テキスト・『ガクエン退屈男』 講談社「ぼくらマガジン」1970.2/17号〜9/22号


解説   第1部「わるのり学園篇」   第2部「つばさ党篇」


第3部 〜血みどろ学園篇〜

門土は初めて、包帯に顔を包んだ男、三泥虎の助と対峙する。

「学生ゲリラ 早乙女門土!
...妖怪ども おれの名をおそれて二匹できたな!」
この自信!圧倒的な傲慢さがつくづくこの男の魅力である。そして門土は意外な言葉を口にする。包帯に包まれた姿は初めて見るが、三泥の目に覚えがあるというのだ。素顔を見せろと迫る門土。だが、三泥は言う。
「おれの醜い顔をあざ笑おうと言うのか!」
が、門土は強く言い放つ!
「うそをつけい! みにくいどころか世にも美しいかおだ!
    ...美女も羨む美しい顔を持った男...身堂竜馬 きさまだ!」

残酷な拷問を顔色変えずに行い、妖怪たちを飼い慣らし、血みどろ学園を収める異形の男...それは学園ゲリラとして異名を馳せる美しき闘士・身堂竜馬だったというのか?二つの顔を使い分け、教育ウエスタン時代を手玉に取っていたと!...だが三泥はソレには応えず、憎々しげな炎を眼に宿し、門土の前で包帯を落とす。そして...
「俺の顔が美しいと言ったな...」
その素顔を見た門土は思わず叫び声を上げていた...!三泥が改めて門土に言う!
「俺の顔が美しいと!」

が、その顔は左半分こそ身堂竜馬と同じ美しい顔だったが、右半分は、目の穴が落ちくぼみ、唇のない口から並んだ歯が覗く、どす黒い凹凸で輪郭も定かでない、おぞましき顔だった...。

「三泥虎の助の顔を見た者は生かしておけん! いけっ!地獄!」

闘いのゴングはなった!醜きケダモノ・地獄が闘いの喜びに震え、門土に迫る!
...が、その時門土の顔に不敵な笑みが甦る!マントが跳ね上がった瞬間
両手に握られていたバズーガ砲が火を噴いた!
マシンガンをも通さぬ男にトドメを刺すのは「もっと強い武器」!さすが男気溢れる結論だあああ!
特大の書き文字で叫ぶ門土!「うわっはっはっは! 死ね地獄!」
タマをもろに喰らい、血飛沫を上げて倒れる地獄...だが...断末魔の荒い息を上げつつも、立ち上がる!門土も流石にその顔から笑いが消えた!門土の子分、マシラのヒョウロクがタマを込めるが、ソレと同時に地獄の拳が門土にヒット!もんどりうって倒れる...。トドメをささんと更に一歩一歩迫る瀕死の地獄。その口からガボッ!と血が吹き出た瞬間その歩みが止まる。すかさず体勢を立て直す門土!
「地獄! 年貢の納め時だ!」
...くう〜。男なら一度でイイから言ってみてえよなあ、このセリフ!炸裂するバズーガ!地獄の顔がふっとんだっ!「俺の勝ちだ!」今度は三泥の美しい側の顔に汗がにじむ...。

そして、その闘いを見守るもう一人の包帯に顔を包んだ男...。その名は、身堂竜馬!

ここから物語の主人公は、身堂竜馬となる。

...驚いてはイケない。それが永井豪節だ。


虎の助を守り、周りを囲む妖怪どもと門土派ゲリラたちの戦い。石川賢のおどろおどろタッチの悪魔たちが、舌を伸ばし、溶解液を吹き付けながら襲い来る。門土は素手で彼らに挑む!「まあ!素手き(子分のヒョウロク・談)」。足止めをしている間に虎の助は脱出!

一方、虎の助の屋敷。全裸で虜となっているつばさの前に、包帯で顔を包み虎の助として潜入した竜馬登場!...なんと、全600ページ強の内、200ページに渡って姿を消していた竜馬がやっとの再登場だ!

つばさを助け出し、屋敷を脱出しようとする二人の前に虎の助の使いが。彼は竜馬の目を見て、主人でないことを見抜いていたのだ。手のないこの男は念力使いだ!(う〜ん、フリーキー)
「あんたがやさしい心を持ったご主人・三泥虎の助なら通そう。
だがあんたが、心の冷たい三泥竜馬なら、断じて通すわけにはいかん!」

つばさを逃がし、念力使いの一瞬の隙を突いて倒した竜馬。...その前に虎の助が!

ついに語られる竜馬の秘密。その美しい容姿で女の子たちに愛される双子の兄弟、虎の助と竜馬。だが竜馬は虎の助に嫉妬していた。親である天才科学者・三泥鬼一郎夫妻の愛が、虎の助にのみ注がれているからだ。虎の助を両親に愛されないようにさえすれば...思い詰めた竜馬はある晩、虎の助の顔を酸で焼く!勝利を確信する竜馬。騒ぎを聞きつけてやってきた父に語る!

「あにきの顔を見ろ!ばけものになりやがったぜ! はははは」
「あにきはばけものになっちまった! もうぼくしかいないんだよ!」

「美しさ」への異様なるこだわり。完全である喜び。美しき男・身堂竜馬は、美醜でしかモノの判断が出来ないほどに狂っていた。だが、鬼一郎の語る内容はそんな竜馬の自尊心を吹き飛ばしてしまう!

「実験動物は愛せない!...きさまは人間じゃない!」
「天才生物学者・三泥鬼一郎一世一代のけっさくだ!」
「息子・虎の助そっくりに作った人造人間なのだ!」

崩壊するアイデンティティ。最も憎み、対抗してきた相手・虎の助こそが「本物」だった。自分の「美」もあれほど望んだ両親の愛も、虎の助のものでしかなかった...。竜馬は自分が「本物」になるために、真実を否定するために、親を殺し、屋敷に火を放った...!そうして、本当の完全なる喜びを得たのである。彼は彼の作り上げた事実に身を任せたのだ!

(説明はないが、恐らく虎の助を囲む妖怪の類は三泥鬼一郎の「失敗作」だと思われる。...つまり、竜馬は「神」三泥博士に対する反逆者であるのだ。そのキャラクターとしての位置は...サタン!)


一体何のハナシだ!(笑)学園闘争のストーリーが魔界を引き込み、ついには美醜の対立をも取り上げだした!身堂竜馬の自尊心の謎。自らを笑う者を許さないプライドの正体。それは血塗れの過去に彩られていたのだ。一体、本当の悪人は誰だ?

最もらしい理屈の裏に潜む明快な「殺意」と本質的に闘争に喜びを覚える「悪の性」に象徴される早乙女門土。決して満たされない「美」に薄っぺらなプライドを寄せ、頑なに自分の「主体」を求め続ける身堂竜馬。彼らはあるいは、人間の本質なのかも知れない。二人は己を突き動かすモノを満たすために、裏返せば常に飢えながらヒトを殺し続けるのである。

学園闘争の日々や高度経済成長の時代を「昔」として振り返れる今なら、それらの結果は歴史的事実として見ることが出来る。だがあの当時、70年代という日本の混沌を気分として捉えたネガこそ、彼らなのではないか。

一方で問題視されはじめていた科学技術の進歩に対する不安。光化学スモッグは都会を覆い始めていた。科学発展による「希望の未来」は終わりが近づいていた。あるいは、竜馬や悪魔たちをも生むかも知れないと言う科学が進み続けることへの危惧も現実になっていたのだ。

それらに対する永井豪なりのリアルタイムの思考、
これこそが『ガクエン退屈男』そのものなのではないだろうか。


門土たちは虎の助が竜馬に縛られている機に、「血みどろ学園」襲撃の準備を整える。集結するゲリラ。

校長のいない「血みどろ学園」に、今しも乗り込もうとした矢先!重い鉄の分厚い門が開かれた!喚声と共に溢れ出る学生たち!喜ぶゲリラ!...校長のいない隙についに反乱が?

だが、

血みどろ学園の学生たちはゲリラたちに銃を向ける。血を吹きだし、なぎ倒されるゲリラ。

激しいカットバック。虎の助の部下・妖怪たちの数に圧倒され、囚われる竜馬。彼に嗤い語る虎の助。血みどろ学園は絶対に倒されない...なぜなら生徒も学園側だからだ...!

ちょうどその時、悪魔の館・虎の助の下へ現れる門土!目標はただ一つ!学園ではなく、己の血を燃やす権力者、絶対的な強さを持つより巨大な敵・三泥虎の助なのだ。悪魔と門土たちの闘いが始まる。

血みどろ学園。なぜ?どうして?そんな疑問を叫ぶ身堂派ゲリラ・人斬り。その前に現れる黒い影。
「名前は忘れた...事故でな 過去の記憶もない...だが人は俺のことを!」
驚愕に見開かれる人斬りの眼。その影こそ門土に倒されたハズの...
「地獄と呼ぶ!」

虎の助が成した自分に対する屈辱...その復讐に燃えるつばさ。竜馬を残して火を放ち、屋敷を後にしようとする虎の助の肩を打ち抜くつばさの弾丸!だが、空飛ぶ悪魔が虎の助を抱え上げ、つばさの追撃をかわす。

燃え盛る屋敷。鎖に繋がれ「こんな所で死んでたまるか!」と絶望の淵から叫ぶ竜馬。突如後ろの壁がバズーガで吹き飛ばされる!門土だ!「へへへ てめえを助けるとは思ってもみなかったぜ」憎まれ口を叩く竜馬。「あんたに助けられるより死んだ方がましだ」門土、にやりと笑って、

「そうか!それもそうだな 誰も見てないしな! 死ね!

とバズーガを向ける。おいおい。だがにやりと笑うや、「やせ我慢はよせ。こんな死に方したいわけじゃないだろう」笑い合う二人。ここで初めて、今後ずっと続く門土&竜馬のコンビは誕生するのだ。

三泥は逃がしてしまった。洗脳された血みどろ学園も解放できなかった。身堂派ゲリラ全滅を始め、学園闘争のメンバーたちは崩れんとしていた。初めて闘争は失敗した...。挫折を知るゲリラたち。だが、それは...。

いつの間にかゲリラ狩りに囲まれていた門土たち!このゲリラ殲滅のチャンスを逃さぬ虎の助の素早い動き!
つばさが呟く。「闘うか降伏するか...」
竜馬が断じる。「白旗を降ったところで命をくれる三泥じゃない」
門土が短く叫ぶ。「よしきまった!」続けて喜びの顔で...!

「たたかいだ! ゆくぜ!」

...こうしてこのスピード感溢れる、闘いの軌跡は幕を下ろす。


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