非英語圏SFシンポジウム記録


 このセクションは1995年8月,第34会日本SF大会 はまなこん にて行わ
れた非英語圏SFシンポジウムの概略と講演の原稿を掲載します。


 講演の項目は、

  1. ビャチェスラフ・ルィーバコフ 理想が緊急に必要とされている
  2. 呉定柏 比較文学の立場から見た中国SF
  3. アンドレイ・ストリャーロフ ロシアン・ターボ
  4. 莫樹清 中国のSFファン活動

の順で行われました。今回はこれらの中の三つの論文をアップします。

このシンポジウムについての私見

 まずルィーバコフ氏の報告は、現在どのようにしてわれわれは共通
認識としての理想(または目的)を失っていったのかを述べ、SFも
含めた文学に今何が必要なのか、新たな理想(または信念)を構築す
る必要性を説きました。この講演は、この企画全体の序論にもなって
いたと思います。

 そして呉さんの講演で、中国のSFは(それがどんなものなのかは
別の話として)ルィーバコフ氏の言う「理想」を持ちつづけていると
いう点、そして中国のSFはあくまでもヴェルヌ的であるという点で
中国のSFとロシアのSFは水と油だということが明らかになりま
した。また、それは間接的に、ソ連のSFとロシアのSFは、まった
く正反対の性格を持つものだということも示唆しています。

 続くストリャーロフ氏の講演は、ロシアではソ連時代に文学とSF
に別れてしまったものが、表現も方法もちがうのだけれどある意味で
先祖帰りを果たしつつあり、融合しつつあるという内容でした。つま
りロシアのSFはヴェルヌの評価はともかくとして内容的に全くヴ
ェルヌ的では無く、そればかりかウェルズ的ですらないということで
す。

 この時点で中国の作家の言う「科幻小説」とロシアの作家が言う「フ
ァンタースチカ」は、そもそも発祥の原点からして全く違うものであ
るということがはっきりと示されました。この点に関して、もし誰か
らも質問が出なかったら「ゲーテのファウストは科幻小説/ファンタ
ースチカだと思うか?」と聞いてやろうかと思っていました。中国の
作家は違うというと思いますが、ロシアの作家は肯定したはずです。

 時間があれば,日本のSF作家代表として参加していただいた森下一
仁さんに日本の状況を説明してもらい、3国の作家で意見の交換があ
れば面白いかなとは思っていたのですが、いかんせん、これをすべて
やるにはあと3時間は必要だったと思います。たぶん、日本はアジア
にありながら、アジアの国々にあって最もヨーロッパ的であるという
点で、また違った像が比較の中で見えたのではないかと思います。

 欲を言い出したらきりがありませんし、不完全な点も多かったと反
省していますが、ここまで何とかできたという点で今は満足していま
す。


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