名探偵ピンじろうシリーズ
10本足の怪物

名たんていピンじろうに挑戦!

優秀作品
加藤さんの回答


 犯人は字水みよ太だと思います。
 字水の本当の目的はダイヤの強奪です。ピンじろうはダイヤ強奪のアリバイ作りに利用されたのではないでしょうか?
 連続殺人の目的は、被害者の名前の暗号から、ピンじろうが自分の家に来ることでした。被害者の名字の先頭にある文字を拾っていくと、「た」「よ」「り」となり、次に来る文字はじろうの「じ」。「じ」を名字のあたまに持つ隣家に住む字水が次の被害者になるのでは、と新米探偵のピンじろうが思い描くのは想像に難くありません。
 そして、被害者の名前の暗号はそれだけではありませんでした。
 被害者の名のあたまの文字を拾っていくと、「た」「み」「よ」となり、これは字水の名「みよた」のアナグラムになっているのです。「た」「よ」「り」の暗号に気がつかなかった場合も、この「みよた」の名前が、連続殺人の被害者の名前に隠されていることがわかれば、字水が連続殺人事件になんらかの関わりがあるのでは、とさすがのピンじろうも考えるだろうという二段構えの暗号だったのです。
 そして字水の策略通り、ピンじろうは字水の警護にやってきました。これで字水は安心してダイヤ強奪を行うことができます。はたして、字水はピンじろうの警護の目をかいくぐり、どのようにしてダイヤ博物館から50個ものダイヤを強奪することができたのでしょうか。
 その説明をする前に10本足の怪物の謎について考えてみます。
 田川、吉田、理田殺害の時、雪の上に10本足の怪物の足跡を残したのは字水です。これは「10本足の怪物」が「犯人」である、すなわち「何らかの犯罪を起こす者」であるという考えを植え込ませるためでした。雪が降り、その上に「10本足の怪物」の足跡が残っていれば、何か犯罪が起きているのだという思いこみが警察やピンじろうの中に生じたのです。足跡を残すという、ともすれば自分の犯行だと露呈しかねないような危険な証拠を、なぜ残したのか。それはもちろんダイヤ強奪への布石でした。
 「――10本足はダイヤがお好き?――」の章の冒頭を読むと、ピンじろうがダイヤ強奪事件の日、雪が降り始めてから字水の家へ向かったことがわかります。雪が降ることを天気予報で知った字水は、雪が降ったことにより、ピンじろうが自分を見張りに来るだろうと予想したのです。そして天気予報のとおり雪が降り始め、字水が予想したとおり、それに気がついたピンじろうが、字水を殺しに来る犯人を取り押さえようと警護に来ます。その後、雪が積もり、その上に10本足の怪物の足跡が残されて、警察からピンじろうの元に電話がかかってくるのです。
 ピンじろうの考えでは、雪が降り、10本足の怪物が足跡を残してダイヤを強奪した。その間、自分が見張っていたから字水は犯人ではない、ということになります。つまりピンじろうの考える犯行時間は雪が降った後なのです。しかし、実際はそうではありませんでした。ダイヤは雪が振る前に強奪されていたのです。そして、雪が降った後に10本足の怪物の足跡がつけられたのです。
 警察やピンじろうは、今までの連続殺人事件の例があったため、10本足の怪物が犯人である。すなわち、その足跡が残された時が犯罪が行われた時だと思いこんでしまいました。これが字水の狙いだったのです。ダイヤ強奪事件の犯人は10本足の怪物ではなく、雪が振る前に、下駄を履かずに、字水が事件を起こしました。10本足の怪物の足跡は、警察とピンじろうの思いこみを利用したアリバイトリックだったのです。
 この時、10本足の怪物の足跡を残したのはアリバイのない谷山です。字水はダイヤをだしに、谷山を操ったのです。10本足の下駄を履いて、ダイヤ博物館の周りをうろつけばダイヤをやると言って。なにせ、1個5億円もするダイヤです。前科3犯の谷山でなくても誘いにのってしまうでしょう。こうして、字水はダイヤ強奪を成し遂げ、ピンじろうの証言により雪が降り始めた後のアリバイ(犯行時間だと警察及びピンじろうが思いこんでいる時間のアリバイ)も立証され、ダイヤ強奪事件の容疑者からはずされることになるのです。
 UFOの正体は字水の放った矢です。大学時代に弓矢が得意だった字水は、ダイヤ強奪に弓矢を使用しました。ダイヤ約50個を持って外を歩くのは非常に不自然。そのため、矢の先にダイヤを1個ずつくくりつけ、自分の家に向かって矢を放ったのです。ダイヤがきらめいてUFOに見えたのでしょう。森の中で10本足の怪物の近くを飛んでいたのも、字水の矢です。この10本足の怪物は谷山だったのです。谷山はダイヤの隠し場所を探りあて、自分のものにしようとしていたのです。字水は口封じのために谷山を殺そうとしたのです。矢の殺傷能力を高めるため、矢尻を鉄よりも硬いダイヤに変えてあります。夜空を舞うダイヤの矢が、ピンじろうの目にはUFOに見えたのでしょう。

 すみません。疲れました。読むのも疲れたのではないでしょうか?
 もうここまでが限界です。他のことは全て偶然で片づけて下さい。田中が殺されたのも偶然。黒宮が現場に呼び出されていたのも偶然。死体にするどい爪のあとがあったのも偶然。そもそも、はじめにピンじろうに事件を告げに来た男はどこに行っちゃったのでしょう?
 あ、ただ字水の動機は考えました。実は字水の双子の妹は死んでおらず(実際、字水は妹が死んでいるとは一言も言っていない)、事故で病院に入院しており、植物状態で、その治療費に約250億円かかるため、どうしてもダイヤ博物館のダイヤ約50個が必要だったというのが、真の動機です。凶悪な殺人者にも暖かい心があるんだ、というちょっとハートフルな結末でいかがでしょう?

 僕からのコメント

 僕の考えた真相にもっとも近かったのが、加藤さんの回答。アリバイトリック以外は、ほぼ完璧に正解といっていいでしょう。いや、僕が用意したアリバイトリックは、「ルパンもびっくりの特殊メイク」という非現実的なものだったので、こちらのほうがずっと説得力がありますよね。
 先に紹介した胡田さんの推理「被害者の名前に隠されたメッセージ」と、GMAさんの推理「字水の妹は死んでいなかった説」も上手に織り交ぜてあり、全応募作品の中では、もっともそつのない仕上がりとなっております。ギャグやお笑いに走らず、最後まで真面目に考えてくださった点も高く評価しました。


 

この物語についての解説