名探偵ピンじろうシリーズ
10本足の怪物

名たんていピンじろうに挑戦!

佳作
カエルさんの回答


 「Aとは、字水、あなたですね!」
  ピンじろうの言葉に全員がざわめいた。字水は、不敵な笑みを浮かべた。
 「僕にはアリバイがあります。しかも、それを証明しているのは、ピンじろうさん、あなたでしょう?」
 「みなさん、私はここで謝らなくてはいけないことがあります。実は、一度寝ると私は絶対朝まで起きないのです。それをあなたはうまく利用しましたね」
 「ピンじろうさん、私はそんなこと聞いてないぞ!」
  水谷が椅子から立ちあがり、どなった。ピンじろうは、しらっと答える。
 「私が話さなかったんだから、当たり前です」
  みんな口々に文句を言った。しかし、ピンじろうはそれをまったく無視して続けた。
 「これで字水のアリバイはなくなってしまいました。まず、字水は谷山の家へ行き、そこで10本足のついた下駄を履き、田川、吉田、理田を殺しました。谷山に罪をかぶせるためと、実は私をおびき寄せるためです」
  水谷はまだ立ち上がったまま、不思議そうな顔をした。
  「そう、被害者の最初の文字に私の名前を浮かび上がらせて、私が字水の警護をするように仕向けたのです。しかし、それは警護ではなく、私の特質を利用したアリバイ工作だったのです」
  ピンじろうは、得意そうに話し出した。新米探偵なのに、事件を解いたことに興奮もしていた。
  自信満々で、周囲を見渡すと、黒宮と水谷が口を挟もうとしていた。
 「黒宮さん、水谷さん、ちょっと待ってくださいね。質問は、私の話を全部聞いてからにしてください」
 「けど、私が谷山さんにどうして呼び出されたのか早く知りたいの」
  黒宮の質問に、ピンじろうはにやける。
 「それは、捜査を撹乱するためにこれを使ったんですよ」
  ピンじろうは、蝶ネクタイを取り出した。その蝶ネクタイをピンじろうは、口に当てて歌い出した。
 「は〜るばるきたぜ、は〜こだて〜♪」
 「おお! サブちゃんの声だ!」
  みんなが驚きの声を上げた。
 「これは、最近発売された変声機です。某探偵も使っている優れものですね!」
  黒宮は、驚きながらも納得した。
  ピンじろうは、嬉しそうにもう一曲歌いだそうとしたが、水谷の質問に止められた。
 「ピンじろうさん、ちょっと待ってください。ダイヤモンドが盗まれたときは、あなたと字水は、寝ていたのではなく、トイレのことで争っていたんじゃないんですか?」
  「え…? そ…そうだっけ?」
  ピンじろうは冷や汗をかき出した。アリバイ工作を完全に見破ったと思っていたのだ。
 「そういえば…あれ? どうしよう?」
  焦ってばかりで、あうあうしかいえなくなったピンじろうを見て、水谷は、溜息をもらした。やはり臆病で新米で頭の回転の鈍い探偵では無理だったかと思った。そして、水谷は話し出した。
 「実は、わたしたちでも推理をしてみました。そして、犯人が分かったのです」
  周りがまた騒ぎ出した。ピンじろうもますます焦りだした。
 「犯人は、字水、谷山、そして、黒宮、おまえたち3人だ!
  えーーー! と叫び声をあげたのは、ピンじろうだけだった。
  関係者外の町の人はというと、ピンじろうの推理のところで、あきれて帰ってし まっていたからだ。
 「わたしたちは、捜査過程であることを知りました。字水の妹の事故のことです。字水の妹は、まだ死んでなく植物人間状態なのです。そして、その延命措置を図るためにとてもお金がかかります。そのために、字水はダイヤを盗もうとしました。また、友人の谷山と黒宮も協力したのです」
  3人はがっくりとうなだれた。ピンじろうは、まだあうあうといっていた。
 「ダイヤだけを盗もうとした3人ですが、それだけではなく、実は復讐をかねた殺人も計画しました。妹をひいた犯人の名前は妹の傷痕をおさえたらしいハンカチから『田』がつくことだけわかっていたのです。しかし、それだけでは誰だかわかりません。結局、切羽詰まった3人は『田』のつく人を次々に襲ったのです」
  こうすると、3人のアリバイは、まったく意味がなくなってしまう。3人ともアリバイがある日がないからだ。10本足の怪物は、3人で行っている犯罪を同一犯に見せかけようとして、作り出したのであったのか。ピンじろうにようやく思考が戻ってきた。
 「UFOは?」
  正気に戻ったピンじろうがいった。
 「あれは字水が放った弓矢でしょう。『田』のつく人で、田中を忘れていた字水が慌てて、他の2人に知らせるために放ったのだと思われます。それには蛍光塗料のつきの手紙が括り付けられ、多分様子を見にきた黒宮が受け取ったのでしょう。そして、黒宮が犯行に及んだ……」
 「うそだ! うそだよー! 黒宮さんがそんなことするなんて……」
 「本当よ」
  大騒ぎするピンじろうの言葉を遮ったのは、黒宮だった。美しい顔をピンじろうに向ける。
 「かばってくれてありがとう。でも、わたしが田中を殺したのよ」

  ……あとは、2時間サスペンスドラマ風になりそうですね(笑)

 僕からのコメント

 僕の用意した真相とほぼ同じ回答である「字水犯人説」で無難に終わるかと思いきや、後半は水谷警部に探偵役が変わって、あっと驚く「字水・谷山・黒宮共犯説」に発展。字水の妹を絡めて、なかなか面白い推理が展開されます。ピンじろうのキャラがなんだか妙に可愛いというか、僕の書いたものとは違って実に活き活きとしていて、いい感じですね。


 

この物語についての解説