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12.渾身 13.ナイン 14.祭り囃子がきこえる 15.あのフェアウェイへ 16.月の魔法 17.朝ごはん 18.ライバル 19.トッピング |
【作家歴】、跳べジョー!B・Bの魂が見てるぞ、宇宙のウインブルドン、珍プレー殺人事件、ららのいた夏、雨鱒の川、このゴルファーたち、翼はいつまでも、ラストボール伝説、地図にない国、ビトウィン |
●「四月になれば彼女は」● ★☆ |
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2009年02月
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題名の「四月になれば彼女は
April Come She Will」は、私の高校時代に人気絶大だったサイモン&ガーファンクルのナンバーのひとつ。 同級生の駆け落ちの手伝い、ひょんなことから決まってしまった就職の取り消し、不良Gとの喧嘩、送別記念のバスケットボール試合。童貞を捨てようと仲間3人で夜の世界に繰り出したこと、従姉夫婦と米兵のいざこざに巻き込まれたこと、そしてずっと好きだった女の子と最初で最後の早朝デートと、ホンダのカブで駆け回る濃密な一日が描かれます。 この主人公たちの思い、私も共有することができます。 本書は、ノスタルジーの香り溢れる爽快な青春小説のひとつ。 |
●「渾 身」● ★★ |
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2010年04月
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なんていう小説だろう。 舞台は、隠岐島で20年に1回、水若酢神社の遷宮奉祝記念として奉納される古典相撲大会。その最後を飾るのが、座元と寄方から各々選ばれた最高位の正三役大関同士による取組み。 スポーツという緊迫したドラマに心温まる家族ドラマを添えた作品。見処は村人達の期待を一身に背負った2人激闘、そして幼い少女・琴世の健気な心情です。読後感は極めて爽快。 |
※映画化 →「渾身 KON-SHIN」
●「ナイン−9つの奇跡−」● ★★ |
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メンバーは20代から80代まで、おまけに女性ピッチャーもいるという草野球チーム“ジンルイズ”。 ラーメン店のバイト店長=吉見のネット募集に応じて集まったメンバーは、野球が大好きな人間ばかり。でも大好きだからといって野球が上手という訳ではない。 そんな9人のメンバーが、超エラーや珍プレーも年中披露しながら野球の楽しさを満喫、さらに人生の楽しさや人生で大切なことも学んでいくといったストーリィ。 別れもありますけれど、出会いも再出発もあります。 |
●「祭り囃子がきこえる」● ★☆ |
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各地方の祭りをモチーフに、祭りでの出会いと忘れ難い男女の想い合う姿を描いた短篇集。 もっとも男女と言いつつ、最年少は小学生〜中学生の初恋と、年代の範囲は広いです。 8篇中、私が特に好きなのは、「アソンレンセ」と「ソレソレ」の2篇。 ※本書に登場する祭りは、五所川原立佞武多(たちねぷた)、刈和野の大綱引き、沖縄エイサー、郡上踊り、おわら風の盆、浅草酉の市、あきの蛍能、西大寺会陽はだか祭り ヤッテマレ/ジョヤサノ/ハアーイーヤア/アソンレンセ/キタサノサ/ソレソレ/イヨーッ!/わっしょい |
●「あのフェアウェイへ」● ★☆ |
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ゴルフを題材にした、気持ちの好い掌編小説集。 ゴルフを題材にしたといえば、すでに川上さんには「このゴルファーたち」という短編集があり、ユーモア小説の大家・ウッドハウスには「笑うゴルファー」がありますが、本書はいかにも川上さんらしい、爽やかで健康的、そして楽しいばかりの短篇集になっています。 ヘタであってもそれなりにゴルフは楽しい。 忘れもの/時間ドロボー/いつの日かバーディー/優勝カップ/増毛リンクスへ/ドライバーショット/同級生/フェア/パートナー/輝く/最後のコンペ/あるがままに |
16. | |
「月の魔法」 ★☆ |
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小学5年生の昇治、父親が自殺、4年後母親に恋人ができ、一人で小笠原行きの船に乗り込む。もう二度と母親に会うことはないだろうという思いを胸に抱いて。 親に見捨てられるという恐れを胸に抱きながら懸命にそれをこらえている少年少女が、小笠原の自然、エーブら大人たちの温かい懐に抱かれて、徐々に子供らしさを取り戻すストーリィ。 ※私自身は小笠原諸島に行ったことはありませんが、やはり小笠原を主要舞台に設定した垣根涼介「人生教習所」を一度読んでいる所為もあり、この小笠原という土地にすんなり入って行けた気がします。 |
17. | |
「朝ごはん」 ★★ |
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2年間勤めた会社を突然リストラされた鳥森慶は、朝ごはんが大好きな30代の女性。 ストーリィの頭からシッポまで、とにかく気持ち好〜い作品! 旅先で食べる朝食は、自宅で食べるいつもの朝食とは違い、食欲も増して美味しく食べられるもの。本書“ごはん屋”での朝食もそれに通じるものがあります。さらに主人公の満面の笑顔が加わるのですから文句なし。 ※★☆評価のところ、気持ち良さと私好み!により★★評価。 春/初夏/夏/秋/冬 |
18. | |
「ライバル」 ★★ |
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川上さん久々の、長編スポーツ小説。 何と言っても川上作品の魅力はその、このうえない楽しさ、に尽きます。本作品はとりわけそんな一冊。 スポーツといってもゴルフ? でも川上さんにはこれまでもゴルフを題材にした短篇集が2冊あるし。ただ、短篇集ならいざ知らず、ゴルフは長編小説に向かないと思っていたのですが、川上さんの手にかかれば見事に長編小説になってしまうんだなぁ。 小学生の頃からゴルフを始めた進藤宇希恵(うきえ)と多部井葉奈(はな)は、今や同じ高校のゴルフ部一年生。しかし、宇希恵が将来有望な選手と注目されているの対し、葉奈の実績はイマイチ。 とれなのに突如として宇希恵が「ライバルはあんた」と言いだしたものだから、葉奈は目を白黒。 ところがその直後に宇希恵が大スランプに陥ってしまい・・・。 ライバルといっても2人は仲の良い親友同士。 明るく楽しく、そのうえ会話が楽しいストーリィ、私は大好きです。 |
19. | |
「トッピング−愛とウズラの卵とで〜れえピザ−」 ★☆ |
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副題にある「ウズラの卵」とは乳がんのこと。 本作は、乳がん治療中である愛しい妻あゆみのため、彼女のためになるなら、喜ぶことなら何でもやってやろうと決意している難波雅彦の、暴走気味、でも愛情溢れる家族愛ストーリィ。 あゆみと雅彦は地元岡山での中学の同級生。その頃からあゆみに惚れこんでいたという雅彦は、あゆみが故郷に戻ってきてからアプローチし結婚、一人息子の悟史は現在高校2年生。 冒頭、あゆみが営む雑貨カフェ「セワーネ」の朝定食を再開したところから。 とにかく雅彦という人物の生一本さ、暴走ぶりがストーリィをひっぱり、あゆみや雅彦を温かく見守る周囲の人物たちまで巻き込みながら、愉快で心温まるストーリィが快く繰り広げられていきます。 まずは地元の裸祭りに初参加し宝木を手に入れて福男になろうとしたり、南極老人星を観ようと突然倉敷の観測会に参加したり。そして後半は副題にあるように、ピザ好きのあゆみのため、世界一美味しいピザ作りを目指す、それも窯作りから、と。 そのため、わざわざ東京で評判の店まで何度も通い、ピザ作りのやり方を学ぼうとするのですから、もう絶句。 それでも、勤務する会社では統括営業部長の職にあり、役員昇格まで嘱望されているというのですから、まともな人物であることに疑いはなし。 息子=悟史の恋愛模様や、セワーネに何度も姿を現す赤いコートの女性を巡る騒動、詐欺事件と、エピソードがいろいろ織り込まれていますが、全篇を覆うのは雅彦とあゆみ夫婦の愛情の深さ、細やかさ。 すこぶる気持ちの良いストーリィに仕上がっていますし、雅彦が皆に振る舞うピザの何と美味しそうなことか。 でも、雅彦のように堂々と愛情を示すことなど、私にはとてもできそうにないなぁ。 |