連載コラム・藤子な瞬間


月刊FFMM 2000年12月号(2000/12/04発行)より




特別編「広州深[土川]5泊6日の旅」

 11月11日〜13日という日程で、香港・深[土川]に藤子ファンが集まる会が行われました。私もこの会に(一部だけですが)参加するため、11月10日から15日にかけて旅に行ってきました。参加者は日本からの8名に加えて香港と中国本土から各1人の合計10人。藤子不二雄メーリングリスト初の海外オフラインミーティングは大盛況でした。

●出発前

 まず、私は現在、中華人民共和国で生活しています。場所は広州や深[土川]のある広東省の西隣、広西壮族自治区です。ここの北西部にある「百色」という町の農業学校(註1)に派遣されているのです。
 でまあ、出発前は校長らとゴタゴタしてしまいました。中国人は深[土川]などの経済特区に入るのに地元公安(註2)発行の許可証がいるらしいですが、私は外国人だからパスポートと居留証(註3)があればいいはず・・・なのに、校長は信じてくれず、公安局へ手続きに行けと言います。公安は公安であちこちに問い合わせた挙げ句に「パスポートがあれば大丈夫」という結論。なんだ、やっぱり手続きなんか要らなかったんじゃないか。

●11月10日

 朝0930発(実際は10分ほど遅れた)の列車で出発。間もなく乗務員が来て、切符と寝台の番号札を交換。さらにしばらくして今度はケーサツが来た。私は居留証とパスポートを見せただけで済んだが、向かいのオッチャンは荷物を開かれ、ボディチェックまでされ、旅行の目的もしつこく聞かれていた。この列車(昆明−>広州)は麻薬を警戒しないといけないルートなのかもしれんなぁ。外見が怪しく見えると損だ。
 昼食は食堂車へ。チト高め。ご飯はおかわり自由らしいので「もう一杯」と言ったところ「そこにあるから自分でよそえ」と言われた。そう言った当人は客用の席で茶を飲みながら他の乗務員とだべっているのである。これが中国。
 車内放送で「次はOO号車のXXさんのYY」とのアナウンスに続いて歌が流されていた。放送室の前にはテープを持った客が並んでいたし、どうやら頼めば希望の曲を流してくれるらしい。コミッククリエイション(註4)みたいだなぁ。よし、次に乗るときは何か持ってこよう。列車だから「銀河鉄道999(註5)」あたりかな。いやいや、藤子ファンとしては「夢のゆくえ」で行くべきかも。

●11月11日

 6時前、番号札と交換で切符を返してもらい、0616定刻に広州駅着。駅の周りをぶらぶらと、市場を見たり朝食をとったりしつつうろつく。道ばたのニーチャンから「仕事を探してるのか?」と声をかけられたが、仕事を探しに出てきたように見えたんだろうか。2回、それぞれ別のニーチャンから同じことを言われたのは、つまりそーゆーことなんだろうか。
 深[土川]行きの速い列車(約1時間)は高いので「帰りに乗ればいいや」と考え、のろくて安い列車で約3時間かけて深[土川]に着いたのは昼過ぎだった。この日は週末で香港人が多数来ており、宿はかなり予算オーバーを余儀なくされた。夜、部屋に売春の斡旋と思しき電話がかかってきた。もちろん断りましたよ。

●11月12日

 8時頃、近くの市場を見に行き、ついでに朝食。10時過ぎ、香港から来る方々との待ち合わせ場所である駅前の五つ星ホテルに向かう。11時頃にホテルのカウンターから呼ばれ電話にでると、香港から来る途中で通関に手間取り遅れるとのこと。ロビーを待ち合わせに使うだけで一銭も払わない客(客と言えないかも)にも丁寧に電話を取り次ぐとは、高級ホテルってすごい。香港からやって来た9人(うち8人は日本から)は12時頃にやっと到着。実は私、日本人と顔を合わせるのはこれが3か月ぶりでした。
 時間が時間なので昼食をとる予定の彭年酒店へ直行。みなで高級中華を食う。食後は同じホテルの展望ラウンジへ行き、深[土川]の町を眺めつつお話。
 話題は香港のドラえもんグッズのことや、各地で開催されている「藤子・F・不二雄の世界展」のことなど。私としては、もっともっと濃いぃ話もしたかったのですが、軽めの話題に終始したのがちょっと残念でした。かといって高級ホテルの展望ラウンジで、必死に頭を絞って「藤子あまのじゃくゲーム」とか「藤子しりとり」とかをやるというのももったいないですよね。
 私はここで、日本から持ってきてもらった単行本3冊(「藤子・F・不二雄SF短編集PERFECT版」1巻、4巻、藤子不二雄Aの「ホアー!!小池さん」2巻)を受け取った。この日の昼食とラウンジの支払いは合計で一人当たり約300元(1元は約14円なので、約4000円)。これはかなりの優待価格であるらしいが・・・それでも高いなぁと思ってしまうのが中国の物価に慣れてしまった悲しさ。普段の1食の約100倍である。日本や香港で同程度の食事をしたらこんなものじゃ済まないんでしょうけどね。百色だと、ちょっといい料理屋でも10人で食事して「全員で」300元くらいなんです。
 香港へ行けない私は、17時頃に深[土川]駅の人混みに消えていくみなさんを見送り、深[土川]にもう一泊しました。

●11月13日

 深[土川]・広州東間を唯一1時間未満で走る列車(0800発)に乗るため、速いだけに高い切符を買い、ヨーロッパの高速鉄道を思わせるデザインの「新時速」に乗り込む。動力集中式(註6)なのも欧米風。シートはリクライニングこそしないが、テーブルがあるし座り心地も悪くない。車内誌があるのも良い。線路も良いらしく、スピード(註7)を出しても揺れは少ない。広州東には定刻通りに0855着。
 ここからは地下鉄に乗ることにするが、切符の自販機は硬貨しか使えないので、硬貨を持っていなかった(註8)私は有人の窓口へ。そこで行き先を告げて金を出すと、料金分の1元玉をくれた。これを使って自販機で切符を買えと・・・?。な〜んか変じゃありませんか?これが中国・・・なのかなぁ。
 地下鉄の駅から迷ったりしたせいもあって、約1時間歩いて日本総領事館のある花園大厦へ。領事館で在外選挙人名簿登録の手続き。
 その後は広州の街をうろつき、ナムコのゲームセンターやジャスコを覗いたり(日系のゲームセンターやスーパーを見るのは中国に来て初めてでした)しつつ広州駅まで歩いてしまった(えらい疲れたぞ)。
 広州駅に着いたのは17時頃、駅の周りにあるバスターミナルを見て回り、省汽車[立占]で南寧(註9)行きを発見。1820発という夜行寝台バスは15分ほど遅れて出発し、その後も広州市内をあちこち走り回って客を集めた上でようやく広西を目指して走り出しました。

●11月14日

 6時頃南寧着。客引きを無視しつつ百色行きのバス時刻と料金を調査。市内にある他のバスターミナルでも百色行きを調査。午後は電脳街をうろつく。科学実験器具の店などもあっておもしろい街だった。夜は南寧で働いている仲間に泊めてもらう。

●11月15日

 朝食後、民族文物苑など見物してからバスで百色へ。快班(註10)のバスは僅か4時間ほどで百色に着きました。

−註釈−

  • 註1:農業学校 本文に戻る   
    • 日本で言ったら農業高校か高専に相当。
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  • 註2:公安 本文に戻る   
    • 日本で言うと警察か、むしろ法務省に近いかも。様々な権力を持っています。
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  • 註3:居留証 本文に戻る   
    • 正確には「外国人居留証」。中国に長期滞在する外国人の身分証。日本の外国人登録証のようなもの。でも指紋押捺はありません。
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  • 註4:コミッククリエイション 本文に戻る   
    • 東京で開催される同人誌即売会。その世界で最大規模を誇る「コミックマーケット」に比べればはるかに小規模で、その分細かいサービスがある。参加者がCDを持ち込むと、それを会場BGMに流してくれるのもその一つ。
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  • 註5:銀河鉄道999 本文に戻る   
    • アニメ「銀河鉄道999」の始めの歌。「汽車は〜闇をぬ〜けて〜、ひか〜りのう〜みへ〜」という、あの歌です。
    •   
  • 註6:動力集中式 本文に戻る   
    • 動力を持たない客車を機関車で引っ張って(または押して)走る列車。対して日本の新幹線は客が乗る車両にモーターも積んでいるので、動力分散式。
    •   
  • 註8:硬貨を持っていなかった 本文に戻る   
    • 中国(特に地方)では、硬貨はほとんど流通していません。従って地方で生活している私は硬貨を持っていなかったのです。
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  • 註10:快班 本文に戻る   
    • 車体の性能が高く、内装も良く、その名の通り速いバス。
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 今回私が手にした3冊の単行本のうち、最も嬉しかったのは「小池さん」の2巻でした。A先生はきっと楽しんで描いているのでしょうね。

藤子不二雄メールマガジンのバックナンバー
http://chinpui.shiratori.riec.tohoku.ac.jp/ffmm/


同じ旅行記を中国在住者(または中国在住経験者)向けに書いた「小龍掲載版」もあります。