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フレーミングの基礎

フレーミングに関する基礎を紹介

 写真の仕上りに大きな影響を与えるのは、何といってもフレーミングです。この良し悪しで、表現意図を伝えられるかが決まります。そんな大事なフレーミングを、ここでは取り上げます。

 ただし、被写体の種類ごとの上手なフレーミングは扱いません。もっと原始的な、フレーミングの全般に関わりある2点を解説します。それは、被写体の切り取り方と撮影アングルです。これらは非常に大切で、“主役の印象を大きく変える効果”があるからです。そのため、初心者から抜け出るための最大の要素となります。

 ここで紹介するのは、本で読んだ内容ではありません。「写真は引き算」という言葉と簡単な意味は本で読みましたが、具体的な実現方法に関しては読んだことがありません。仕方がないので、良い写真の特徴を自分なりに分析し、被写体の切り取り方と撮影アングルを求めました。ただし、上下方向の撮影アングルの中で、上側からと下側からの撮影した印象だけは、写真の先輩から教えてもらったものです。

「写真は引き算」を理解する

 写真による表現を考えるとき、必ず登場するのが「写真は引き算」という言葉です。誰が言い出したのか知りませんが、何度も読んだり聞いたりした言葉です。これこそ、写真による表現の特徴を、それも表現する側の考え方のポイントを的確に表した、おそらく最高の言葉です。

 あまり考えないで撮影した写真は、何もかもが写っていて、狙いが絞り切れてない状態となります。構図などを考えて撮っているようでも、そんな写真になりがちなのです。最大の理由は、狙いが絞り切れてない点にあります。

 では、狙いを絞るとは、どういうことでしょうか。本当に写し込みたい要素だけ写し、余計な要素を可能な限り入れないことです。前提として理解すべきなのは、何も考えないで写すと、余計な要素が数多く写り込む点です。だからこそ、撮影するときは、余計な要素を意識して外す必要があります。外すというのは、黙っていると写る状態から、引き算のように1つずつ取り除いていく行為です。これが「写真は引き算」という言葉に込められた意味で、写真表現においては非常に大事なことなのです。

 引き算で重要となるのは、主役の写し方です。主役の切り取り方と表現した方が適切でしょう。続いて、その方法を解説します。

主役の全体像を全部入れない写す

 写真表現に慣れてない段階では、主役となる被写体の全体像を入れたがります。家を写したときなら、家の屋根のてっぺんから、地面との境までです。たいていは少し余裕を持たせるため、主役の周囲に背景が多く写ります。しかも、ほとんどの被写体は、写真と同じ比率の長方形ではありません。へこんでいる部分にも背景が写ってしまいます。全体として、背景がかなりの面積を占めます。

 こういった写真は、主役以外の写り込みが多いので、その分だけ狙いがぼけてしまいます。結果として、表現意図が伝わらない不明確な写真になりがちです。これこそ、「写真は引き算」を理解していない写真の代表例です。

 では、どうしたらよいのでしょうか。もっとも大事なのは、写真の中から余計な要素をできる限り取り去ることです。これが「写真は引き算」の真の意味です。これだけの説明では、すぐにはできない人が多いと思います。できるようになるための撮り方を簡単に紹介しましょう。それは、次の2つです。

・主役の一部を外す(一部を削って写す)
・主役の一部だけ切り取る

 「主役の一部を外す」方法は、主役の全体像から一部だけ削る写し方です。削る箇所によって、何種類もあります。「主役の一部だけ切り取る」方法は、一部を削るというより、一部だけ大胆に切り取る写し方です。両者の中間もあり得るので、厳密な分け方ではありません。目指しているのは両方とも同じで、切り取る量が違うわけです。これら2つの方法がどんなものか、順番に紹介しましょう。

主役の一部を外す

 まず先に、主役の一部を外す写し方です。外す量に関係なく、外す箇所だけに注目すると、以下のようなバリエーションがあります。

・1辺だけ外す
  ・上部だけ外す
  ・下部だけ外す
  ・左部だけ外す
  ・右部だけ外す
・2辺を外す(正方形に近い主役)
  ・上部と左部を外す
  ・上部と右部を外す
  ・下部と左部を外す
  ・下部と右部を外す
・2辺を外す(細長い主役)
  ・上部と下部を外す(主役が縦長)
  ・左部と右部を外す(主役が横長)
・3辺を外す
  ・上部を残し、下部と左部と右部を外す
  ・下部を残し、上部と左部と右部を外す
  ・左部を残し、上部と下部と右部を外す
  ・右部を残し、上部と下部と左部を外す
・4辺を外す(=中央部のみ写す)

 以上のどれにするかは、同じ被写体でも狙いによって異なります。被写体の特徴だけでなく、表現意図も考慮して決めるからです。例を1つ挙げましょう。以下の写真は「4辺を外す」で撮影した結果です。

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 この写真の表現意図は、主役の枝と葉を、放射状に美しいだけでなく、はじけた感じの迫力も加えて見せることです。4辺を削ることで、放射状の美しさとともに、はじけた感じも強調でき、表現意図が伝わりやすくなりました。このように、主役の一部を外す写し方は、被写体の特徴だけでなく、表現意図によっても外し方が異なります。

主役の一部だけ切り取る

 主役の一部だけ切り取る写し方も、切り取る割合に関係なく、切り取る箇所のバリエーションを挙げてみました。

・四隅を基点に切り取る
  ・左上だけ切り取る
  ・左下だけ切り取る
  ・右上だけ切り取る
  ・右下だけ切り取る
・四辺を基点に切り取る
  ・上部の一部を切り取る
  ・下部の一部を切り取る
  ・左辺の一部を切り取る
  ・右辺の一部を切り取る
・中央から切り取る
・細長い主役の途中を切り取る

 基本的に、主役の一部を外す写し方と同じです。それとの一番大きな違いは、主役の何割を残すかという、量の問題です。主役の一部だけ切り取る写し方は、削るよりも残す方が少ない方法です。そのため、一部だけ切り取るという感じになります。

 最初の出発点は、主役の一部を外す写し方でも、主役の一部だけ切り取る写し方でも構いません。どちらを選んだとしても、表現意図に照らし合わせながら切り取り方を求めていくと、同じ結果になるでしょうから。

余計な要素が入らない形で、切り取る範囲を決める

 ここまで、切り取り方のバリエーションを紹介しました。難しいのは、どこまで切り取るかです。それを考えるためには、主役をなぜ切り取るのかを理解しなければなりません。

 最大の理由は、主役を切り取らないと余計な要素が入り込み、表現意図が伝わりにくくなるからです。余計な要素が入り込むよりは、主役を切り取った方が、表現意図を実現できると判断した結果です。そのため、無理して切り取るという面もかなりあります。

 この視点は、どこまで切り取るかのヒントになります。基本的には「余計な要素が入り込まないギリギリまで、主役を多く残す」ようにします。この結果、主役の大事な部分も切り取られてしまうなら、妥協点を探します。「主役の大事な部分を少しでも多く入れながら、余計な要素をできるだけ削る」と考えながら。実際には、難しい場合も多くあります。しかし、こういった形で考え、妥協点を探すしかないのです。

 主役の大事な部分がどこかは、表現意図で決まります。短く表現するなら、「表現意図を伝えるのに不可欠な要素が、主役の大事な部分」です。主役の迫力を表現したいときは、迫力ある感じに見せている箇所を探します。それが主役の一部の場合もあれば、全体の場合もあるでしょう。

 以上のことが分かると、主役を削らなくてよい状況も見えてきます。主役の背景に何もない被写体では、主役を無理して削る必要はありません。構図などの別な要素で、フレーミングを決めます。

切り取る癖を付けるために、被写体との距離を縮める

 主役を切り取るためには、全体を写す場合よりも、被写体に近付かなくてはなりません。とくに広角レンズを用いるときは、かなり近くまで寄る必要があります。つまり、切り取ることと距離の短縮は、実質的に同じなのです。

 通常は、主役を切り取るために距離を縮めます。しかし、見方を反対にして、主役との距離を無理矢理に縮める方法も可能です。こうすると、切り取らざるを得ない状況に追い込まれます。相当に縮めると、大胆に切り取らなければならず、切り取る癖を付ける効果があります。癖が付くまでは、この考え方で試すことをお勧めします。

 主役に近付いたら、ファインダーを覗きながら、切り取り方を考えてみてください。その際には、前述の切り取り範囲の決め方を考えながら、切り取り方のバリエーションをいろいろと当てはめてみます。最初のうちは、全部のバリエーションを試す形で、ファインダーを覗いてみましょう。すると面白いことに、試したバリエーションの中から、一番良いと思う切り取り方が見付かります。

 こうした練習を繰り返すと、意識しなくても主役を切り取れるようになります。どの切り取り方が一番良さそうか、ファインダーを覗かなくても予想できるようにです。ということは、被写体を目で見ただけで、切り取り方が決められるようになるわけです。最終的には、ファインダーを覗いて決めますが、ほとんど当たる状態に達するでしょう。そして、この段階に達すると、主役の切り取り方も上手になっているはずです。

主役への左右方向の撮影アングルを変える

 フレーミングに大きな影響を与える要素は、主役の切り取り方のほかに、もう1つあります。それは、主役への撮影アングルです。これには、左右方向のアングルと、上下方向のアングルが含まれます。

 まず先に、左右方向の撮影アングルを取り上げましょう。何も考えてない撮影では、主役を真正面から撮影します。これが、写真を始めた頃の状態です。そこから1歩踏み出すためには、左右方向のアングルを使えるようにします。具体的なアングルには、次のようなものがあります。

・正面から撮影する
・正面の少し斜めから撮影する
・かなり斜めから撮影する
・極端に斜めから撮影する
(これ以降は省略:真横や後ろ斜めなどがある)

 斜めに撮影すると、主役の印象が変わります。とくに建物の場合は、真正面からの撮影だと、主役が堂々とした感じになります。主役を正面から受け止め、偏見なしに見る感じが出ます。それに対して斜めからの撮影では、横から覗く雰囲気になりがちです。あくまで大まかな傾向ですが。建物でない場合でも、真正面から撮影した写真は、主役そのものをストレートに見せる傾向があります。斜めから撮影では、とくに広角レンズを用いると、立体感や遠近感が出ます。逆に、真正面から撮影して得られるのは、平面的な印象です(ただし、上下方向の撮影アングルも真正面の場合に限ります。上下方向の斜めも立体感を生じさせますから)。

 真横からの撮影は、斜めからとは違います。立方体に近い形の(つまり真横も平面の)主役ほど、正面からの撮影に近い特徴が出るのです。被写体にはいろいろな形があるので、実際の主役を見ながら判断するしかないでしょう。

 どれだけ斜めにするかは、意外に難しい点です。斜めの度合いによっても、主役の印象が変わるからです。ほんの少し斜めにするだけだと、真正面の堅い印象が少し崩れる程度なので、堅さを減らすだけの効果があります。斜めの度合いも、実際の主役を様々な角度で見ながら、その印象を判断するしかないでしょう。

主役への上下方向の撮影アングルを変える

 続いて、上下方向の撮影アングルです。何も考えないで撮影すると、撮影者が立ったまま写すので、カメラの位置は目の高さになってしまいます。いつもそうならないように、カメラの高さを意識的に変えて写すのが、上下方向の撮影アングルです。

 基本的には、主役の被写体を撮影者から見た方向で分類しますが、他に、主役側の目線の高さも加えます。すると、代表的な撮り方は次のとおりです。

・真上から撮影する
・上側から撮影する(見下ろす感じ)
・自分が立った状態の目線で撮影する
・主役の目線の高さに合わせて撮影する(子供や動物など)
・下側から撮影する(見上げる感じ)

 これも、主役の印象を変える効果があります。左右方向の効果とは異なり、写真を見る側と主役の立場を変化させます。主役を上から撮影すると、見下す感じが出やすく、弱い立場の雰囲気が出ます。逆に、主役を下から撮影すると、見上げる形で写り、迫力が出たり、立派な感じが出ます。

 自分が立った状態の目線で撮影するのは、普通の人が立ったまま自然に見ている状態に近いわけです。主役に目線がない場合は、自然な角度となります。しかし、主役に目線があったり、人間よりも主役が大きかったり小さかったりすると、見下ろしたり見上げる感じになります。こんな感じを防ぐために、主役の目線で撮影するわけです。子供などを撮影するとき、その目線の高さに合わせることで、主役を正面から捉えられ、見下ろすよりも自然な感じに写せます。

 真上からの撮影は特殊で、見下す雰囲気がなくなり、被写体そのものを正面から撮る感じに変わります。上から撮影する中の例外といえるでしょう。

以上の全部を組み合わせて、フレーミングを考える

 ここまで、主役の切り取り方と撮影アングルを簡単に解説しました。どちらも、主役の印象を変える効果があります。フレーミングを決める際には、こういった点も強く意識しなければなりません。

 両方を組み合わせることが大切です。上下方向のアングルは自分の目線、左右方向のアングルは正面から少し斜めにして、主役の下部と右部を外すといった具合にです。すべてのショットで、これらを考えるようにします。

 紹介した選択枝の中から、どれを選ぶかの基準は、何といっても表現意図です。狙った表現意図を実現するために、これらを利用するのですから。最初はなかなか成功しないでしょうが、失敗を恐れずに、どんどんと試してみてください。そのうちに、少しずつですが、狙った表現意図を実現できるようになるでしょう。

(作成:2003年6月4日)
(追加:2003年6月6日:主役を切り取る範囲の決め方)
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