吉野万理子作品のページ No.2



11.時速47メートルの疾走

12.風船教室

13.空色バウムクーヘン

14.赤の他人だったら、どんなによかったか。

15.ひみつの校庭

16.ロバのサイン会

17.いい人ランキング

18.忘霊トランクルーム

19.南西の風やや強く

20.昨日のぼくのパーツ

【作家歴】、秋の大三角、雨のち晴れところにより虹、ドラマデイズ、乙女部部長、今夜も残業エキストラ、想い出あずかります、海岸通りポストカードカフェ、恋愛映画は選ばない、劇団6年2組、連れ猫

 → 吉野万理子作品のページ No.1


イモムシ偏愛記、トリカブトの花言葉を教えて、雨女とホームラン、強制終了いつか再起動、階段ランナー、5年1組ひみつだよ、5年2組ふしぎだね、5年3組びっくりだ

 → 吉野万理子作品のページ No.3

 


             

11.

「時速47メートルの疾走 run at FULL SPEED ★★


時速47メートルの疾走画像

2014年09月
講談社刊
(1400円+税)



2014/11/05



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体育祭でビリになった緑組の応援団長=町平直司は、応援団長らで決めた取り決めに従い、逆立ちで校庭2百メートルを一周することになります。
元々体育系でもなく生物部員の町平、応援団長という役回りの柄ではないのですが、クラスに適格者がおらず、ジャンケンに負け応援団長を押し付けられたという次第。

町平がそんな羽目に陥ったのは自分の所為かもしれないと内心の呵責を感じた生徒が3人。
クラス委員長で本来自分が引き受けるべきではなかったかと考える
伊集院慶一、自分のために町平がジャンケンを負けてくれたのでは?と気にかける蓮見美鈴、自分が余計なことを言い出した所為と後悔する野球部の大門勝也、という面々。

上記3人に町平を加えての4人、それぞれの状況を各章一人ずつ、一人称で描いた連作形式による中学生群像劇。
よく考えることなしについやってしまったと、後になって後悔すること、この年頃は多くあったように思います。
ただ、いかにも現代中学生らしいのは、各人がそれぞれの殻を被っていること。
その殻を破れるか、昆虫のように完全変態を遂げ、自分を一変させることができるのか、というストーリィ。

単純といえば単純です。ただ逆立ちをして校庭一周するストーリィに、それに多少なりとも関わった計4人の事情が付け加えられているだけなのですから。
でも、中学生らしく明快で、最後に皆が一つ輪にまとまった観のある姿を見ることができるのは楽しい限り。
彼らの今後にエールを送りたい、そんな爽やかな読後感あり。

プロローグ/1.立ちすくむ人/2.見守る人/3.見守りたくなかった人/4.疾走する人

     

12.
「風船教室 ★★


風船教室画像

2014年09月
金の星社刊
(1200円+税)



2015/01/18



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母親が早く亡くし父親と2人暮らしの小学6年、多波時生はサッカー少年。
ところが突然に父親が母方の祖父の家へ引っ越すと言い出し、時生はあっという間に山奥にある
七星小学校に転校。全校生徒僅か17名ではサッカーができる訳がないと、時生はむくれるばかり。
一方、時生が首を傾げたのは、生徒一人一人に風船が与えられ、卒業するまでずっと教室に浮かべているのだということ。
その肝心の風船、もうこれしか残りがないと時生に与えられたのは
ピンク色の風船
ところが翌朝になって時生が家の外に出ると、教室に浮かんでいる筈のピンク色の風船が家の前に・・・・。

風船が重要な鍵になる、児童向けファンタジスティックなストーリィ。
不思議な出来事の謎を解こうと思えばすぐ友達になれる、そして予想もつかない真相・・・。
読み終えた時には何とも言えない温かさが心の中に広がります。

こんな思い出があれば、七星小学校で学んだ頃のこと、きっと忘れないですよね。なんと素敵なことか、と思います。


1.とつぜんのさよなら/2.ヘンテコな学校/3.風船たちのなぞ/4.UFOはどこだ/5.夏休みの発見/6.舞い上がれ、空高く

         

13.

「空色バウムクーヘン ★★☆


空色バウムクーヘン

2015年04月
徳間書店刊
(1650円+税)

2017年09月
徳間文庫化



2015/05/09



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自分の得意な状況で勝負し決して負け戦はしないというのがモットーの鏡池家(両親・兄・姉)で、密かにお笑い芸人を目指している末っ子=若葉が主人公。
鎌倉長谷高校に入学してさっそく自己紹介でボケをかました(と思った)同級生の
大月弥生こそ格好の相方と確信した若葉は、弥生にまとわりつくうち何と創部されたばかりのウエイトリフティング部に入部することになってしまいます。慌てて辞退しようと思ったものの時遅し。

身長175cm 大柄な大月弥生はともかくとして、小柄で可愛い子系の若葉がウエイトリフティング部、というギャップがまず可笑しい。
「バウムクーヘン」という題名で何故ウエイトリフティング?と思う処ですが、重量挙げの重りをバウムクーヘンに模したということらしい。
思いがけなく、また思いもよらない部活をすることになった若葉ですが、次第にウエイトリフティングの面白さと仲間と一緒にいることの楽しさに目覚めていきます。

自分がしたいことは何なのか、それに気付くと共に成長していく若葉たちを描いた本作品は、まさに高校生らしい青春&成長ストーリィで、どこまで健やかで清々しく、すこぶる気持ち良し。
また、中学の卒業式で若葉をフッた幼馴染の
団藤健太との関係も思った以上に楽しい。
元々お笑い芸人を目指していた若葉が時々放つ、突っ込みとボケを含んだ会話も、本作品の生き生きとした魅力のひとつです。

こんな高校青春生活だったらもう一度やり直してみたいなぁと思わせる快作。青春ストーリィ好きの方には是非お薦め。

  

14.

「赤の他人だったら、どんなによかったか。 ★★☆


赤の他人だったら、どんなによかったか。

2015年06月
講談社刊
(1400円+税)



2015/07/28



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イジメ問題はどうしたら解決できるのか。吉野さんがその問題に真正面から取り組んだ、中学生向け作品。

風雅は藤ヶ崎第二中学の2年生。風雅のクラスでは敦史という同級生がいつも同・洋介から執拗なイジメを受けているのですが、風雅は敢えて関わらず。
ある日、危険ドラッグを吸った中年男が通行人を無差別に殺傷するという事件が隣の布江市で起こり、つい風雅も野次馬的関心を抱きますが、家族に犯人は遠い親戚だと言われてショック。
さらに新学期、何とその犯人の娘である
聡子が風雅のクラスに転校して来ます。
自分たちは一体どうしたらいい? 風雅と従姉妹の
喜々は戸惑うと共に悩みます。
上記経緯、そしてそれからの顛末を、当事者である風雅、そして聡子のそれぞれの側から一人称で描いた作品。

子供というのは、他人の痛みに鈍感である故にひどく冷酷であったりするもの。本書に登場する洋介という同級生は、その類型と言って良いでしょう。
そうした同級生に対して、正論で、あるいは一人で立ち向かうのには相当な勇気が必要であり、だからこそその解決も至難。

本作品では、風雅や喜々がこのままではいけないという気持ちを抱き続けたことが、何よりも良かったことと思います。それが無くしては何も始まらないのですから。
イジメは、相手が“赤の他人”だから起きるものなのか。それ以前にまず“赤の他人”とは何なのか。
多くがこうした発想を持つことができれば、イジメ問題を皆で解決することができるのではないか、と感じます。お薦め!


赤の他人?<風雅>/赤の他人!<聡子>

   

15.
「ひみつの校庭 ★★


ひみつの校庭

2015年12月
学研プラス刊

(1300円+税)



2015/12/26



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5年生の葉太が通う小学校には、校長先生が始めたユニークな決め事がある。
それは、入学時に生徒一人ずつに「自分の木」が決められ、その観察ノートを渡されること。
葉太は自分がそういう立場になるまで知りませんでしたが、2冊目の観察ノートを校長先生に願い出ると、校庭の奥にある元植物園への鍵が渡されるのです。

自分の木が枯れてしまったと思いそれから観察ノートを放りっぱなしだった葉太、その「
ハカラメ」の木に新しい芽が出ているのに気付いた時から植物観察の面白さに目覚め、観察ノートに再び記録を付け出します。
そして2冊目のノートを貰おうと校長先生に申し出た時、新しいノートと共に鍵を渡された、という次第。
そして葉太が足を踏み入れたそこには・・・・。

何やら
バーネット「秘密の花園のようです。題名も「ひみつの校庭」ですし。
ところが、そこからの展開が異なります。葉太が足を踏み入れた元植物園には珍しい植物とそれらの植物を愛する卒業生たちが姿を見せ、葉太はそこで思わぬ出会いをします。

植物を愛する人たちが次元を超えて交流するファンタジー作品。
植物に親しむ楽しさと、思いがけない出会いから生まれる喜びが溌剌と息づく児童向けファンタジー作品。
そんな楽しさに目覚めた葉太と同級生の仲間たちに幸いあれ。そう思えることもまた嬉しい。


1.その植物、まるで恐竜!?/2.二千年も伸び続ける葉/3.秋に咲いたサクラ/4.47年に一度だけの花

          

16.
「ロバのサイン会 The Autograph Session of The Donkey ★★


ロバのサイン会

2016年03月
光文社刊

(1400円+税)

2018年03月
光文社文庫化


2016/04/06


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「ロバのサイン会」という題名に、なんかなァと尻込みするところがあったのですが、吉野万理子さんの作品だからと読んでみた処、予想外に面白かったです。

8篇の主人公は、動物+αたち。
女優というべき猫、水族館のイルカ、野生の鹿、イグアナ、犬、セキセイインコ、ロバと、各篇の主役は実に多士済々。
人と同じように考え、想い、口は利けなくても人の言葉を理解することができる、また異種動物の間でも会話が可能、という設定です。
ペット動物が主人公というケースでは、彼らの飼い主へ寄り添う気持ちがとてもリアルで、切なく感じられることも度々。

総じていうと、誰もが率直に自分の想いを伝えていて、人間に比べてずっと素直に感じられます。
人間のように駆け引きや、外面を気に掛ける、ということが少ないからでしょうか。
それ故に新鮮。かつまた、彼らそれぞれが抱えるストレートな想いに惹きつけられます。

※8篇の中で一番惹かれたのは、ティーカッププードルのココアと若葉がコンビとなる
「お値段100万円」の篇。

女優のプライド/波乗り5秒前/おれ害獣/うまれないタマゴ/お値段100万円/アゲハひとりぼっち/青い羽ねむる/ロバのサイン会

             

17.

「いい人ランキング ★★☆


いい人ランキング

2016年08月
あすなろ書房

(1400円+税)



2017/01/10



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中学2年生の木佐貫桃が主人公。母親が再婚してちょうど姓が変わったところ。
文化祭で桃たちのクラスは美人コンテストを行う予定でしたが、学校の指示で中止。別の催しで無事文化祭は終わったものの、そのすぐ後、クラスを仕切る
沙也子が物足りないからと、「いい人ランキング」投票をやろうと言い出し、それは他のクラスにも広がります。そして桃のクラスで行われた投票で桃がダントツ一位に選ばれます。
驚いた桃でしたが、その後沙也子たちが口にする「いい人だから」という言葉に何となく縛られるような気分を感じ始め、やがて事態は思いもしなかった状況へ。

巧妙なイジメに桃が悩み、心配した妹の
「師匠」と呼んでいる人物を桃に紹介。イジメ脱出の作戦が始まりますが、それもまた桃が思いもしなかった結果をもたらします。

イジメ、シカトという現在では当たり前のようになっている問題を取り上げた中学生ストーリィ。
しかし、生徒たちの良心が決して廃れているという訳ではなく、自分たちで矯正していく力があるのだと描かれているところが嬉しい。

桃や鞠、鞠から「師匠」と呼ばれている中学生をはじめ、桃の同級生たちも含めて、皆が生き生きと描かれているところが、吉野万理子作品らしい魅力です。
大人の読者にもお薦めしたい佳作。


1.投票/2.転落/3.作戦/4.決意

                 

18.
「忘霊トランクルーム FORGOTTEN STORANGE ROOM PHANTOMS ★★


忘霊トランクルーム

2018年05月
新潮文庫刊

(550円+税)



2018/05/27



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17歳の高校生=星哉は夏休み、湘南の片瀬に住む祖母が海外旅行する間、その自宅の一画に設けているトランクルームの管理を代行&留守番というアルバイトを引き受けます。
10年ぶりに会う祖母は、星哉が着くと慌ただしく引継ぎを告げて出発してしまいます。ちょっと不思議な言葉を残して。

留守を預かった早々、星哉は祖母が言い残していった言葉の意味を悟ります。どうもこのトランクルームには、幾人かの忘霊が住み着いているらしい、ということ。
生真面目にも星哉、何とか忘霊たちの心残りを解消してあげたいと彼らが語る事情を聞き取ります。
そんな星哉の打ち明け相手、相談相手になってくれるのが、トランクルームの常連客で、10歳年上の女性ながら星哉が恋心を抱いた
西条さん
その西条さん、祖母から忘霊のことを聞いていたらしく、自分には見えないながら興味津々。
そんな風にして、星哉ひと夏の恋と人生経験が、忘霊たちとの出会いを通じて語られていきます。

ファンタジー風な幽霊話はそう珍しいものではなりませんが、本作においては“亡霊”ではなく
“忘霊”という点がミソ。
忘霊たち、トランクルームに収められている物に憑いているらしい。
それが普通の亡霊とどう違うのか、というところが本作の面白さです。

でも、それだけなら単なる連作ファンタジーで終わってしまうのですが、星哉が最後に出会ったのは、彼が予想もしなかった思いがけない人物。
それによって祖母がある目的をもって星哉にこのバイトを任せたことが明らかになります。それは、読んでのお楽しみ。

吉野万理子作品の魅力は、その語り口の味わい良さと読み終えたあとの爽快さ。
その印象が消えない限り、これからも吉野万理子作品を読んでいくことと思います。


1.二〇六号室のペンダント/2.一〇二号室のウェディングドレス/3.二〇九号室の貝殻/4.隣室の少年/5.忘霊の真実

                

19.
「南西の風やや強く ★★


南西の風やや強く

2018年07月
あすなろ書房

(1400円+税)



2018/12/01



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吉野万理子さんの青春ストーリィ、健やかで、そしてどこまでも爽やか。やっぱり好きだなぁ。
本作はそんな気持ちにしてくれる一冊です。

12歳(小6)、15歳(中3)、18歳(高3)という岐路ともいえる3つの時期に分けて描いた青春グラフティ。
主人公は鎌倉に住む
狩野伊吹
12歳の冒頭、伊吹は親の言われるままに難関私立中学合格を目指し、勉強漬けの日々を送っています。
ふと夜遅く、星月夜神社におみくじを引きにいた伊吹は、そこで同級生の
石島多朗に出会います。同級生ですが、優等生の伊吹とはちょうど対角にいるような生徒。
何故か話が弾み、今から南西を目指そうという多朗の言葉が、結果的に伊吹の進む道を変えていきます。そこが気持ち良い。

まさしく本作は青春譜。中学になると、東谷由貴という女生徒がこのストーリィに加わってきます。
中学を卒業すると多朗は北海道で農業を営む祖父母の跡を継ごうと同地の農業高校に進学し、伊吹とは遠く離れてしまいますが、2人の友情は続きます。伊吹にとって多朗は今も変わらず、頼りになる相談相手のようです。
やがて、伊吹、由貴の2人はそれぞれ難しい問題に直面することになり・・・。

甘酸っぱさとほろ苦さ、それでも彼らの人生はまだ出発点にも至らないところにあると言って良い。
青春とは、長い人生の中で最初の頃にある、ほんの一頁に過ぎない、ということを感じさせられます。
今後、多朗との友情、そして由貴との間がどうなるかは分かりませんが、それでも3人にとってそれぞれ貴重な時間であったことは間違いないでしょう。
伊吹と多朗の友情がずっと続きますように、と祈ります。


12歳/15歳/18歳

              

20.
「昨日のぼくのパーツ ★★


昨日のぼくのパーツ

2018年12月
講談社刊

(1400円+税)



2019/01/30



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表紙の絵からひょっとして本作品の内容に気づく方がいるかもしれませんが、題名の「パーツ」とはウ〇コのこと。

アイドルもウ〇〇する、しない、という同級生
バキやんとのおバカな言い争いから、小学6年生の大志は学校ではウ〇〇しないと宣言してしまいます。
ところがそのすぐ後から後悔。どうにか堪える方法を見つけたものの、今度は便秘に悩まされることに。
従兄の
トモ兄や祖父のアドバイスにより救われたものの、その祖父が脚を骨折して入院、自分一人でトイレにも行けなくなり「生きているのがつらい」とまで思い詰めていると知った大志、それが契機となってトイレ問題について考え始めます。
自由研究の課題としてトイレ問題を取り上げてみたいと考えた大志と、誘われて共同研究の仲間に加わった
バキやん、ノッコ、美麻の4人は、工場見学や図書館に行ったりしてトイレ問題について調べ始めます。

児童向け作品ですが、子供だけでなく大人が読んでもためになります。
誰しも恥ずかしく感じてついコソコソしてしまう問題。
それを堂々と大らかに、ユーモアをもって描いていく辺りが気持ち良く面白い。
健やかでユーモラス、吉野さんらしい作品で、そこは流石。

そうそう昔、小学校低学年の頃、古い木造校舎のトイレが嫌で入りたくなかったんですよね〜。学校を抜け出して家に戻ったことも一度あり。
それが綺麗なトイレになると、入るのが苦痛ではなくなります。
日本のトイレ、今やどこの観光地へ行っても随分と綺麗になっていて気が楽になりました。感謝するところ大です。(笑顔)


1.行けない理由/2.おじいちゃんのケガ/3.がんばれ、バキやん/4.もう一人のメンバー/5.人生でいちばん不幸な日/6.ノッコのひみつ/7.そして・・・発表会!

     

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