沢木耕太郎著作のページ No.1


1947年東京生、横浜国立大学卒。79年「テロルの決算」にて第10回大宅壮一ノンフィクション賞、82年「一瞬の夏」にて第1回新田次郎文学賞、85年「バーボン・ストリート」にて第1回講談社エッセイ賞、93年「深夜特急第三便」にて第2回JTB紀行文学大賞、2003年それまでの作家活動に対して第51回菊池寛賞、13年「キャパの十字架」にて第17回司馬遼太郎賞を受賞。


1.テロルの決算

2.深夜特急−第一便 黄金宮殿

3.深夜特急−第二便 ペルシャの風

4.深夜特急−第三便 飛光よ、飛光よ

5.象が空を

6.

7.オリンピア(新潮文庫改題:オリンピア1936 ナチスの森で)

8.貧乏だけど贅沢

9.血の味

10.イルカと墜落


シネマと書店とスタジアム、激しく倒れよ、一号線を北上せよ、無名、冠(コロナ)、杯(カップ)、1960、凍、「愛」という言葉を口にできなかった二人のために、旅する力

 → 沢木耕太郎著作のページ No.2


ポーカー・フェース、キャパの十字架、旅の窓、流星ひとつ、銀河を渡る、旅のつばくろ

 → 沢木耕太郎著作のページ No.3


あなたがいる場所、月の少年、ホーキのララ、波の音が消えるまで、春に散る

 → 沢木耕太郎小説作品のページ

  


   

1.

●「テロルの決算」● ★☆   大宅壮一ノンフィクション賞

 

1978年
文芸春秋刊

 
1982年09月
文春文庫化

2008年11月
文春文庫再刊

   

1993/10/03

昭和35年、日比谷公会堂における社会党演説会の折、凶刃に倒れた委員長・浅沼稲次郎と、その犯人である当時17歳の大東文化大生・山口二矢(やまぐちおとや)各々の、それまでの軌跡を辿ったノンフィクション。
本書では、事件の時代的背景よりも、2人に人間のアウトローぶりに視点があてられていて、今においても目新しい感覚を覚えます。
単なる事件解説に終わらず、社会の主流から抜け落ちた2人の不幸、2人をそうした立場に追いやった人々の背任に対する告発、という印象が強い。

山口二矢は、自衛官である父親の次男として生まれる。この父・山口晋作こそがこの事件を生んだ、と言って過言ではない。子供に対し、行儀作法のしつけが厳しい反面、心の交流という面を欠いていた。母親の兄・村上氏は、事件の原因を父親の子育て・教育によるところが大きいと、冷静に指摘している。
一方の浅沼稲次郎。社会党委員長とはいえ党内抗争の妥協の産物であり、安保絶対阻止の方針に対しては党内でも異論の声が強かったという。田舎出の朴訥さ故に人気のあった人物というが、浅沼の死は結局選挙への好材料として利用される。そうした事実に、浅沼の悲劇を強く感じます。

     

2.

●「深夜特急 第一便 黄金宮殿 ★★★ 日本冒険小説協会大賞特別賞


深夜特急第一便画像

1986年05月
新潮社刊

1994年03月
新潮文庫化
1-2巻



1992/11/03



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前から読みたいと思っていた「深夜特急」、実際に買って読んだのは随分時間が経ってからでした。

インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合バスを乗り継いで行こうと、沢木さんがふと思いついたのが事の発端。そしてその実行の結果、沢木さん26歳から27歳にかけて約1年間のユーラシア大陸横断旅行をまとめたのが本書です。
一人旅好きにはたまらない魅力に充ちた本。むしろ、憧れと言った方が良いでしょう。ずっと身近に置いておこうと思う本でもあります。
「第一便」は、デリーに至る以前の旅程。
目的であるバス旅の前にマカオのカジノに嵌りこんでしまう。その様子に、たかが読者であるにもかかわらずハラハラしてしまったのが、とにかく強く印象に残ります。
香港から再びインド航空に乗り、喧騒な街・バンコクへ。バンコクからマレー鉄道を利用して南下。途中の町で泊まった宿=娼婦の館とも言うべきホテルに暫く滞在。
娼婦連中やそのヒモ連中と親しくなりピクニックへ行ったとか、沢木さんの行動力には羨望を感じます。行動力と言うより、現地への密着力と言うべきでしょうか。
そしてペナン、クアラルンプール、マラッカ、シンガポールへ。
シンガポールと相容れないという沢木さんの嘆き、そして反省。香港の魅力に取り付かれ、バンコックやシンガポールでも香港の面影を探していた、といいます。そうした気持ちが判らないでもありません。それ程までに香港での沢木さんの行動は、香港の街に深く溶け込んでいました。文章からそれは充分感じられます。

1.朝の光(発端)/2.黄金宮殿(香港)/3.賽の踊り(マカオ)/4.メナムから(マレー半島1)/5.娼婦たちと野郎ども(マレー半島2)/6.海の向こうに(シンガポール)
※文庫版・・・第1巻:香港・マカオ、第2巻:マレー半島・シンガポール

   

3.

●「深夜特急 第二便 ペルシャの風 ★★★ 日本冒険小説協会大賞特別賞


深夜特急第二便画像

1986年05月
新潮社刊

1994年04月
新潮文庫化
3-4巻



1992/11/03



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カルカッタへ、そして仏陀が悟りを開いたといわれるボドガヤーへ。その途中は、何度もの列車旅行。
先進国からの観光客としてではなく三等列車に乗り、混み合った中で沢木さんは現地の人と交わっています。そこでは、金のない旅行者として現地の人たちから様々な親切を受けています。若者達との仲間付き合いも生まれる。金のない旅行だからこその結果でしょう。何人にもできるという旅行ではありません。
その一方、7、8歳の女の子でさえ身体を売るという生活状況。
12、13歳の女の子が、既に中年女の身体つきになっている、という現実にも対面します。

とにかく、スリルと現実の凄さにどこまでも魅せられる本です。「第一便」の面白さが、そのまま更に加速したと言えるのが、この「第二便」です。
インドの喧騒、パキスタンの乗合バスのチキンレース、カーチェイス。アジアとは、こんなにも多様で面白いのか、と何度も思いました。そして、物価の廉さ。何十円かでの食事、何百円かでの宿泊。日本から行けば、いくらでも楽しむ手があるように思えます。
沢木さんは、旅の途中、自分と同様な旅をしている若者に多く出会い、擦れ違っています。何と多くの人たちがこうした旅をしていることでしょう。そのことに、目を醒まされたような気がしました。

7.神の子らの家(インド1)/8.雨が私を眠らせる(カトマンズからの手紙)/9.死の匂い(インド2)/10.峠を越える(シルクロード1)/11.柘榴と葡萄(シルクロード2)/12.ペルシャの風(シルクロード3)
※文庫版・・・第3巻:インド・ネパール、第4巻:シルクロード

   

4.

●「深夜特急 第三便 飛光よ、飛光よ ★★☆


深夜特急第三便画像

1992年10月
新潮社刊
(1359円+税)

1994年06月
新潮文庫化
5-6巻


1992/11/03

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「第二便」から「第三便」の間には、6年の年月がありました。
沢木さん自ら言うように、旅もヨーロッパに入ると、大きく変質します。旅する自分が、訪れた国であくまで外訪者であることを強く意識させられる、と言ったら良いでしょうか。

本書では、旅の本質を自ら問うような旅となっています。「第三便」を書くまでの年月の経過も、その理由にあるだろうと思います。
その意味で、この「第三便」には「第一便」と「第二便」のようなスリルに充ちた面白さはありません。ひたすら、“解決篇”なのです。
ポルトガルの果ての岬サグレスから、ロンドンへ。しかし、結局旅は終わらず、沢木さんは漸く辿り着いたロンドンから「ワレ到着せず」の電報を打ち、ひとまず「深夜特急」は終結します。もっとも、そんな幕切れは、本書にはとても相応しい。
「深夜特急」全3冊を、私は満足感をもって土曜日早朝に読了しました。

13.死者として(トルコ)/14.客人志願(ギリシャ)/15.絹と酒(地中海からの手紙)/16.ローマの休日(南ヨーロッパ1)/17.果ての岬(南ヨーロッパ2)/18.飛光よ、飛光よ(集結)
※文庫版・・第5巻:トルコ・ギリシャ・地中海、第6巻:南ヨーロッパ・ロンドン

    

5.

●「象が空を」● ★★★


象が空を画像

1993年10月
文芸春秋刊

(1894円+税)

2000年1-3月
文春文庫化


1994/01/19


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「路上の視野」に続く10年間(1982〜1992)のエッセイを収録。
とにかく盛り沢山なエッセイ集です。これらをこの一冊で楽しめるなんて、なんと贅沢なのかと思います。それぞれのエッセイは決して長いものではないのですが、非常に貴重なものを読んでいるという感じ。一篇一篇を大事に取っておきたい、という気にさせられます。
また、世の中の様々な断片からなんと上手にその輝いている瞬間を取り出す感性を持っているのか、と感嘆してしまうことしきり。
この本を読んでいた時は、毎日毎日、その日に読んだ中から印象に残った部分を書きぬいておくことに追われていました。語り尽くせないほど、実の詰まった一冊です。
※本書の題名はガルシア・マルケスの台詞から。

第1部 夕陽が眼にしみる ※歩く…旅、紀行...
第2部 水路をつなぐ   ※会う
…森進一、吉永小百合、美空ひばり...
第3部 苦い報酬     ※読む
…塩野七生、山口瞳、吉村昭、近藤紘一..
第4部 旗門と逸脱    ※書く
第5部 不思議の果実   ※見る
第6部 勉強はそれからだ ※暮す

2000年1月文庫化:「夕陽が眼にしみる 象が空を1」(上記第1・3部)

 

6.

●「 檀 」● ★★★

壇画像
  
1995年10月
新潮社刊

2000年08月
新潮文庫化

1996/02/21

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檀一雄夫人ヨソ子氏に取材し、あたかもヨソ子氏が記述したかの如く書かれた本。
一言、良い本でした。
すっきりと、簡潔に、夫人の心情と当時の状況が語られている一冊です。

檀一雄という作家を本人と逆の立場から映し出すという点で、貴重な著作だと思います。漱石に関連した「鏡子夫人の思い出」が同様の書として思い浮かびます。
檀一雄は常に愛人である女性を求め、一方夫人は常に妻であること、家庭が第一で夫一雄に寄り添う事に不器用な人だった。

最後の夫人に対する短い質問で、沢木さんは見事に本書を総括しています。「火宅の人」の桂ヨリ子と実際の夫人を比べる事によって。

  

7.

●「オリンピア ナチスの森で 」● ★★★
 (新潮文庫改題:オリンピア1936 ナチスの森で)


オリンピア画像

1998年05月
集英社刊
(1600円+税)

2007年07月
集英社文庫

2021年06月
新潮文庫


1998/07/13


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素晴らしいの一言。読み甲斐のある一冊でした。
今改めて蘇る歴史の中の
ベルリン・オリンピック。単なる一大会ではなく、その後のオリンピック発展の基礎となる大会だったと同時に、ドイツ、日本の軍事色が濃く出た大会でした。
それ以外に、初めてメディアによる実況中継が可能となった大会。
その近代化の一方、ハイル・ヒットラーが常に叫ばれ、開会式で日本が戦闘帽をかぶって入場行進をするといった醜悪さも見せられます。
それでも、日本選手団は活躍もしたし、期待はずれにも終わる。遠い祖国からの選手に対するプレッシャーは現在と変わらないどころか、はるかに強かったようです。
 
これらの物語が単なる歴史物語に終わらないのは、ひとえに映画“民族の祭典”を監督したレニ・リーフェンシュタールと著者の対談にあります。彼女は90才を越えた今もなお水中撮影を行う現役。著者の鋭い突っ込みと彼女の回答はなかなかに生々しい。
彼女との対談を冒頭と最後に挿入したことが、ベルリンオリンピックを、人間の根幹に迫るドラマとして蘇らせる成果に繋がっていると思います。
 
大会に向かう途中に見たソ連とナチス・ドイツの比較とか、選手自身による見聞も興味深く貴重です。決して「前畑ガンバレ」だけの大会ではなかったのです。

三部作になるとのこと。次作がとても楽しみです。

   

8.

●「貧乏だけど贅沢」● 


貧乏だけど贅沢画像

1999年02月
文芸春秋刊
(1524円+税)

2012年01月
文春文庫化

1999/07/24

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沢木さんのあとがきに、「旅をテーマにしたり、結果として旅の周辺を巡ることになった対談を選んで1冊にまとめたもの」とあります。
したがって、当然ながら、一方の対極は沢木さんの「深夜特急」となります。
普通、対談というと、自己紹介のようなところから始まり、親しくなったが故の内訳話が開陳される、というパターンだと思うのですが、本書はまるっきり違います。
まず、対談前に相手のことをよく知っている。しかも、相手と会った直後から一気に奥深いところまで達し、そこで会話をしているというハイレベルな内容。
正直言って、そのレベルの高さにこちらが追いついていけない、と自覚せざる得ないことが度々ありました。
まして、半分位は私の知らない人。置いてけぼりになって唖然とした、いう思いが今も残っています。
10人の中で興味深く読めたのは、井上陽水、高倉健。気楽に読めたのは、阿川弘之群ようこの計4氏でした。

対談相手:井上陽水/阿川弘之/此経啓助/高倉健/高田宏/山口文憲/今福龍太/群ようこ/八木啓代/田村光昭

  

9.

●「血の味」● ★★


血の味画像

2000年10月
新潮社刊
(1600円+税)

2003年03月
新潮文庫化



2000/12/07



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「中学三年の冬、私は人を殺した」という文章から始まる、沢木さん初の小説。
沢木さんは17歳の時、人を殺したいと思ったことがあるそうです。そのことから、15年前に書き出し、10年前には 9割方書き終えていたのが本作品だそうです。それから本書刊行まで長く時間が置かれたのは、沢木さん自身、何を書こうとしているのか判らなくなった為だそうです。その意味が、別の小説を書こうとする過程で明確になったことから、漸く本作品の完成に至ったのだとか。
沢木さん自身そう語る位ですから、本書の意味、目的がどこにあるのか、正直言って私には皆目判りませんでした。17歳の時、何故沢木さんは人を殺そうと思ったのか、その理由を自身の意識の底に探ろうとしつつ、結果的に小説として外に現われたのが本作品であるように思うのです。
主人公は、少年院の後、大学入学資格検定試験に受かり、国立大学の経済学部夜間部に入学、卒後税理士資格をとり、最終的に公認会計士試験にも合格します。その間ずっと殺人という記憶を押込めていたのですが、ふとしたことから記憶が蘇ってくるのを抑えられなくなる。そして中学3年当時の回想が始まる、というストーリィ構成です。
中学生による殺人というと、昨今の風潮との関連を推測されるかもしれませんが、本書の内容はまるで違ったものです。まず、主人公自身が捉えにくい少年です。何の為に、何をしたいと思って彼は生活しているのか、その意識が彼には欠けているようです。殺人という行為は“存在”と対極にあるものと思いますが、主人公においてはどちらも不確かなものであったように感じます。
とらえ難い作品ではありますけれど、読み終えた直後の印象度はかなり強い作品です。沢木ファンであれば是非一読をと、お薦めします。

     

10.

●「イルカと墜落」● 

  
イルカと墜落画像

2002年03月
文芸春秋刊
(1200円+税)

2009年11月
文春文庫化


2002/05/03


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久し振りの沢木著作ですが、題名に「?」、と思ったのは事実。
沢木さんらしくないな、と感じたのです。
それもその筈、本書はアマゾン奥地への取材紀行ですが、参加経緯はNHK・コクブン氏からの誘いを受けたものだったとか。沢木さん自らの計画ではないだけに、どこか第三者的、観客的なところがあります。

ブラジル奥地には、まだ「文明」に接したことのないインディオ達が、数多くいるとのこと。そんなインディオ達にとって、我々文明人との接触は、危険極まりないことなのだそうです。文明にも病原菌にも抵抗力がない彼らが我々に接すると、壊滅的な状況に陥ることが多いとか。そんな彼らに保護地区を設定しようと、長年活動しているのが、現地のポスエロ氏。本書は、2度にわたるブラジルでの、ポスエロ氏取材記です。
その1回目が「イルカ記」。ポスエロ氏の基地へ向かう途中では、ピンクのイルカと遭遇したり、やや観光気分。
ところがその2回目、本当に沢木さんの乗ったセスナ機が墜落してしまうとは! 思わず絶句。
墜落事故がなければ平凡な取材紀行に留まったでしょうけれど、事故後の現場、病院等の様子をきちんと観察してみせるのは沢木さんならではのこと。役所広司さんならずとも、沢木さんにはドラマチックな出来事が似合っている、と言いたくなります。

発端/イルカ記/墜落記/終結

       

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