川上健一作品のページ No.2



11.四月になれば彼女は

12.渾身

13.ナイン

14.祭り囃子がきこえる

15.あのフェアウェイへ

16.月の魔法

17.朝ごはん

18.ライバル

19.トッピング


【作家歴】、跳べジョー!B・Bの魂が見てるぞ、宇宙のウインブルドン、珍プレー殺人事件、ららのいた夏、雨鱒の川、このゴルファーたち、翼はいつまでも、ラストボール伝説、地図にない国、ビトウィン

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11.

●「四月になれば彼女は」● ★☆


四月になれば彼女は画像


2005年07月
実業之日本社

(1800円+税)

2009年02月
集英社文庫化



2005/07/23



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題名の「四月になれば彼女は April Come She Willは、私の高校時代に人気絶大だったサイモン&ガーファンクルのナンバーのひとつ。
 ※この曲、私は今でもそらで唄えます。
(^^;) 
高校の卒業式が終わった3日後、そして明日は就職という端境期の、過去にも今後にも2度とないという一日。
十和田市に住む主人公・沢木圭太のそんな24時間を描いた青春グラフティ。

同級生の駆け落ちの手伝い、ひょんなことから決まってしまった就職の取り消し、不良Gとの喧嘩、送別記念のバスケットボール試合。童貞を捨てようと仲間3人で夜の世界に繰り出したこと、従姉夫婦と米兵のいざこざに巻き込まれたこと、そしてずっと好きだった女の子と最初で最後の早朝デートと、ホンダのカブで駆け回る濃密な一日が描かれます。
主人公だけでなく、圭太が出くわす同級生たちも胸に抱いている思いは同様です。そんな雰囲気がひしひしと伝わってくるストーリィ。
肩を壊して野球選手の道を諦め、目標を失った圭太だからこそ、感じる思いはなおのこと強いようです。

この主人公たちの思い、私も共有することができます。
ずっと東京育ちの私にとっては、大学卒業の時がそんな時期でしたが、卒業パーティで傍らにいる友人ともう2度と会うことはないのだろうなァと思ったこと、飲みに行った店からずっと好意をもっていた女の子数人宛てに代わる代わる電話したこと、今でも忘れられない思い出です。もう今この時しかない、という高揚した気分があったからこそ成し得たことでしょう。

本書は、ノスタルジーの香り溢れる爽快な青春小説のひとつ。

      

12.

●「渾 身」● ★★


渾身画像


2007年08月
集英社刊(1600円+税)

2010年04月
集英社文庫化



2007/09/02



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なんていう小説だろう。
相撲だけなのである、ここ一番、一瞬の間に勝負がつく筈の取り組みが一冊の間、延々と続くのである。
呆気にとられましたが、川上さんらしいといえば川上さんらしいのかもしれない。要は楽しめれば良いのですが、まさに本ストーリィの緊迫感たるやなかなかのもの。読みながら思わず手に汗握ってしまいます。

舞台は、隠岐島で20年に1回、水若酢神社の遷宮奉祝記念として奉納される古典相撲大会。その最後を飾るのが、座元と寄方から各々選ばれた最高位の正三役大関同士による取組み。
片や少年時代から相撲一筋で国体でも活躍した田中敏夫28歳(雷神吹雪)、片や結婚後からと相撲を始めたのは遅い坂本英明30歳(海鳳)
英明の妻である多美子を主人公に、多美子と5歳の娘・琴世らが見守るなか2人の激戦が繰り広げられます。
殆ど相撲に終始するストーリィといっても、それを盛り上げるドラマがあります。
多美子と琴世、実は血の繋がらない仲。琴世が1歳の時実母が急逝。その麻里と親友だった多美子に琴世がべったりと懐き、いつしか好意を持ち合った2人が再婚した訳ですが、琴世は未だに多美子を「お母ちゃん」と呼べずにいる。
そしてそれ以前、英明と麻里の結婚にそもそも島を揺るがす騒動があり、2人とも親から勘当されたままになっている。英明が相撲を始めたのには、村人たちに結婚した2人を受け入れてもらいたいという願いが込められていたのでした。

スポーツという緊迫したドラマに心温まる家族ドラマを添えた作品。見処は村人達の期待を一身に背負った2人激闘、そして幼い少女・琴世の健気な心情です。読後感は極めて爽快。

※映画化 →「渾身 KON-SHIN

    

13.

●「ナイン−9つの奇跡−」● ★★


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2009年09月
PHP研究所刊

(1600円+税)



2009/10/11



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メンバーは20代から80代まで、おまけに女性ピッチャーもいるという草野球チーム“ジンルイズ”

ラーメン店のバイト店長=吉見のネット募集に応じて集まったメンバーは、野球が大好きな人間ばかり。でも大好きだからといって野球が上手という訳ではない。
オーナーの吉見からして、ヘタクソだったために野球チームに入れてもらえなかったために、野球をやりたいからとチームを作った青年。
女性だから公式戦に出られなかった、派手なプレーばかりしたがったために中学野球部から排斥された、戦友の思い出を抱えながら野球を続けていたと願っていた老人の他、プレーより実況中継の方がもっと好きと言う企業経営者、プレーよりスコアブック付けの方が楽しい、といった変り種メンバー。
そんな素人の他、リトルリーグや社会人野球でならした名選手から元プロ野球選手もいたり、ジンルイズのメンバーは実に多彩。

そんな9人のメンバーが、超エラーや珍プレーも年中披露しながら野球の楽しさを満喫、さらに人生の楽しさや人生で大切なことも学んでいくといったストーリィ。
まさに、夢を取り戻したい大人のためのファンタジー・スポーツ小説といった作品です。
愉快で爽やか、快い風に頬をなでられるように心が弾む。
ありえないだろー、と叫ぶ前に、気分好い〜と叫びたくなるこんなストーリィは、川上健一さんの独断場というところでしょう。

別れもありますけれど、出会いも再出発もあります。
自分が好きなことを思う存分やることを通じて、人生が楽しくなり、皆が幸せになれるとしたら、これはやっぱり、ファンタジーと言う他ないでしょう。
川上健一さんの既ファン、未ファンに是非お薦めしたい好作。

 

14.

●「祭り囃子がきこえる」● ★☆


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2010年08月
集英社刊

(1400円+税)



2010/09/13



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各地方の祭りをモチーフに、祭りでの出会いと忘れ難い男女の想い合う姿を描いた短篇集。

もっとも男女と言いつつ、最年少は小学生〜中学生の初恋と、年代の範囲は広いです。
大人の男女の情愛というより、青春ロマンスといった趣向の篇が多いのは、やはり川上さんらしいところ。
各篇とも短いストーリィなので、祭りに関する記述もそう多くはありません。その点、高知よさこい祭りを長篇で書き込んだ大崎梢「夏のくじらのような、祭り部分そのもの読み応えはありません。
でも逆に、ささやかな男女の物語は、風物詩として背景となる祭りとうまく溶け合っていると言えます。
過去を思い出し、その時の想いがあってまた、今の幸せもある、という趣向が好ましい。

8篇中、私が特に好きなのは、「アソンレンセ」「ソレソレ」の2篇。
郡上踊り、酉の市を舞台に、清純で淡い初恋相手の面影が語られます。どちらも爽やか。
冒頭の「ヤッテマレ」も心惹かれる篇ですが、もうひとつ特筆しておきたいのは「キタサノサ」。唯一、主人公が当事者ではなく傍観者であることが、かえって印象に残る篇になっています。

※本書に登場する祭りは、五所川原立佞武多(たちねぷた)、刈和野の大綱引き、沖縄エイサー、郡上踊り、おわら風の盆、浅草酉の市、あきの蛍能、西大寺会陽はだか祭り

ヤッテマレ/ジョヤサノ/ハアーイーヤア/アソンレンセ/キタサノサ/ソレソレ/イヨーッ!/わっしょい

            

15.

●「あのフェアウェイへ」● ★☆


あのフェアウェイへ画像


2011年11月
講談社刊

(1400円+税)



2011/12/04



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ゴルフを題材にした、気持ちの好い掌編小説集。

ゴルフを題材にしたといえば、すでに川上さんにはこのゴルファーたちという短編集があり、ユーモア小説の大家・ウッドハウスには笑うゴルファーがありますが、本書はいかにも川上さんらしい、爽やかで健康的、そして楽しいばかりの短篇集になっています。
登場するのは、サラリーマンや商店主、高校の同級生等々、素人ゴルファーばかり。したがって上手い人ばかりとは限りません。ヘタであってもやっぱりゴルフは楽しい、そう描き出しているところが本書の魅力。
その楽しさはプレーする人ばかりとは限りません。コースティングを担当するゴルフ場のスタッフたち、キャディーさんたちもまた、ゴルフ場の仕事をしていて楽しくて仕方ないといった面々。

ヘタであってもそれなりにゴルフは楽しい。
でもヘタなりにそれなりのスコアは出せないとゴルフ場に行き難いのは事実としてあって、私はそうしたことからある時期にゴルフを辞めました。ゴルフの楽しさもそれなりに味わいましたが、止めてホッとした気分の方がそれに勝ったから、と言えるでしょうか。
そんな私でも、本書で描かれるゴルフの楽しさには、ワクワクするばかりです。
収録12篇、どの篇をとっても気持ち良く、元気になれるストーリィばかりですが、中でも十和田の高校で同級生だった面々が十和田語でラウンドする
「同級生」はとりわけ愉快。
また、
「あるがままに」の最後、主人公の述懐がゴルフが楽しくなる理由を言いあてています。
ゴルフ好きの方、そうでない方にも楽しめるゴルフ小説集。

忘れもの/時間ドロボー/いつの日かバーディー/優勝カップ/増毛リンクスへ/ドライバーショット/同級生/フェア/パートナー/輝く/最後のコンペ/あるがままに

       

16.

「月の魔法」 ★☆


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2013年01月
角川書店刊

(1700円+税)



2013/02/26



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小学5年生の昇治、父親が自殺、4年後母親に恋人ができ、一人で小笠原行きの船に乗り込む。もう二度と母親に会うことはないだろうという思いを胸に抱いて。
その昇治を父島で歓迎してくれたのは、
エーブという老人。昇治の母親とは、エーブの店で昔母親がバイトをしていたという縁らしい。
エーブが経営するカフェのバイト店員たち、そしてエーブと同年輩の仲間達、昇治を被保護者としてではなく、対等な友人として迎え入れてくれる。おかげで昇治、小笠原に来てから素直に「ありがとう」と言えるし、自分の失敗までも笑うことができる。
そんな昇治が島で出会ったのは、昇治と同じ船で父親と共にやってきたらしい小学6年生の
加絵。その加絵、何故か暗い目をしていつも無表情、彼女もまた重たい事情を抱えていた。

親に見捨てられるという恐れを胸に抱きながら懸命にそれをこらえている少年少女が、小笠原の自然、エーブら大人たちの温かい懐に抱かれて、徐々に子供らしさを取り戻すストーリィ。
小笠原という舞台が本ストーリィの鍵と言って良いでしょう。月の魔法というファンタジーな出来事も、この小笠原では決して有り得ぬことではないように思えますから。

※私自身は小笠原諸島に行ったことはありませんが、やはり小笠原を主要舞台に設定した垣根涼介「人生教習所を一度読んでいる所為もあり、この小笠原という土地にすんなり入って行けた気がします。

          

17.

「朝ごはん」 ★★


朝ごはん画像


2013年02月
山梨日日新聞社刊

(1600円+税)



2013/04/12



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2年間勤めた会社を突然リストラされた鳥森慶は、朝ごはんが大好きな30代の女性。
とりあえずは翌朝、おかげで美味しい朝ごはんを食べられると、七輪等お馴染みの道具一式を揃えて南アルプスらを臨むお気に入りの丘の上へ。
そこで偶々知り合い、朝ごはんを介して意気投合したのは近所に土地と小屋をもつ
浅川ツネというおばあさん。
スーパーで買ったごく普通の食材でも、慶ちゃんが作ると何故かとても美味しいというのが友人、知人の意見が一致するところ。
友人たちの勧めに自身の夢も加わり、さらにツネさんの後押しを受けて、ついに慶は
“朝ごはん屋”開業を宣言します。

ストーリィの頭からシッポまで、とにかく気持ち好〜い作品!
景色のいい丘の上にある店、爽快な朝、カマド炊きのご飯に七輪で焼く魚、エトセトラ。
そこに親しい人たちが集まれば自然と生まれる楽しい会話、笑い声、それもまたごはん屋での朝食の美味しさを盛り上げてくれる大切な素材です。

旅先で食べる朝食は、自宅で食べるいつもの朝食とは違い、食欲も増して美味しく食べられるもの。本書“ごはん屋”での朝食もそれに通じるものがあります。さらに主人公の満面の笑顔が加わるのですから文句なし。
軽く、スケッチ風の作品ですけれど、決して侮るなかれ。その底辺には、人生をポジティブに過ごそうとする慶の想いが汲み取れます。即ち、第一に自分の良い処を見つけて自分を好きになること。全てはそこから開けてきます。
何かと頭を痛めることの多い現代都市生活、本書に描かれる朝ごはん屋でのひと時はそれと真逆に感じられますが、結局は自分の胸の内次第。人生を楽しく過ごすための秘訣は「朝ごはん」の中にあり。

※★☆評価のところ、気持ち良さと私好み!により★★評価。

春/初夏/夏/秋/冬

     

18.

「ライバル」 ★★


ライバル画像


2014年05月
PHP研究所刊

(1600円+税)



2014/06/04



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川上さん久々の、長編スポーツ小説。
何と言っても川上作品の魅力はその、このうえない楽しさ、に尽きます。本作品はとりわけそんな一冊。
スポーツといってもゴルフ? でも川上さんにはこれまでもゴルフを題材にした短篇集が2冊あるし。ただ、短篇集ならいざ知らず、ゴルフは長編小説に向かないと思っていたのですが、川上さんの手にかかれば見事に長編小説になってしまうんだなぁ。

小学生の頃からゴルフを始めた
進藤宇希恵(うきえ)多部井葉奈(はな)は、今や同じ高校のゴルフ部一年生。しかし、宇希恵が将来有望な選手と注目されているの対し、葉奈の実績はイマイチ。
とれなのに突如として宇希恵が
「ライバルはあんた」と言いだしたものだから、葉奈は目を白黒。
ところがその直後に宇希恵が大スランプに陥ってしまい・・・。

ライバルといっても2人は仲の良い親友同士。
スランプに陥った後に宇希恵が取った選択と、宇希恵と葉奈の迷コンビぶりが極めて楽しい。
わいわい、きゃあきゃあと2人、まるで騒がしいのですが、それでも自分のこと以上に相手のことを気にかけていてと、まさに青春&友情&スポーツ小説の楽しさ全開!です。

明るく楽しく、そのうえ会話が楽しいストーリィ、私は大好きです。
なお本ストーリィ、続編があって然るべきと思うのですが、さてどうでしょう?

         

19.

「トッピング−愛とウズラの卵とで〜れえピザ− ★☆




2018年11月
集英社刊

(1700円+税)



2018/12/24



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副題にある「ウズラの卵」とは乳がんのこと。
本作は、乳がん治療中である愛しい妻
あゆみのため、彼女のためになるなら、喜ぶことなら何でもやってやろうと決意している難波雅彦の、暴走気味、でも愛情溢れる家族愛ストーリィ。

あゆみと雅彦は地元岡山での中学の同級生。その頃からあゆみに惚れこんでいたという雅彦は、あゆみが故郷に戻ってきてからアプローチし結婚、一人息子の
悟史は現在高校2年生。
冒頭、あゆみが営む雑貨カフェ「セワーネ」の朝定食を再開したところから。

とにかく雅彦という人物の生一本さ、暴走ぶりがストーリィをひっぱり、あゆみや雅彦を温かく見守る周囲の人物たちまで巻き込みながら、愉快で心温まるストーリィが快く繰り広げられていきます。
まずは地元の裸祭りに初参加し宝木を手に入れて福男になろうとしたり、南極老人星を観ようと突然倉敷の観測会に参加したり。そして後半は副題にあるように、ピザ好きのあゆみのため、世界一美味しいピザ作りを目指す、それも窯作りから、と。
そのため、わざわざ東京で評判の店まで何度も通い、ピザ作りのやり方を学ぼうとするのですから、もう絶句。
それでも、勤務する会社では統括営業部長の職にあり、役員昇格まで嘱望されているというのですから、まともな人物であることに疑いはなし。

息子=悟史の恋愛模様や、セワーネに何度も姿を現す赤いコートの女性を巡る騒動、詐欺事件と、エピソードがいろいろ織り込まれていますが、全篇を覆うのは雅彦とあゆみ夫婦の愛情の深さ、細やかさ。
すこぶる気持ちの良いストーリィに仕上がっていますし、雅彦が皆に振る舞うピザの何と美味しそうなことか。
でも、雅彦のように堂々と愛情を示すことなど、私にはとてもできそうにないなぁ。

    

川上健一作品のページ No.1

 


  

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