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変則的な虹

虹というと誰でも知っている現象ですので、 研究し尽くされてあらゆることが解っていそうに思えるかもしれません。 ところが、ごく稀に常識離れした変わった虹が見られることがあるようで、 これらに関しては未だ詳しいことが判っていません。 昔から絵やスケッチとしていろいろなパターンの変わった虹が記録されています。 そういった記録の中には、 絵ですから、見間違いや覚え違いも含まれているでしょうし、 実際、 反射虹過剰虹 ではないかと思えるものもあります。 しかしそれを考慮した上でも、 いろいろと変則的なものが現れてきたのだろうと思われます。

そして現在。 デジタルカメラが普及したお蔭もあって、 こうした変わった虹が写真に収められるようになってきました。 ドイツの Atmospheric Phenomena のページの 奇妙な虹 にいくつか載っています。 ここでは、日本で撮影されたものをいくつかご紹介します。


その1

「跳ね虹」 強調画像
尼崎市の井上さんが 2003/10/12, 16:15 ころに神戸市北区で撮られたものです (強調画像は筆者による処理)。 もともとは井上さんが朝日新聞社に写真を送られたもので、 新聞社の方がなぜこのような現象が見られたかを調べる際にこちらに問い合わせを頂き、 井上さんからこちらでも紹介させていただく許可を頂きました。
主虹 が、上のほうから辿ると曲がり方が浅くなって (=外側にずれていって)、 あるところでガクンともどったようになっています。 下の部分が内側にずれているのかな、とも思えますが、 副虹 の曲がり具合と見比べても、どちらかというと上の部分が 「跳ね上がって」いるようです (そこで、この変わった虹を「跳ね虹」と呼ぶことにします。 井上さんのご提案です)。 下の部分もずれていて、だんだんと戻っているような気もします。 こんな不思議な虹があるんですね。

写真をよくよく見ると 強調画像のほうを見て頂けると判ると思いますが、 ちょうど虹が途切れているあたりを含め何本か光の明暗の筋が見えます。 これは恐らく 反薄明光線 です。 それぞれの明暗の境界は対日点 (虹の弧の中心) に向かい、普通ならば虹の弧とは垂直に交わっているはずです。

そこで、強調画像を元に作図し、 本来ならば虹が沿うであろうはずの円弧を描いてみたのが左の図です。 赤い線が反薄明光線と思しき筋に沿った線、 黒い弧がその交点を中心に描いた円の一部です。 手作業なので誤差は大いにあると思いますが、 副虹部分はほぼ弧に沿っているにも係わらず、 主虹部分は上から辿ると明らかに途中から跳ね上がっているのが判ります。 途切れた下の部分も、 この図で見ると通常の位置からもう一度跳ね上がっているように見えます (注: レンズによる歪み (樽型収差や糸巻型収差) があるかもしれないので、 作図による誤差以外にも誤差があり得ます)。 おお、やはり作図してみるものですね(^^)。

どういう仕組みでこんな虹が見られたのか? 最初に書きました通り、詳しいことは未だ判っていません。 ここでは、いくつかの可能性を考えてみたいと思います。 まず、通常の虹と「ずれている」わけですが、 ずれ方は、虹の弧の

  1. 半径が違う
  2. 方向が違う (平行移動)

の二種類に分けられます (組み合わせることも考えられます)。 半径が変化するためには、虹の原因となる水滴の屈折率が変わるか、 あるいは水滴が変形して、断面が円では無くなっている、などの理由が考えられます。 屈折率の変化の原因としては、水に何かが溶けている (塩分とか (海の飛沫で見える虹は半径が小さくなります)) とか、 水ではなく、氷になっているなどがあり得ます。 方向を変えるためには、反射虹のようにそもそもの太陽の光の方向が変わっている、 という理由が考えられます。 光の方向を変えるには反射のほかに屈折という手もあります。 回折というのもありますが、これは光がかなり弱くなってしまいますし、 対称に散るはずなのでここでは考えなくてよいでしょう。 屈折が原因だとすると、蜃気楼のように、 空気の温度差により屈折率の違う部分が上空にあった、 という可能性があるかもしれません。

さて、今回の虹では、跳ね上がっている部分では通常の位置に虹は見えておらず、 ガクンと途切れて元に戻っています。 ということは、原因は、なんであれ、 途切れているところを境に急激に変わり得るものであることが予想されます。 そう考えた場合、屈折率の違う水滴などが原因だとすると (これを [説1] とします)、 途切れているところを境に (今回の場合上下で) 何かが溶けている/溶けていないなどが変わらなければならないので、 (特に数分以上の時間安定してそうなっているのは) 条件的に厳しいのではないかと思います。 太陽光の方向が変わっている、という説の場合は (これを [説2] とします)、 途切れているところよりも、 連続的に変化している側のほうがそんなにきれいにいくのか? (もっと揺らぐんじゃないのか?) というところが難点ではないかと思います。 そもそも、上空からの太陽の光がそんなに曲がるのか? (主虹の幅分 (2度くらい) 曲がっていることになります) という点も疑問は残りますし。 モデルを作って計算し、検証しなければならないでしょう。

[説2] のほうが [説1] よりも有利に思われる点があります。 既に述べた、 反薄明光線と思われる光の明暗の筋です。 暗い部分には影になっているなどの理由で光が少ないのか、 あるいは明るい部分に他より多くの光がきていることになります。 ちょうどその明暗の筋の部分を境に虹がずれていますから、 何らかの原因で屈折した太陽の光が筋を作っているとも考えられます (たまたま方向が一致しているだけの可能性ももちろんあります)。 そんなわけで、 筆者は現時点では [説2] が有力ではないかと考えていますが、 まったく違う仕組みかもしれませんし、 解明までにはまだまだ時間がかかりそうです。 とりあえず、大気の屈折率の温度や湿度などによる変化のデータを探さねば…。


その2

上の虹だけでも手に余るほどの謎なのですが、 今度は埼玉県の junichi さんから 2001年 9月下旬頃に岩槻市で撮られたという写真を頂きました。 まずは←主虹の一部分をご覧下さい (クリックすると大きな写真が見られます)。 「跳ねて」はいないんですが、上半分と下半分とで虹の幅が違います。 具体的には、赤の外側の部分は変わらないものの、 緑や紫の位置はがくっとずれていて、 上半分の赤の二順めの過剰虹が下半分の一順めの過剰虹に続いているように見えます。 虹の幅は、水滴の大きさによって微妙に変わるので、 幅の違い自体はそれが原因かもしれません (これくらい違い得るかどうかはまだ確かめていません)。 だとしても、なぜここでがくっと変わっているのかは謎です。 上の「跳ね虹」とはちょっと違うかもしれませんが、 急に変化している部分などに関して、何かしらの関連はあるかもしれません。

ちなみに赤の過剰虹は普通は目立ちませんが、 これは日没間際で太陽の光の赤色が強く (というか赤色以外が弱く)、 はっきりと見えているのだと思います。 そのこと自体もけっこう珍しいかもしれません。

これは、変化している付近の強調画像です。 下半分の赤の二順めの過剰虹も見えていますが、真ん中で途切れているようです。 上半分の細い虹は下にも続いていて、 下半分では太い虹がより明るく細い虹を隠しているのかとも思いましたが、 上下で明るさはあまり変わらないように見えるので、そうでもなさそうです。

次はこれをご覧下さい (まだまだ続きますよ :-)。 同じ虹の、少し時刻の違うころの写真 (強調処理したもの) です。 副虹も写っています。 主虹は、がくっとずれてはいませんが下のほうでは紫や緑が消えて、 黄色が太くなっています。これは、 下のほうほど夕日の赤さが強くなっているのではないかと思います。 赤の過剰虹はずれていません。

そして、副虹のほうをよーくご覧下さい。赤、緑、紫の外にもう一度、 赤や緑が見えます。 これは、副虹の過剰虹だと思われます。 主虹の過剰虹は内側に現れますが、副虹の場合はこのように外側に現れます。 撒水器で撒いた水に掛かる虹などで見えているものの写真はいくつか見たことがありますが、 空に掛かる副虹の過剰虹が実際に見られ、 写真に撮られたのはかなり珍しいと思います。

過剰虹をもう一つ、←これは同じ主虹の左側のほうですが、 あたかも虹が三重になっているかのように見えます。 赤の過剰虹がはっきりみえるので、通常よりも虹が多重に見えている感じが増しています。

さて、この一連の虹の写真の中には、虹とはたぶん別の、 よく解らない現象がもう一つ写っているのですが、 それは 別項 で…。


その3

時間経過1 時間経過2 時間経過3 時間経過4
第三の変則的な虹の例です。 東京の橋本さんから頂いた、 2003/8/9の 18:45ころのものです。 この日は、台風の通過で東京や埼玉のあちこちで虹が見えたのですが、 その中にこんなものもあったのです。 上の段が通常の写真、下の段がそれぞれの強調写真になります。

時間経過1、2 は、 変則的な虹 その1 と同じような感じで跳ねています。 跳ねている部分の右側の部分は内側にもずれているように見え、 ささくれだっているといってもあっていそうな感じです^^;。 時間経過2 はドイツの Atmospheric Phenomena のページの 奇妙な虹 のものと似たような雰囲気 (全体に斜めにずれた虹が交差している?) もすこしあるように見えます。 時間経過4の右のほうは、ちょっとぶれながら曲がっているようにも見えます。

時間経過4 の右ぎりぎりに見える反薄明光線と思しき黒い筋が、 時間経過1 の真ん中に見えているものが移動していったものだとすると、 おおよそこの光の筋にそってずれているぶぶんが移動してものとも考えられます これは、何かヒントになるかも?


関連項目

虹 (主虹) 副虹 高次の虹
虹の大きさ 副虹の色の順序 その他の虹
(過剰虹、反射虹、雲虹、etc.)

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