テキスト・『ガクエン退屈男』 講談社「ぼくらマガジン」1970.2/17号〜9/22号


解説   第1部「わるのり学園篇」


第2部 〜つばさ党篇〜

現金輸送車。体を張って権力を発揮している「血みどろ学園」教師の給料を運搬している。何と給料は月100万円(1970年当時)なんだと!...と一方、谷間で水浴してるすっぽんぽんの女の子たち。野口太陽風の女の子たちに混ざってひときわ美しい、シャギー入ったショート茶髪の丸顔・嗚呼かわいやの錦織つばさ。

輸送車が行き過ぎると、合図が!リーダーつばさとともに、ビキニスタイルでお揃いのメットかぶって出動!両既知外の格闘の後になんてかっこいい、おモンドなハナシ!...と思っていると、現金輸送車に火を放ち、護衛の群をひよどり越えそっくりの銃弾雨あられ攻撃で血みどろに!名もないメンバー・少女Aの「いただきね...」の声に「もち!」とOKサインを出すつばさ!目を細めた絵がまたかわいいぞっ!やることはすげえぞっ!

が、これが血みどろ学園校長の包帯男・三泥虎の助の逆鱗に触れる。彼がつばさ党対策にかり出したのは、額から頭頂に掛けて無惨なキズが走り、迷彩服を着た醜い大男。「名前は忘れた...事故でね。過去の記憶もない...人は俺のことを『地獄』と呼ぶ...あんたもそう呼ぶがいい」

「地獄と!」...かっこいいセリフだ(バイオレンスジャックみてえ)...

『ガクエン退屈男』はここから第1部とは全く違う展開を見せはじめる。銀行を占拠したつばさ党と地獄の戦い。銃弾を浴びても倒れず、逃げるつばさ党の車を、駆け足でしかも同じ速度で追ってくる地獄!人間じゃねえぜっ!てなわけで、実は人の首くらいかる〜く(笑)ひねっちゃう怪力無双のつばさと地獄の戦いへ。完全な肉弾戦。つばさの蹴りがキマって、地獄の顔の一部を吹っ飛ばすも、「また男前になっちまったぜ」なんつて傷口ぽりぽり掻いてる地獄にゃあかなわない!化け物なんす、要は。美しいつばさを醜く引き裂いてやる...とヒートアップする地獄!だが彼女を囮に使えば、地獄が望む最高の敵・早乙女門土と身堂竜馬と戦える!と、三泥が止めるのだった。

何とか脱出したつばさ党の生き残りが門土の元へ。ゲリラ狩り最強と呼ばれる地獄の登場に、初めてあの悪魔じみた笑顔が消える門土...。

しかし、不死身の地獄の前にダウンして気を失うつばさ。あわれ三泥の虜に...。その屋敷のイメージあたりから、明らかに『ガクエン退屈男』は変質を見せはじめる...。

そこにいるのは化け物の群。そう、同じ豪ちゃんの『デビルマン』で、飛鳥了が自らの恐怖の正体を知るあの飛鳥邸のようだ。「みるな!ばけもの! きさまらに美しいものを見る権利はないっ!」その化け物たちの中を、つばさを抱き進む三泥。ベッドにつばさを寝かし、裸にしてその体を見つめる。そこで彼は一筋の涙とともに独白する。包帯の下に隠された己の醜い顔への呪い、美しいモノへの憎悪を。そして、悪魔・妖怪のごとき者共の住む館でつばさは拷問にかけられる!

これは推測であるが、『ガクエン退屈男』連載中盤で迎えてしまった、かの「ハレンチ大戦争」の終了がここにも影響を与えたのではないだろうか。結局、権力なり暴力なりの暴走に対する豪ちゃんの答えは、加害者にしろ被害者にしろ聞く耳がない以上、相手を抹殺するしかないのだと。そんな「解答」をしょった主人公・門土はもはや、先の第1部で「殺したいから殺したんだ!いわば退屈しのぎだ!」と叫んだ時点で、役目を一度終えたのだ。彼がもし更にこの物語で闘うとしたら...?その相手こそ、もはや壊れるべき肉体を持たない、地獄なのである。

ここで、門土の存在は物語自体を変質させた!彼は、自分の闘うべき敵を作り出すために、学園闘争から魑魅魍魎がうごめく「魔界」を物語に引き込んだのである。

そして、つばさを取り戻すために、門土は地獄と三泥の前に姿をあらわした...。

(つづく...がんばれ!門土!)


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