2006.01.22

「スキルの科学の基本的枠組み」吉田民人(2005年)を箇条書き的に纏めてみた。

スキルの拡張定義:主体−対象複合体の適合性
主体:Program       選択されるものである。その基準は対象にある。
対象:Requirement   必要性基準
      Affordance    可能性基準

主体のプログラムと対象が与えられている場合、Affordanceが顕在化する。
   例「歩行プログラムを持った動物にとって、大地は歩くことを可能にする。」
対象のみが与えられている場合、Requirementが顕在化する。
   例「雨は傘の携帯を要請する。」「商品は貨幣を要請する。」

スキルはプログラムそれ自体(主体の能力)でもなく、対象それ自体(技術体系)でもない。
それらの関連性である。すなわち、実体ではなく、関係性である。
現実には、片側に偏った場合が多い為に実体として捉えられやすい。

スキルを関係性として捉えたときその普遍的な枠組みの中で考察することが可能となる。
そのことによって、個別のスキルにおける個々の要素
間の類似性が気づかれ、
新しいアプローチが発見される可能性がある。

一方具体的なスキルの解明と発展の為には勿論個別実体論的立場が必要である。

ハードウェアの拡張定義:プログラムによる構造。
                        プログラムの作動結果、
                        としての脱記号的プログラム(この言い方は混乱すると思う)。           
   ハードウェアの例として見たとき、有機体と機械は類似していて下記の比較が出来る。
   プログラムの、  有機体では、  機械では、
   存在様式が      内在            外在
   記号形式が      DNA記号      数学的記号
   創発様式が      突然変異      自由発想  
   選択様式が      自然選択      主体選択

   これらの構造は例えば太陽系のような自然構造とはプログラムによるという点で異なる。
  
スキルの科学のためには適合連関を分節する必要がある。
     「主体とインターフェースと対象に分ける」
     「ProgramとRequirement/Affordanceに分ける」
     「記号的プログラムとハードウェアに分ける」
     全ての要素を同等に扱うことが重要な視点である。
    
環境心理学者の表現「対象や状況に埋め込まれた・・」の内容は
    「環境や状況との不可分性や文脈依存性」
    「記号的プログラムの内在」
    「記号的プログラムのハードウェアー化」
    の3つの意味があり、区別する必要がある。
   
スキルの基本形態:3×4に分類できる。
   主体のプログラムを変えるのか、それとも対象を改変するのか?として、
      1:主体志向 ; 2:対象志向 ;
 3:主体=対象統合志向
   改変するプログラムの種類として、
      a:感覚/運動的プログラムの優位 ; b:言語的プログラムの優位
   ; c:ハードウェアーの優位         ; d:ハイブリッド型

   例(すっきりしないものもあるが、、)
   1a  競走、競泳、楽器演奏のスキル
   1b  知的創造、主観的幸福のスキル
   1c  人工臓器、移植臓器、再生臓器(受け取る側にとって)
   1d  獲得過程中のスポーツ・スキル
   2a  対象機械との馴染みを重視する限りでの機械工のスキル
   2b  販売の成功(セールス)
   2c  工学的設計
   2d  リハビリ機器や福祉ロボット
   3a  用具の性能と不可分の身体的スキル、動物調教のスキル
   3b  知識教育
   3c  旋盤工のスキル
   3d  内視鏡手術のスキル、経営のスキル、人間と機械との共生

スキルを1aの自然的な定義から拡張した結果、
技術の自然的定義2cも拡張されて同じ内容を包含するようになる。
これは(文系を含有することで)技術に対する新しい見方を提供するものである。
                  理系の目的                    文系の目的
理系の知識    物質的技術と生物的技術     携帯電話、自動改札機
文系の知識    地球温暖化対策の為の政策   経済政策、宗教

武谷三男の定義「目的達成のための法則の意識的活用」は上の段に限定されている。

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