吉野万理子作品のページ No.1


1970年神奈川県逗子市生、上智大学文学部卒。新聞社、出版社で編集業務に携わる。2002年「葬式新聞」にて「日本テレビシナリオ登龍門2002」優秀賞を受賞。04年連続テレビドラマ「仔犬のワルツ」の脚本を執筆、韓国ドラマ「初恋」のノベライゼーション全三巻を刊行。05年「秋の大三角」にて第1回新潮社エンターテイメント新人賞(選考委員:石田衣良氏)。「チームふたり」は第54回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に指定。「劇団6年2組」にて第29回ならびに「ひみつの校庭」にて第32回うつのみやこども賞、「73年前の紙風船」にて平成30年度(第73回)文化庁芸術祭ラジオドラマ部門優秀賞を受賞。


1.
秋の大三角

2.雨のち晴れ、ところにより虹

3.ドラマデイズ

4.乙女部部長

5.今夜も残業エキストラ(単行本題名:エキストラ)

6.想い出あずかります

7.海岸通りポストカードカフェ

8.恋愛映画は選ばない

9.劇団6年2組

10.連れ猫


時速47メートルの疾走、風船教室、空色バウムクーヘン、赤の他人だったらどんなによかったか、ひみつの校庭、ロバのサイン会、いい人ランキング、忘霊トランクルーム、南西の風やや強く、昨日のぼくのパーツ

 → 吉野万理子作品のページ No.2


イモムシ偏愛記、トリカブトの花言葉を教えて、雨女とホームラン、強制終了いつか再起動、階段ランナー、5年1組ひみつだよ、5年2組ふしぎだね、5年3組びっくりだ

 → 吉野万理子作品のページ No.3

 


   

1.

●「秋の大三角」●       新潮エンターテイメント新人賞


秋の大三角画像

2005年12月
新潮社刊

(1300円+税)



2006/06/17



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“新潮エンターテイメント新人賞”は、一人の作家が独断で選ぶ賞だそうで、本書「女子校生の切ない三角関係の物語」を応募作1320篇の中から選んだのは石田衣良さんだそうです。

たしかに帯に紹介されているとおり「横浜を舞台に女子校生たちの不思議な経験を描いた学園ファンタジー」ではあるのですけれど、本書ストーリィを正確に言い表しているかというと、ちょっと疑問。私としては、学園ファンタジーというより、ややホラーがかったところのある青春風サスペンス・ファンタジー、と言う方がふさわしいと思います。
主人公榊里沙、横浜にある私立女子校の中学2年。その里沙が憧れているのはバスケ部のエースで、まるで宝塚の男役のようなイメージの高校2年、久世真央
その里沙が通学に利用している根岸線で、近頃電車の降り際にキスしていく新手の痴漢が出没しているという噂が広がります。そしてある朝里沙は、噂のキス魔らしい青年に降り際にキスする真央の姿を目撃してしまう。
その青年は何者なのか。そして、真央は何のためにそんな行動をとったのか。

となるとミステリ風なのですが、そこからストーリィはファンタジーというよりもむしろ非現実的と言う方がふさわしい展開へと進んでいきます。「切ない三角関係」のストーリィではないのでは?と思う次第。
ストーリィは軽快に(石田さん曰く「さくさくと」)展開していきますが、私としては登場人物の動きが物足りない。
作家の人たちがよく、作中人物が勝手に動き出すと言いますが、本書ではそれが感じられない。あくまで登場人物は作者が用意した場面だけ登場し、あとは舞台裏で待機しているのみという風に感じるのです。その分、こしらえもののストーリィという印象が拭えない。
親友・由希との友情、演劇部顧問の教師・ホッシー(保志川満記子)と関わる部分、学園ものとして楽しく感じられるところはありますが、いくらファンタジーとはいえその結末は学園ものを越えて非現実的過ぎるのでは?と思ってしまうのです。

   

2.

●「雨のち晴れ、ところにより虹」● ★★


雨のち晴れ、ところにより虹画像

2006年07月
新潮社刊
(1400円+税)

2016年08月
新潮文庫化



2006/09/03



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北上次郎さんがこう書いています、(秋の大三角と比べ)「たった一作で変わるかよ、と疑っていたことを謝罪したい。どうしてこんなにうまくなったんだ」と。
その感想はそのまま私自身の感想でもあります。全くの同感。
受賞作をイマイチと感じたので少しも期待していなかったのですが、北上さんの書評をみて読んだところ、まさにそのとおり。文句つけようなく、上手い!
湘南を舞台に、夫婦、母娘、恋人、癌患者と看護婦、祖父と孫、親友同士における気持ちのすれ違い、そしてそれが再びまとまる経緯を描いた短篇集。
ほんのちょっとした気持ちのすれ違いは、常にそして誰にでも怒りうること。でもそのちょっとしたことが元で別れたり、決定的に反目し合ったりすることがない訳でない。
本書は、一時のすれ違いから再び絆が戻っていく、その様子を気持ち良く描いているところに魅力があります。湘南のもつ開放的な雰囲気がプラスに働いているところも魅力です。

性格の不一致も性の不一致もないけれど食が決定的に不一致。こりゃ危うい!と思った夫婦の亀裂が修復していく、その過程を描いた「なぎさ通りで待ち合わせ」でまず上手い!と唸らされました。
「こころ三分咲き」は、高校生の娘とやり手予備校教師の母親という2人を描くストーリィ。母親か一人の女かというテーマと思われたのに予想外の展開。これも上手いなぁ。
「ガッツ厄年」は恋人同士のすれ違いが本来の主ストーリィだろうと思うのですが、厄払いをどうするかで相談しあう元同僚3人の女性たちの姿がユーモラス。
表題作「雨のち晴れ、ところにより虹」は、ホスピスに入院している主人公とその担当である自称“デブ”の看護婦とのやり取りが中心。ここでも予想外の展開が待ち受けていましたが、心からほっとさせられるストーリィ。死を待つ暗さはどこにもありません。
「幸せの青いハンカチ」はかなり甘ったるい篇となりましたが、まぁ最後を飾る篇としてその位は仕方ない。
総じて、どの短篇もとても気持ち良い。
こうした爽快なストーリィを味わえること、それこそが読書の愉しみです。

なぎさ通りで待ち合わせ/こころ三分咲き/ガッツ厄年/雨のち晴れ、ところにより虹/ブルーホール/幸せの青いハンカチ

 

3.

●「ドラマデイズ」● 


ドラマデイズ画像

2007年03月
角川書店刊

(1300円+税)

2016年05月
小学館文庫化



2007/04/11



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某テレビが主催したシナリオコンクールで佳作に選ばれた主人公のOLが、脚本家を目指すという“お仕事小説”。

ただし、いくら「目指す」とはいっても、相当な初歩段階。佳作に選ばれただけですぐ会社を辞め、脚本家で食べていこうと発想するのですから、身の程知らずというか、大胆というか。
吉野さん自身の体験がどの程度入っているのかは判りませんが、経験を生かした作品であることは間違いないところでしょう。本好きであれば、小説家とか脚本家とか夢見たことが一度もないということはない筈。それ故、主人公のあまりの世間知らず、不器用さに呆れもしつつ、とはいえ頑張って欲しいと思いもしつつ、業界事情を知ることができるという興味から、読み進んだ作品です。
利用されたり、騙されたり、誤解されて悲しい思いをしたりと、まさに悪戦苦闘。
ただ、“お仕事小説”というレベルまで至っていないよなぁ。
脚本を書くという仕事どころか、脚本を書きたいという強い意志を固めるまで、やっとスタートラインに付いたと言える迄を描いたストーリィなのです。したがって、面白さもイマイチ。

しかし、この小説、最後の頁まで来て、その後に漸く本来のスーリィが始まる(筈)と感じる作品でもあるのです。
頁が終わった後にどんなストーリィが展開されるかと思うと、どんなにワクワクすることか。
それが書かれないまま終わるなんて、その後は読者の想像力のままに委ねるなんて、何とニクイ仕業か。

 

4.

●「乙女部部長」● 


乙女部部長画像

2007年11月
メディアファクトリー刊

(1200円+税)



2007/12/05



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百貨店勤めの独身OL、小夏が主人公。
未だに恋人がいないその理由は、運命の人と赤い糸で結ばれている、いつか運命的な出会いがある筈と、32歳になってもなお乙女チックな考えに捉われている所為か。
そんな小夏を案じているのが、既に一児の母親となっている親友の遥香。その遥香の放った一言につい乗って、“乙女部”を結成することになる。
その資格とは、運命的な出会いを信じている、赤毛のアンを読んだことがある、というのはねぇ・・・。

軽くユーモラスな独身女性物語。気楽に面白く読み出せる、というのは私が男性だから?
合コンは是か非か? 合コンなんかで運命の人と出会えるはずがない、でも探し求めなければ出会えるはずもないと、最初から乙女部内の意見はまとまらない。

そんなストーリィですが、運命的な出会い云々より、肝心なのは主婦となった女性と未だ独身という女性の間で友情は続きうるのか、という問題にあるようです。
最後の方、小夏が乙女部仲間の女性からハッパをかけられる一言がキラリと光るのが、好いじゃないですか。
私も「赤毛のアン」とか好きですので、すぐくっつき合うより夢を抱えてモタモタしている、こんなストーリィの方が好きです。

1.乙女部誕生/2.合コンの決意/3.乙女な男/4.脱退宣言/5.偶然か運命

            

5.
「今夜も残業エキストラ ★☆
 (単行本題名:エキストラ!)




2008年10月
PHP研究所刊

2012年01月
PHP学芸文庫

(648円+税)



2016/08/28



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大学先輩が経営していた社員4人の小さなコンテンツ会社が倒産し、主人公の今野真穂26歳は、キャラクタービジネスを主体とする社員27人の広告制作会社“キャラパーク”に転職。
営業部員9名はさっそく3つの本部に分けられ、真穂は憧れの先輩社員=
大賀諒28歳がチームリーダーとなり、新規顧客を担当する第三本部に配されます。
ただし、本部と言っても人員はたった3名。転職したばかり、まだ経験が浅いと自ら思いながらも、否応なしに真穂は新規プロジェクトの重要なメンバーの一人と位置付けられます。
憧れの大賀に評価されたいと頑張るものの、クライアントの担当者である2人の仲の悪さに振り回され、社内のギャル女子2人からは陰口を叩かれ、さらに悪気はないのかもしれませんが、勘違いが多かったり、マイナスオーラを出しまくりの先輩女性に気持ちを挫かれる等々、様々な実体験を強いられます。
そうした出来事に揉みくちゃにされながら、真穂が成長し、同時に“仕事とは何か?”を掴んでいく仕事成長ストーリィ。

まぁ仕事をしていると、大企業は大企業なりに、中小企業は中小企業なりに、そして新興企業は新興企業なりにいろいろな我慢をさせられるものだと思います。
思いつきで部下を振り回す困った上司もいるし、理不尽なことばかり押し付けてくる顧客もいるし、自分の実績を上げることにばかり執念を燃やしていれば、足を引っ張るばかりの同僚もいる、といった具合。
でもそれらを含め、会社とはそういうものであり、仕事とはそういうものだと思います。

26歳であっても新人社員という主人公の設定故に、仕事ストーリィとして新鮮な印象。
また、いろいろな性格の社員・顧客が登場するところも、そうだよなァと共感しきり。
主人公が時折り本音を五七五五に折り込んで詠む短歌が愉快で、楽しめるワーキング・ガール小説に仕上がっています。

※なお、題名の「エキストラ」とは、脇役のこと。

1.ときめきの席替え/2.初めて叱られた/3.やさしすぎる人/4.危険な記憶/5.ミミーズな女たち/6.落ち込ませ屋/7.初の社員旅行/8.立ちはだかる男/9.舞台の中央に立つ日/最終章.我らエキストラ!!!

      

6.

●「想い出あずかります」● ★★☆


想い出あずかります画像

2011年05月
新潮社刊
(1400円+税)

2013年12月
新潮文庫化



2011/07/05



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海辺の町、鯨崎。その岬の崖の下には一軒の石造りの家があり、子供たちがしょっちゅう訪ねていく。
そこは19歳までの子供たちしか知らない、
魔法使いの営む「おもいで質屋」。
そこで子供たちは、魔法使いに想い出を質入れしてお金を手に入れることができます。そして殆どの子供たちがお金を返して想い出を取り戻すことなく、質に流してしまうという。

本書の主人公は、新聞部の取材で初めて魔法使いを訪ねた中学生・
永澤里華。それ以来足繁く魔法使いの元を訪れては、言葉を交わします。
何がという目的もなく、これという共通点もないままに、お茶を共にする魔法使いと里華。その雰囲気が、とても居心地良く、気持ち良さそうなのです。
本書は、人間のような感情は持たないのだという魔法使いと関わりながら成長していく里華の、青春&成長ストーリィ。

いくら嫌な想い出だからといって、質入れとはいえ次々と手放してしまって良いものかどうか。その点も本ストーリィにおける重要な鍵。
また、里華にとって魔法使いは、鏡のような存在だろうと思います。魔法使いはどんなことでもできると言いながら、里華の問いに答えをくれる訳ではなく、むしろ逆に問い直す風。そのことによって里華は自分の本心と向き合うことになり、道を誤らずに成長することができたのだと思います。
魔法使いの言葉がきっかけとなって親友になった里華と
芽依。2人の友情は、本ストーリィにおける美しい果実と言って良いでしょう。
もう一人、
遥斗という小学生に関わる部分も見逃せません。

魔法使いがもつファンタジーさと里華らがもつ瑞々しさ、その2つが見事に溶け合っているところが、本作品の清新な魅力です。

            

7.

●「海岸通りポストカードカフェ」● ★★


海岸通りポストカードカフェ画像

2012年01月
双葉社刊
(1500円+税)

2014年08月
双葉文庫化



2012/02/08



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横浜はみなとみらい、万国橋のたもとにある一軒のカフェ、名前は「ポストカードカフェ」。その名の通り、店内の壁いっぱいに絵葉書が貼られている。
相手の住所に送るのではなく、わざわざこの店宛てに絵葉書を送ってくる人もいる。この店にやってくればいつでも絵葉書を見ることができるからと。ここには、店を訪れた客たちのいろいろな想い、いろいろな足跡が今も残っているのです。

洒落た設定ですよね。前作の
想い出あずかりますもそうでしたが、どこか夢のような温もりを感じます。
店の常連客について絵葉書にまつわる様々な物語、葉書を待ち続ける想いが、どれも絵葉書のように短い章を連ねる中で、自然と浮かび上がってくるように書き綴られていきます。
葉書は店に届くのですから、知らせを受けて店に葉書を読みにくる人(決して渡されることはない)は当然のように常連客と関わり合ったり、新たな常連客になっていったりします。
葉書は人と人とを結ぶもの。送り手と受取り手だけでなく、このカフェと客同士の間にも繋がりをもたらします。
そんな微妙な空気が心楽しく感じられる連作ストーリィ。私好みですねぇ。

※葉書ではありませんが、店の壁いっぱいに切符、定期券が貼られている店もあります。銀座にあるイタリア料理店“
イタリー亭”の地下フロア。穴倉のような店の雰囲気にマッチしていて、独身時代よく通った店です。今もそのままでしょうか。もっとも電子マネー化時代、新しく貼られるものは少ないことでしょう。
 
差出人は誰でしょう/どうしても葉書を捨てたい男/葉書の埋葬許可、下りました/返信を出せない男/いつか・・・・葉書を待ち続ける女/葉書に遺言を刻んだ男/いまさら文通はじめませんか/いつか・・・・葉書を送りたい男/葉書に遺言を刻んだ男の家族/書きましょう、会いたくありません/葉書を守りたかった男/葉書は世界遺産だと誰かが言った

               

8.

●「恋愛映画は選ばない」● ★☆


恋愛映画は選ばない画像

2012年11月
実業之日本社
(1500円+税)



2012/12/17



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アラフォー、独身、働き続けて今や40歳を迎えた目黒花歩里の、揺れる心の内を描いた連作風長篇小説。
吉野さん自身もアラフォーとあって、ひとつのケジメをつけようという作品なのかもしれません。

40歳、いつの間にか40歳、でももはや40歳。だからどうしたというのか?という年齢でもある、というのが主人公=花歩里の心境ではないでしょうか。
仕事、私生活、このままで良いのか。いつの間にか食事を一緒にする友人も僅かとなり、親の介護という問題も現実になってきている。
何も独身女性だけの問題ではなく、独身男性にも言える問題だと思いますが、とりあえず本書は女性アラフォーを描いたストーリィ。
ごく日常的なひとつひとつの出来事にどう向き合っていくか、今の花歩里はその岐路に立っているように感じられます。
それなのに、齢を重ねて変わったことと言えば選択をすることができなくなった、と花歩里は言いいます。その言葉が本ストーリィを象徴する興味どころ。
 
どちらかと言えばやはり、女性読者向きのストーリィ。アラフォー読者であれば尚のこと共感を覚える処が多いのではないでしょうか。
最後、さらりと上手いところは、吉野さんならではのお手並みでしょう。
なお表題は、好きな映画のベスト1は恋愛映画かどうかで道は異なる、という意味合いから。

 
咳女/たぶんレイプ未遂/平日限定の友/恋愛映画は選ばない/好きの時効/天敵はわかってくれる/20人に1人は/誕生日の二択/偽神/きみを選ぶ

     

9.

「劇団6年2組 ★★☆      うつのみやこども賞


劇団6年2組

2012年11月
学研教育出版

(1300円+税)



2015/08/29



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学校の観劇会で上演された「それからのシンデレラ」に感激した立樹里夏たち、卒業前のお別れ会での演目にクラスみんなで劇をやろうと発言し、皆が賛同して決定。
しかし思いつきで提案した立樹たち、何をどうすれば良いのやらまるで手探り状態。観劇会で知り合った劇団を訪ねて行ったり、冷笑的な同級生=
慶司の発言で気づかされたりと、それでも少しずつ前進していきます。

指示されたことをやるのではなく、自分たちで発案して自分たちで企画したものをクラス全員で作り上げていく、というところが良い。
最終的に演目は
「シンデレラ」に決まるのですが、自分たちで演じてみるとストーリィのあちこちで疑問を感じる部分が多々出てきます。それに対して自分たちでひとつずつその理由を考えてみるところから、自分たちの「シンデレラ」劇を作り上げることへと繋がっていきます。

皆で力を合わせて自分たちだけのものを作り上げていく、それこそ子供たち本来の在り方ではないでしょうか。それと同時に子供たちの可能性を信じさせてくれるストーリィ。
児童向け作品ですけれど、読んで嬉しさを感じる一冊です。


※どんな「シンデレラ」が生まれるのか、それも楽しみ。


1.まぶしい別世界/2.チャレンジ!?/3.あいつの気持ち/4.夢のステージ!!

         

10.

「連れ猫」 ★★


連れ猫画像

2013年02月
新潮社刊
(1500円+税)



2013/03/12



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ストーリィは、亜沙美という若い女性がデザイナーの有也と同棲するところから始まります。その有也が飼っている猫が、ソリチュード(アメショー)とロンリネス(三毛猫)という2匹。
変わった名前ですが、どちらも「孤独」という意味。ただし有也曰く、前者は孤高という点で“
いい孤独”、後者は寂しいという点で“悪い孤独”なのだとか。
その有也がDV男と判って直に同棲は解消するのですが、その際に有也がロンリネスを亜沙美に押しつけ、2匹は別れ別れになります。そこからが本番ストーリィ。
 
ストーリィが進むに連れ、本作品は猫の視点から人間の孤独の有り様を描いた作品であることが判ります。
要は、孤独を受け留めることができる人間と、孤独でいることに耐えられない人間がいる、ということ。飼い主が転々と変わっていく中で2匹の猫は飼い主らをシビアに観察していく訳ですが、その2匹の視点がとても新鮮です。
もちろん猫の特質が活かされているところも本作品の妙味。
 
これまで優しいストーリィの多かった吉野さんにあって、初めてのシリアスな内容。それと同時に力強いメッセージを感じる作品となっています。
本書について北上次郎さんが、ターニングポイントになるであろう作品と評していますが、まさしく同感。吉野さんの作品世界がこれから大きく広がっていくのが楽しみです。

               

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