名探偵ピンじろうシリーズ
10本足の怪物

名たんていピンじろうに挑戦!

優秀作品
GMAさんの回答


▼▲▼▲▼その1▲▼▲▼▲

 ――あしあとがくさい!――

「まずは足あとのトリックから話すけど、その前にひとつ聞きたいことがあります。あの足あとたんちきは、足あとにだけ反応するんですね?」
「…ええ。あれは足のにおいセンサーが内蔵されていますから。犯人はきんちょうして足が蒸れやすくなってるもので、どうしても数時間はにおいが残ってしまうのです」
「やはりそうだったか…では犯人Aは足を使わず、逆立ちで移動したのです。
手はにおわないし、雪が降ったら後も消えてしまう。足あとたんちきに頼りすぎたのがまちがいでした。10本足のげたは、その強烈なインパクトで手のことまで考えが回らないように、いわば目くらましだったのです」
「ウェーッ、! で、でもあのげたをはいて逆立ちは、難しくないですか?」
「Aは袋に入れて運んだんだろうね。普通の袋だとあの長いげたは入らないし、逆立ちしたら落としてしまうかもしれない。しかしリュックのように背負える長い袋を、上下逆に背負えば逆立ちしても落ちないでしょう」
水谷は、逆立ちしてるほどに首をひねってうめいた。
「うーん。いままでの説明を聞いても犯人がわかりません」
「それでは殺害方法から考えよう。鋭いつめで引っかいたような傷、これで凶器の種類が想像できるでしょう。サメの歯ではないですよ。証拠となる凶器を飾っておくはずはないからね」
ピンじろうは黒宮にウインクした。
「しかも、雪道で歩きにくいから、遠くから殺せるような武器ではないか。例えば弓矢のような。弓を入れる袋なら、あのげたを入れることもできる。犯人は字水、あなたですよ!」
「いいんですか? 僕のアリバイを証明してるのはぴんじろうさん自身ですよ」

 ――アリバイと50個ダイヤ盗賊――

「僕が洗面所で見てしまったあの肌色の絵の具は、変装用のパックのようなものじゃないですか? 家宝なら簡単に燃やしたりはしないでしょう。そして時に双子と入れ替わり、犯行をかさねたのです」
「ばかな!ぼくの妹は事故で…」
「事故で、どうしたって?」
「二年前に、事故で…」
「二年前に海外を旅行中に事故で入院し、ついでに性てんかんの手術を受け、国籍を取ったんだろう? 日本人をやめておられるので、調査に苦労したよ。『弟』がいればアリバイトリックはどうにでもなっただろうね」
 ピンじろうが指をパチンを鳴らすと、ピーマンを持ったおまわりが家の中から現れた。
「好き嫌いは、治ったかい?」
 字水はガクリとうなだれて、負けを認めたようだ。
 水谷が手を上げて質問した。
「ピンじろう、犯行動機とUFOの謎はどうなった?」
「それらは表裏一体なのです。ここからも全部想像で話すが…字水たちはダイヤ専門のどろぼうグループで、森の中にダイヤを…他にも何か所も隠していたのです。被害者たちは、隠されたダイヤを見つけてしまった。そして柳の下のドジョウ=ダイヤを狙って、夜な夜な森を歩き回るようになった。字水はせっかくのダイヤを取られてはかなわない。安全に殺すために、まずUFOを出現させて、被害者の意識を空に向けさせる。UFOといっても、流星のような飛び方をしていたので、あれも矢の一種だろう。次の夜も被害者は、空を気にしながらもダイヤを探します。そして空をボケーっと見ているところを狙って弓矢で殺してしまうのです。僕は弓矢のことは詳しくないので、UFOについて字水に説明してもらいましょうか」
「とくにUFOというつもりはなかったのですが、たしかにダイヤ泥棒の気をそらすために、矢を使いました。鏑矢という、特殊な音を出す矢に、蛍光とりょうを塗ったものです。矢じりが丸いので、UFOに見えたのかもしれない…」

 ――カーテンフォール――

 いつしか観衆はピンじろうをコールをはじめた。
「名たんていピンじろう! ピーン! ピーン!」
 あなた(=読者)たちも、作者くろけんを称えるコールをはじめた。
「くろけん! くろけん!」
いつしか二つのコールは交じりあう…
「びん! びん! くろけん! びんびん! くろだ!

 ところでぴんじろうはどこへいったのだろう。

「みなさん。名たんていは成るものではない。やらされるものだ。僕は持病の虫歯が痛み出したので、今日のところは、たいした挨拶もなしで失礼する。僕らに会いたければ、いつでもこの『ミステリ博物館』へ来れば良い。きっと名たんていがあなたたちを歓迎するだろう。それではごきげんよう」

▼▲▼▲▼その2▲▼▲▼▲

1.犯人の名前と、そのように推理する根拠

犯人Aは判事の木沢さんです!」
「なんだって! 誰だおまえは!」
 突然現れた人物に、アッと驚くピンじろう。
「私は偉大なるメタ解答者です。略してGMAとでも読んで…じゃなかった、呼んで下さい。あなたたちでは決して見ることのできなかった真相を、私が丁寧に解説してあげようじゃありませんか」
「決して見ることのできない…真相…?」
 ピンじろうは不審な顔をするが、メタという言葉を聞いてはここは引き下がるしかない。
「本文から赤字のところを抜き出してみましょう。

『読、読、後、みせれません、家、ねれない、所、聞、たくさんさ、後、に、ん、家、感、感、買、新、辺、待、待、強』

 この暗号を変換してみよう。誤字を正しい字に直し、誤字でないものについてはひらがなを漢字に直します」
「暗号だって! ただの誤字ではなかったのか!」
「ノンノン。『見せれません』は今や普通に使われているし、ワープロ変換もできる。『ところで』に『所』を使うのは少し古臭いかもしれないが、正しい。『たくさんさ』については、間違っているのは余分な「さ」だけなのに単語全てが赤くなっているからね。これは被害者が残した血文字のダイイング・メタメッセージだよ。登場人物たちは、死ぬことでモノガタリ世界の呪縛から開放されるのさ。さて、変換するとこうなる」

『呼、呼、跡、見、家、寝、所、来、沢山、跡、に、何、内、勘、勘、員、真、反、持、持、凶』

「をを…」うめいたのは水谷だった。「これは、まったく意味が無い!」
「いえいえ、まだ正しい字に直しただけです。変換の次は復号してみましょう。ちなみに復号というのは暗号を元に戻すことですよ。この文字列をいろいろな読み方で読んでみましょう。ただし、変換前の漢字と同じ音では駄目。例えば『呼』は『よ』と読めるが、『読』の『よ』とカブるので変換した意味が無い。よって『呼』は『こ』と読むことにします。同じように進めていくと…」

『ここせきみないしんしょきさわさんしゃくになんだいかんかんいんしんはんじじきょう』

2.連続殺人事件の動機

『古戸籍見ない心緒、木沢さん癪になんだい』
「この部分が犯人と動機をあらわしています。この事件の被害者および被疑者には変わった名前のものが多い…おそらく先祖から引き継いだ姓や親のつけた名を捨て、改名していたのでしょう。それが木沢さんには癪にさわるんだい。些細な事と思われるかもしれませんが、かように人の心の闇は深いのです。だからこそ、そこに光が瞬くのですが…わかりますか? 解読を進めます」

3.犯人が用いたアリバイトリック

『関関院進判事自供』
「そもそも容疑者に入っていなかったので、アリバイについては良く分かりませんが、最後の部分は判事自身が自供することを表していますね。木沢という判事は何人かいるかも知れないが、関関同立というのは関西の有名大学のことで、院進というのは大学院に進むことです。これらは私が関西の学生でなければ気づかなかったかもしれません、危ないところでした。」
 GMAの独壇場が続いていた。ぴんじろうが最後の質問を発する。
「それでは、僕らのみたUFOはなんだったというんだ? トリックとは関係無いのか?」

4.UFOの正体

「ああ…あのUFOですか。あれは私です。うちの研究室は光学マウスを使っているので、カーソルが文字の上を通ったときにそちらからも見えたのでしょう

 次々と明らかにされる真相に、登場人物たちはもはや声も出ない。

「さて、とりあえず謎は全部解けたし、細かいことは自供されるでしょうから、僕はこのへんでやめます。いや、お礼は結構です。あ、商品がもらえるのですか、それでは『なかよし』付録のモー娘。フィギュアが手に入れられなかったので、それで結構ですよ。ええ。こちらこそ、どうもありがとう」

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 僕からのコメント

 2パターンの回答を送ってくださったGMAさん。どちらも力作でしたが、とくに正当編(?)のほうは、驚愕の足跡トリック&妹は死んでいなかったという会話錯誤トリックに、「まいりました!」とひれ伏すばかり。うーーん、あらためて読み返してみると、字水は確かに、「妹が死んだ」とは証言してないんですよね。ラストで僕のヨイショをしてくれたあたりも、かなりのプラス点となっております(笑)。
 一報のメタ編は、無理矢理な力技に拍手。暗号のほうはあまりにも無理矢理すぎて、それが逆に爽快だったり。UFOの正体にはびっくり仰天。まさに、メタミステリならではの解決編であります。



 

この物語についての解説