連載コラム・藤子な瞬間


月刊FFMM 2000年11月号(2000/11/06発行)より




▼その3「未来の想い出」

 現実の出来事や日常生活の中でふと「こんな場面がマンガにあったな」と思う、そんな「藤子な瞬間」を紹介します。第三回もF作品から「未来の想い出」です。

 ここ1〜2年、小学館などからF先生関連の商品が次々と発売されています。この藤子メールマガジンで行っているレビューなどでは、ファンの間でかなり好意的に受け取られているようです。しかし私はあえて苦言を呈したいのです。
 少し古いところでは「ドラ自選集」が出ましたが、これには箱付の限定版というものが存在しました。
 小学館ではないですが、「DORA THE BEST」というCDが発売され、これにも箱付の限定版が存在しました。
 てんとう虫コミックス未収録作品ばかりの「ドラえもんカラー作品集」も発売されました。文庫の「ドラミ編」「スネ夫編」なども含めて、未収録という言葉が結構宣伝に使われていたように思います。確かにそれまで読めなかった作品を読めるのは嬉しいのですが、ちょっと考えてみて下さい。今まで発売されたてんとう虫コミックスの収録作品は、発売された時点では全て「てんとう虫未収録」だったはずです。新たな作品が単行本化されるというありがたみで言えば、「ドラカラー」の新刊と「てんとう虫」の新刊は同等のはずです。ましてや未収録が1編だけの文庫など、どれほどの価値がありましょう。しかし「ドラカラー」などの売り方は「てんとう虫」の新刊とは明らかに違いました。
 今年3月には原画集が発売されました。価格も高いですし、特製の額を作るなどという商法も含めて、これは「マンガ作品として読む」ためのものでないことは明白です。
 現在刊行中の「SF短編PERFECT版」、全巻予約特典に特製コインがあります。また単行本未収録作品の収録をセールスポイントにしています。
 文庫「ドラ」の再編集版も出るようで、これも集めると特典があるそうです。
 このような商法は(数が少なくても)強烈なファンを持つアニメなどで、かなり限られた数のターゲットに、ほとんど中身が同じな商品を何度も買わせる手法に似ている気がするのです。某アニメ映画などは前売り券に付ける特典を変えることで、一人のマニアに3枚も4枚も前売り券を買わせたりしていました。私には、小学館がこういう濡れ手に粟な商売を始めたように思えるのです。そして「こういう商売では長くは続かないのでは」とも。

 ここで思い出すのが「未来の想い出」です。
 主人公の納戸理人が人気の頂点をわずかに過ぎた(でもまだ本人に自覚は無い)ころに馴染みの編集者が「先生にはコツなんか覚えて欲しくなかったな」と言う場面があります。納戸が「二日酔いで体調は最悪。でも原稿は上がってますよ。」という場面。ここの編集者を私に、納戸を小学館に置き換えると、以下のような会話ができます。

「小」=「小学館」、「古」=「古田」すなわち私
増刷未定で実質絶版の本も多いけど新刊は出すよ。
小学館さん、すっかりコツを飲み込んだようですな。
おかげさんでね、昔は古い作品の増刷とかもあって大変だったけど。
小学館さんにはマニア向け商売のコツなんか覚えて欲しくなかったな。
ナヌッ。
マニア向けの商品を作るってのは販売対象を限定するって事ですよ。
すると何ですか、最近の僕は一部のマニアを狙った商品ばかり出していて、多くの読者のことを忘れていると?
そこまでは言っていない、しかし事実そうですな。
うちから単行本を出してる漫画家は藤子不二雄だけじゃないんだ、藤子作品なんか出すのを止めてもいいんですよ。
いやこれは、長いつきあいに甘えてつい失礼なことを言ってしまいました。(と、SF短編PERFECT版4巻を買って帰っていく)

 最近の商品は原画集を筆頭に、価格が高めのように思います。パーフェクト版の1500円というのも、子どもにとって安くないですよね。小中学生が気軽にお小遣いで買えるでしょうか。藤子作品にある程度以上思い入れのあるファン・マニア以外はあまり買わないのではないかと危惧しています。それではファン層が広がらない。ということはつまり、藤子ファンが高齢化していき、じり貧になるということです。今既にファンになっている連中から搾れるだけ搾ってポイという方針なのでしょうか。

 藤子作品、特にF作品は圧倒的多数が子ども(小学校入学前から中学生くらいまで)を対象に描かれています。子どもに、それこそ本がボロボロになるくらいに読まれてこそ意味があるものです。大人に買われて大事にコレクションされるためのものではないはずです。もっと、子どもが気軽に触れられる藤子マンガであって欲しいものです。
 納戸理人は「一作ごとに新境地を開かなければ意味がない。」と気付きました。小学館にも「一冊ごとに新たなファンを開拓しなければ意味がない。」という考えで出版に携わって欲しいです。ドラカラーは基本的に子ども向けなので、最近の出版物の中では最も高く評価しています。この方向で進んで下さい。

<『未来の想い出』あらすじ>

 主人公は中年の漫画家、納戸理人。今はあまりさえないが、かつては「ざしきボーイ」などの児童マンガで子ども達に大人気だった。ある日、自分が20歳から40歳までの半生を何度も繰り返して生きていることに気付き、現在の記憶を持ったままもう一度20歳に戻って人生をやり直す事を試みる。

<収録>

●単行本『未来の想い出』(小学館)

藤子不二雄メールマガジンのバックナンバー
http://chinpui.shiratori.riec.tohoku.ac.jp/ffmm/