山本文緒作品のページ No.



11.シュガーレス・ラヴ

12.紙婚式

13.恋愛中毒

14.落花流水

15.チェリーブラッサム

16.ココナッツ

17.結婚願望

18.プラナリア

19.ファースト・プライオリティー

20.日々是作文


【作家歴】、パイナップルの彼方、ブルーもしくはブルー、きっと君は泣く、 あなたには帰る家がある、眠れるラプンツェル、ブラック・ティー、絶対泣かない、群青の夜の羽毛布、 みんないってしまう、そして私はひとりになった

→ 山本文緒作品のページ No.1


再婚生活、アカペラ、カウントダウン、なぎさ、自転しながら公転する、無人島のふたり

→ 山本文緒作品のページ No.3

   


    

11.

●「シュガーレス・ラヴ」●  ★★




1997年05月
集英社刊

2000年06月
集英社文庫化


1999/02/16

計10篇のショート・ストーリィ。それぞれの題名に病気名が付されていて、目次だけ見てもちょっと興味を惹かれます。

でも、各篇の主人公たちにしてみれば笑い事どころではなく、それぞれ生活上の大きな悩みの種なのです。
読み進むとすぐわかる事ですが、それらの症状は彼女たちが都会生活の中で耐えつつ暮らしていることが原因。
最後に我慢し切れなくなって、彼女たちは開き直ってしまう。すると、何時のまにか症状も薄らぎ、気分も軽くなるというストーリィ。
別に彼女たちに限らず、都会人であれば誰しも多少のストレスは抱えているもの。そんな都会生活故の様々な病名がメニューブックのように並び、読者はいろいろなストーリィを味わうことができます。本書はそんな楽しみのある1冊です。

彼女の冷蔵庫(骨粗鬆症)/ご清潔な不倫(アドピー性皮膚炎)/鑑賞用美人(便秘)/いるか療法(突発性難聴)/ねむらぬテレフォン(睡眠障害)/月も見ていない(生理痛)/夏の空色(アルコール依存症)/秤の上の小さな子供(肥満)/過剰愛情失調症(自律神経失調症)/シュガーレス・ラヴ(味覚異常)

            

12.

●「紙婚式」● 

 

1998年10月
徳間書店刊
(1600円+税)

2001年02月
角川文庫化

1999/07/25

結婚生活を題材にした8つの短編集。
どれひとつとして、順調な結婚生活と言えるものはなく、可笑しかったり、哀しかったり、寂しかったり、いろいろな感慨が味わえます。

山本さんの作品としては、恋愛中毒同様、大人の小説に変貌しつつあることを感じさせられます。
しかし、どれについてもこれが今の結婚の実態だと思うと、結婚するのが恐ろしくなってしまう気分です。お互い、結婚するほどの大人になりきらないままに結婚してしまった、というのが悲劇の要因かもしれません。それとも、都会人の孤独性というのがふさわしいのでしょうか。
伝統的な結婚という題材を使って、現代の若者世代を描き出している作品なのかもしれません。

土下座/子宝/おしどり/貞淑/ますお/バツイチ/秋茄子/紙婚式

     

13.

●「恋愛中毒」● ★★    吉川英治文学新人賞




1998年11月
角川書店刊
(1800円+税)

2002年06月
角川文庫化


1999/06/22

今まで読んだ山本文緒作品に比較すると、一皮剥けて大人の世界に入り込んだ、という印象を受けます。
思い返すと、本書は噛み締めるほどに甘味と苦味が滲み出てくる作品のような気がします。そう言えば、恋愛という行為自体、そんな味わいのするものだったかもしれません。
ストーリィは、新入社員・井口が別れた恋人につきまとわれ困っているところを、会社で事務をしている中年女性に助けられたことから始まります。無表情で冴えないその女性・水無月が彼に語り始めた物語は、彼女の表面からは窺い知れないような男女関係の軌跡でした。
読了後、このストーリィをどう解すれば良いのか戸惑いました。彼女の行動をその生い立ちから分析することは容易ですが、それは余りに浅慮のように感じられます。そして、「恋愛中毒」という題名を見直した時、すべてが腑に落ちることに気づきました。そう、これはアルコール中毒等と同様な禁断症状を引き起こす、まさに恋愛中毒に他なりません。
決して喜んで覗き見たい関係とは思いませんが、ひとつの恋愛の姿を垣間見た、という思いがします。冒頭の井口と共に。

※本書を読みながら、なんとなくヘミングウェイ「エデンの園」を思い出していました。

           

14.

●「落花流水」● ★★




1999年10月
集英社刊
(1400円+税)

2002年10月
集英社文庫化

2015年01月
角川文庫化



1999/12/10



amazon.co.jp

「落花流水」とは、散り落ちた花に情けがあれば、流れる水にも情けがあって、これをのせて去る」という意味だそうです。
本書は、軽く読めるけれど、胸にジーンとくる作品。文緒さんが、また一歩抜け出したな、と感じました。

ストーリィの始まりは、1967マーティル12才、隣家のわがままで甘ったれのマリは7才。そんな2人が、それぞれ家庭の事情で別れ別れになるという出だしは、ごくありふれたものです。
でも、それから10年毎に2027まで、その都度語り手を変えて7つの章が展開されるというのは、なかなか心憎い組み立てです。
語り手は、マリ(手毬)を中心に、その家族たち。バラバラになりそうでいながらも、人生の内で抜き難い関わり合いをもった各人たちは、愛憎それぞれいろいろありながらも、やはりどこか家族という絆で繋がっています。
本書は、各章にてそれぞれの人生を垣間見せながら、総じて見ると手毬という女性の一生を語っている、という巧妙な作品です。幼い恋というのは実らないものなのに、それが実る。でも、それをそのままで終わらせないところが、文緒さんの達者なところでしょう。
本作品の中心人物である手毬という女性は、とにかく秀逸。各章にて、彼女はさまざまな顔を見せます。その変化の様は、どこかしら痛快で、徹底していて、楽しささえ感じてしまいます。
彼女の人生は、果たして幸せだったのか、と問われれば、幸せだったと言いたい。彼女自身あるいは彼女の家族たち、結果的に世間一般のような親の庇護を得られないまま育つ訳ですが、かえって目一杯自分ひとりの力で生きている、という実感が伝わってきます。
題名があまりに風雅なので、吉川英治文学新人賞を受賞した恋愛中毒の陰に隠れてしまいそうな一冊ですが、決してそれに劣らない秀作だと思います。

           

15.

●「チェリーブラッサム」● ★★

 


1991年04月
コバルト文庫

2000年04月
角川文庫刊
(419円+税)



2000/05/14

コバルト文庫刊「ラブリーをつかまえろ」を改題・加筆訂正した作品だそうです。カバー裏の紹介文には「少女の成長を明るくドラマチックに描いた、山本文緒のルーツともいえる傑作長編」とあります。
「傑作」という言葉が随分と安易につかわれるようになったなぁと思いますが、確かにこの主人公には、文緒作品の原点に通じるものが感じられます。

主人公・桜井実乃は中学2年生。母親が早く亡くなり、今は父親と1歳上の姉・花乃と3人暮らし。突如、父親が会社を辞職し、便利屋を開業したことから、実乃も渦中に巻き込まれます。早速持ち込まれた依頼が、盲導犬ラブリーがいなくなったので探して欲しいとの事件。
実乃はなんだかんだと言いつつ父・豹平に協力するのですが、豹平らは実乃の気持ちを少しも理解せず、いつも要領の良い花乃の方を褒めます。そんな時、実乃はすぐお寺の永春さんのところへ駆け込んでしまう。
自分は皆のことを考えていつも一生懸命やっているのに、周りは自分のことを判ってくれない。しかし、よく考えてみると、自分の方こそ周りの人の気持ちを少しも判っていなかったのかもしれない。
実乃の明るく元気な様子の中に、少女の心の成長、淡い恋心が感じられて、楽しい作品です。謎解きの興味もあって、ちょっと気持ちに疲れを覚えた時読むのに最適の一冊。

         

16.

●「ココナッツ」● 

  


1991年08月
コバルト文庫

2000年07月
角川文庫刊
(457円+税)

  
2000/08/27

コバルト文庫刊「アイドルをねらえ!」を改題・加筆訂正した作品、チェリーブラッサムの続編となります。
主人公実乃に、父豹平、姉花乃、お寺の永春さんに同級生のハズムと、主要な登場人物は同一です。

今回のストーリィは、中学2年の夏休み、町出身の人気歌手・黒木洋介の身辺警護を、便利屋・豹平が引き受けたことから始まります。
一応はサスペンス仕立てですが、本作品はあくまで実乃の成長物語。コバルト作品を加筆訂正したといっても、本質的にはやはりジュニア小説です。でも、登場人物は遜色なく魅力的。
このシリーズは、本来「チェリーブラッサム」に始まり、本作品を経て更に実乃の青春物語へと発展していくべきものだと思うのですが、残念ながら本作品にて終了。
本作品は、実乃がこれから“恋愛”の季節に踏み込んでいく、始まりの時期を描いているだけに、これで終わるのはちょっと心残りと感じます。
実乃が魅力あるだけに、「チェリーブラッサム」を読んだのならついでに本書も読んでみたら如何でしょうか。

         

17.

●「結婚願望」● ★☆

 

 
2000年05月
三笠書房刊
(1200円+税)

2003年11月
角川文庫化



2000/05/28

「かなえられない恋のために」にも“結婚願望”について語られていましたので、冒頭は重なる部分があります。しかし、前著が現状を語るに終わっていたのに対し、本書では年数を経た分、結婚願望とは一体何だったのかについて、徹底して考えてみた文緒さんの姿があります。

振り返ると、何故あんなにも結婚したいと思ったのか? その理由はと言えば、文緒さんが言う通り、深い考えもなく、ただ皆が結婚しているから、と言う他ありません。
したがって、そんな時期を越えると、あるいは一度結婚を経験すると、もっと余裕をもって考えることができた筈。
結婚→離婚を経験し、そしてまだ結婚願望を抱いているという文緒さんのこのエッセイは、結婚適齢期にある女性にとって、とても学ぶことの多い本だと思います。
結婚願望があるということと、是が非でも結婚したいということは、似ているようでいて異なることなのです。
男性にも学ぶところはあるのですが、やっぱり本書は女性向き。文緒さん自身、「やはり女性の“あなた”の味方になってしまった」とあとがきに書いています。

二十代の結婚願望/三十代の結婚願望/みんな結婚する/もう半分の人生

小手鞠るい「それでも元気な私にも同じような結婚への衝動が書かれています。 本書の直後に読んだため、奇遇と思いました。

       

18.

●「プラナリア」● ★★☆      直木賞

 


2000年10月
文芸春秋刊
(1333円+税)

2005年09月
文春文庫化



2001/01/16

読んでいる途中から、すごく良い本だな、と思いました。これまでになく質がいいなァ、と。
本書の帯には「現代の<無職>をめぐる五つの物語」とあります。その5篇、それぞれに表情があり、温もりがあり、どのひとつを読んでも独立した充足感があります。そんな小説たちが、1冊の中に収まっている本を読める、そんな気持ち良さがあります。

この5篇に共通するのは、これまでの人生・生活をそれぞれにドロップアウトした主人公たち、という点です。
乳癌の摘出手術後、いじけたまま無職でいる春香、25歳。突然離婚されて夫も仕事も同時に失い、働く意欲を失ってぶらぶらするままの泉水涼子、36歳。交際7年の恋人がいるが、どこか中途半端になってしまった美都、25歳。離婚されて脱サラし、現在はちっぽけな居酒屋稼業の真島誠、36歳
きちんとした生活をしている人からみると、何と情けない人たち、ということになるかもしれませんが、本書を読んでいると、主人公達のそんな時間、そんな生活がとてもいとおしくなります。こんな状態がいつまで続くものではない、だからこそ、もう暫く今の時間を大事にしたい、このままでいさせてあげたい、そんな気持ちになります。
なお、「どこかではないここ」の主人公は、夫のリストラで夜勤パート、両方の親の面倒が忙しい主婦・加藤真穂、43歳。他の4篇とちょっと異なりますが、疲れた主婦であるようでいて、可愛いところの残る女性である点、なかなか味わいのある一篇です。

プラナリア/ネイキッド/どこかではないここ/囚われ人のジレンマ/あいあるあした

        

19.

●「ファースト・プライオリティー」● ★★




2002年09月
幻冬舎刊
(1600円+税)

2005年06月
角川文庫化



2002/10/13

“priority”とは「優先事項」の意。
本書は、女性たちの“最優先事項”を綴った31篇のショート・ストーリィ。
私が文緒ファンになるきっかけとなった作品は絶対泣かないとかシュガーレス・ラヴ等のショート・ストーリィ。
本書は、久し振りにそのショート・ストーリィの流れを汲む作品のようです。
しかし、過去のショート・ストーリィには、肩肘を張ったような自己主張が主人公たちにあったのに対し、本書の主人公たちには開き直ったような解放感のあることが印象的。

それを端的に感じるのは、冒頭の「偏屈」でしょう。これこそ私のことと感じる読者がきっと多い筈ですし、だからこそすっと本書に読者を引き込んでしまう一篇です。
「偏屈」以外に印象に残ったのは「社畜」「旅」「冒険」「ジンクス」「空」「ボランティア」「カラオケ」「三十一歳」
最終話の「小説」だけが書き下ろしで、文緒さんの自伝的要素が強い作品。30話の主人公たちには31歳の女性が多く、何故だろうと読みながら不思議に感じていたのですが、その理由を説明してくれる一篇にもなっています。
本書を読めば気持ちが寛げます。一段抜け出した文緒さんを感じる一冊。

偏屈/車/夫婦/処女/嗜好品/社畜/うさぎ男/ゲーム/息子/薬/旅/バンド/庭/冒険/初恋/燗/ジンクス/禁欲/空/ボランティア/チャンネル権/手紙/安心/更年期/カラオケ/お城/当事者/ホスト/銭湯/三十一歳/小説

       

20.

●「日々是作文」● ★☆

 


2004年04月
文芸春秋刊

(1200円+税)

2007年04月
文春文庫化



2004/05/01

「離婚して仕事もお金もなかった31歳から、直木賞受賞&再婚してしまった41歳まで」という、10年間に書かれたエッセイ集。

本書を読んだのは、何と言っても、表紙イラストの山本文緒像に惹かれたから。ねじを巻かれ、頭にはカップ、咥えタバコでパソコンに向かうその姿をみれば、その凄絶さに打たれ、読まない訳にはいかないというものです(笑)。

「日々是作文」という題名は、作家・山本文緒を語るにふさわしい題名。毎日書くことが仕事の作家であれば、当然の題名と最初は軽く受け止めていたのですが、この題名にはもっと深い意味があることに気づいたのは、本書を読んでから。日記をずっとつけている文緒さんにとって、小説を書くとはその延長上にあることだったということ。しかし、職業作家になってしまえば、日々の全てを小説の材料にしていかなくてはならない、そんな実際を伝える題名でもあります。
「花には水を。私に恋を。」は、ファッション雑誌の巻頭に連載されたもの。山本さんとしては、ちょっと伸び上がった観のあるエッセイ集です。それに続く「今宵の枕友だち」は、最初の頃の読書エッセイ。まだまだ書きぶりは殊勝です。

生身の作家・山本文緒に触れ合えるのは、後半「こまかい仕事」から。それも、駆け出し時代を語る「ワープロ時代」より、辿り着いた観のある「パソコン導入後」こそ読む価値あり。とくに、直木賞候補に選ばれた時の心情を書き表した「愛憎のイナズマ」は、文緒さんの熱い思いが伝わってくる一篇で、ファンとしては見逃せません。

花には水を。私に恋を。/今宵の枕友だち/こまかいお仕事(ワープロ時代)1993〜1997/こまかいお仕事(パソコン導入後)1998〜2003

      

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