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12.あいうえおちゃん 13.永遠の出口 14.いつかパラソルの下で 15.屋久島ジュウソウ 17.ラン 18.架空の球を追う 19.この女 20.異国のおじさんを伴う |
【作家歴】、リズム、ゴールド・フィッシュ、宇宙のみなしご、アーモンド入りチョコレートのワルツ、つきのふね、カラフル、ショート・トリップ、DIVE!!(1〜4) |
気分上々、漁師の愛人、クラスメイツ、みかづき、出会いなおし、カザアナ、できない相談、獣の夜 |
●「あいうえおちゃん」●(絵:荒井良二) ★★ |
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2008年09月
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子供向けの言葉遊び絵本、と言ったら良いでしょうか。 「あ」から「ら」まで、50音で始まる言葉を連ねた絵本。 でも、大人が読んでも充分楽しいのです。 その幾つかを紹介すると、 上記の中でも極めつけは「そ」! 気分転換と頭の柔軟体操に、是非お薦め。 |
●「永遠の出口」● ★★☆ |
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2006年02月
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小学3年から高校卒業まで、連作短篇風につづった少女の成長物語。 思えば、成長物語というと、少年を主人公にしたものが多いのではないでしょうか(私が読んでいないだけかもしれませんが)。その点でも本書を読めたことは、貴重に思います。 もうひとつ、本作品の特徴と言えることは、一章毎の出来事が、主人公である少女・岸本紀子にとって“冒険”であったこと。 永遠の出口/黒い魔法とコッペパン/春のあなぽこ/DREAD RED WINE/遠い瞳/時の雨/放課後の巣/恋/卒業/エピローグ |
●「いつかパラソルの下で」● ★★☆ |
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2008年04月
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のっけから「すごかったんです」「絶倫、だったんです」とか、「私は濡れない女だ」とか出てくるものですから、一体どんなストーリィを森さんは繰り広げようとしているのかと、面喰う思いをしたのが冒頭部分。 異常なくらいに厳格だった父親が死んで、その一周忌を迎えようという時期。父親の厳格さに反発して家を出ていた兄・春日、主人公・野々、母親と同居している妹・花の3人は、予想もしなかった父親の姿を知らされて慌てふためき集合します。 父親が胸の中に抱え込んでいた「暗い血」とは何だったのか。3人はその秘密を知ろうと、会ったこともない親戚を訪ねて父親の故郷である佐渡へと向かいます。 “性”にまつわる話かと思えば、父親、ひいては自分たちのルーツを訪ねる旅、ところが結果的には自分たち自身を見つめ直す旅へと、ストーリィは移り変わっていきます。 「いつかパラソルの下で」という題名は、心の底から寛ぐ心良さを存分に味わいたいという、主人公の願望を表したものだと思います。 |
●「屋久島ジュウソウ」● ★★ |
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2009年02月
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屋久島紀行+旅行エッセイ14篇。 「小説すばる」に連載していたエッセイ「slight sight-seeing」を単行本化する際に、おまけとして屋久島紀行が企画されたらしいのですが、結局屋久島がメインとなってしまったとのこと。 「ジュウソウ」とは尾根を歩く「縦走」のことで、森絵都さんが勘違いしたような「重装備」のことではありません。 この「屋久島ジュウソウ」が文句なしに楽しい。 「slight sight-seeing」は連載24話中14話を自選したものとのこと。こんなにも世界のあちこちへ出かけている作家なんて、そういないのではないでしょうか。行った先でのぼったくりにキレて延々と猛抗議するとは、ホント凄いなぁ。その一方でパリのホテルでシャンパンのプレゼントもあったりするのですから、旅における人との出会いは本当に楽しい。 屋久島ジュウソウ/slight sight-seeing |
●「風に舞いあがるビニールシート」● ★★☆ 直木賞 |
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2009年04月
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様々な主人公、様々なストーリィ、そして様々な味わいが楽しめる、とてもお買い得な短篇集。 途中までは追い詰められたような、やや暗い雰囲気のストーリィだったのに、最後に一転してちょっと笑いを洩らしてしまう雰囲気になる、そんな共通点がこの短篇集にはあります。そこが何といっても本書の楽しさ、魅力。 かといって各篇のストーリィに似たところはまるでなく、極めて趣向に富んだ短篇集です。森絵都さんのいろいろな味わいをこの一冊に贅沢に盛り合わせた、フルーツバスケットのような短篇集と言ったら少しは判っていただけるでしょうか。
冒頭の「器を探して」は、折角のクリスマス・イブ、それもプロポーズされる筈という日にわざとらしく岐阜出張を命じられた30代の女性が主人公。仕事と恋人の板ばさみになって同情したくなる主人公が、一転して前向きになり、上司や恋人を見下ろすような顔つきになってしまう、その転換がとても鮮やか。思わず主人公にハイタッチして、高揚感を共有したくなってしまう、これが楽しい。 その他では、「守護神」に登場するニシナミユキの人物造形が面白い。そのニシナと対照的にズボラな男と思えた主人公が、古典文学論の展開を経て予想と正反対の面をみせるところ、言いくるめられたような結末の可笑しさも、十分楽しい。 器を探して/犬の散歩/守護神/鐘の音/ジェネレーションX/風に舞いあがるビニールシート |
●「ラン」● ★★ |
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2012年02月
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主人公の夏目環は、13歳の時に家族を亡くし、20歳の時に叔母を亡くして、23歳の今は独りぼっち。 誰かと繋ればそれを失った時にまた辛い思いをしなければならないからと、誰とも関わろうとせず日々を過ごしている。 そんな環の前に開けたのは、手に入れた自転車に乗って走り出すと、あの世の入り口にたどり着いて亡くした家族に再会できるということ(「レーン越え」という)。 しかし、いずれ自転車は本来の持ち主に返さなくてはならない。そうなると環が家族にまた会うためには、あの世までの40kmを自力で駆け抜ける他ない。 そんな折に声をかけてきた中年男の誘いに乗り、環は素人連中ばかりのチーム“イージーランナーズ”に加わって、走る練習を始めます。 運動を始める理由にはいろいろあるでしょうけれど、大抵それは前向きなものである筈。ところが環の理由はそれらと全く反対、これ以上ないくらい後ろ向きなものです。 「ラン」という題名からは陸上競技、健全なスポ根ストーリィを予想しますが、本書はそれらとは全く対極にある物語。 |
●「架空の球を追う Reaching for Imaginary Balls」● ★★ |
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2011年08月
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ありふれた日常風景のヒトコマを描いた短篇集。 全篇を通して、軽やかなユーモアが吹き渡っている、という印象です。 平凡なストーリィに終わってしまいかねないところを、軽妙なユーモア感、そこはかとない温かみが、爽快で楽しい読後感をもたらしてくれています。
表題作の題名「架空の球を追う」は、ファンタジーな印象を与えますが、印象と中身は大違い。
どれも楽しいのですが、勢いのある会話が繰り広げられるという点で、女友達同士数人が集まった飲み会で銀座か新宿かの議論を繰り広げる「銀座か、あるいは新宿か」が格別楽しい。 架空の球を追う/銀座か、あるいは新宿か/チェリーブロッサム/ハチの巣退治/パパイヤと五家宝/夏の森/ドバイ@建設中/あの角を過ぎたところに/二人姉妹/太陽のうた/彼らが失ったものと失わなかったもの |
●「この女」● ★★ |
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2014年06月
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森絵都さん久々の長編小説。 “冒険的恋愛小説”と紹介されていますが、その意味はともかくとして、これまでの森絵都作品とはかなり趣きを異にする作品です。 でも、ともかく読んで面白く、読み応え十分な長篇小説。 ストーリィはというと、大阪の釜ヶ崎(東京での山谷に相当する類する街でしょうか)で働く青年、甲坂礼司が主人公。 いくつかの偶然を経て礼司、ホテルチェーンの成功者として知られる西谷啓太から、その妻である結子の過去を小説にして欲しいと依頼されます。報酬は3百万円。 もちろんその依頼を受けた礼司ですが、自らの過去を全く語ろうとせず、奔放な結子に振り回されるばかり。 それでも次第に結子の過去を触れていくこととなった礼司は、やがて釜ヶ崎をめぐる陰謀を知ることになります。 鍵となる舞台を釜ヶ崎に置き、生い立ちに痛みを抱えるという点で共通する礼司と結子、2人のドラマが描かれます。 “冒険的恋愛小説”というキャッチフレーズは、如何にも本ストーリィ、そして礼司に相応しい。 本書は、「この女」=結子を描いた作品であると同時に、「この男」=礼司を描いた作品でもあります。 時代を反映し、いくつかの社会現象もストーリィの背景にした点は、昭和〜平成というひとつの時代を思い起こさせてくれ、読了後の余韻は深いものがあります。 |
●「異国のおじさんを伴う Travelling with a Stranger」● ★★☆ |
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2014年10月
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小気味良くて、洒落ていて、物語り性豊かな短篇集。これは楽しい。 趣向もバラエティに富んでいます。ラブロマンスからファンタジー、苦みと温かさの入り混じったストーリィもあるかと思えば痛快な結末、奇妙な人たちとの邂逅もあり、と。 まるで小ストーリィの宝石箱を開けた、という読み心地です。 そうだなぁ、高校生の頃初めてO・ヘンリの短篇集と巡り合った時の気分が、今回と似ているかもしれません。 その意味で、O・ヘンリ短篇集の現代版、+森絵都風味、といった印象です。 愉しいこと間違いなしの短篇集、お薦めです。 冒頭の「藤巻さんの道」がまず私好み。ですから冒頭から本短篇集の面白さに嵌りました。 「クリスマスイヴを三日後に控えた日曜の・・・・」は愉快。 「竜宮」には、主人公と一緒に う〜む と唸ってしまいそう。 「母の北上」は、ちょっとしたミステリ風味が味わえますし、「ラストシーン」はスリリングさ、エンターテイメント性、たっぷりです。 「桂川里香子、危機一髪」は、まさか、でもしてやったりと拍手したくなる痛快な篇。 そして表題作「異国のおじさんを伴う」は、如何にも森絵都さんらしい篇です。 藤巻さんの道/夜の空隙を埋める/クリスマスイヴを三日後に控えた日曜の・・・・/クジラ見/竜宮/思い出ぴろり/ラストシーン/桂川里香子、危機一髪/母の北上/異国のおじさんを伴う |