佐々涼子著作のページ


1968年神奈川県横浜市出身、早稲田大学法学部卒。日本語教師を経てフリーライター。2012年「エンジェルフライト」にて第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。

1.
エンジェルフライト

2.紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている

3.エンド・オブ・ライフ

 


   

1.

「エンジェルフライト−国際霊柩送還士− ★★☆  開高健ノンフィクション賞


エンジェルフライト画像

2012年11月
集英社刊
(1500円+税)

2014年11月
集英社文庫化



2013/01/18



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「エンジェルフライト」という題名だけでは想像つきませんが、脇に添えられた「国際霊柩送還士」という日本語を見ればおおよその内容は察しがつきます。
刊行当初、それ程関心は引かれなかったのですが、開高健ノンフィクション賞受賞作と知って手に取りました。
上記日本語から想像がつく通り、海外で死んだ日本人の遺体を受け入れ、あるいは日本で死んだ外国人の遺体を故国へ送り出す、という業務を行っている専門会社“
エアハース・インターナショナル株式会社”の仕事を取材したルポタージュ。
なお、「国際霊柩送還」という言葉は同社が商標登録しているものであって、一般的な用語ではないそうです。

国境を越えて遺体の送還を行うという業務の内容は実態としてどういうものなのか。それはもう、読んでみて初めて判ること。逆に言えば、読んでみないと判らない、ということです。
映画
おくりびとのおかげで今はもう納棺師という仕事があることを知りましたが、社長の木村利惠によると、同社の仕事からすると「ただのファンタジーに過ぎない」となるらしい。
実際、本書で語られたその仕事内容は相当に過酷なものがあります。まず、海外で死んだ場合その死因は事故であることが多い。そして死後相当時間が経っているうえに、航空機内の気圧により遺体は影響を受け、その修復処理は我々の想像を絶するものがあるようです。
海外渡航者が増えるに従い海外で事故死する人の数が増え、霊柩送還を担ってくれる業者が必要であるのは当然のことながら、何故木村社長をはじめ同社社員はこれ程精神的にも肉体的にもキツイ仕事を続けるのか。これがまず第一の問題。
そしてもう一つは、何故これ程の苦労をしてまで、遺体を生前のものに近い姿にして遺族の元に届ける必要があるのか、という疑問。これは故人、遺族、葬祭業者という区別を越えて考えさせられる、第二の問題です。
木村社長をはじめ同社社員が全てを語ってくれている訳ではなく、佐々さんはそれらの疑問を、彼らが業務に邁進する後ろ姿を見ながら考察していきます。それは読者にとっても同じこと。佐々さんの背中越しにやはり彼らの後ろ姿を見ているという臨場感を抱きます。

何故送還士が必要なのか、その実務はどのようなものなのか。何故送還士になったのか、どのような思いを抱いて仕事に従事しているのか。そして、遺体をきれいにして遺族の元に届けるという意味はどこにあるのか。本書の中にはそれらの問い掛けが詰まっています。
得難いノンフィクションの逸品。是非一読をお薦めします。

遺体ビジネス/取材の端緒/死を扱う会社/遺族/新入社員/「国際霊柩送還」とはなにか/創業者/ドライバー/取材者/二代目/母/親父/忘れ去られるべき人/おわりに

    

2.

「紙つなげ! 彼らが本の紙を作っている−再生・日本製紙石巻工場− ★★


紙つなげ!画像

2014年06月
早川書房刊
(1500円+税)



2014/09/15



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2011.03.11発生した東日本大震災、この大震災を扱ったドキュメントは数多くあると思いますが、私としては本書が、杉山隆男「自衛隊は起つ」に続く2冊目。
「自衛隊」は当然ながら、震災時に自衛隊、自衛隊員たちがどう活動したかを、自衛隊の存在意義を問う意味を含めて詳細に描いた迫真の一冊でしたが、本書は津波により大被害を受けた大工場の存続、復活を軸足においた一冊。
とはいえ冒頭、震災当日の惨状は、企業の枠を超えて描かれており、3年という時間を置いてもまだそのすさまじさには胸打たれます。

そのうえで、途轍もない被害を受けた
日本製紙石巻工場の存続可否、決断、工場復活に向けた試練と奮闘が、様々な幹部社員、現場社員の胸の内がインタビューを受けて語られていく、という内容になっています。
宮城県石巻市の地域経済・雇用情勢も左右する大工場、日本製紙が集中投資をした基幹工場、そして日本の出版用紙の4割を生産する重要な工場、というその位置づけは如何にも大きい。
被害、復興という感動ドキュメントであることは当然ながら、危機に見舞われた時における企業の対応策・対応力、という点でも本書には読み、学むべき処が多くあります。
復活方針の明言、モチベーション維持には合理的な期限設定が不可欠、各チームの責任を繋げていく作業方式、等々。

本工場の再始動があって初めて、出版界へ本の用紙の潤滑な供給が成り立つという部分は、象徴的とはいえ工場再生における一部のことですが、本好きとしては感謝の念を持たずにはいられません。

プロローグ/1.石巻工場壊滅/2.生き延びた者たち/3.リーダーの決断/4.8号を回せ/5.たすきをつなぐ/6.野球部の運命/7.居酒屋店主の証言/8.紙つなげ!/9.おお、石巻/エピローグ

                    

3.
「エンド・オブ・ライフ ★★


エンド・オブ・ライフ

2020年02月
集英社

インターナショナル
(1700円+税)



2020/04/12



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京都で訪問医療を行っている渡辺西賀茂診療所
同診療所の訪問看護師の一人である
森山文明・48歳が癌を発症。
その森山からの依頼で、筆者は訪問看護の実像や意味、余命宣告を受けた癌患者の家族らを取材したノンフィクション。

私自身高齢となり、実父を看取ってからは、いずれ迎える死について常に考えるようになりました。
がんという病気もあれば、事故もある、また今回のようなコロナウィルス感染という事態も考えられます。
若い時ならいざ知らず、死というのはもう然程遠くにある問題ではありません。
本書に登場する殆どは癌患者ですが、余命宣告という衝撃、余命宣告を受けてからある程度の時間がある、ということを除けば、そう変わるものではない、と思います。

誰しも病院に長く入院するのは嫌な筈ですし、在宅での治療が可能であればそれを望みたい筈。一方では、看護する家族の負担という問題も無視できません。
それらの問題を含んで、在宅医療の是非、意味、終末医療のあるべき姿を考えるにあたって本書は最適のノンフィクションであるように思います。
自分自身の来るべき将来を踏まえ、参考になったというのが、正直なところです。
※入院医療と訪問医療では、患者との関わり様から必然的に、その姿勢に差異が生じるようです。

医療現場の考え方も変わりつつあると思いますが、所詮最後は誰しも<死>を免れないのですから、それぞれの立場を理由に命を長引かせるのではなく、最後まで充実した<生>を全うさせて欲しいものだと、心から思います。

ただし、そこには患者本人の覚悟もまた、必要不可欠なことでしょう。


プロローグ/2013年−今から六年前のこと(たった一日だけの患者)/2018年−現在(元ノンフィクションライター)/2013年−その2(桜の園の愛しい我が家)/2018年(患者になった在宅看護師)/2013年−その3(生きる意味って何ですか?)/2013年−その4(献身、在宅を支える人)/2013年−その5(家に帰ろう)/2019年(奇跡を信じる力)/2013年−その6(夢の国の魔法)/2019年(再び夢の国へ)/2013年−その7(グッドクローザー)/2014年(魂のいるところ)/2019年(命の閉じ方のレッスン、幸福の還流、カーテンコール)

    


     

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