイ 2編を含む) です。 短編ということもあって、 ストーリーよりもアイディアのほうが目立つ感じです (ラッカーの場合、長編でもその傾向はあるかも。 何せアイディアが“マッド”なものばかりですからね)。 まさに奇想の博覧会ってところでしょうか。

“パックマン”や、 “PI in the Sky”(敢えて原題で書きます(^_^)。“Eye in the Sky” (このタイトルで僕が知っているのは Alan Parsons Project の曲だけですが、 他に同名のなにかがあるのでしょうか? (あ、ディックの“虚空の眼” か。だから邦題が…)) と引っ掛けてありますし、 “コンタクト”(カール・セーガン) の落ちも真っ青な^^; 落ちがよく表されていますし) が印象的なところでしょうか。 (10/7)


“スローターハウス5” カート・ヴォネガット・ジュニア (ハヤカワSF)

第二次世界大戦中の、連合国によるドレスデンの無差別爆撃を、 被害者として体験した作者 (捕虜としてドイツ軍に捕らえられていた) が語る、 その爆撃の物語です。 それは、普通の言葉では語ることはできず…。

主人公の意識は時間を浮遊し、いろいろな場面がかわるがわる現れます。 捕虜となり収容所に送られ… 検眼医としてかなり裕福になり… 異星人に誘拐され動物園で見せ物にされ… 飛行機事故で九死に一生を得て… ドレスデンで爆撃にあい…。 単純にストーリーを見れば、不条理以外の何物でもありません。 しかし、単に不条理なだけではないのが、ヴォネガットの作品です。 (9/26)


“知性化戦争 (上・下)” デイヴィッド・ブリン (ハヤカワSF)

スタータイド・ライジング” と時間的におおよそ重なるくらいの時期の話です。 <ストリーカー>号の発見がもたらした銀河列強種族間 (とそして地球) の熾烈な争いは、人類の植民する辺境の惑星ガースにも波及した。 列強諸族の一つグーブルーが、ガースの住民を人質に取り <ストリーカー>号の発見を地球政府に白状させようと、来襲したのだ。 圧倒的な戦力により瞬く間にガースの中枢部は占拠された。 しかし、森林地帯に逃れたネオ・チンパンジーと一人の人間、 そして一人のティンブリーミーは果敢なゲリラ戦を開始した…。

強力な<ライブラリ>に頼るエイリアン vs. 自力で這上がってきた、機転に富む地球種族、という構図の戦いです。 人類は銀河系内の数ある種族でも特別な存在である、という設定は、 ある意味御都合主義的ではありますが、 SF系のエンターテイメントとしては一つの確立された形でしょう。 特別である、といっても人類が単に他種族よりも優れている、 というような設定では全く面白味はないと思いますが、 ブリンのこの世界の設定では、人類は「特別」と言っても「強い」わけではなく、 特別さゆえにつくことのできる隙をなんとか掻い潜っていく、 というあたりが面白いと思います。

さて、<ストリーカー>の発見に端を発したこの大騒動は、 まだまだぜんぜん決着をみていない (そもそも発見された大船団の正体もまだわかっていない) わけですが、 この本の解説によると、あと二作で完結するらしいです。 地球種族がこの過酷な銀河社会を生き延びるためには、 あと五、六個はアクロバティックな技が必要な気がしますが、 果たして二作で大丈夫なのでしょうか? ^^; (そもそも続編は順調に書かれているのでしょうか?) (9/24)


“ゴールデン・フリース” ロバート・J・ソウヤー (ハヤカワSF)

バサード・ラムジェット推進で47光年先の惑星を目指す宇宙船 <アルゴ>。 約一万人の乗員を乗せたその宇宙船は、コンピュータ <イアソン> によって制御されていた。 その旅の途上で、一人の科学者が死んだ。 彼女は <アルゴ> に関するある秘密を知ってしまい、 その口封じのために殺されたのだ。 犯人の <イアソン> はそれを自殺だと言い張るが…。 いったい、乗員を殺してまで守らなければならない秘密とは?

“犯人”のコンピュータの一人称で語られるという、 変わった物語です。 一人称なのに、あんな荒業で主役の乗員の回想シーンを入れてしまうとは^^;。 “ゴールデン・フリース”とは、 ギリシャ神話でアルゴ船に乗った英雄たちが取りに (盗りに?) 行った金の羊毛のことです (“イアソン”もその英雄たちの中の一人)。 アルゴ船の話は細かくは覚えていないのでよくわかりませんが、 いろいろとそれになぞらえた部分があるようです。 異星からの通信に関する件も、そういう部分があるようなのですが…、 ストーリー的にはあんまり意味をなしていないのが残念。 結末もちょっとありきたりかな。

でもまあ、雰囲気は面白く、比較的軽く読んで楽しめる話です。 (9/8)


“順列都市 (上・下)” グレッグ・イーガン (ハヤカワSF)

記憶や人格などを計算機上でシミュレートし、 仮想空間内で生きる、というのは SF の中ではもはやありふれた話です。 この物語の舞台も、そういうことがかなり当たり前になった世界です。 仮想空間内では、物理的な肉体の寿命は気にする必要がありません。 しかし、ハードウェアが壊されたり、 自分をシミュレートしているプログラムを止められたりしてしまったら?

ある男が、そういう事態が起ころうとも、永遠に存在し続ける方法がある、 と提案してきます。 いったい、どんな突飛な方法でそんなことが可能になるのか?

宇宙消失”と同じく、 無茶苦茶ぶっとんだ理論が登場する物語です。 今回の理論「塵理論」のポイントは並び替え。 たとえば、計算機上の画像データのファイル (たとえば花の写真としましょう) は、ある決まった規則で画面上に展開するから花の写真に見えるわけですが、 この同じデータを、違った規則で展開すれば他の意味のある画像 (たとえば、 猫の写真) が得られるかもしれません。 その場合、「これは花の写真であって、猫の写真ではない」 と言い切れるのでしょうか?

無限に増殖するプロセッサとか、 発端さえ手を付ければ後は実際に計算しようがしまいが構わない (だったら発端さえ必要無い気もするのですが…) とか、 ちょっと納得しがたい話も出てきますが、 メインのぶっとんだ理論が面白いのでいいか、というところです。 ストーリー的には、第一部と第二部との繋がりが意外と薄い感じがするのと、 サイドストーリー的な部分がメインのストーリーに絡んでこないのが、 物足りないところです。

そうそう、この本に関しては下巻の解説を先に読んだほうが楽しめるかと思います (ネタばれ度は低いです)。 本編を読んでから解説を読んで、 もう一度本編を読み直す気力はさすがにない^^;。 (8/30)


“内海の漁師” アーシュラ・K・ル・グィン (ハヤカワSF)

短編集です。 タイトルは、“ないかいのすなどり”と読みます (カバーには“ないかい”にはルビが振ってあるのに、 “すなどり”のほうにはないのは何故?)。

収められた 8つの作品のうちには、 ファンタジー系の寓話的な話も含まれていますが、 ほとんどが SF です。 特に最後の 3編は、ル・グィンの“ハイニッシュ・ユニバース” と呼ばれる世界の話です。 この世界には光速に束縛されない即時通信「アンシブル」 (他の作家の作品 (“死者の代弁者”など) にもこの名前は使われていますね :-) はありますが、 物質は光速の束縛から逃れられていませんでした。 しかしついにその束縛を破る「チャーテン」 理論が編み出されたのですが…。

このチャーテン理論に絡んだ表題作の “もうひとつの物語 〜 もしくは、内海の漁師” が一番良いですね。 タイトルの意味がよく伝わります。 他には“物事を変えた石”“踊ってガナムへ” などが印象的なところです。 (8/21)


“ブレイクの飛翔” レイ・ファラデイ・ネルソン (ハヤカワSF)

18世紀の偉大な詩人のウィリアム・ブレイクは (このフィクションの世界では) すっごく酷いやつだった、という話です。 以上。

…というだけではさすがにひどいので^^;、ストーリーを。 時間を自由に行き来できる、「ゾア」と呼ばれる人々がいた。 ウィリアム・ブレイクは幼い頃からその能力を持ち、 妻となったケイトもその能力を身につけた。 ウィリアムは野心を持つ他のゾアとともに歴史改変の旅に出てしまうが、 残されたケイト (主役はこの人) は夫を取り戻さんがために、 その後を追う旅に出た…。

巡り合うさまざまな世界は、 ウィリアム・ブレイクの詩に描写されている世界らしいので、 その道に詳しい人には楽しめるのかもしれませんが、 ストーリー的にはいまいち。 「時間線」のルールも不明確だし。 “タイム・シップ” とかと較べると、スケールも小さいし^^;。 落ちが手前味噌的なところも何かなぁ。

最初に書いた通り、 (この世界では) ウィリアム・ブレイクは酷いやつ、 という印象ばかりが残る感じでした。 邦題の“ブレイクの飛翔”のブレイクは、ケイトさんのことですね、きっと (原題は“Timequest”)。 (8/15)


“死者の代弁者 (上・下)” オースン・スコット・カード (ハヤカワSF)

エンダーのゲーム” の続編です。

バガーとの戦争から 3000年、「エンダー」の名は「異類皆殺し (ゼノサイド)」を行なった、史上最悪の人物として知られていた。 一方、その罪の告発を行った元祖「死者の代弁者」は、 宗教の教祖のように受け止められ、伝説的な偉人として扱われていた。 一般の人々は「エンダー」こそが元祖「死者の代弁者」 であるという事実を知らなかったのだ。 そして、 そのエンダーが今も生きており、 星から星へと光速度に近い速さで旅をし (相対論的効果で年をとらない)、 様々な人々の「代弁」をしながら、 自らが滅ぼしてしまったバガーの窩巣女王の安住の地を探していることも、 知らなかった。

ついに、銀河に広がりつつある人類は、第二の知的生命体、 ピギーと遭遇した。 前回の過ちは繰り返すまいと、議会はさまざまな制約を現地の研究者に課し、 慎重な対応をしようとしていた。 しかし、ある日、研究者がピギーに殺されてしまった。 その殺された研究者の「代弁」をしてほしいという要請を受けたエンダーは、 さっそく現地へと赴いた…。

終盤の「代弁」が行われる辺りまでは「名探偵エンダー、 異星生物の謎を解く」という感じの、ミステリーっぽい展開です。 最後は、バガー戦役のときには (相手を滅ぼしてしまうまで) 為し得なかった、 異星生物との間の対話と理解の話です。 ピギーの謎を解く一つの鍵は読者にはけっこう明らかなので、 そこのところはちょっと歯痒い感じもしますが、 「代弁」の辺りは盛り上がりますし、まずまずのおもしろさだと思います。 (8/2)


“サンダイバー” デイヴィッド・ブリン (ハヤカワSF)

銀河文明とのコンタクトを果たしてからまだ日の浅い人類が、 銀河文明の<ライブラリ>にも記載がないタイプの知的生物を見つけた。 燃え盛る太陽の中に生物がいるというのだ。 ひょっとしたらその生物たちが人類に知性を与えた謎の種族なのかもしれない。 かくして、人類を中心としたチームに何名かの銀河種族が加わり、 “サンダイバー”計画が遂行されていた…。

スタータイド・ライジング” の時代から 200年ほど前の物語で、 チンプはもう人類と一緒に宇宙にも出ていますが、 イルカはまだ知性化されたばかりの頃です。

ストーリーは“サンダイバー”計画に関係した陰謀に対する謎解きが中心です。 そっちに力が入りすぎて、 他の部分は少し盛り上がりに欠けるかな、という気がしないでもないです。 これがブリンのデビュー作だそうですから、 そういう部分がまだ不馴れだったのでしょうね。

解説にも書いてありますが、 宇宙船の名前が“ブラッドベリ”なのは、もちろん “太陽の黄金の林檎”(ハヤカワの同名の短編集、もしくは 創元SFの“ウは宇宙船のウ” に“太陽の金色の林檎”の名で収録) があるからですね。

太陽の中の生物というと、もちろん、クラークの “天の向こう側” に収録されている“太陽の中から”も思い出されます。 (7/19)


“ダブル・スター” ロバート・A・ハインライン (創元SF)

あまりぱっとしないが技術とプライドは充分に持っている俳優が、 ある公的地位にある人物の代役をやってほしい、と持ちかけられた。 実は、その人物とは太陽系の運命を担う大物政治家で、 しかも、現在、政敵にさらわれ行方不明中だというのだ。 大勢の人たちと会わなければいけない立場で、 彼はそれを無事演じきることができるのか?

昔からよくある「高貴な人物とうらぶれた人物のすり替わり」 の物語ですが、 さすがハインライン、 「演じる」というところに力点を置いておもしろい話にしています。 ハインラインの場合、あまり「敵」が描写されないので、 主人公側に感情移入しやすくて楽しみやすい、 というのもあるかもしれません。

締めくくり方がうまい、というのも感じますね。 “月は無慈悲な夜の女王” や“夏への扉” ほどではないですが、 印象的なエンディングだと思います。 (7/6)

Contact: aya@star.email.ne.jp.cut_off_here