中野利子著作のページ


1938年東京生、慶應義塾大学文学部卒。父は中野好夫、母方の祖父は土井晩翠。私立高校教員、公立中学校教員、定時制高校教員、産休補助教員等を経て、フリーライター。著書は「君が代通信」「教育が生まれる−<草の根>の教師像」「教師たちの悩み唄−10の人生ドキュメント」「H・ノーマン−あるデモクラットのたどった運命」等。93年「父中野好夫のこと」により日本エッセイスト・クラブ賞を受賞。

 


   

●「父 中野好夫のこと」● ★★★  日本エッセイスト・クラブ賞




1992年11月
岩波書店刊
(2136円+税)

 

1993/08/29

英文学者・名翻訳者であった中野好夫氏を語ったエッセイ。すこぶる好書です。

中野好夫という、私が個人的に大好きだった文学者の姿を、これ以上適確に描き出した本は他にはないでしょう。父親と娘という感傷に、無用に浸っていないのが良い。
人間として生の中野好夫、金を稼ぐ為に大学教授の地位を捨て、筆一本の文筆業に転じた骨太の人間の姿、それに至る必然的な道筋が、明解に描き出されていると思います。
そこには、家の後継ぎとしての生育、土井晩翠という有名人の娘を貰った気苦労、子沢山の家庭を支える苦労と、様々な中野さんの姿を見ることが出来ます。
それにしても、娘と父親という関係の中で、これだけ親の考え方を問い詰めていける、ということは稀ではないかと思います。それは何より、父親が様々な文筆の場で自らの考えを述べるという職業を生業としていた故ですし、娘もまたそうした道に進む事を選んだからこその故でしょう。
筆者自身、確かな筆力をもっているからこそ、本書は読み応えあるものになっています。

なお、中野好夫さんは、私の読書歴の中で決して忘れられない人です。
読書に熱中するようになったのは中野訳J・オースティン「自負と偏見の故ですし、シェイクスピアの魅力を知ったのは中野著シェイクスピアの面白さのおかげです。また、E・ギボン「ローマ帝国衰亡史を読もうと思い立ったのは、中野訳だからこそ。
それ故、本書によって中野好夫さんの素顔に近づけたのは、私にとってはとても嬉しいことです。

なんのために辞書がある!/意欲を孕む文学/償いの人生/クリスチャンの頃/降りつもる雪と竹/山路を歩く/ギボンを読む/おほづき提灯−父、中野好夫を送る−

 


     

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