地獄野球ワイルドウィッチーズ
美少女だらけのチームでプレイボール!?

 ライトノベルで少女で野球といったら、例えば樺薫の「ぐいぐいジョーはもういない」(講談社BOX)があったり、柏葉空十郎の「ひとりぼっちの王様とサイドスローのお姫さま」といった作品があって、それぞれに野球というスポーツにかける女子たちの、男子に負けない熱情を読ませてくれた。テレビアニメーションにもなった神楽坂淳の「大正野球娘。」では、黎明期の日本球界にあって、女子だけのチームが男子のチームに挑んで撃破するようなストーリーが繰り出された。

 アメリカの女子リーグで日本人の女性投手が投げたり、日本の野球女子代表チームが世界的な大会で優勝したりして、その活躍ぶりが一般に広まって来たこともあって、女子なのにどうして野球をするのかといった疑問は、今ではあまり浮かばないくらいにはなっている。それでも、サッカー女子日本代表のなでしこジャパンが、ワールドカップで優勝してなお、男子のサッカーに比べて物足りない、女子にサッカーは向いていない思う人がいなくならないように、野球というスポーツを女子がすることに、懐疑的な視線を送る人は今もいる。

 どうして女子なのに野球をするのか。そう問われて臆し、迷って口をつむぎたくなることもあるだろう。体力を比べればやはり男子には劣り、同じようなプレーをすることはまず不可能。球を投げても100マイル級の剛速球は投げられないし、打ってもスタンドに届くような当たりは飛ばせない。だったらやらない方がましなのか。それは違うと、幾つものライトノベルで野球に挑み取り組む女子たちの姿が教えてくれている。勝つか負けるかではない。野球が好きだから。それだけの理由があれば、誰だってボールを握り、バットを手にしてグラウンドに入って良いのだと、幾つもの物語が諭してくれる。

 高崎とおる原作で、孝岡春之介が書いた「地獄野球☆ワイルドウィッチーズ 美少女だらけのチームでプレイボール!?」(KCG文庫、630円)もそんな、野球が好きなら女子でも悪魔でも地獄ででも野球をして良いのだと教えられる物語だ。悪魔で地獄? そう、名前のとおりにこの話は、地獄で美少女だらけのチームが野球をするというストーリー。地上の様子を窺いつつ、文化を吸収してきた地獄では、なぜか野球というスポーツが盛んになっていて、そこに出来た幾つものチームに所属する選手たちが、地獄の住人たちならではの“地獄力”というものを駆使して、漫画「アストロ球団」の超人野球も真っ青な、スーパープレーの数々を見せていた。

 人種というより悪魔の種を問わず、異能ぞろいのチームがそれこそ何万何十万と参加しているらしい地獄野球。は虫類のような姿をした屈強な男共だけで固めたようなチームもある中で、「剣ヶ峰ウィッチーズ」はオーナーの趣味から女子だけがメンバーとして所属して、試合を戦っていた。そのチームに、有望な野球選手だった兄を事故で失い、その責任も感じた槇原里夏という高校生の少女が、優勝すれば何でも願いが聞き届けられると聞いて、人間の身を捨て地獄の住人となって参加していた。

 もっとも、悪魔に魂を売り渡すような因習はなく、ただ死なず老いない体になっただけ。それでも家族と同じ時間を過ごしてはいけない悲しみは抱えつつ、だからこそ兄を取り戻したいという願いで参加したチームの最初の試合で、投手として出場した里夏はめった打ちに合う。スコアは何と30対2。地獄に来たばかりで慣れない身では、“地獄力”として得た、どんな変化球でも投げられるという能力を生かし切れなかった。

 そしてチームは、オーナーのさらなる気まぐれで、優勝を何度も重ねていた1軍の主力選手たちが、マッチョな女性ばかりだからと解雇され、見た目の良い女子たちだけが残された。もちろん、それで勝ち抜けるほど地獄野球は甘くはない。ここではもう勝てないと考え、見てくれも良い上に力も持っていた選手たちが、ここにいる意味がないと離脱を表明して解散の危機に陥った。これはまずいと思ったのが、里夏とは長馴染みで、死んだ彼女の兄とも知り合いだった大森将貴という少年。様子のおかしい里夏のあとをつけ、地獄野球の現場に紛れ込んでしまった彼は、オーナーに頼み込んで、自分も地獄野球に関わらせてくれと訴え、けれども美少女だけしか認めないオーナーの考えもあって、少女の姿に変えられ、どんな球でも球種が分かればホームランに出来るという地獄力を与えられた。

 将貴は事情を話して里夏の納得をもらい、2人してやる気をなくしかけていた剣ヶ峰ウィッチーズのメンバーの志気を盛り返そうと頑張る。ヘロヘロに見えた里夏が、ようやくその潜在力を見せたことで、離脱しそうになっていた同僚の引き留めにも成功し、いよいよ始まった新シーズンに向かっていく。なるほど地獄で野球をする話。負けて魂が消滅するとか、世界が滅びるといった設定もなく、純粋に娯楽としての野球が繰り広げられていて、それもスーパーな技が飛び交う試合を見せられて、最高峰をさらに超える野球を観戦しているような楽しさを味わえる。

 里夏が最初に当番した試合で撃ち込まれた相手を、鍛え伸ばした才能で見返し、女子だからとはもう言わせなくして、味方にすらしてしまうような展開も、努力と勝利と友情の三位一体となった青春ストーリーを読んでいるような爽快感を与えてくれる。とはいえ、里夏も将貴も剣ヶ峰ウィッチーズの面々も、まだ何も成し遂げていないだけにこれで終わりは勿体ない。続く試合に臨み、現れる強敵たちを相手にどう勝っていくのか。チームメイトたちにはどんなドラマがあるのか。女子にされてしまった将貴が元に戻れる日は来るのか。読んでみたい、この続きが。


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