宮脇俊三著作のページ


1926年埼玉県川越市生、東京大学西洋史学科卒。中央公論社に入社し出版部長、「中央公論」編集長、編集局長、常務取締役を歴任。78年退社後鉄道紀行を中心とした作家活動入り。「時刻表2万キロ」にて第2回日本ノンフィクション賞・第9回新評賞、「時刻表昭和史」にて第6回交通図書賞、「殺意の風景」にて第13回泉鏡花賞、85年交通文化賞を受賞。2003年02月死去、戒名は「鉄道院周遊俊妙居士」。


1.時刻表2万キロ

2.終着駅は始発駅

3.シベリア鉄道9400キロ

4.旅の終わりは個室寝台車

5.汽車旅は地球の果てへ

6.中国火車旅行

7.終着駅へ行ってきます

8.インド鉄道紀行

9.韓国・サハリン鉄道紀行

 


      

1.

●「時刻表2万キロ」● ★★☆


 
1978年07月
河出書房新社
(1200円)

1980年
河出文庫化

1998年09月
角川文庫化

1988/02/18

amazon.co.jp

ほぉーっ、こんな本があるんだ! と見つけたときには嬉しかった一冊。もう読み飽きたかなと思うのだが、読んでいるとそれなりにまだ面白い。

何のかのと言ってみても、列車に乗ることは楽しいし、時間・地図を辿ることもそれなりに面白さがあるものである。ただし、何度も読んでくると、そこに余裕のあまり無いことが感じられる。目的に縛り付けられ過ぎている、という点である。
 
内田百先生の場合、目的は列車に乗ること、至極単純明快である。
この本の場合、乗りにくい路線や支線に少しでも多く乗ることが目的だから、かなり窮屈な思いもし、読む側にも疲労感が伝わってくる。
純粋な乗る楽しみが乏しいのである。その点は著者も十分に承知しているらしい。
 
吉備線で、全乗が終わったらゆっくりこのディーゼルカーに乗ってみたいと書かれている部分である。全文中で何よりその一文に共感を覚えるし、それこそが楽しみと、我ながら述懐するのである。
“遊びの美学”と言って良い。内田百關謳カの「阿房列車」はその典型である。

  

2.

●「終着駅は始発駅」● ★☆

  

 
新潮社刊

 

1985/03/09

本書では、とにかく最後のフルムーンを徹底的に活用した全国一周プランが壮絶。
奥さんがフルムーン旅行でもと言いだしたところ、宮脇さんが過酷なスケジュール案を作り上げたため、奥さんは二度と口に出さなくなったという。気の毒だけれど可笑しい。

ちなみにそのプランはというと、
1日目:東京0600(新幹線)→京都(特急)→鳥取(急行)→松江1654
2日目:松江0704(急行)→小倉(特急)→別府1613
3日目:別府0745(特急)→西鹿児島(〃)→博多1825
4日目:博多0600(新幹線)→名古屋(特急)→新宮(〃)→白浜1727
5日目:白浜0650(特急)→大阪(特急)→青森2350→(青函連絡船)
6日目:0425函館(特急)→札幌(急行)→稚内1748
7日目:稚内0705(急行)→札幌(特急)→函館→(青函連絡船)→青森2358(特急)→
8日目:→上野0918

北海道大赤字線めぐり/流氷列車/スイッチ・バック4回/フルムーン行

 

3.

●「シベリア鉄道9400キロ」● ★★

   

 
1983年05月
角川書店刊
(980円)

1995年
角川文庫化

 
1989
/04/07

かつて日本からヨーロッパへ旅する場合には、南からインド洋を経る航路と、北からシベリア鉄道を利用する方法と2通りあったとのこと。
本書はその後者の行程、シベリア鉄道に乗車しての旅。7日間に亘る列車旅ですから、鉄道ファンとしては興味尽きないエッセイです。
 
著者が乗車したのは1982年のこと。ゴルバチョフが登場した9年前よりさらに以前のことであり、今回のクーデター失敗、共産党解散宣言など思いも寄らないときのことである。

こうした本を読むと自分でも乗りたくなる。第一、昔の文化の香りが漂ってくる気がするではないか。
また、シベリア鉄道の6日間が長過ぎるとしても、いつの日か、モスクワ−レニングラード間くらいは乗ってみたいものだと思う。

出発まで/バイカル号/低気圧の海/ナオトカ港/ボストーク号/ハバロフスク/ロシア号の第一日/ロシア号の第ニ日/ロシア号の第三日/ロシア号の第四日/ロシア号の第五日/ロシア号の第六日/ロシア号の第七日

 

4.

●「旅の終わりは個室寝台車」● ★★☆

  

 
1984年10月
新潮社刊
(930円)

新潮文庫化

1984/12/02

宮脇さんの鉄道紀行ものとしては明確にテーマがあるというものではないので、買って読むか迷ったのですが、結局買ってしまったという本。
でも、結果的には大正解。十二分に面白かった。
 
時刻表二万キロ「最長片道切符の旅」のような気負いが著者になくなったこと、鉄道に無縁の藍氏という記者が同行者としてつき弥次喜多道中のような雰囲気があったことが、気軽に、そして楽しめた理由だろう。
 
もっとも、弥次喜多道中というより、内田百先生+ヒマラヤ山系氏の2人旅パターンを踏襲したものと言えるが。

にっぽん最長鈍行列車の旅/東京−大阪・国鉄のない旅/飯田線・天竜下りは各駅停車/東京−札幌・孤独な二人旅/乗りつぎ乗りかえ流水の海/紀伊半島一周ぜいたく寝台車/青森−大阪・特急「白鳥」七変化/雪を見るなら飯山・只見線/九州行・一直線は乗りものづくし/旅の終わりは個室寝台車

 

5.

●「汽車旅は地球の果てへ」● ★★

   


1986年03月
日本交通公社
出版事業局刊

 1989年11月
文春文庫
(350円+税)

1990/01/25

本書の中で最も魅力的だったのは、ペルーの南部・中部列車である。
世界の鉄道の中で一番高いところに達する。標高 3,454m。富士山よりもユングフラウヨッホよりも高い。高山病の恐れもあるという。
 
とにかく、ひたすら登ることに専念した鉄道である。この列車には是非乗ってみたいと、私すら思う。
フィヨルドの章では白夜行列車が魅力的。現地に行ってみたい。
ジブラルタルの章では、「ラルゴ」という一般的な車両の半分程の長さしかないという車両が興味深い。

宮脇さんの、鉄道にかこつけてこれだけ世界の珍しい場所へと足を伸ばす、その恩典はとにもかくにも羨ましい限り。

アンデスの高原列車/人喰い鉄道・サバンナを行く/フィヨルドの白夜行列車/ジブラルタル海峡を渡る/ナイル河の永遠/オーストラリア大陸横断列車

 

6.

●「中国火車旅行」● ★★

   

 
1988年02月
角川書店刊
(971円+税)

1991年
角川文庫化

 

1990/09/04

インド鉄道紀行では、未知の国の路線に乗るという、まさに観光旅行者的な視点が多かったようだが、本書では共産国での外国人の旅行の様子、火車の仕組み、そうした点での違いに興味を覚えた。
10年以上前に読んだ本だが、ソ連およびその衛星国を旅した紀行文「フィールド・ノート」(泉靖一著・新潮選書)を思い出させられるのである。外国人には国営旅行社のガイドが張り付き、自由には行動させてもらえない。列車も外国人は特等席に押し込まれてしまう(もっとも留学生は対象外らしいが)。列車の食事も外国人はいくら分出すと決まっていて、量も皿数もおかまいなしに多数出てくるという。

日本の列車食堂のようにただ温めるのではなく、最初から調理するとのことであるが、ホテル同様大して美味しくないとのこと。むしろ豚肉のぶっかけ弁当や、町中の食堂の方が美味しそうであるとのこと。また、ビールは冷やして飲むという習慣がないとのこと。
客車はディーゼル主体だが、貨車は蒸気機関車が主体であるという。ガイド曰く、公営市場より自由市場の方が野菜も新鮮で美味しく、多少高くてもみんな自由市場で買いものをするという。

それにしても、シベリア鉄道の1週間余は別としても、上海から西部の終点まで3泊4日。インド鉄道にしても1泊2日の旅だった。大陸鉄道の雄大さをつくづく思い知らされる。
日本であれば精々社中泊が限度である。もっとも戦前、列車のスピードが今のように出なかった時代には日本でもありえた話であり、その頃の客車はさぞ豪華だっただろうと当時が偲ばれる。それに引き換え、何とグリーン車なるものの索漠としていることか。
大陸鉄道の魅力は、何日も列車に乗り続けなくてはならないことによる豪華さ、快適さだろうと思う。特等車だけのことだろうけど。

※その後カナダ旅行に行った時大陸横断鉄道にバンクーバーからカルガリまで車中1泊で乗り、ちょっと体験できました。

北京−広州/上海−烏魯木斉/大連−ハルピン/成都−昆明

 

7.

●「終着駅へ行ってきます」● ★☆

  

 
1989年02月
日本交通公社

1985/06/30

終着駅というのは、どことなく寂寥感があって良いものである。
本書はそんな地方ローカル線の終着駅を訪ねまわった書。
宮脇さんの著書には「ローカルバスの終点へ」という紀行本もあるが、やっぱり終点といえば鉄道。

私が行った終着駅というと、何処があるだろう。
北海道広尾線の広尾、九州の長崎。そんなものだろうか。

根室(根室本線)/根室標津(標津線)/十勝三股(士幌線)/増毛(留萌本線)/瀬棚(瀬棚線)/比立内(阿仁合線)/女川(石巻線)/熱塩(日中線)/間藤(足尾線)/海芝浦(鶴見線)/東赤谷(赤谷線)/別所温泉(上田交通別所線)/氷見(氷見線)/三国港(京福電気鉄道三国芦原線)/井川(大井川鉄道井川線)/武豊(武豊線)/谷汲(名古屋鉄道谷汲線)/伊勢奥津(名松線)/片町(片町線)/海部(牟岐線)/境港(境線)/仙崎(山陰本線)/門司港(鹿児島本線)/杉安(妻線)/枕崎(指宿枕崎線)

 

8.

●「インド鉄道紀行」● ★☆

  

 
1990年04月
角川書店刊
(971円+税)

1993年
角川文庫化

1990/07/23

それなりに楽しんで読みましたが、特に興奮は覚えませんでした。

確かにインドという大国のことは殆ど知らないし、訪れる可能性もまずない所である。その行けそうにない、ということが、感激を割り引いてしまったのかもしれない。
そういう意味では、やはり国内の鉄道紀行の方が面白い。しかし、読み飽きてきたというところも、ないではない。
もっとも、「アンデス高山鉄道」は面白かったのだから、一概に決め付けるわけにもいかないのである。
なんとなく、まとまりのない感想になってしまった。

出発まで/エア・インディア/ニューデリーとデリー/ラジダーニ特急(カルカッタ行)/エアコン急行/聖地ヴァラナスィ/アグラ/世紀急行/ラジダーニ特急(ボンペイ行)/ボンペイ(1)/ボンベイ(2)/ウディヤン急行/デカン高原/バンガロール/ジョラペティ駅/ケララ州とコモリン岬/再訪、夏のインド/シムラ軽便鉄道

 

9.

●「韓国・サハリン鉄道紀行」● 

  

 
文春文庫

 

1994/08/16

以前のような面白さはあまり感じられなくなっている。
韓国紀行の本書があまり面白くないということもあるだろうが、マンネリ化と、私自身の関心の低下もあるだろう。

韓国よりはサハリンの方が面白い。著者自身の意気込みからして違うと思う。
初めて解禁となったサハリン鉄道ツアー。稚内から船で出て、約1週間の旅程。

途中半強制的に訪問させられて、町中あげてのダンス・パーティやら市民の大歓迎を受けたという、アレクサンドロフスク市のことだけは書き留めておかなければならない。

 

読書りすと(宮脇俊三著作)

   


  

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