森まゆみ著作のページ


1954年東京都文京区生、早稲田大学政治経済学部卒。地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を84年10月に創刊、話題となる。98年「鷗外の坂」にて芸術選奨文部大臣新人賞、2003年「即興詩人のイタリア」にてJTB紀行文学大賞を受賞。

 


   

●「女三人のシベリア鉄道」● ★★



 
2009年04月
集英社刊
(1800円+税)

2012年03月
集英社文庫化

 

2009/05/05

 

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「シベリア鉄道への関心がかくも長く持続したのは、学生時代にこれに乗って欧州へ行くという夢を果たせなかったことによる」と「あとがき」で森さんは記していますが、同年代の私は学生時代にシベリア鉄道に憧れることはなかった。
関心を持つようになったのは、就職してあちこちと一人で旅するようになったからである。
それでもさすがにシベリア鉄道は憧れるだけであって、その興味を満たしてくれたのが宮脇俊三「シベリア鉄道9400キロで、大陸横断旅行に私が憧れを抱くようになったのはそれから後に読んだ沢木耕太郎「深夜特急のおかげ。

森さんのシベリア鉄道旅が、宮脇さんのような鉄道ファン旅に終わらなかったのは、かつてこの路線でやはりパリを目指した3人の女性作家に想いを馳せながらの旅であったこと。
1人目は、1912(明治45)年05月に7人の子供を残し夫=鉄幹の元へと旅立った女性詩人の与謝野晶子、33歳
2人目は、1927(昭和02)年11月に湯浅芳子と共に旅立った左翼派女性作家の中條(宮本)百合子、28歳
そして3人目は、1931(昭和06)年11月に夫を残して渡欧に旅立った林芙美子、27歳
それら女性作家たちの作品や資料をケースに積み込み、シベリア鉄道旅を見聞すると同時に、彼女たちの旅を同じ状況下に身を置いて味わうという複合旅。
与謝野晶子が旅したのは革命勃発5年前前のロシア、百合子が旅したのは革命後10年のソ連、という違いも興味深い。

森さんに同行するのは、2006年の東京〜ベラルーシ首都ミンスクまでが、大阪外国語大学大学院に留学中のアリョーナ(実家がエカテリンブルク)、2007年の東京〜大連〜ハルピン(東清鉄道)がやはり留学生の柳順江さん(実家は途中の長春)とのこと。

シベリア鉄道旅、その途中で見聞きしたロシアの様子、旅の途中知り合った人々とのこと、同行者のアリョーナ・柳さんとのやりとりに加えて、晶子・百合子・芙美子という名だたる女性作家の軌跡という内容ですからかなり散文的ですが、なかなかの力作です。
2週間に及ぶ外国鉄道旅行を一人でしたというのは、凄い行動力だと思いますが、一方で当時外国旅行をするからには当たり前のルートではあったのでしょう。
それに相応するくらい、たっぷりとした読み応えある旅行&文学エッセイです。

ウラジオストクへ/バイカルの畔にて/エカテリンブルクのダーチャ/「道標」のモスクワ/東清鉄道を追って/夜汽車でワルシャワ、ベルリンへ/パリ終着の三人/あとがき(旅を終えてから)

 


     

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