重松清作品のページ No.



51.さすらい猫ノアの伝説2

52.空より高く

53.また次の春へ

54.ゼツメツ少年

55.赤ヘル1975

56.一人っ子同盟

57.どんまい 

58.はるかブレーメン 


【作家歴】、ビフォア・ラン、四十回のまばたき、見張り塔からずっと、舞姫通信、幼な子われらに生まれ、 ナイフ、定年ゴジラ、エイジ、日曜日の夕刊

→ 重松清作品のページ No.1


半パン・デイズ、カカシの夏休み、ビタミンF、さつき断景、リビング、隣人、口笛吹いて、セカンド・ライン、流星ワゴン、熱球

→ 重松清作品のページ No.2


かっぱん屋、小さき者へ、きよしこ、トワイライト、哀愁的東京、お父さんはエラい!、きみの友だち、小学五年生、カシオペアの丘で、なぎさの媚薬4

→ 重松清作品のページ No.3


くちぶえ番長、青い鳥、永遠を旅する者、オヤジの細道、ブランケット・キャッツ、ブルーリバー、ツバメ記念日、ブルーベリー、僕たちのミシシッピ・リバー、少しだけ欠けた月
、サンタ・エクスプレス

重松清作品のページ No.4


とんび、気をつけ、礼。、希望ヶ丘の人びと、ステップ、再会、十字架、きみ去りしのち、さすらい猫ノアの伝説、ポニーテール、峠うどん物語

 → 重松清作品のページ No.5

  


     
                    
51.

●「さすらい猫ノアの伝説2−転校生は黒猫がお好きの巻)」● ★☆
  (絵・杉田比呂美)


さすらい猫ノアの伝説2画像

2012
07
青い鳥文庫刊
(620円+税)



2012/10/06



amazon.co.jp

「さすらい猫ノアの伝説」第2巻。
本書の主人公で、父親の転勤に伴いもみじ市の小学校に転校してきた
宏美は、本書が初登場ではなく実は前作勇気リンリン!の巻の最後2番目のエピローグで既に登場していました。ですから本書は、前作の最後で予告された続編というようなもの。

宏美、度々の父親の転勤で転校はもうベテラン。しかし今度は様子がちと違い父親は左遷でパート一人の営業所長。それでもすぐにクラスに馴染み、美和春香らとも仲良くなれたと思っていたのですが・・・・。
運動会のリレー選手選考で、男子からの提案から揉め事に、おかげですっかり宏美は孤立してしまいます。そこへひょんと現れたのが、風呂敷を首に巻いた黒猫。そして風呂敷の中に入っていた手紙には「ノアに選ばれておめでとう」「ノアはきっと、あなたたちのクラスが忘れてしまった大切なことを思い出させてくれるはずです」と。
さてこの黒猫、宏美の窮地を救ってくれるのやら。

クラスに馴染んだつもりでも、ずっと一緒だった生徒たちと転校生とではすっかり同じという訳にはいかない。そんな難しさ、厳しさが本書では描かれています。子供の頃転校が多かったという重松さんの気持ちが篭められた一作でしょう。
一方、代々この町の名家に生まれ、町中からいつも注目されている跡取り娘というのも、それはそれで大変なもの。
それぞれの立場の代表格である宏美と美和、お互いに意地っ張りなところから本ストーリィが展開されます。
2人の間に入ってノア以上に異彩を放つのが、美和のひいおばあちゃんで薙刀の達人=
小笹さん。この小笹さんのキャラクターがとても楽しい。
転校生も、転校生を受け入れる生徒側も、気を遣うもの。
さて黒猫ノア、第3巻もあるのでしょうか。
※なお本書、私が子供の頃見ていた海外TVドラマ、放浪する犬を主人公にした「名犬ロンドン」を思い出しますねぇ。

                

52.

●「空より高く」● ★☆


空より高く画像

2012
09
中央公論新社
(1500円+税)

2015年09月
中公文庫化



2012/10/28



amazon.co.jp

東玉川高校、通称:トンタマの廃校が決定してから入学した最後の生徒たち。繰り返し言われてきたのは、「終わり」あるいは「最後」という言葉ばかり。
ところが夏休みが終わって2学期に入り、駅前広場でピエロが演じていたパフォーマンスで空高く飛ぶディアボロを目にしたときから、トンタマの第一期生だったという非常勤講師がトンタマに着任した時から、主人公たちトンタマ生の最後の半年間がガラリと変わります。
その新任教師は
神村仁(ジン)、40歳。そのジン先生が最初に叫んだ言葉は、「最後で終わりだからこそ、なにかオレたち、始めてみようじゃないか!」「レッツ・ビギン!」

主人公は松田練太郎、通称:ネタロー。その通称どおりこれまでの高校生活をのんべんだらりと過ごして来た高校生。その主人公に対し、ジン先生の言葉に影響されたのか、大人しく無口である故にムクちゃんと呼ばれている小島史恵が、皆のいる教室の真っ只中で思わぬ行動に出ます。
そこから主人公、ムクちゃん、主人公の親友である
ヒコザこと大久保省吾、ドカこと戸川翔太らは、徐々に最後の半年間を熱く走り出し始める、というストーリィ。

ジン先生のセリフではないけれど、かつて人気のあった青春学園ドラマを彷彿させるところがあります。重松さんも当時の熱さを共に経験した世代だろうと思います。
当時の考え方がそのまま現在にも当て嵌められるとは思いませんが、高校時代はまだまだ始まりの時節、自分が何をやりたいかをしっかり見極めることが大事、というのは今でも変わらないことでしょう。そんな作者の熱いメッセージが伝わってくるようです。
なお、主人公とムクちゃんの、本ストーリィ全てを通じた掛け合いが微笑ましく、楽しい。

                  

53.

「また次の春へ」 ★☆


また次の春へ画像

201303
扶桑社刊
(1400円+税)

2016年03月
文春文庫化


2013/06/23


amazon.co.jp

3.11東日本大震災以降、小説ストーリィの中で震災に触れざるを得なかったという作品がいろいろありましたが、本書は震災そのものを題材にしてその側面から語った作品集。
社会における様々な出来事を積極的に小説の中で描いていた重松さんとしては、当然にして書かれた作品ではないかと思います。

主人公は様々。震災で大事な人を喪った家族の姿、その心の痛みを描いています。
直接にも間接にも被害を受けていない私のような人間が、客観的に被災者の思いについて言及してしまうことは許されるのかという懸念をいつも感じてしまうのですが、敢えて本書から感じたことを書くと、それは次のこと。
・人が亡くなったという事実は、遺体を目の前にしないと中々納得できるものではない、ということ。その辺りは
佐々涼子「エンジェルフライトでも強く語られていたことです。
・これまでのことを奪われてしまう、失くしてしまうということは、それらが無かったことも同然にされてしまうということで、とても辛いということ。

時間は経っても、震災から受けた心の痛み、喪失の痛みは、いつまでも残る、ということを強く感じます。

トン汁/おまじない/しおり/記念日/帰郷/五百羅漢/また次の春へ

                                

54.

「ゼツメツ少年」 ★★        毎日出版文化賞


ゼツメツ少年画像

201309
新潮社刊
(1600円+税)

2016年07月
新潮文庫化



2013/10/05



amazon.co.jp

   

小説家である「センセイ」の元に一人の少年から手紙が届きます。
「僕たちはゼツメツしてしまいます」「僕たちのことを小説にしてくれませんか?」と。
そこから始まる、2人の少年と1人の少女の物語。不登校児を対象にした化石発掘イベントで出会った
タケシ、リュウ、ジュンの3人はその後、自分たちがゼツメツしないために家出、旅に出ます。

3人の物語と、センセイが書いた小説の中での3人の物語が輻輳して進むストーリィ。それ故、時に3人はセンセイに対し、これから後どのように展開させるのか問いかけたりもします。
どういう構図なのか、どういう仕掛けなのか、何を語ろうとする物語なのか、少々戸惑いながら読み進む中、これまでの重松作品に登場した人物たちが本ストーリィの中にゲスト登場し、重松ファンを楽しませてくれます。

本ストーリィの構図が判るのはやっと最終章に至ってから。
学校でのイジメ問題、イジメにあった少年少女たち、子供を失った親たち。ある意味、これまで重松作品で描いてきた課題を総決算的に扱った物語だと思います。だからこそ、過去の重松作品の登場人物も登場するのでしょう。
小さな胸の内で憂い苦しむ子供たちの姿、子供を失って初めて自覚する子供たちへの想い。本書はそんな親と子を「センセイ」という登場人物を案内役に描いた物語です。
大きな感動を抱くことはありませんが、じわじわ、深く、いろいろな思いが伝わってくる、熟成した作品という印象です。

プロローグ/テーチス海の岸辺/イエデクジラ/エミさんとツカモトさん/捨て子サウルス/ナイフとレモン/テーチス海の水平線/エピローグ

             

55.

「赤ヘル1975」 ★☆


赤ヘル1975画像

201311
講談社刊
(1800円+税)

2016年08月
講談社文庫化



2014/01/24



amazon.co.jp

1975年、毎年最下位を争う弱小球団だった広島カープが初優勝した年。
あれよあれよという間に首位争いを繰り広げ、激烈な優勝争いに耐えて初優勝。その快進撃に広島中が燃えた一年を背景に、東京から転校してきた少年
マナブと、地元の熱烈な広島ファンであるヤス、ユキオたち中学一年生の視点から、その時期の広島という街を描いた長編小説。

戦後30年、広島の街には、原爆や空襲の被害に遭った人たちの傷跡がまだ色濃く残っています。それでも弱小球団であるカープを応援する広島の人々の心はとても熱かった。悲劇と熱さ、両立するとは思えないような二つの要素がここ広島の街には同居していました。そうした広島の姿を大人たちではなく、少年たちの視点から描いたストーリィ。
被爆という直接の被害を受けた年代を親にもつ広島の子どもたち。ヤスも、クラスの中で孤立した観のある同級生=
沢口真理子もそうした影響下にあります。それらの事情をよく知らない“よそモン”である自分がどこまで立ち入っていいのか、マナブの気持ちは揺れます。

現代の日本、本小説の時代からさらに年月が経っていますが、どこまで足を踏み入れて発言することが許されるのか。部外者が抱えるそうした思いは、今でもそう変わっていないのでないでしょうか。
傷跡を抱えながらも広島カープの奮闘に熱く燃える人たちの姿をありのままに描き出した、ある意味、記念碑的な物語です。

     

56.

「一人っ子同盟」 ★☆


一人っ子同盟画像

2014年09
新潮社刊
(1600円+税)

2017年07月
新潮文庫化



2014/10/13



amazon.co.jp

昔一人っ子は少なかった、兄弟・姉妹がいるのが当たり前だった、というコンセプトからなる、一人っ子の小学生3人を描いた長編ストーリィ。

子供には、親の推測が及ばない、また親には打ち明けられない気持ちを抱えている。兄弟・姉妹がいれば分かってもらえる、あるいは相談することができる、でも一人っ子にはそれができない。だから
“一人っ子同盟”という次第。
主人公は
大橋信夫(ノブ)、小学6年生、団地住まい。
その団地に母子で引っ越して来てノブの同級生になったのが
藤田公子(ハム子)。主人公が間違ってハム子と読んでしまい、いきなり公子から飛び蹴りを食らわせたことから、それ以来女子最強王者の異名をとる。
その2人に加わったのが、北嶋老夫婦に事情あって引き取られたという
オサム、小学4年生。

おなじ一人っ子といっても3人とも単純な一人っ子ではありません。ノブには、彼が4歳の時交通事故で亡くなった和哉という兄がいた。しかし、ノブは兄のことを全く覚えていない。
また、公子には離婚してシングルマザーとなった母親が再婚して新たに陽介4歳という弟ができます。しかし、公子はその村山さん父子と家族関係を断固拒否していて母親を悩ませていますが、公子の姿勢とは反対に陽介は公子を慕ってばかり。
またオサムは、赤ん坊の頃に両親が死去し、以降親戚中をたらい回しにされながら育ってきたらしい。すっかり嘘つきで、かつ「ヤんす」と変な言葉遣いをする子供になっている。

大人と別次元で、子供たちだけの悩みを抱えている点では、
ケストナー「飛ぶ教室を思いださせられます。
彼らが抱えている問題は、とても子供たちだけで解決できるものではありません。それでも自分の気持ちを判ってくれる仲間がいてくれると思うだけで、少しは救われるではないでしょうか。本作品はそんな物語。

※でも、私が小学生の頃、一人っ子の同級生ってそれなりにいて、珍しいとは思わなかったですねぇ。 

        

57.

「どんまい ★★


どんまい

2018年10月
講談社刊

(1800円+税)



2018/11/12



amazon.co.jp

久々に読む重松作品。
流石にもう新味を感じる処はありませんが、一方で懐かしく、安心感がもてる作品でもあります。

草野球チーム
“ちぐさ台カープ”を舞台に、そのナインたち、ごくフツーの人たちの様々な人生模様を描くストーリィ。
当然ながらナインの年齢や境遇は様々であり、本来知り合うこともなかっただろう人たち。それが、同じ草野球チームの仲間だからということで繋がり、そのことによって救われているところがある、というのが本ストーリィのミソでしょう。

中でも異色なのが、夫の不倫により離婚して2人だけの家族となった
三上洋子と、中学生の娘=香織
子供の頃に夢中になった野球に再度挑戦したいと強引に“ちぐさ台カープ”に入団した洋子、ひょんなことでバットを振らされ、ヒットの快感が忘れられずに母親と共に入団した香織というデコボコ母娘。
そしてもう一人、元甲子園高校球児で、バッテリーを組んだ相手はプロ野球で天才と呼ばれ活躍するピッチャーになったのに、自分は大学野球部でも落ちこぼれ、現在は教員試験合格を目指して勉強中という
加藤将大

その3人以外にも、草野球は楽しむことが一番大事、草野球には草野球のルールがあると語る謎めいた老人「
カントク」、故郷に住む両親の介護問題を抱えて広島への日帰り帰郷を繰り返しているキャプテンの田村康二を始め、他のメンバーも個性的、それぞれにいろいろな悩み、屈託を抱えているという次第。

彼らが抱えている問題は決して他人事ではありません。何といっても彼らはどこにでもいる、ごくフツーの人たちなのですから。
会社とか学校とか、親戚とかいったしがらみから遠いところにある仲間の存在によってどれだけ救われることか、判るなぁ。

最後は、ナイン全員にエールを送りたい気持ちです。読後感は実に気持ち良い。
読了後は、よし、もう一度がんばろうと、元気が出るストーリィです。


イニング1/イニング2/イニング3/イニング4/イニング5/イニング6/イニング7/イニング8/イニング9/イニング10/イニング11/イニング12

        

58.

「はるか、ブレーメン ★★   


はるか、ブレーメン

2023年04月
幻冬舎

(1800円+税)



2023/05/03



amazon.co.jp

主人公は県立周防高校2年の小川遥香
3歳の時に母親から捨てられ、祖父母の元で育てられたが、祖母もなくなり遥香は一人ぼっちになります。
そんな時に遥香が出会ったのは、
葛城圭一郎という礼儀正しいが陰気な男性。その葛城、人が最後に見る“走馬灯”を描く仕事を請け負う<ブレーメン・ツアーズ>の社員なのだという。

その葛城の依頼で遥香の家を訪ねてきたのは、昔ここで暮らしていたという老女の
村松光子と息子の達也という母子。
その出会いから、遥香は幼なじみで同級生の
ナンユウくんとともに、村松光子のために走馬灯を描くという葛城の手伝いをすることになります。
葛城曰く、遥香もナンユウくんも、他人の思い出を見る力を持っているのだという。

久しぶりに読んだ重松作品。所々、これまでの重松作品から繋がっているものを感じます。
その意味で、本作は重松作品の集大成、と言って良いのではないかと思います。
そして終盤、社長の
葛城晃太郎が遥香に言った2つの言葉が、深く胸に残ります。

ファンタジーな連作風物語、あるいは村松母子にかかる物語かと思いきや、後半になってストーリィはナンユウくん、そして遥香それぞれが抱えた問題へと収斂していきます。その筆さばきが実に上手い。

そして最後、3歳で別れて以来顔も覚えていない母親と遥香がようやく出会う、その場面が圧巻です。
懐かしむことのできる思い出があるかどうかが、その人の人生を支える・・・得心できるストーリィです。

久々に重松作品をたっぷり堪能した気分、満足です。

        

読書りすと(重松清作品)

重松清作品のページ No.1 へ   重松清作品のページ No.2

重松清作品のページ No.3 へ   重松清作品のページ No.4

重松清作品のページ No.5

   


 

to Top Page     to 国内作家 Index