桜庭一樹
(さくらばかずき)作品のページ No.1


1971年鳥取県米子市生
From A」等にてフリーライター、山田桜丸名義でのゲームノベライズを経て、99年「夜空に、満天の星」(「AD2015隔離都市ロンリネス・ガーディアン」と改題して刊行)にて第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選。2003年開始の<GOSICK>シリーズで多くの読者を獲得し、04年「推定少女」「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」にて注目を集める。07年「赤朽葉家の伝説」にて第60回日本推理作家協会賞、08年「私の男」にて 第138回直木賞を受賞。


1.
赤朽葉家の伝説

2.青年のための読書クラブ

3.私の男

4.荒野

5.書店はタイムマシーン

6.ファミリーポートレイト

7.製鉄天使

8.

9.ばらばら死体の夜

10.傷痕


無花果とムーン、桜庭一樹短編集、ほんとうの花を見せにきた、少女を埋める

 → 桜庭一樹作品のページ No.2

 


           

1.

●「赤朽葉家(あかくちばけ)の伝説」● ★★      日本推理作家協会賞


赤朽葉家の伝説画像

2006年12月
東京創元社刊

(1700円+税)

2010年09月
創元推理文庫化



2007/01/20



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鳥取県の紅緑村。製鉄業を営み村の生活を支える名家であり、村人たちの上に天上人のように君臨する、赤朽葉家の3代にわたる女たちを描いた長篇小説。

「○代記」というような作品で思い浮かぶのは有吉佐和子「助左衛門四代記」ぐらいですが、本書はそうした作品とは趣きを異にする、不思議な味わいをもつ作品なのです。
まず最初の万葉。“辺境の人々”に置いていかれて拾いっ子として育つ。この万葉は千里眼の持ち主で、嫁として赤朽葉家に迎え入れられ、“千里眼奥様”として姑タツの亡き後赤朽葉家を支える存在になります。
3代の枠外になるのですが、万葉の嫁取りを決めた姑のタツという存在もまた異色の人物。嫁入った身でありながら、赤朽葉家の大奥様として長く君臨し、万葉の生んだ子供たちにつけた名前が泪、毛毬、鞄、孤独というのですから、生半可の異色さではありません。
千里眼をもつ万葉も異能者ですけれど、赤朽葉家を継いだ長女の毛毬はある意味でもっと異色。中高生時代に“製鉄天使”と名乗るレディースを率いて中国地方を完全征服したと思ったら、その後突然転身し、圧倒的な人気を誇る漫画家となってしまう。
異能者である万葉を描いた第一部以上に、まるで暴風雨のように短い人生を駆け抜けた毛毬を描いた第二部には圧倒されるばかりです。
そして、万葉と毛毬に比べると2人の孫であり娘であり本書の語り手である瞳子は、ごく普通の平凡な娘。第三部では、その瞳子が愛した祖母・万葉の遺した一言の真相を解く為、万葉の過去を再度確かめていくミステリー的なストーリィとなります。

本作品の面白さは、何も赤朽葉家の対照的な3代の女性を描いた圧倒されんばかりのストーリイだけにあるのではありません。
赤朽葉家の事業、家族たちの変遷と並行して、日本の当時の時代背景が描かれていきます。高度成長、学生運動、バブル景気とそれに続くバブル崩壊、地方の衰退、Uターン、・・・。
そしてその両者は決して並列する現代史ではなく、時代の変化は赤朽葉家の子供たちにもきちんと投影されているのです。その辺りを読み取っていくところにも本書を読む面白さがあります。

また、万葉、毛毬を初め、職工・穂積豊寿、造船所の跡継ぎ娘・黒菱みどり、夫の愛人である真砂と娘の百夜、毛毬の親友・穂積蝶子、編集者の蘇峰有、毛毬の影武者となったアイラ等々、どの登場人物も一度知ったら忘れられない男女ばかり。
とにかく圧倒されんばかりの長大な物語を読みたい方に、本書は是非お薦めです。

第一部 最後の神話の時代 (1953年〜1975年 赤朽葉万葉)
第二部 巨と虚の時代   (1979年〜1998年 赤朽葉毛毬)
第三部 殺人者      (2000年〜未来年 赤朽葉瞳子)

               

2.

●「青年のための読書クラブ」● ★☆


青年のための読書クラブ画像

2007年06月
新潮社刊

(1400円+税)

2011年07月
2017年05月
新潮文庫化



2007/07/11



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本書の題名から、本書がどんな内容のストーリィかを予想できる人は、恐らくいないでしょう。
桜庭さんの作品を読むのはまだ2作目ですが、そこにこそ桜庭さんの真骨頂がある、と感じる次第。

舞台は、修道女マリアンナにより1919年東京の山の手に設立された聖マリアナ学園。幼稚舎から高等部まで同じ敷地にあり、さらに大学も別にあるといった、まさに良家の子女のための園。
思春期にずっと、別天地の如きそんな少女ばかりの世界に閉じ込められたらどうなるか。皆が恋する相手は、青年に擬せられるに相応しい女生徒となります。そこが本物語の前提条件。
そんな乙女の園にも、異形な生徒達が存在します。異形な彼女たちが吹き溜まったところこそ“読書クラブ”
聖マリアナ学園が誕生してから50年に渡り、読書クラブは時々登場する異形な女生徒たちの生き証人ともなり、年代記の記録者ともなる、というストーリィ。
読書クラブの部員が自分を指して「ぼく」と呼ぶのが印象的。

5篇のうち4篇は、有名な文学作品がストーリィの重要な鍵となります。シラノ・ド・ベルジュラック」「マクベス」「緋文字」「紅はこべ
異形な者の存在、乙女の園にあるまじきストーリィ展開にも目を惹かれるのですが、本好きにとっては上記文学作品との関連性こそ興味尽きず、楽しめるところです。
とくにその中でも、「シラノ・ド・ベルジュラック」と「紅はこべ」をモチーフにした2篇。ストーリィ展開も秀逸ですが、元々原作自体面白くて好きなのです。
最後は予想もしてなかった幕切れでしたけれど、本好きにとってはこれこそ満足いくというもの。
う・・・ん、変り種ストーリィがお好きな方にお薦め。

烏丸紅子恋愛事件/聖女マリアナ消失事件/奇妙な旅人/一番星/ハビトウゥス&プラティーク

            

3.

●「私の男」● ★★☆       直木賞


私の男画像

2007年10月
文芸春秋刊

(1476円+税)

2010年04月
文春文庫化



2007/12/19



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凄い小説だ!、と思います。
腐野(くさりの)花24歳の、結婚式前日から始まるストーリィ。
すぐに読み手は、主人公である花とその養父=惇悟との関係が尋常なものではないことを気づかされます。
花は9歳の時に奥尻島の震災に遭い、両親と兄妹を一瞬にして失い、孤児となった。その花を引き取ったのが、遠縁で当時まだ24歳の独身男の惇悟でした。
花は惇悟から離れることによって、ごく普通の女性の幸せを手に入れようとしているらしい。しかし、それと同時に惇悟と別れることに耐え難い思いを抱いている。
2人には過去に秘密があるらしいこと、何かの事件に絡んで故郷から逃亡するように東京に出てきたことが仄めかされます。それは一体何なのか。
結婚という晴れがましい舞台を始まりとして、3年前、8年前、12年前、15年前と時を逆に辿り、語り手を変えながら語られるストーリィ。

時の流れを順々と経て現在に至るというのが普通のパターンですが、本作品は普通と全く逆を行っています。
何故今の2人があるのか。その経緯を明かすために過去へと遡っていくという構成なのですが、過去に遡る程、2人の状況は現在をそれを遥かに凌駕してしまうのです。そこが凄い!
中でも圧巻なのが、2人が故郷を後にすることになった経緯を明かす第4章。
そこには第1章から全く窺い知れなかった奥深い闇、妖しくもまた艶やかな“父娘”の姿が解き放たれるのです。
「親子のあいだで、しちゃいけないことなんて、この世にあるの?」 その言葉のなんと妖しく悩ましいことか。

いやだ、いやだと思いつつ引きずり込まれ、得体の知れない気分を感じつつも虜にされてしまうという妖しい魅力がいっぱいに広がり、読み手はただただ圧倒されるばかりです。
桜庭さんのこのストーリーテラーとしての迫力が凄い! 赤朽葉家の伝説では圧倒されながらも判らないところがありましたが、本作品は2人のストーリィ自体は単純明瞭なだけに、圧倒感はそれに勝るものがあります。
ストーリィをちょっと聞いて躊躇する気持ちになるのも当然と思いますが、それを超えて読むだけの甲斐、凄みが本書には間違いなくあります。お薦め。

1.2008年6月-花とふるいカメラ/2.2005年11月-美郎とふるい死体/3.2000年7月-淳悟とあたらしい死体/4.2000年1月-花とあたらしいカメラ/5.1996年3月-小町と凪/6.1993年7月-花と嵐

            

4.

●「荒 野」● ★★☆


荒野画像

2008年05月
文芸春秋刊

(1680円+税)

2011年1-2月
文春文庫化

(1-2巻)

2017年05月
文春文庫化



2008/06/25



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「荒野」という題名から、またもや波乱に満ちたストーリィかと思ってしまうのですが、さにあらず。 
本書は中学入学〜高校1年という、“大人になる手前”にある少女期を三部構成で描いた物語です。
荒野」とは、主人公となる少女の名前。即ち山野内荒野

本作品は、今まで読んだ桜庭作品の中では一番読み易い。
「第一部」「第二部」は既にファミ通文庫からとして刊行(「荒野の恋」)されており、書き下ろしの「第三部」を加えて単行本化したのが本書。したがって読み易いのは当然かもしれない。

荒野は、母親が早く死んでからずっと、女性に人気高い恋愛小説家の父=山野内正慶と、荒野を抱え込むようにして世話してきた住み込みの家政婦との3人暮し。
そんな荒野の生活が大きく変わることになったのは、荒野が中学に入学した後、父親が再婚したことから。
それにより「優しかった他人」は家から去り、代わって「母親」という存在+αが新しい家族として加わります。実の父親と義母の2人を眺め、その間に挟まれる立場になったことは、荒野の成長を後押ししたはず。
そんな荒野は地味で、飛びぬけて奥手の女の子。それなのに身体は心より先にどんどん大人の女らしくなってしまう。
心と身体と周囲の眼、そのアンバランスなところに本ストーリィの面白さ、そして主人公である荒野の魅力があります。

本作品には、新しい世界がどんどん目の前に開けていくというこの時期のときめき感が、全頁を通して感じられます。だからこそ読み手は、理屈ぬきに本書に惹き付けられます。
そしてもうひとつ、元男の子にとっては、まるで自分が女の子になったような気分を味わえる、という妙味あり。
本書は少女を描いた物語ですけれど、男女を問わず、楽しめる一冊。お薦めです。

         

5.

●「書店はタイムマシーン−桜庭一樹読書日記−」● ★★


書店はタイムマシーン画像

2008年09月
東京創元社刊

(1500円+税)

2010年11月
創元推理文庫化



2008/10/20



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東京創元社のHP「Webミステリーズ!」連載、「桜庭一樹読書日記」に続く「続・桜庭一樹読書日記」の単行本化です。
本書に収録の期間は、2007年04月号から08年03月号まで。

ちょうど赤朽葉家の伝説が刊行されて3ヶ月後からの書き出しとあって、日本推理作家協会賞の長篇部門と短篇部門の両方に選ばれてどちらかを選択するよう言われた結果、「赤朽葉」が受賞作となったというエピソードから、直木賞を逸した顛末、私の男によって直木賞を受賞しての騒ぎと語られ、ファンとしては楽しさ満喫できる日記となっています。
それにしても直木賞受賞を家族に電話連絡したところ、母上から「嘘!」と言われ、挙句に「周りの人に、もう一回確認して」とキッパリ言われたというエピソードは、祝うべき場面だからこそ楽しく可笑しい。

そんな桜庭さん、“稀代の読書魔”と呼ばれているそうな。
たしかに足繁く都心の大型書店に通い、夜は何があっても寝る前に本を読むというのが毎日の習慣らしい。
その如何にも本が好きそうな様子、すべきことを終えた後の夜に本を読み出す様子の楽しそうなこと、頁の間から伝わってくるようです。
本当に読む範囲が実に幅広い。驚くぐらいに私の知らない作家、作品の名前がどんどん出てきます。特に翻訳文学への通暁振りが圧巻。

「大きな物語のうねりが読みたい」という桜庭さんの一言に、桜庭作品およびその読書傾向が納得できる気がします。
また巻末には、東京創元社で行なわれた桜庭さんと担当編集者3人との特別座談会付き。桜庭さんより編集者たちの発言が活発で楽しいです。

あれこれ読んでは、担当の編集者さんらと語りに語る。
プロの作家というより、根っからの本好き少女が時々小説も書いている、という風です。
本書はそんな桜庭さんを身近に感じられる、楽しい一冊です。

             

6.

●「ファミリーポートレイト」● ★★☆


ファミリーポートレイト画像

2008年11月
講談社刊

(1700円+税)

2011年11月
講談社文庫化



2008/12/17



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私の男が父と娘を描いた家族物語であったのに対し、本作品は母と娘を描いた家族物語。

本書の主人公であるコマコもまた、特異な状況下に育った少女。
「ママの名前はマコ。マコの娘はコマコ。すなわち、それがあたし。あなたの人生の脇役にふさわしい命名法」
冒頭に出てくるこの文句が、本書を読んでいる間ずっと耳に鳴り響きます。
いみじくもそれは、主人公である駒子の人生をそのまま象徴しているかのような一文。
少女の異様な成長物語はもうイヤダ、と思いつつも、本ストーリィに惹き込まれてしまう。
それは、コマコはマコのために生きている、という幼い少女に似合わない主人公の強い想いの中に、甘美な匂いがあるからです。
その甘さに酔うように惹き付けられる一方で、そうした世界にはもう引きずり込まれたくない、という抵抗心も抱く。
その相反する気持ちのせめぎ合いに煽られ、むさぼるように、また先を急ぐように、読み飛ばしつつ一気読みした、というのが正直なところ。

第一部「旅」では、何かから逃亡を続ける母親=マコに連れられるまま、学校にも行かず、各地を転々としがなら育つコマコの5歳から始まる少女期が描かれます。

第二部「セルフポートレイト」は、母親に置き去りにされた喪失感そのままに、生きる指標を失って惰性のように生きる駒子の後半生が描かれます。
そんな駒子に残された唯一の楽しみが読書であり、それと意識しないまま作家の道を歩み始めるところが、本書主人公の複雑さ。それはまた、桜庭さん自身を彷彿させるところがあって面白い。

読者の気持ちがどうであれ、ぐいぐいと引っ張っていってしまう力強さ、目次毎にストーリイが切り替わっていくリズムの良さ、そして読みごたえたっぷりの量感。
イヤダイヤダと思いつつ、物語の面白さに圧倒されて、満足している自分がいる。
桜庭作品の魅力は、そうした点にあると思います。
これからも私は、イヤダなぁと思いつつ、桜庭作品にどっぷりと読みふける、どうもそんな気がします。

 

7.

●「製鉄天使」● ★★


製鉄天使画像

2009年10月
東京創元社刊

(1700円+税)

2012年11月
創元推理文庫化



2009/12/06



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赤朽葉家の伝説から生まれた物語。

赤朽葉の長女=毛毬は、中高生時代に“製鉄天使”と名乗るレディースを率いて中国地方を完全征服した女傑。
鳥取県の紅緑村を赤珠村、赤朽葉毛毬の名前を赤緑豆小豆、彼女の親友=穂積蝶子の名前を穂高菫と変えながらも、小豆が“製鉄天使”と命名されたレディース(女愚連隊)を率いてついに中国地方統一を成し遂げるというストーリィは、まさに「赤朽葉家の伝説」で語られたそのまま。

前半、ただ走ることが楽しいという小豆に周りに次第に仲間が集まりレディースを結成。鉄を支配し自由に操れるという特殊な能力を駆使して邪魔な敵を撃破していく。
愚連隊そのものは決して好きではありませんが、月を背景に宙を舞うといった空想物語のような活躍をみせるレディース総長=小豆の姿は痛快。
しかし、後半に入って親友を失う痛み、配下に対する責任を担う重さを感じる小豆もまた、前半と対になった見逃せない姿。
僅か6年限りの破天荒な人生。前半の興奮に対して後半の陰翳、という構成はメリハリ充分です。
レディースとはいえ、それとて青春時代の一風景に他ならないのですから、そこに爽快さも見い出すことができます。
小豆に制圧されてレディースを卒業した女生徒らが、これを機に今後の進路を真面目に考え出すという風景、得心行きますねぇ。

マンガ的英雄物語、と言ってしまえばそれまでですが、非現実的だなどというありふれた批判は棚上げし、頭を空っぽにして読む限り、充分な読み応えあるストーリィ。読み手の目を少しもそらさせません。そこは桜庭さんならではのところ。

        

8.

●「伏(ふせ)−贋作・里見八犬伝−」● ★★


伏画像

2010年11月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2012年09月
文春文庫化



2010/12/17



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米村圭伍さんによる南総里見八犬伝のパロディ南総里見白珠伝を読んだのが2年前。
まさか再び八犬伝のパロディをこうも早く読むとは思っていなかったのですが、本書「伏(ふせ)」もまた八犬伝パロディ。

しかしまぁ、何と原作とかけ離れたストーリィになっていることか。驚き呆れるばかりです。
浜路が少女猟師となり、浪人である兄の道節と共に、志乃「伏」と呼ばれる犬人間たちを賞金目的で狩る側に立つのですから。
人間がいて犬人間もいる、というだけで、ストーリィといってもこれというものは特にないような展開。それでも引き込まれてどんどん読み進んでしまうのは、天性のエンターテイメント作家というべき桜庭さんの書きっぷり故でしょう。

浜路・道節や志乃たちの逃走・追走劇が繰り広げられる中、馬琴の息子である滝沢冥土が浜路に「贋作・里見八犬伝」を読み聞かせたり、志乃が自分たち犬人間の物語(「伏の森」)を浜路に語り明かすという部分もあります。その辺り、作中作としての面白さがいっぱい。
何より楽しめるのは、小娘=浜路の愛嬌あるところでしょう。それにプラスして、兄・道節が見せる妹への鷹揚な愛情ぶり。
(※後半の浜路、
米村圭伍「退屈姫君伝めだか姫にちと通じる印象あり。)

道雪・浜路の兄妹と伏たちの間に憎悪は感じられず、本作品、物語として面白かった、という印象です。
読み終えた時の気分は、ちょうど紙芝居を観終った時のような。

                

9.

●「ばらばら死体の夜」● ★☆


バラバラ死体の夜画像

2011年05月
集英社刊

(1500円+税)

2014年03月
集英社文庫化


2011/05/28


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久々に読んだ桜庭一樹作品。
本ストーリィは、2009年12月、情事関係にあった相手を殺害し、死体をバラバラにするという場面のプロローグから始まります。
そしてその後、そこに至るまでの人生過程が、主要登場人物である40代の翻訳家=
吉野解、自称27歳の全てにだらしない女=白井砂漠、ちっぽけな古本屋・泪亭の主=佐藤老人、それぞれを主人公にして語られていきます。

神保町にある泪亭の2階、鍵もかからないような安っぽい部屋に住む、謎めいた美女が白井砂漠。吉野も院生の頃その部屋に住んでいた、というのが2人を結びつけるきっかけ。
結局は、砂漠が吉野の借金を申し込んだことが、2人の関係の歯車が狂いだすきっかけになるのですが、金が人生を狂わす、ということが本作品のメッセージなのかどうか。
そんな単純な図式とは、ちょっと違う気がします。
金に人生を左右されるかどうかは、結局は自分次第。
その意味では、吉野、砂漠の2人とも、金にとらわれ、金から抜け出すことができなかった人間像と感じます。
ですから本物語は、吉野と砂漠のどちらにとっての悲劇かというより、2人の悲劇と感じられます。

現代社会的な悲劇で、狂気のような展開と言えるストーリィ。
私の好みではなかったなぁ。

      

10.

●「傷 痕」● ★★


傷痕画像

2012年01月
講談社刊

(1600円+税)



2012/02/02



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いつもどおり奇異なる設定からストーリィは始まります。
子供の頃にデビューするや否やすぐスター、ついには
“キンブ・オブ・ポップ”と呼ばれるまで至った大スターが、突然死す。僅か51歳。
銀座にある廃校となった名門小学校を買い取り、中に遊園地のような施設を配置して“
最後の楽園”と名付けた彼の邸宅には、彼の11歳になる娘がただ一人残されます。
その娘の名は“
傷痕”。人目に姿をさらす時は、父親がバリ島で購入したという魔除けの木彫りの仮面をかぶっているのが常。そのため彼女の素顔を知る者は、彼のファミリー(父母・兄姉弟)と、厳格な守秘義務契約を結んだセキュリティスタッフのみ。

楽園の奥深くに父親と2人、隠れ住むように暮していた傷痕は、一人残された父の死後、どう生きていくのか?
当然波乱万丈な展開を予想したのですが、意外にもさに非ず。
本書は、いろいろな形で彼と深い関わりを持った人たちがどう歩み、今どう生きているのか、を描いた連作形式の長篇小説。
何やら肩透かしをくらった気分でもありますが、それはそれで引き込まれ、やはり面白いのです。そこは桜庭一樹さんならではの語りの上手さ。

過去、現在が描かれ、傷痕の未来は本書の頁が尽きる頃から始まります。描かれない傷痕のそれからのストーリィは、読者の胸の内で続いていく。そんなキザなセリフが、本作品には似合いそうです。

プロローグ/終末時計/孤島/胡蝶/風の歌/魔法/世界地図/エピローグ

      

桜庭一樹作品のページ No.2

        


   

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