重松清作品のページ No.



11.半パン・デイズ

12.カカシの夏休み

13.ビタミンF

14.さつき断景(文庫改題:星に願いを)

15.リビング

16.隣人(文庫改題:世紀末の隣人)

17.口笛吹いて

18.セカンド・ライン(文庫改題:明日があるさ)

19.流星ワゴン

20.熱球


【作家歴】、ビフォア・ラン、四十回のまばたき、見張り塔からずっと、舞姫通信、幼な子われらに生まれ、 ナイフ、定年ゴジラ、エイジ、日曜日の夕刊

→ 重松清作品のページ No.1


かっぽん屋、小さき者へ、きよしこ、トワイライト、哀愁的東京、お父さんエラい!、きみの友だち、小学五年生、なぎさの媚薬4

→ 重松清作品のページ No.3


くちぶえ番長、青い鳥、永遠を旅する者、オヤジの細道、ブランケット・キャッツ、ブルーリバー、ツバメ記念日、
僕たちのミシシッピ・リバー、少しだけ欠けた月、サンタ・エクスプレス

→ 重松清作品のページ No.4


とんび、気をつけ、礼。、希望ヶ丘の人びと、ステップ、再会、十字架、きみ去りしのち、さすらい猫ノアの伝説、ポニーテール、峠うどん物語

→ 重松清作品のページ No.5


さすらい猫ノアの伝説2、空より高く、また次の春へ、ゼツメツ少年、赤ヘル1975、一人っ子同盟、どんまい、はるかブレーメン

 → 重松清作品のページ No.6

   


 

11.

「半パン・デイズ」● ★★


半パン・デイズ画像

1999年11月
講談社刊
(1700円+税)

2002年11月
講談社文庫化

  

2000/01/05

題名の「半パン・デイズ」とは、小学校時代のこと。
本書は、主人公ヒロシが東京から父親の故郷である広島に引っ越してきた小学校入学直前から始まり、卒業までを描いた連作短篇集です。
本書の特徴は、各篇毎にヒロシと様々な人との関わりが描かれていることにあります。相手は、父親と対照的な伯父であったり、突然同居することになった親類の老婆、乱暴なところのある同級生、あるいは知恵遅れの同級生だったり、女の子のことだったりします。自分の身に照らして考えてみると、そんな断片的な記憶により少年時代の思い出が形作られているような気がします。
各ストーリィの中で、ヒロシの少年特有の微妙な心理、また成長に伴う心情の変化が描かれていきます。懐かしくもあり、忘れたくもある(私だけなのかもしれませんが)、そして思い出すことが恥ずかしいこともあるという、微笑ましくもほろ苦くもある時期。そんな小学生の心の揺れを、重松さんは見事に書き綴っています。
重松さんの作品の中では、明確なテーマをつきつけたという作品ではないので、他作品のような強い印象を受けることはありませんでした。その分気楽に読める作品ですが、読み進むにつれジワジワと染み込んでくるものがあります。その点は、やはり重松さんならではの上手さだと思います。
ヒロシは成績の良い優等生のようですが、一方で臆病であったり、同級生や下級生に自分の思いをはっきり伝えることができず、仲間はずれにされたり、でまかせの嘘をついたりもします。大人から見れば歯がゆいようなことなのですが、子供自身にとっては重大なことであり、あるいはやむなく追い込まれてしまったことであったりします。読み進むうち、自分自身の思い出が蘇ってくるような気がしていました。そんなところが本書の魅力です。

スメバミヤコ/ともだち/あさがお/二十日草/しゃぼんだま /ライバル/世の中/アマリリス/みどりの日々

  

12.

「カカシの夏休み」● ★★


カカシの夏休み画像

2000年05月
文芸春秋刊
(1619円+税)

2003年05月
文春文庫化

    

2000/06/08

人生の中盤に至ると、これまで信じて頑張ってきたことが、ふと疑問に思えてくることが あります。本当にそれで良かったのか、その結果として今の自分は幸せなのか、と。
表題作の
「カカシの夏休み」「ライオン先生」は、そんな作品です。ちょうど自分と同じ年代の主人公たちであり、私としては自然と共感を覚えます。そして、主人公たちの一緒にほっと息をつくのです。他の重松作品のような衝撃度は少ない代わりに、安らぎを覚える作品です。

「カカシの夏休み」の主人公は、生徒からカカシと綽名される小学校教諭。証券会社が倒産してタクシー運転手をしていた友人が事故死したことから、昔の同級生4人が再会することになります。故郷がダムに水没してから皆頑張って生きてきたのですけれど、実情は各人それぞれに苦闘している、といった状況。そんな時、主人公が皆に提案したことは、故郷を見に行こう ということでした。
「ライオン先生」は、ライオン先生という綽名の熱血教師の物語。昔は女子生徒と熱愛して結婚した主人公も、既に娘が成人式を迎える時期となっています。若くして死んだ妻との思い出の故か、禿げてしまった頭部を長髪のカツラで隠し、ライオンのイメージを一生懸命守ろうとしています。ところが、カツラの下の頭が痒くてたまらなくなってくる。さて、主人公はこれから教師としてどう振舞っていくべきなのか。
「未来」は前2作とはちょっと異なる物語。イジメが原因で弟の同級生が自殺します。それにまつわる、主人公と弟の苦悩。主人公も過去に同様の傷を負っていました。2人はどのように事件を乗り越 えれば良いのでしょうか。

カカシの夏休み/ライオン先生/未来

  

13.

「ビタミンF」● ★★     第124回直木賞受賞


ビタミンF画像

2000年08月
新潮社刊
(1500円+税)

2003年07月
新潮文庫化

   

2000/09/12

「ビタミンF」という題名は、本書に収録された7篇を総括するものです。人の心にビタミンのように効く小説があったって良い、そんな重松さんの思いを 込めて書かれた一冊とのこと。
その題名のとおり、本書は、家族を支えてきてちょうど疲れを覚える年代となった父親たちを、元気づけてくれる短篇集です。
ちなみに
“F”は、Family、Father、Friend、Fight 等の頭文字でもあり、7篇はその辺りも意識 して書かれたようです。
読んでいて、本書の7篇には、さらりとした印象があります。あとにひくことがない、と言っても良いでしょうか。
いずれも特別なストーリィがあるわけではありません。家族をもっていれば、大なり小なり、父親なら誰しも経験するようなヒトコマと言えるストーリィでしょう。今まで子供だとばかり思っていた息子、娘が、いつのまにか子供から脱する時期に至っていたこと、自分との間に何時の間にか距離が生じていたことに気付いた戸惑い、これまで頑張ってきたという自信の喪失。7篇においては、そんな状況をなんとか凌ぐ父親達の姿が描かれています。そんな姿をみると、自分ももうちょっと頑張ろうかな、という気持ちにさせられます。それが、重松さんが投薬した“ビタミンF”の効果でしょう。
記憶に残ることは少ないかもしれませんが、さらりと胸の内に忍び込んで気弱になりがちな気持ちを支えてくれる、そんな珍しいタイプの短篇集です。

ゲンコツ/はずれくじ/パンドラ/セッちゃん/なぎさホテルにて/かさぶたまぶた/母帰る 

  

14.

「さつき断景」● 
 (新潮文庫改題:「星に願いを」)


さつき断景画像

2000年11月
祥伝社刊
(1700円+税)

2004年02月
祥伝社文庫化

2008年12月
新潮文庫化

 
2000/11/07

1995年から2000年まで、毎年5月1日という設定の下に、主人公3人の人生風景をそれぞれ断片的に描いた作品。
サリン事件、オウム真理教、阪神淡路大震災、保険金詐欺事件と、その時々の出来事があわせて盛り込まれていますので、社会世相を映し出しているという面もあります。
本作品は、もともと“掌編”小説として描かれたものを、単行本化にあたり改訂・長編化したものだということです。帯には
“異色日録小説”とありましたが、こういう形態を「日録」と言うのでしょうか?
主人公となる3人の年代は様々です。
アサダ氏57〜62歳、定年退職前後の年代。ヤマグチさん35〜40歳は、ひとり娘の成長にやきもき心配する世代。タカユキ15〜20歳は、高校から大学と自分の人生を定めきれない不安定な時期。
ストーリィ自体は断片的ですから、各人の状況の変化をただ追って行くという感じになりますが、2000年まで至ると、さすがにせつない気持ちが生じてきます。人生、家族というものについて、しみじみ思わせられる、というように。それは重松さんの術中にはまったということなのでしょうが、決して不愉快ではありません。むしろ、足元の大切な事を、改めてきづかせてもらった、という気持ちです。

1995/1996/1997/1998/1999/2000

 

15.

●「リビング」●  ★★


リビング画像

2000年11月
中央公論新社刊
(1600円+税)

2003年10月
中公文庫化

  
2001/01/06

夫婦、親子、友人等、暮していく上で普通にあるような人間関係の様々なシーン、それを重松さんは12の小品に描いています。
小品集というと、ストーリィとしては物足りないような気がしますが、本書に限ってそんなことはありません。むしろ、余計な部分がないだけ、すっきりと、すこぶる気持ちの良い作品集に仕上がっています。ちょうど、微風を受けて心地よい爽やかさを感じるような、そんな気分を味わえます。
唯一、雑誌編集者とイラストレーターの現代的夫婦が「となりの花園」として連作ものになっていますが、各篇の合い間に挿入されているので、ちょうど良いアクセントになっているようですす。
「いらかの波」は、鯉のぼりの列なる情景から、とりわけ爽やかな印象を受けます。「分家レボリューション」はなかなか愉快、「息子白書」には心憎いオチあり。また、「モッちん最後の一日」は、少年の気持ちがいとおしい一篇です。
「ミナナミナナヤミ」とは、主人公の母親が繰り返し唱えた言葉のこと。その意味を漸く悟った時、主人公夫婦ならずとも、この言葉を大事にしておきたくなります。

となりの花園−春/いらかの波/千代に八千代に/ミナナミナナヤミ/となりの花園−夏/一泊ふつつか/分家レボリューション/となりの花園−秋/YAZAWA/息子白書/隣の花園−冬/モッちん最後の一日

  

16.

●「隣 人」● ★☆
 
(文庫改題:「世紀末の隣人」)


隣人画像
 
2001年02月
講談社刊
(1600円+税)

2003年12月
講談社文庫化

 

2001/03/16

重松さん初のルポタージュ作品。
池袋の白昼・通り魔殺人事件、お受験殺人事件、日野小学校事件、新潟柏崎の少女監禁事件、Iターン者の家族心中、17歳のバスジャック事件、和歌山砒素カレー事件を経て、日産自動車村山工場の閉鎖、ニュータウンの廃墟化、最後の野犬とAIBOへと、語られていきます。
重松さん自身言うように、ノンフィクションライターではありませんから、直接事件を追うということではなく、読み物作家としてその事件の背後にあるストーリィを推察していく、という書き方になっています。
事件の衝撃度、犯人の異常性が明らかになる程、一般人である我々と犯人との間に隔絶を感じるのが常です。しかし、事件背後のストーリイを重松さんが書き下ろしていくと、人間としての挫折、不遇というものが見えてきて、犯人らが我々からごく近い距離の所にいることを気付かされていきます。まさに、本ルポの原題である「世紀末の十二人の隣人」というように。

小説ではないので、主人公たちの内面に入り込んで感じる、考えさせられる、ということはありません。しかし、本書に取り上げられた事件等について、改めて異なった視点から眺めることができたのは、確かです。

夜明け前、孤独な犬が街を駆ける/nowhereman/ともだちがほしかったママ/支配されない場所へ/当世小僧気質/桜の森の満開の下にあるものは・・・/晴れた空、白い雲、憧れのカントリーライフ/寂しからずや「君」なき君/「街は、いますぐ劇場になりたがっている」と寺山修司は言った/熱い言葉、冷たい言葉/年老いた近未来都市/AIBOは東京タワーの夢を見るか

 

17.

●「口笛吹いて」● 


口笛吹いて画像

2001年04月
文芸春秋刊
(1476円+税)

2004年03月
文春文庫化

 
2001/03/23

勝ち負けにこだわる子供世代と、こだわるまいとする大人の世代。それが対照的に描かれている短篇集。
そのどちらが正しいのか。大人の智慧は、勝ち負けばかりにこだわっていると、自分を苦しくするばかりですから、むしろこだわるまいとする意識が働きます。でも、子供からみると、それは最初から白旗をかかげているという風に見えてしまう。人生そんな単純には行かないのですが、だからといって勝ち負けにこだわらないというばかりで良いのか。そんなメッセージが伝わってくるような作品集です。

さりげない日常生活における味わいある物語、というのが重松作品の特徴であり、勿論素晴らしいのですが、このところ短篇ばかりなので物足りなさを覚えます。長篇をじっくり読みたいところです。
リストラ、妻も外で働く家庭の在り方、現代的な問題も感じます。「春になれば」「グッド・ラック」の2篇、「かたつむり疾走」和美が印象に残りました。

口笛吹いて/タンタン/かたつむり疾走/春になれば/グッド・ラック

  

18.

●「セカンド・ライン−エッセイ百連発!−」● ★★
 (文庫改題:「明日があるさ」)


セカンド・ライン画像

2001年11月
朝日新聞社刊
(1400円+税)

2005年04月
朝日文庫化

  
2001/11/13

まず言っておきたいことは、えっ!と驚くような装丁のエッセイ集であること。
新聞紙を切り出して所々色をつけ、本の形に綴じあげたという如き代物。読むのを止めようかと思った程なのですが、実際読み出すと、この装丁が何とも内容に似つかわしい。そして、持つ手によく馴染むのです。
本書は重松さん初のエッセイ集であり、コラム、書評、文庫解説、自作のこと、更に過去のこと、そしてフリーライターとしてずっと歩んできた事々が、雑然と収録されています。その雑然さに、この装丁は見事に溶け合っているのです。
そして、雑然と書かれているが故に、重松さんと向かい合ってその話を聞いているような居心地の良さ、楽しさを感じるのです。作家、フリーライターという以前の、生の人間としての重松さんが伝わってくるような思いがします。それにしても、家族問題等を多く題材にし、優しげな印象を与える重松さんが、受賞前後等を始めとしてあんなにも荒れる人だったとは、思いもよらなかったなぁ。
中上健次、篠田節子等、多くの作家が本書中に登場しますが、中でも印象に強く残ったのは“男性自身”シリーズの故・山口瞳さん。(山口さんの本が無性に読みたくなりました)
重松清ファンには、是非お勧めしたい初エッセイ集です。

  

19.

●「流星ワゴン」● ★★


流星ワゴン画像

2002年02月
講談社刊
(1700円+税)

2005年02月
講談社文庫化

   

2002/04/04

重松さん、久々の長篇小説。
妻、そして一人息子とも心がバラバラになってしまい、そのうえ自身はリストラの対象となった、38歳の平凡なサラリーマンが主人公。
深夜の自宅駅前に座り込み、苦しいばかりの自宅に帰りたくない、このまま死んでしまいたいとつぶやく主人公の前に、一台のワゴン車が止まります。
乗っていたのは、5年前に交通事故死した父子2人。彼らに誘われワゴン車に乗り込んだ主人公は、過去における岐路に再び戻り、また自分と同い年の父親に再会します。
過去の時点に立ち返り、自分のとった行動は誤っていたのかどうか、同い歳の父親と朋輩のように語り合うことによって父親との関係を見つめ直す、というストーリィ。

ストーリィがどうの、テーマがどうの、という前に、とにかく切ない作品です。
主人公も、その妻も息子も、誰が悪いとか言えるものではありません。各々のちょっとした躓きから、その重なりから、家族崩壊に至ってしまった、と言えます。
だからこそ、切ない。そして、その切なさは、ワゴン車の父子、主人公の父親、みな共有しているものです。

そんな切なさは、本作品の登場人物だけでなく、現代に生きる人々が皆それなりに抱えているものかもしれません。本作品には、そんな普遍性を感じます。
久々の長編小説は、重松さんのスケールが以前より広がった、と感じさせるものでした。

   

20.

●「熱 球」● 


熱球画像

2002年03月
徳間書店刊
(1600円+税)

2004年12月
徳間文庫化

2007年12月
新潮文庫化

  

2002/04/17

家族の問題もありますが、故郷とはどういったものか、ということを語った作品であると思います。
主人公は38歳。勤務先の大幅な方針転向に失望して辞表を出し、東京から故郷に帰って来ます。一人っ子で母親が死んだばかり、父親が一人で残っている、という状況。故郷に戻るのはちょうど頃合いだったのかもしれません。
しかし、妻はボストンに留学中。小学五年生になる一人娘のみ連れて戻ってきます。このまま故郷に残るのか、東京にもどるのか、優柔不断というくらいにはっきりしません。

田舎町の料簡の狭さを嫌った気持ちは今も変わらない。そんな主人公もいつしか故郷のぬくい居心地の良さ、懐かしさに浸っている。
しかし、やりがいのある仕事、娘と夫婦の暮らしのことを思えば、父親を一人残しても東京へ帰っていかざるをえない。
1年間の帰郷は、主人公にとって人生の中休みだったのではないかと思います。そして故郷とは、そんな時あるがままの自分を受けとめてくれる場所、いつでも帰れる場所、ということなのではないでしょうか。
私自身は、親戚すべて東京なものですから、本書主人公のような故郷をもっていません。すべて想像するほかないことです。でも、重松さんの本書語りには素直に頷くことができます。
なお、題名の「熱球」とは、主人公が仲間たちと共に甲子園をめざした野球部の伝統スローガン。
本書は故郷を語るとともに、高校時代の熱い思いを蘇えさせる物語でもあります。

    

読書りすと(重松清作品)

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