中場利一
(なかば・りいち)作品のページ


1959年大阪府岸和田市生。地元の工業高校を中退後様々な職を経て、94年「岸和田少年愚連隊」にて作家デビュー。「岸和田少年愚連隊」シリーズはいずれも映画化されている。

  


 

●「シックスポケッツ・チルドレン」● ★★




2007年01月
集英社刊
(1500円+税)

 

2007/02/20

 

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大阪の岸和田を舞台に、滅茶苦茶な親や兄弟らを抱えながら逞しく育つ子供たちを描いた少年物語
題名の「シックスポケッツ・チルドレン」は、小遣いの出所が両親、父方祖父母、母方祖父母と計6箇所あるという、お金に不自由していない子供たちのことを差すらしい。

本書では転校生のヨコワケがそれに該当するものの、主人公のヤンチはじめ彼の仲間たちはとてもそんな恵まれた状況にあるとはいえない。
ヤンチの父親は働きもせず朝から飲み屋で酒をくらう、ああいう大人になっちゃいけないと言われる人間であり、息子の小遣いや食い物にまで手を出し、一家の唯一の稼ぎ手であるヤンチの母親に対しても殴る蹴るが日常茶飯事というどうしようもない人間です。一方の母親年中家出を繰り返しているという具合。
母親は家出、父親も博打に狂って家に帰ってこないこと年中で、ヤンチの願いは家族がそろって家にいることだけ、というのですから真につつましい。
現代日本の家族風景からすると全く異質なものに感じられるヤンチの家庭状況ですが、岸和田という土地柄を背景にすると(ダンジリ祭のこと位しか知らないのですが)、すんなり納得できてしまうところが可笑しい。
同じような少年物語とはいえ、理想的に過ぎる灰谷健次郎「天の瞳、温かく懐かしい椰月美智子「しずかな日々に比べると絶句したくなるようなストーリィですが、生命力の極めて強そうなヤンチやその仲間たちの姿もまた、紛れもなく少年たちの姿なのでしょう。原点を遡ればトム・ソーヤー、ハックルベリー・フィンに至るのかもしれません。
そんな破天荒なヤンチ一家を中心にしたハチャメチャなストーリィ。そんなヤンチであっても自分以上に恵まれない同級生たちを思いやる優しさ、陰湿なイジメを憎む気持ちをちゃんと備えている。そこが本書の救いであり良いところ。
どうしようもないヤンチの父親でも、ヤンチとヨコワケの喧嘩が転校を前にしての寂しさの現われと理解しているところは、彼を見直す気になります。ヤンチに勝つため、ケンカのやり方を教わりにヨコワケが毎日ヤンチの元に通ってくるという部分は傑作です。
面白くストーリィに引き込まれてしまう反面、辟易するところもある、少年たちの物語。

 


  

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