2024.06.16

フルートフェスティバル in ヒロシマは毎年企画されていて、僕は2013年(第34回)から2019年まで毎年参加してきた。2020年(第41回)はコロナが怖かったので参加していない。少人数で始めたが結局コロナ禍で中止となり、2021年(第42回)も同様に中止、2022年(第43回)には僕も参加登録したのだが、コロナの感染再拡大が始まったので練習開始前に辞退した。2023年(第44回)には僕は参加しなかった。結局2023年の夏に僕もコロナに感染して、オミクロン株というのはそんなに怖がる必要もなかったことを知って、今回は久しぶりに参加となった。

    音大学生も含めてプロレベルのグループを「小オケ」、僕のようなアマチュアレベルのグループを「大オケ」と別けて、それぞれの曲と合同曲をやる。会場その他の関係で約100名程度である。普通のフルートの1オクターブ上のピッコロから2オクターブ下のコントラバスフルートまで含まれる。あまり使われないが3オクターブ下のダブルコントラバスが使われたこともある。

    約2ヶ月前から毎週日曜日に集まって練習するので、僕にとってはとても良い勉強になって有難い。この会のお陰で僕のフルートも随分マシになったと思う。

    今回の指揮者は林直之氏である。フルートは高木綾子にも一年間教わったそうであるが、天才の指導はあまり参考にならなかったという事であった。現在は指揮者として名を知られている。広島出身で、京大工学部物理工学科→東京芸大。エリザベト音大の講師。地元という事で、指導していただく回数が多くて、とても良かった。ちょっとした芸人まがいの事をやって、皆の気持ちを盛り立ててうまく指導している。なお、一部の曲には応援の打楽器(伯谷英泰氏)が加わって、音色とダイナミクスとリズムを補ってくれた。

    最初の曲は合同で、J. バーンズ「アルヴァマール序曲」である。いかにもアメリカ的な格好良さと、中間部の抒情表現が素晴らしくて、僕も吹いている内に好きになった。しかし、林先生によると、単純なようで演奏は案外難しい。曲の良さを引き出すには拍子の正確さが大切で、メロディを吹くときも伴奏側の細かい音符を良く聞かないと音が濁ってしまう。練習の時にはその細かいリズムのメトロノームをかけてそれに合わせるようにするとよい。

    また、西洋音楽では一般的には小節あるいは単位となる節の最後に向かって強勢(溜め)が置かれて次の小節を引き出す、という感じが多いので、頭に入れておく。和声でいうとドミナントからトニックへの動きも同様である。また途中で3拍子の小節が入るけれども、これも同様な効果で、4拍目を飛ばすことで、切迫感を演出するのだから、この3拍目には特に強勢を置かねばならない。

    主題のオクターブ上昇の動きは単にその音の動きだけでなく、勢いを感じさせなくてはならない。また、走りすぎて指揮者を置いていくようなことでは困る。あくまでも規律正しい佇まいを忘れてはならない。

    中間部の抒情的な処は物語りを思い浮かべると良い。この場合は初心な青少年の初恋で始まる。打ち明けるべきか否かの迷いの部分で始まり、少し期待を持たせる部分が来て、徐々に期待が高まり、ついに歓喜の瞬間に至り、その余波が2回続き、最後に失恋の悲しみが来て、その中で一瞬の希望が2拍だけあって、静かに沈み込んでいく。なお、フルート合奏用に編曲した山田良平氏の手紙も紹介された。YouTubeに演奏例がある

    本番の演奏は最初ということもあって、まずまずだった。

    2曲目は小オケで、荒川洋「ラプソディア」ー広島のフェスティバルのためのーである。これは2022年の呉公演で作曲者自身の指揮で初演されたものという事である。僕は舞台裏で聴いた。3楽章から成っていて、最初の「花夢の里」(世羅町)というのは、全体に軽快で細かい動きとこんもりとした感じの和声でちょっと幸せな気分になる。第2楽章は「弥山(みせん)の星空」というタイトル通りで、夜を思わせる和声とこんもりとした森に分け入っていく感じである。森といっても熱帯ではなくて、温暖な感じである。第3楽章「尾道」はちょっとにぎやかな街並みや商店街という感じである。小オケの皆さんは2回目だったので、楽だったのかもしれないが、なかなか難しい曲という感じがした。YouTube で初演が公開されていた

    間に楽器紹介があって、3曲目は大オケで、カーペンターズの歌った「Sing」。親しみやすいポップスなのだが、伴奏パートは結構難しかった。小節の前半は上昇する分散和音で、後半は3拍目の後半から入る引っ掛けるような音の動きである。このリズムは勿論テーマパートのメロディを引き立てる役目であるが、リズムを強調しなくてはいけないし、かといって目立ちすぎてもいけない。弱音でアクセントをうまくつける必要がある。おまけにフルートでは上昇する分散和音の最後の音 E や F は(共鳴管長が長いので)すんなりと綺麗に鳴らすのが難しい。

    これに加えて、4小節目は次の4小節への勢い付けとして強勢が置かれるので、この瞬時の切り替えもまた難しい。

    もう一つの難しい要素は8分音符を3分割した3連符で、これがだらっと長くなってしまうと、全員の音がごちゃごちゃになってすっきりしない。その3連符の動きがフルートでは全てのキーを同時に動かす低音部から中音部の動きになっているので、素早く動かすのが難しい。最後の方では少し速度が遅くはなるが、付点四分音符の後に32分音符2つというのがあって、これもすんなりとは合わない。なお、メロディーパートでは 6連符や 5連符がなかなか合わないというので、大変なようだった。心の中で耳慣れた同じ音数の単語を唱えると良いらしい。

    リハーサルからは打楽器が入ったので随分と楽になった。

演奏例はYouTubeにあるが、伴奏形が少し違う。

    4曲目も大オケで、エルガーの「威風堂々」。前半が激しい動きで、後半は一転してゆったりとして、荘厳な4拍子となる。スポーツ大会での優勝の時のメロディーとして有名である。また先日のエリザベス女王の葬儀でも演奏された。繰り返し部分を省略しているが、最後の終わり方が尻切れトンボになっているので、林直之氏が小節を追加して体裁を整えた。

    前半部分はフルートに「荒々しさ」が求められる。フルートであることを忘れる必要がある。下降した音(4拍目)で最も強い音を出す処が多いので、これもまた難しい。背筋を伸ばして姿勢を正しくすると大きな音が出せることに気づいた。下腹部の筋肉の可動範囲が広がるためだろう。フルートだけだと音色の変化が使えないので、音の大小での表現に頼ることになるのだが、そもそもフルートは大小の変化(ダイナミクス)が苦手な楽器である。

    後半の出だしからしばらくは極端な弱音であるが、それだけではなく、音色的に内に籠った暗い音が必要となる。これもまた長い8小節のフレーズでの7と8小節に少し強勢と遅めのテンポによって、次のフレーズへの勢いを付ける。後半の残り半分は一転して元気が良くなるが、整然としていなくてはならない。その中でもやはり8小節単位のフレーズを意識する。要するに7小節目はドミナントコードになっているのである。気を遣うのでとても疲れる。

    これも打楽器が入ってダイナミクスが楽になった。

    5曲目が今回の目玉の曲で、童話朗読とフルートオーケストラの為の「とも君の黄色い風船」である。1987年にアマチュア用のフルート曲として委嘱されたが、その時の童話作家林原玉枝さんと作曲家松本健治が来られていてお話もあった。松本健治さんは今回の演奏会全体のナビゲーターも兼ねている。

    なかなか良く出来た話なので、一応筋書きを書いておく。

「とも君の黄色い風船はとも君にお願いして手を放してもらい、空高く昇っていき、見えなくなったのだが、その夜遅く帰ってきた。風船はまたとも君に頼んで息を入れてもらい、とも君を連れて窓から外に飛び出して冒険の旅に出る。やがて見知らぬ島を発見して降りてみると、それはとも君の描いた美しい島だった。大空の雲たちがいろいろな動物に変装して楽しんだあと、この島で一休みする。そこからまた空に飛びあがっていろいろな処を冒険していると、突然カラスに風船を突かれて破れて一気に墜落してしまう。しかし、とも君の落ちた場所はベッドの傍の床だった。」と言った感じ。

    ロビーには、加納芳美さんによる絵が飾られていて、ステージには黄色い風船が飾られた。

    朗読は藤丸範子さんで、とも君と風船の声色の使い分けが面白かった。風船の方が男の子の声であるが、鼻にかけた声色に方言の感じがあって印象に残る。いずれにしても流石に演劇をやっているだけあって、声がよく通る。練習の時から作曲者の松本健治さんが監修していて、指揮者の林直之さんと一緒になって、間の取り方とか表情とかに沢山の注文が付いていたのだが、それらも完璧にこなしていた。フルート側としては、フレーズの表情の付け方に注文が多かった。メルヘン的な表情を出す為に、フレーズ全体を真ん中が膨らむ感じにする。つまりクレッシェンドして直ぐにデクレッシェンドである。柔らかい感じになる。しかし、短い期間でアマチュアがこれを徹底するのは難しい。僕は本番ではそれを意識するあまり拍を取れなくなってしまったところがある。まあ、大勢なので影響もなく、お客さんの受けは大変良かったようである。

    アンコールは「トランペット吹きの休日」で、とても有名な曲。原曲と比べて3小節分が過剰に入っていることに気づいていたのだが、僕にはどの部分が過剰なのかがよく判らなかった。最初の練習時に林直之氏が直した。フルート版に直す段階でどうもコピーを間違えたらしい。演奏速度としては、リハーサルの時までは比較的ゆっくりめだったのだが、本番は、アンコール曲なので、気持ちよく終わればよいということで、指揮はきちんとタクトを振らずに演奏者に任せると言った。何だか悪い予感がしていたのだが、実際最後の方でテンポが上がってしまい、僕は付いていけなくなって、悔しい思いのまま終わった。

    今回は初めて隣の人から音を褒められた。去年からのロングトーンの成果だろうと思う。去年まではロングトーン練習の目的がよく判らなくてあまり熱心ではなかったのだが、今思うには、その目的は「脱力」である。血圧を測るときのように、姿勢を正して腹式呼吸をして、心を空にする。唇に力を入れなくて済むような音を選んで吹いて、お腹の圧力だけに集中する。音の安定が第一優先である。それが習慣となったら、お腹の圧力の場所を上にずらすことで高い音に対応することに気づくだろう。要するに唇を意識することなく音高に最適な呼気圧をお腹の筋肉の使い方でコントロールすることを身体に覚え込ませる。慣れてきたら、低音部の一つの指使いで、基音、倍音、3倍音、、を吹き分けるのであるが、唇は変えずにお腹の使い方だけで吹き分ける。これを毎日やる。ところで、唇の動きはむしろ指使い(どれくらいの長さをキーで閉じるか)によって微妙に変える。息の出る向きが多少変わるからである。これは唇というよりも、「気持ち、あるいは指のイメージ」で変えるように意識を持っていく。要するに、唇を意識すると息の流れが乱れるのである。乱れなければ音程が安定した「良い音」になる。それが基本である。あとは、音色をどうやって作るかという段階になって、唇を固くしたり横に引っ張ったり、逸らしたりするということになるのだろうが、それもまた無意識でそうなるように、ということなのだろう。

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