縄田一男著作のページ


1958年東京都生、専修大学大学院文学研究科博士課程修了。歴史・時代小説を中心とした文学活動で活躍中。「時代小説の読みどころ」にて中村星湖文学賞、「捕物帳の系譜」にて大衆文学研究賞を受賞。


1.武蔵

2.時代小説の読みどころ

※ 時代小説英雄列伝(縄田一男編集・解説)
 鞍馬天狗銭形平次若さま侍

 


 

1.

●「武 蔵」● ★★

  

 
2002年9月
講談社刊
(2300円+税)

 

2002/11/17

前半は吉川英治「宮本武蔵」論、後半はその後に書かれた様々な作家たちによる武蔵像を語った一冊。
時代小説の評論として画期的な著書、と言いたい。

そもそも宮本武蔵という剣豪については、それ程詳しく判っていないそうです。それなのに、何故我々が宮本武蔵像を明確にイメージできるかというと、それは吉川「武蔵」に描かれた人物像が固定化しているから。
何故それだけ圧倒的な支持を吉川「武蔵」は集めたのか。その点をまず縄田さんは説き明かしていきます。戦時下に書かれたこと、沢庵、お通の存在意義等々、吉川「武蔵」ファンとしては興味深いことこの上ありません。改めてその面白さに酔いしれる気がします。
縄田さんは、武蔵が縛りぶら下げられた“千年杉”を大きなポイントとして語っていますが、私としては、姫路城の幽閉から解かれた後の武蔵の一言「青春、二十一、遅くはない」がとても印象的。

後半は、その後に書かれた宮本武蔵像が数多く紹介されていますが、吉川「武蔵」に添うもの、全く異なる武蔵像を描くもの、様々です。しかし、いずれも吉川「武蔵」があっての新「武蔵」像でしょうし、ひとつも吉川「武蔵」を凌駕するには至っていないと言えます。それだけ、武蔵=求道者として描いた吉川「武蔵」が。我々日本人の好みに合っている、ということでしょう。
それら作品の武蔵像と比較しながら、宮本武蔵という人物を改めて見直してみるのも、大いなる楽しみのひとつ。読み応えある一冊です。

吉川英治「宮本武蔵」論/作家たちの武蔵
(坂口安吾「青春論」・村上元三「佐々木小次郎」/山本周五郎「よじょう」/小山勝清「それからの武蔵」/五味康祐「二人の武蔵」/司馬遼太郎「真説宮本武蔵」「宮本武蔵」/柴田錬三郎「決闘者宮本武蔵」/光瀬龍「秘伝宮本武蔵」「新宮本武蔵」/早乙女貢「武蔵を斬る」/澤田ふじ子「黒染の剣」/藤沢周平「二天の窟」/津本陽「宮本武蔵」/笹沢左保「宮本武蔵」/佐江衆一「捨剣夢想権之助」/峰隆一郎「素浪人宮本武蔵」/「バガボンド」)

   

2.

●「傑作・力作徹底案内 時代小説の読みどころ 増補版」● ★★

 

 
2002年10月
角川文庫刊
(895円+税)

 
2002/12/01

 


〔当初版〕
1991年6月
日本経済新聞社
1995年1月
光文社文庫化

表題に「傑作・力作徹底案内」とありますが、“力作”であることは本書も同じ。
それ位、歴史・時代小説のあらゆるジャンル、多数の作家・作品について評論しています。本書を熟読したなら、きっと歴史・時代小説の通になれることでしょう。
私がこれまで読んできた歴史・時代小説は、本書に取上げられた作品群の中のほんの一部にしか過ぎません。如何に一部に偏ってきたことか、思い知らされます。
歴史・時代小説を幅広く俯瞰して眺めるのには格好の書。単に面白いかどうか、何が面白いかを語るのではなく、歴史・時代小説の中でどのような特徴があるのか、そのジャンルの流れの中でどういう位置を占めるのか、等々。ですから、読書案内としても貴重な一冊です。

中でも興味深いのは、「時代小説の昭和史」中の「捕物帳の系譜」。今では極めてポピュラーかつ多様なジャンルですが、当初の岡本綺堂「半七捕物帳」(大6)の狙いは江戸の面影を残そうとしたものだった。それなのに、様々な発展をしていったところが面白い。
また、印象に強く残ったのは、杉本苑子「悲華水滸伝」。痛快な英雄譚の後に拝火教徒との戦闘を迎え、民間人まで相手にすることになった英雄たちの離合集散、嘆きまで描かれているとは、思わず絶句せざるを得ません。(あぁ、それも読んでいない)
「この作家、この作品」では17人の作家・その作品を紹介。私としては、その中で山手樹一郎藤沢周平が最も忘れられない作家です。また、小松重男さんの活躍が捨て難い。
巻末の3人の作家との対談も楽しさ充分です。

時代小説の昭和史/ヒーロー像の変遷/幕末維新を描く/この作家、この作品/対談(池宮彰一郎・宮部みゆき・泡坂妻夫)

  


  

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