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                     1996年10月11日開始

                               火だるまG

第22回:1998年11月11日

『迷い猫/サトウトシキ/98』


(ROLL OF ROCKS!『IT WOULDN'T HAVE MADE ANY DIFFERENCE』からの続き)

『「あなたをなぐるつもりはないので平手で殴った」と、言っていた、しかし私は痛みを感じた。』
と、俺のダチに言わせたバカな男が泣くのを柏木町の公園で俺は見ていた。
 夜中の3時である。
「みんな好きなのにどうしてこうなっちゃうんだ。俺は誰からも愛されない」
「俺は本当にGさんが好きなんだ」
 そう言って泣いている男に俺は気を許していない。
 奴の愛は無意識に憎しみに変わる。気を抜いたらやられる。
「愛している」と言えば何をしてもいいと思っている人間ほど扱いに困る人種はない。
 自分のブルースは自分でワイプアップしてもらうしかない。
 他人様と一緒に滅びようという類の愛もあるだろう。
 マザーテレサが言っていたように
 この世で一番不幸な人間は、自分が誰からも愛されていないと思って生きている人間である。
 しかし、もし俺に愛の力があるのなら、俺は俺の力を、愛を求める人間に直接与えるのではなく、愛を与える人間を間接的に増やす方向で使いたい。
 俺はヤツの隣で小1時間ほどタバコを吸った。寒くてのどが渇くからタバコが苦い。
「僕はもう寝ます」と奴がタクシーに向かって歩いていった。
「残念だが、もう君を店に入れることはできない。」
 俺の言葉が空っ風に吹かれて飛んでいく。
 あぁ、花に嵐のたとえもあるぞ、サヨナラだけが人生だ。
 店に戻るとやはりまだダチはいた。クラシックを聴いていた。
 奴がけっ飛ばした机を修理しながらダチと話す。
 机は何も悪いことをしていない。
 俺はモノに当たる奴が大嫌いだ。
 モノにも心があると俺は信じている。
 そんなことを言うと、今日誕生日を迎えたもうひとりのダチが
「それじゃぁ、そんな西川君から愛されなかったモノは浮かばれないね」
 と、いつも茶々を入れるのだが。
 あぁ、世の中は真実ばかりでうっとうしい。

 だから、やはり、酒を飲もうと思い、靖国通りに出ると、遠くから
 立花隆さんが千鳥足で歩いてくる。
「こんばんは」と声をかける。
 返事はない。目はうつろである。彼もこんなになるまで酒を飲んでいるのだと思うとなんとなく嬉しい。暴力と恣意と幼稚と非寛容の時代に備えて「日本共産党の研究」とか「革マル対中革」など読み直そうと誓う。

 次の夜、昼間4時間ほど働き、ユーロに出向く。
 懐かしのピンク四天王(其の5/9/MAY/96参照)の一角、サトウトシキの新作である。映画は、愛のなかった夫を撲殺した妻に週刊誌の記者が喫茶店でインタビューしている風景に、所々回想でセックスシーンが入るという構成。脚本は最近朝日新聞でどこかの企業広告で活躍しているのがうらやましい小林正広氏。
 主演の長曽我部容子、ピンク映画界では圧倒的な美貌を誇る女優であるが、これでもかというアップでは、鼻にあるふたつのほくろなど、気がつかないでもいいところまで気がつかされ、大したことないなと思ったりして、そこで、あっと思う。
 この距離感はセックスの時に女性の顔を眺めている距離感だ。
 淀川長治さんが逝ってしまったから言うのではないが、映画は愛だ、ということを実感する。こういうことだったのね。
「夫を殺してしばらく身を隠している間、今まで見ていたテレビドラマに興味を失い、ワイドショーとスポーツばかり見ていた。だって私の現実のほうがドラマよりよっぽどドラマティックだから…」といったニュアンスのセリフには笑った。気がついているのかは知らないが、映画が映画の中で自己否定をしていし、多分俺が最近あまり映画を見る気分にならないのもそういうことなのであるから。
 言葉遣いがいきなり「この野郎」「なめるんじゃぁねぇ」に変わる、主婦が夫を殺す前の日、夫が主婦にセックスをことわられ、豹変して、妻を殴打し続けるシーンがリアルである。 きっとこの男の心の中では、いつでも、そういう呼称で女は存在していたのだろう。
 最後のシーン、深い意味はなさそうだが、女は、記者に「あの人が好きだったから」と言って、バナナジュースをおごってくれるように頼む。そして美味しそうに飲む。記者が「それじゃぁ刑が確定して刑務所に入ることになったらバナナジュースを持って面会に行きます」なんてご気楽なことを言う。
 当然、バナナジュースが飲みたくなり、帰宅途中のコンビニで、プラスチックのボトルにストローを突き刺すタイプのバナナミルクを買う。一気に飲んでしまったので、そのまた途中で、自販機のバナナミルクも買う。
 カンのバナナミルクは、歯磨きみたいな味がしてまずい。この事実は先にプラスチックのを飲んでいて、比較できて、初めてわかった事実だろう。
 それもまた、この映画を見た収穫である。

(この企画連載の著作権は存在します)

 

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