P・D・ジェイムズ作品のページ


Phyllis Dorothy James 1920年英国オクスフォード生。英国推理作家協会のシルヴァー・ダガー賞を3度受賞し、同ダイヤモンド・ダガー賞、アメリカ探偵作家クラブの巨匠賞も受賞。83年大英帝国勲章中等勲爵士に叙され、91年に一代貴族の男爵(ホランド・パーク男爵)に叙される。

 


     

「高慢と偏見、そして殺人」● ★★
  原題:“Deth comes to Pemberley”     訳:羽田志津子




2011年発表

2012年11月
早川書房刊
ポケットミステリ
(1800円+税)

  

2012/12/09

  

amazon.co.jp

本書は、オースティンの名作高慢と偏見の後日譚
同作の後日譚というとエマ・テナントの2作があり既に読書済ですが、本書はその2作と異なり、何とミステリ!
エリザベスとダーシーの周囲で殺人事件が起こり、2人がそれに巻き込まれるなんて、原作者のオースティンもさぞびっくり!でしょう。
ただ、その殺人事件の容疑者があのウィカムとなれば、「高慢と偏見」ファンであればすぐ納得、そしてストーリィにすんなり引き込まれることでしょう。

ダーシーの亡母レディ・アンを冠しての舞踏会がペンバリー館で開かれることになり、先立ってビングリー夫妻が館を訪れてきます。ダーシーの従兄フィッツウィリアム大佐も既に逗留中。
しかしその夜、館に荒々しく駈け込んで来た馬車から転げ出てきたのは
リディア、しかも夫ウィカムが親友デニー大尉に撃ち殺されたと絶叫。急遽森の中の現場に向かったダーシーらが見出したのは、死んだデニー大尉の傍らで「僕は彼を殺してしまった!」と叫んでいるウィカムの姿。
当然の流れとしてウィカムが重要容疑者として裁判に掛けられますが、さてその判決は・・・。そして事件の真相は・・・・。

登場人物が文学史上有名な人物であるという点を除けば、事件捜査の辺りはごく普通のミステリ。とくに「高慢と偏見」の後日譚とする必要はないと思われましたが、そこは作者自身が「高慢と偏見」の熱烈なファンだったからなのでしょう。
ミステリ作品ということもあり、本書主人公はダーシーと
エリザベスが入れ替わり務めるという具合です。
ウィカム夫人である末妹リディアは、自己中心で騒々しく、相変わらず恥知らず。姉2人に迷惑をかけ続けていることに何の自責も感じていないところは、原作のまま。一方、原作では明朗快活な印象であったフィッツウィリアム大佐が本書では一変して不穏な雰囲気を漂わせており、意味深。
最後に真相が明らかになってみれば、そこはやはり「高慢と偏見」の世界。原作での問題児がここでもまた重要な鍵を握っていました。
それを受けての解決内容は、「高慢と偏見」ファンなら揃って胸を撫で下ろすものではないかと思います。
「高慢と偏見」ファンに是非お薦めしたい、秀作ミステリ。

※なお、直接登場はしないものの「説き伏せられて」「エマ」の登場人物の名前が本書中の会話で口にのぼるのは、ファンとしてとても嬉しいこと。
※もうひとつ興味深い点は、エリザベスとダーシーの結婚が、近在の人々および
シャーロット等から現実的かつ世俗的な厳しい観察評を加えられている処。この辺り、とても面白いです。どうぞお読み逃しなく。

       


 

to Top Page     to 海外作家 Index